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狼シリーズ

狼とかぐや姫2

作者: soy

実家に帰りたくない。

それが今の私の気持ちである。

そ知らぬ顔で私の実家までの道のりを車のナビ通りに進む彼、大神香太郎は緊張と言うものをしないのか?っと疑ってしまう。

「月島?どうした?トイレか?」

「違うよ!うちの家族がなんて言うか心配なの!」

「なるようになるさ!」

大神よ!うちの家族はたぶん普通の家族じゃ無いんだよ!

不安に押し潰されそうな私をよそに無情にも実家には迷うことなく到着した。


車からおりると、タバコをふかす弟の博人(ひろと)が目に入った。

「よう!姉貴お帰り~!」

軽くてを降る博人は次男でブライダルの仕事をしている、辞めてなければ………

私がドアを閉めるのと同時に大神も車からおりた。

大神を見た博人は呟いた。

「まさか今流行りのレンタル彼氏?」

「レンタルじゃないし!」

私が叫ぶと博人は持っていたタバコをポトリと落とした。

「始めまして大神香太郎と言います。よろしく。」

大神は礼儀正しく頭を下げた。

「博人なんかに頭下げなくて良いよ!」

私がそう言うと大神は苦笑いを浮かべた。

「いちよう未来の弟な訳だろ?挨拶は大事だ。」

私は思わず赤面した。

さらりと凄いことを言う。

「親父~!姉貴が結婚詐欺にあってる~!」

「博人!」

弟の失礼な叫びに思わず叫ぶと、家の中から慌ただしい足音が近づいてきて玄関のドアが勢いよく開かれた!

「………神紅弥!夢を見せてもらったんだから、お金はちゃんと払いなさい!」

お父さんは大神の顔を見るとそう叫んだ!

「詐欺られてないから!大神は正真正銘私の彼氏だから!」

お父さんの後ろから顔を出したのは同い年で何かと比較される従姉の岸田早織(きしださおり)だった。

「私が婚約して悔しいからってレンタル彼氏は痛すぎる。」

実家が本家と言うこともあって、正月には親類がたくさん来ているのだ。

和風の古い家だと言うのも大神をつれてきたくなかった理由のひとつだった。

大神は動じることもなくお父さんに深く頭を下げた。

「始めまして、大神香太郎と申します。月島……神紅弥さんとは結婚を前提としたお付き合いをさせていただいてます。」

大神はかなり男らしくそう言った。

「格好いい!」

早織が叫ぶ。

「本気の話ですか?ドッキリ?」

お父さんはまだ信じていない。

「お父さん、取り合えず上がってもらいましょ!」

お母さんの一言で私達は居間に案内された。


居間には私の弟三人と親戚のおばちゃんやら、おじいさんやらがいて大神を見てフリーズしてしまう。

「神紅弥さんとお付き合いさせていただいてます大神香太郎と申します。よろしくお願いいたします。」

大神のハートはどうなっているんだろうか?

私だけが赤面している。

「姉ちゃんを騙してもお金持ってないですよ?」

本気で心配した顔の三男の海人(かいと)が言った。

「お金は要らない。」

大神は柔らかい笑顔を作った。

思わず私の心臓が跳ねた。

「月島が、神紅弥が側に居てくれるだけで色々頑張れるんだ。だから、側にいてほしい。」

大神は私に視線をうつした。

「恥ずかしいセリフ禁止!」

「………悪い。」

自分で言ったセリフにようやく照れはじめる大神は可愛い。

「こんな、ないない女の何処が良いんですか?」

長男の篤人(あつと)は眉間に皺を寄せている。

「そうだ!大神君!神紅弥は金はない家事が出来ない、可愛くない色気がない、極めつけに胸まで無いんだ!大神君みたいなイケメンにはもっとたくさん持ってる女がたくさんいるだろ!神紅弥に君は勿体無い!」

お父さん………娘をなんだと思っているんだ?

大神は困った顔をした。

「俺は神紅弥が一番落ち着きます。無くて良いです。俺は家事も出来るし金は俺が稼げれば良いと思ってます。可愛いとか色気とかは俺だけ解ってれば良いし、胸は大丈夫です。」

「大丈夫って何?ペチャパイ好きだってこと?」

私は思わず聞いていた。

「………大丈夫だ。俺がでかくしてやる。」

「セクハラで訴えてやる~!」

私は叫ばずにはいられなかった!

「あらあら、胸まで面倒みてくれるなんて素敵ね!」

お母さん、空気を読んでくれ!

「家事も出来るなんて素敵、そうだ!大神君はお雑煮はお味噌?それともすまし?」

お母さんの空気の読めていないセリフに部屋が静寂に包まれた。

「うちは味噌です。すましもできますけど。」

大神は普通に返す。

「そうなの?じゃあちょっとお母さんとお雑煮作りましょう!大神君イケメンだからお母さん嬉しいわ!」

お母さんはそう言うと大神を連れて台所に引っ込んでしまったのだった。


仕方なく弟達とテレビを見始めると博人が言った。

「姉貴、早く結婚しちゃえよ!あの人逃がしたら姉貴一生独身だぞ!」

博人の言葉に絶句する。

「ドレスも俺が安くレンタル出来るようにすっから式も社員割り引きしてもらえると思うしな!早く結婚しろ。」

なんだか結婚に夢を見るなと言われたようで悲しい。

「もう姉さんも良い年だしな!」

「姉ちゃん頑張れ!」

弟達に何と返せば良いのか解らない。

「大神君は結婚を前提としてお付き合いしてるって言ってたし、ないない尽くしの神紅弥なのにそれで良いって言ってくれてるんだからお父さんはデキ婚でも良いぞ。」

「父親にそんなこと言われるなんて………」

悲しすぎてテレビ画面が揺らぐ。

「あっ!ここ俺の勤め先!」

博人の言葉に涙を拭い画面を見るとそこには綺麗な教会がうつっていた。

「姉貴には結婚なんて無理だと思ってたんだけどな!」

博人がしみじみ呟いた。

その時、大神のバッグの中からメールを知らせる音がなった。

「大神!タブレット鳴ってる!」

台所に居る大神に声をかけると、暫くして大神の声がした。

「仕事じゃ無いと思う。ちょっと誰からか見てくれ。」

私は言われたとうりにタブレットをバッグから出して開いた。

「あっ!お父さんみたい!」

「絶対開くな!」

大神の低い声が響いた。

「プレゼント、ホー、ユーって書いてあるけど!」

「開けたら後悔するぞ!」

「後悔って。」

そう言われると開きたくなる。

「後悔しても良いから見て良い?」

「………好きにしろ。」

不機嫌そうな大神の声を聞き流して大神父のメールを開くとウエディングドレスの下絵が5枚ほど添付されていた。

「………どう言うことかな?」

思わず首を傾げると、大神が台所から帰ってきた。

そしてタブレットをのぞきこんだ。

「やっぱりか。」

「どう言うことかな?」

「親父の趣味みたいなもんだ、気にするな。」

ドレスのデザインが趣味って変態臭い。

「………変態だと思って良い。」

「心を読まないで!」

私が5枚のデザイン画を見ていると博人がタブレットを除きこんだ。

「………Aira?」

「あいら?って?」

私の質問に博人と側で私達の話を聞いていた従姉の早織が叫んだ!

「「知らないの?」」

二人は目茶苦茶怖い顔だ!

「ウエディングドレスのデザイナーで滅茶滅茶有名な人だよ!」

博人、さすがブライダルの会社勤め!

「神紅弥はゼク○ーって読んだことないの?そんなんだからペチャパイなんじゃん!」

「ペチャパイ関係ない!早織のバカー!」

早織の言葉に酷いショックをうけた。

「大神のお父さんがAiraって人なの?」

私の質問に大神は不機嫌そうに言った。

「そうだが、無視して良い。俺が彼女連れてきた事に浮かれてるんだ。」

「でも、これは可愛いしこっちは格好いいよ。」

私はタブレットをスクロールして、気に入ったデザインを大神に見せた。

「………気に入ったなら、父親に返事を返せば良い。折角だから着てみないと解らないって返せば全部作るだろ?」

「大神のお父さんが作るの?」

「ああ、不満なら全部脚下だと送れば良い。」

私が口を開こうとすると博人と早織が叫んだ!

「「勿体無い!Airaのドレスがどれだけの価値があるか解ってない!」」

「価値ねえ?親父なんかただの変態だと思うけど。」

大神………父親に変態はちょっと………。

「月島が俺と一緒になるって決心ついてからの方が良いと思うぞ。うちの家族に振り回されるに決まってる。」

「振り回される?」

「親父はそれだし、龍二はケーキ、月島が会ってないもう一人の弟はブライダルのヘアーメイクの仕事してる。おふくろは………」

大神はさっきから見ている様で見ていないテレビを指差した。

そこには、博人の勤めているブライダルの会社の特集をしている。

しかも、さっき会ったばかりの大神母がうつっていた。

「あれ?私…………数時間前にこの人会ったような?」

現実逃避をしようとしたが、大神は呆れたように言った。

「そうだ。数時間前にお前に土下座していた人物だ。」

「わー!忘れようと思ったのに!」

あれ、なんだったんだろ?

「姉貴!麗子様に何させてんだ~!」

麗子様?

「うちの社長だよ!社員皆の憧れなんだよ!」

博人は私の肩を掴むと激しく揺さぶった。

「社長?大神ってブライダル一家?」

揺さぶられながら私が言うと大神はさらに嫌そうに言った。

「俺は違う!けど、俺以外皆暴走気味だから、俺の家族の前で結婚を考えてるなんて言ったら大変だ!最短で三ヶ月で結婚式だな。」

さ、三ヶ月?

「ドレスレンタルでなんて言ったら一ヶ月だな。」

私の顔がひきつったのは仕方がないと思う。

「俺は月島が大事だから二人でゆっくり決めたいと思ってる。だが、面倒だから任せるって言うならうちの家族が全部やってくれる。好きな方を選んでいいぞ。」

えっ?私が選ぶの?

私はどんどん不安になっていった。

「今すぐ選ばなくて良い。月島が俺との未来を考えられるようになってからで。」

大神はそう言ってから、ポケットに入っていた箱を取り出して開けて見せた。

箱の中には指輪。

大きいダイヤに植物の蔦がからまったようなデザインが格好いい指輪だ。

「取り合えず、俺の未来のお嫁様だからな。」

大神は指輪を取り出すと私の左手の薬指にはめた。

私は大神に笑顔をむけた。

大神も満足そうに笑った。

「見て見て!もらっちゃった!」

指輪を私の家族に見せると、またも博人と早織が叫んだ。

「「この、物の価値が解らないバカ女がー!こんなバカ女には勿体無い!」」

博人は膝をついて項垂れて呟いた。

「俺の給料一年分以上。」

博人の呟きに思わず大神を見る。

「たいした金額じゃない。」

「嘘?いくら?」

「秘密。」

「こ、怖くなってきた。」

「つけてくれないと無駄になるだろ?あえて言うなら月島好みの指輪がこれしかなかったんだ、クリスマスプレゼントをまともにやれなかったから、それもこみだ。」

「クルージング旅行くれたじゃん!あれもかなりの金額するの知ってんだよ!」

大神は柔らかく笑って見せた。

「俺はたいした趣味もないし、生活費ぐらいしか使わないしな。自己満足に付き合えよ。」

それなら良いのか?

「………じゃあ、大事にします。」

「ああ、そうしてくれ。」

私と大神は向かい合って笑いあった。

「羨ましい!私の婚約者と取りかえて欲しい。」

早織と小さい頃から比べられて来たけど初めて羨ましがられてしまった。

「香ちゃんはあげません!」

「香ちゃん言うな。」

大神は私の頭を軽く小突いた。

「香ちゃんの方が女子力高いから良いじゃん!私がお嫁に行くより香ちゃんを嫁にもらいたい。」

本気で言ったのに呆れられた。

「別に良いけど。俺の方が稼いでると思うが俺を養えるのか?」

「無理。大神が私のせいで仕事辞めたら課の奴らに殺される。」

「大丈夫だろ?皆俺を怖がってるし。」

「怖がってないよ!私が大神と仲良いからって課長を飲みに誘えって煩いんだから!それなのに大神は皆が居ると付き合ってくれないし。」

「上司と飲みたいなんて言って、たかられそうで嫌だ。月島だけなら喜んで奢ってやる。」

「だから私だけ怨まれるんじゃん!」

私の言葉に大神は暫く考えて言った。

「………分かった。俺を一日怒らせなかったら飲みに付き合ってやるって伝えろ!喜んで奢ってやる。」

「………無理じゃないかな?大神課長。」

「頑張らせろ。月島主任。」

「り、了解しました。」

私はわざとらしく敬礼して見せた。

「よかろう!」

普段の会社で見せる冷たくみられがちな淡々とした喋りに、なんだか怒られた気持ちになる。

大神は困った顔を作ると私の頭をポンポン撫でた。

「怒ってないから。」

さっきのは少し怒ってたよ!

「嘘つき。」

私が呟くと、大神はさらに困った顔をした。

「ごめんな。」

大神は優しすぎると思う。

「イチャイチャするなら自分の部屋いきなよ姉ちゃん。」

海人の言葉に大神が反応した。

「月島の部屋見たい。」

「………別に良いけど………」

「なら、案内してくれ。」

私は渋々大神を連れて自分の部屋にむかったのだった。


部屋に入ると大神はめずらしい物を見るように部屋の中を見回した。

「楽しいの?」

「楽しいって言うか、嬉しい。」

大神は本当に無邪気な笑顔をむけてきた。

「そんな顔、出来たんだね。」

「?どんな顔だ?」

「子供みたいな顔。」

大神は自分の両頬をつまんで見せた。

「フフフ、笑わせないでよ!」

「神紅弥が笑うと俺も嬉しいんだ。」

大神はそう言って私にキスをした。

「神紅弥が育った部屋。ヤバイ。」

大神は嬉しそうな顔でさらにキスをした。

「………キスしすぎ。」

「ようやく二人きりだし、神紅弥の匂いがたくさんするし幸せだ。」

匂いとか恥ずかしすぎる。

「鼻で息しないで。」

「無理。キスするのが苦しくなる。」

「………キスもしないで。」

「………無理だ。神紅弥が可愛いのが悪い。」

訳の解らない理由でキスされまくった。

そして、そのままベッドに倒され手首を拘束された。

「押し倒したくなる。」

「押し倒してる!」

大神は嬉しそうに笑った。

「さすがにこれ以上は無理だけどな。」

「されたら困る。」

私達はお互いに笑いあった。

自分の実家でこんなに誰かとイチャイチャする日が来るなんて思ってなかった。

しかも、ずっと片思いしてた大神とだなんて。

「今すぐ俺んち行くか?そしたら休み終わりまで神紅弥と二人きりで居られる。」

何故だか身の危険を感じる。

「初詣って知ってる?」

「ああ。」

「行くよね?」

「行くよりイカせたい。」

「セクハラで訴えるよ。」

なんだか解らないけど幸せな気持ちが浮かんだ。

毎年こうやって、早く二人きりになりたい!なんて言いながら過ごせたら嬉しいな~!

私は初めて未来を想像して笑顔を作った。

「香太郎大好き。私をお嫁さんにしてね。」

香太郎は私の言葉に赤面した。

「この状況でそんなこと言いやがって………今すぐ俺んち行くぞ!手加減してやらない。」

「嫌だよ!私は初詣行くんだから。」

香太郎は今まで見たことのないほど悔しそうな顔をした。

それがなんだか可愛くて私は微笑んだのだった。

コメントいただけたら嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 家族…ww キャラ濃いんだけど~Σ(゜Д゜)って感じでした(笑)
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