チェイサー~喜びと不安と覚悟と誠意
佳境に入ってきたので、こっちもまとめていきます。
切って、捌いて、生理整頓☆
今日もインダスドリームは大忙し☆
さあさ、開店、始まりますよ~♪
カサハリ妄想劇場、始まり、始まり~☆
開店してすぐ、ドアベルが鳴った。
この店にしては珍しい。
大抵の客は、2件目で来るようなので、入りは遅くなる。
「いらっしゃいませ。空いてる席へとうぞ。」
にこやかに対応し、席に促す。
客が席につくと同時に、レモン水を出す。
驚いた様子。まだオーダーしていない。
「あなた、ひどい顔してるわよ?取り敢えずそれでも飲んで、戻ってきなさい。」
「・・・えっ?」
客は、自分の体調が悪いことに気がつかないようだった。
そして、ここに来たのもよくわかっていないようだった。
店主の前に座る女性は、ぼんやりとしたまま、出されたレモン水を飲んだ。
「・・・美味しい。」
少しだけ笑顔になる。だが、直ぐに曇る。俯いて、肩に力を入れて、何かに耐えているみたいだ。
いつも見る明るい様子からは想像できない辛そうな様子に、さてどうしようかと思案する。
おそらく恋愛がらみだろう。
「・・・聞くだけしか出来ないけど、話すと楽になるって言うじゃない?」
おでん(玉子、大根、がんもの3点セット。勿論メニューにない。)
を出しながら言う。
割りばしを割って、頂きますと小さく言うと、大根を一口に切って口に入れる。途端、ぶわっと音がしそうなぐらい涙が流れてきた。
あまりにも驚いて、グラスを拭いていたチーフで涙を拭ってしまう。
「ちょっ、ちょっと、どうしたのよ⁉あなた、心の汗、流れ出て」
「どーしよー、カオルちゃ~ん。私、生理が遅れてるの~」
「・・・はぁ?」
あの一件で、谷川と菜々美は急速に惹かれ合い、ついに本物の恋人になった。今までお互いに擬装ということで我慢していたぶん、谷川は菜々美を強く求めるようになり、菜々美も悦んで受け入れていた。
そんなある日、半分寝ぼけた状態で、本能のままにシテしまい、避妊するのを忘れてしまった。生理始まりから数えてまぁ、時期的に過ぎてるからおそらく大丈夫だろうと思っていた。そこにきて仕事の激務も重なり、気が付いたら2ヵ月が経っていた。
「検査しなきゃって分かってるのに、もし妊娠してたらどうしようって。急に不安になって・・・」
谷川は、海外赴任が決まって、来月には行ってしまう。
自分も課長昇進が決まってこれからと言うときだ。
「勿論、中絶なんて考えてない。一人でも産んで、育ててみせるって思ってるけど、本当に大丈夫なのか、不安なの。」
「・・・谷川に、話すつもりはないの?」
菜々美は唇をきゅっと噛み締める。血が出そうなぐらい強く。
そして、本当の不安を口にする。
「私が怖いのは、隼人に許否されたり、迷惑がられたり、足枷になることなの。」
これから世界に出て、社会的に成功していくであろう彼の未来を自分が妨げる訳には行かない。
味方でいなければならないのに、敵にまわりたくない。
涙が止めどなく流れる。
本当は声をあげて泣きたいはずだ。でも、静かに耐える。
「ん~。取り敢えず、それ、食べ終わってから考えてもいいみたいね。」
冷めちゃったかしら?なんてのんびり囁く。
菜々美は少しだけ笑うと、残りのおでんを食べた。少し冷めても心に染みる美味しさだった。
「レモン水とおでんって、あんまり合わないね」
「今さら何言ってんの」
少しだけ余裕が出たらしい。
菜々美は深呼吸すると、今までの頼りなさから一転、カオルちゃんを真っ正面から見る。何かを強く決めた眼差し。
カオルちゃんが大好きな人間の仕草だ。この強さが堪らない。
「カオルちゃん。私、決めた。私今から検査してみる。それで、図々しいというか、情けないんだけど、揺らがないうちにここのトイレでやってもいい?」
実話もう買ってあるんだと、バッグを叩く。
カオルちゃんは、よし、行ってこいとばかりに親指でレストルームを指す。
菜々美は大きく頷くと、席を立つ。
と、同時に来客。入ってきたのは・・・
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
カオルちゃんは待ち人が来たことに笑顔を向ける。
余程慌ててきたのだろう。髪は乱れてボサボサ。着ている上着は脱いで、手に持っている。息は乱れて大きく肩が上下している。かの有名なチャラモテイケメンがちょっと妖艶なイケメンになっていて、ちょっとだけ横っ面ひっぱたきたくなった。
「・・・菜々が、緊急事態だって、聞いて。」
「ええ。緊急事態です。可及的速やかに病院に行かなければなりません。」
「?!」
「・・・恐らく、貴方にはとても重い、一生を掛けたら覚悟と誠意を示さなければならない事態になるかと思います。」
カオルちゃんは、そう言って恭しく頭を垂れた。
立川は流れる汗もそのままに、呆然と突っ立っている。
その時、レストルームから菜々美が出てきた。
谷川を見て、一瞬辛そうな顔をする。唇を噛んで、それから深呼吸する。
目を会わせると、にっこり頬笑む。
「陽性だったよ。」
明日、半休もらって病院に行ってくる。
カオルちゃんは静かに頷いた。
彼女の目はもう覚悟を決めていた。
「何か手伝ってほしいことがあったら言いなさい。気が向いたらやってあげてもいいわよ?」
ウィンクすると悪戯っぽく笑う。
「・・・陽性って?病院?」
谷川が訝しげに問う。
菜々美は谷川に向き合うと静かに伝える。
「生理が2ヵ月遅れていて、検査したら陽性だったの。多分妊娠してる。明日午後半休もらって病院に行ってくる。」
「妊娠って、俺の、子?」
菜々美は苦笑する。
「頭で予想してても実際そう言われるとキツイね。」
少しだけ目をそらす。谷川を直視するのが辛い。
「隼人の子どもだよ。別に責任を取ってほしいとか、お金出してほしいとか、そういうのはないよ。一人でも産んで、育てていくし、迷惑とか」
それ以上は言えなかった。強く抱き締められたから。
心臓の音が聞こえる。
耳に彼の吐息が掛かる。
「よかったぁ。てっきり、奈々が死ぬ病気かと思ったぁ。」
と、なんとも情けない声を出す。
少しだけ離れる。でもまだ腕の中。
何だろう。優しくて、あたたかくて、嬉しそうな視線。
「菜々美、好きだ。愛してる。俺の子どもを妊娠してくれて嬉しい。」
ぎゅっと抱き締められる。
「ずっと一緒に生きていきたい。一緒に笑って、泣いて、時には喧嘩して、でも必ず仲直りして、ずっと一緒に生きていきたい。」
一息にそう言う。そして、極上の笑顔で言ってきた。
「そこに子どもがいたらもっと嬉しい。」
次に真剣な顔になる。
思わず緊張して、気持ち背筋が伸びる。
「俺と、結婚してほしい。」
ポカンとしてしまう。
予想してなかった。
これは、予想してなかった。
ジワジワと言葉が染みてくる。
顔が赤くなるのがわかる。指先まで血が通って、全身で反応してしまう。
極上の笑顔の男は首を傾げる。まるで返事を促すように。
菜々美はようやっと気が付いた。
この人は、私を愛している。妊娠を喜んでいる。結婚してほしいと願っている。
ならば答えは決まっている。
「はい。喜んで。」
ぎゅっと抱き締められる。
嬉しくて、涙が流れる。
「奈々じゃないと俺を幸せに出来ない。俺じゃないと奈々を幸せに出来ない。」
愛している。
耳の奥に静かに、優しく響く。
カオルちゃんは2人の様子をあたたかく見守っていた。
嗚呼、幸せっていいわぁ。
花が飛びそうである。
・・・アタシには、いつ来るのかしら?青い鳥☆
幸せオーラで店内を満たした二人は静かに会釈した。
「お代頂くようなもの、出してませ~ん。」
ひらひら手を振り見送る。
2人と入り違いに馴染みの客が顔を出す。
「いらっしゃいませ。」
今日も夜が更けていく。
まとまった・・・。纏まりましたよ?なんとか。
余談ですが、下書きで仮題をつけてるのですが、
「カサハリ的オフィスラブ」
・・・オフィス?おひす?・・・おひつか‼
オフィスラブはこの方々に任せました。
読んでいただきありがとうございました。
ではまた、土曜日に。




