いろんな意味で休めない
チェイサーではないです。
閑話休題?
・・・そんな素敵でもないです。
斎藤さん、頑張れ!
カサハリ妄想劇場、始まり、始まり~☆
その日、オフィスでは激震が走った。
営業課唯一の事務、杉原早苗が風邪で休みだそうだ。熱もあり、39度とか。
今日、明日は休みだろう。
今日、明日と会議で使う資料だの、契約の書類だの、顧客情報だの、出張の手配だの、経費だの、なんだのかんだの。本来事務3人で行っていた業務を早苗1人でこなし、今までやって来た。
・・・これは、とてもマズイ。
新人をと人事にせっついても「今はそっちに割けない。」だの、「回ってるからいいだろう。」だの、のらりくらりと躱される日々。
その皺寄せが今来た。
しかも、運悪くなのか、これは神が与えたもうた試煉なのか、契約が立て続けにある。出張がわんさかある。会議も連なり、これって回らなくね?と誰しもが感じた。
会議をとるか、契約をとるか。
どっちかは落とす覚悟が必要。そこまで追い込まれていた。
「なんとか人事と掛け合って、ヘルプ頼んだ。もうすぐ来るはずなんだが・・・」
斎藤は、若干イライラと時計を見る。彼も外回りと、契約がある。その時間が迫ってきているのだ。
他の社員も同じで、空気がピリピリしてくる。
「・・・すみません。新幹線の時間があるので。」
前園が荷物を持って立つ。
時間を見ればもうギリギリだ。
「ああ、頼んだぞ。」
そして、次々と言葉少なく出ていく。
約束の時間を10分過ぎたところでヘルプの事務が来た。
「遅くなりました~。すみませ~ん。」
・・・絶対悪いと思っていないだろう?
入ってきたのは、見事な巻き髪と、バッチリ化粧(おそらく1時間はかかっていると思われる)、ふんだんにデコラティブされた爪に、媚びたようなクネクネした動きの女性だ。
以前、静流によってNASAかJAXAと言われた片方。名前は、
「ヘルプできました、七沢です。よろしくお願いしま~す。」
ウィンクしそうな勢いで挨拶してきた。
斎藤の眉間にシワがよった。
営業課の面々が見たら、恐怖で顔を引き攣らせただろう。
七沢は全く気が付かず、花を飛ばしそうな勢いでニコニコしている。
「今日はもう皆出払ってしまったため、挨拶が出来ないが、よろしく頼む。
今日の会議の資料は杉原が作ってくれているから、それを印刷して必要部数纏めて置いてくれ。午後には必要だから、早めに頼む。
後は杉原のデスクに書類があるから各々纏めておいてくれ。困ったことがあったら各々担当に連絡して聞いてくれ。アドレスはデスクに置いてある。
俺も出るから何かあったら連絡してくれ。」
と、荷物を持ってさっさと出ていく。
後に残された七沢はポカンと立っていた。
・・・確かに、何かあったら連絡するように伝えた。
新人でもないのに、何だろう。この着信の数。
パソコンのパスワードがわからないから始まり、ファイルがどこにあるかわからない。複合機の使い方がわからない。などなど。
斎藤は、ちょっとだけイラッとした。
何とか外回りを終えて帰社したところで、更にイラッとした。
「すみませ~ん。資料、まだできてませ~ん。」
昼休憩を無くすことで何とか間に合った。
資料は共有フォルダにあったし、印刷は特に問題なかった。
頼んだ書類はまだ手付かずだった。
何をしていたのか問いただしたかったが、今はそれどころではない。
バタバタと会議に向かう。
午後いっぱいの会議を終え、営業課に戻る途中、七沢の所属する課の課長が話しかけてきた。
曰く、「迷惑掛けて済まない。うちでも困っている。何とかしてくれ。」
くそ忙しいのに、面倒見れるか。
斎藤が課長になってから、「営業課は定時上がり、どうしてものときは7時まで。」が暗黙の了解になっていた。メリハリをつけて、効率よくがモットーだった。
だが、今日はそれを破らざるを得なかった。時計は8時を回っている。そのなか営業課の多くがパソコンに向かう。キーボードを叩く音だけが聞こえる。
七沢は定時とともに帰宅させた。
課の面々の精神衛生と、血管を守るためである。
特に前園の。
質問があれば聞くように伝えた。確かに、ツタエタ。
だが、何度も同じことを聞かれ、その度にボディタッチをされ、パーソナルスペースを侵され、前園はかつてないほど不快なオーラを放っていた。だが、気が付かない。物凄い鋼の神経と鈍感な心の持主なのだろう。
ポツリポツリと面々が帰っていく。
一段落してパソコンをシャットダウンすると、時計は10時を回っていた。
「お先に失礼します。」
前園の声で顔をあげ、背筋を伸ばす。バキボキと音がなる。
「ん。ああ、気を付けて帰れよ。」
「はい。課長も。」
「ああ、余談だが、ネコは元気か?」
前園の顔が途端に真っ赤になる。
「ね、ねこ、ですか?うちはペット禁止のマンションですが。」
「ああ、黒い毛並みで高いところで1つに縛った、ちょっとつり目の、背はお前の胸の辺りで」
「ああ、はい!飼ってますネコ。黒い毛並みの。」
思わずニヤリと笑う。
「癒してもらえよ。」
翌日、杉原はまだ熱がさがらないと連絡が来た。
・・・明日まで継続か。
「おはようございま~す。今日もお世話になりま~す」
「おはようございますぅ。ヘルプの約沢ですぅ。よろしくお願いしますぅ。」
NASAとJAXAが揃った瞬間である。
翌日、熱が下がった早苗は、マスク姿で通勤してきた。
「おはようございます。この度は体調不良でご迷惑をお掛け致しました。」
深々と謝る早苗に、営業課の面々は女神降臨と言わんばかりの目で見てきた。
早苗はかなりひいた。
「杉原さん、いつもありがとう。あんたのお陰で俺たちは物凄く仕事に集中できるってわかった。感謝しかない。ありがとう」
阿部と松永が半泣きで訴えてきた。
・・・アタシが休みの間、ヘルプが来たって聞いたけど?
席に着いて、パソコンを立ち上げて絶句した。
壁紙が某サイコホラー映画の某レクター博士のアップになっていた。正面を睨みつつ不敵な笑みを浮かべる様は、頭の奥に激しい警鐘が鳴る。
いろんな意味で休めない。
斎藤さん、頑張った。
前園さん、耐えた。
・・・前園さんの救済は必ずしなければと思っていたので、ちょこっと書けてうっすらと嬉しいです。
NASAとJAXA、もうちょい使えないように書きたかったのですが、ワタクシの能力不足で申し訳ありません。
読んでいただきありがとうございました。
ではまた土曜日に。




