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結局、小さな魔女リィ―――――”オプティクム所持者”のトーナメント大会の進行役は”オプティクム”を持たないクローネを大会に参加することを許可した。



クローネの相手は、”黄金槍”の界人かいと


界人の”黄金槍”の能力―――閃光の突き。槍を振ると、黄金色のビームが空気を焼き、千里を貫く。


今まで、彼は競争とは縁遠い世界に生きていた。

特段変わった人間ではない。成績も体力も体格も全てが平平凡凡な高校生。

そんな彼が黄金槍に出会ったのは二か月前のこと。




界人は目的も無くぷらぷらと外を出歩き、住宅街の外れにいた。アスファルトで舗装された道の果てに、何の手も加えられていない自然が残っている場所がある。川で区切られ、その先は並び立つ木々に遮られて見えない。


いつも地面は湿っているし、夏場は虫がうじゃうじゃ湧くしで避けている場所だった。しかし、ほんの気まぐれで立ち寄ってみた。

休日の夕方の時間を持て余していただけだった。



もしかしたら、殺人鬼の隠れ家があるんじゃないか?そんなことを考えるほど、家と学校を往復するばかりの生活を送っていた界人には非日常な空間に感じられた。


道なき道を歩く。

蜘蛛の巣が顔に引っ掛かり、靴裏に枯葉がこべりつく。それでも界人は進んでいく。

宝が眠る洞窟を冒険している……いつの間にか高まっていた感情に身を任せ、進むこと一時間。


界人は足を取られ、ぬめった坂を泥だらけになりながら落下していく。

「と、とまらないい!!」


滑って滑ってたどり着いた先には、ボロボロの家が一軒。壁の木材は朽ち、屋根はほとんど剥がれて、台風で吹き飛ばされそうなほど情けないありさまだ。

「なんだろ……ここ」

一応ノックをして、界人は戸を開ける。

そこに――――――彫刻のように美しく、黄金の輝きを放つ槍が、界人を待つかのように立っていた。

「すごい槍……呪われたりしないかなあ……」

これが、界人と”黄金槍”のファーストコンタクトだった。



”黄金槍”の能力に気づくのもすぐだった。

人通りの少なくなる時間帯を待ち、界人は自宅へ”黄金槍”を持ち帰る。

「すごいや……!”黄金槍”!」

二メートル超の全長の”黄金槍”は、隠すには大きすぎるシロモノだった。

家のクローゼットに押し込み、深夜に槍を取り出し、跳ね上がった身体能力で夜の街を――――屋根から屋根へ。十七年間過ごした寂れた団地も、夜を駆ければ別世界。

ごく普通の一般人で、夢も持たない彼は”黄金槍”を悪用することもなく、毎日を送り続けた。



そんな界人の元に現れた小さな白い魔女、リィ。

彼もまた、”オプティクム所有者”として、戦場に立った。

”黄金槍”があれば負けない。超長距離射程を持つ『黄金刺突』の能力がある。屋根から屋根を飛び移る脚力もある。戦いの先にある興奮に、彼は心から期待していた――――――――――。



そして、界人が”オプティクム所有者”として行った初戦闘は、一方的だった。



星空の下の無人島、戦闘が開始した直後のこと。

対戦相手の、黒いローブを着た魔女クローネは得意の瞬間移動で姿を消し―――――界人の背後に現れ、両手で首を掴む。そして再び、界人を連れて瞬間移動。

次に現れたのは、島の上空。月を背景に黒の魔女は、細い腕で首を絞めていく。

「はははは……!だんだんキツくしていくぜ……」

「た…たすけて……黄金槍!」

界人は槍をやみくもに振るが、背後に立つクローネに当てることができない。

細身の魔女は”オプティクム”の魔力で強化された肉体と同等か、それ以上の筋力を持っていた。


キリキリキリ……

クローネの指が徐々に界人の首を締める力を増していく。

意識が朦朧とし始める。そして、界人の意識が飛んだのをクローネは察知し、首から手を離した。

どさり、と地面に落下する。

「ははははっ……!弱いぞ、ゴミクズ!!」

地に落ちた界人は、まだ息があった。


くそ…なんだこいつ。めちゃくちゃ強い……。

界人は残された僅かな力で、震える手に黄金槍を握る。

唯一の武器を杖代わりに、辛うじて立ち上がった。

黄金槍の能力――――”黄金一閃”世界を貫く、黄金の突き――――――が当たれば……一撃で勝てる。

槍を構え―――――――空に向けて突く!黄金の光が放たれる!雷のような光が空を裂く!

しかし、魔女の姿はそこにはなかった。


「外れた……」


界人は力尽き、倒れる。


クローネとしては、本来ならばもっと痛めつけてやりたいところだったけれど、殺してはいけないとリィと勇花に釘を刺されていた。

”オプティクム”を持った人間は、その超能力故に自信過剰になる。イキがっている人間が反吐が出るほど嫌いなクローネにとって、”オプティクム所持者”を攻撃することは脳から快楽物質が分泌するほどの行為。



汚れた雑巾のように倒れる人間の頭をぐりぐりと踏みつけることで勘弁してやることにする。

「いたい!いたい!もう負けだ!助けて……!助けて!無理無理!!無理だから!」

「まったく……とんだこけおどしじゃないか」

「その槍あげますから!殺さないでください!!……なんで…!」


魔力スパークが発生した。

勝負がついたと判別したリィの仕業だろう。踏み続けていた界人が黄金槍と共に消えた。瞬間移動させたのだ。

リィの声が聞こえた。

「もうあなたの勝ちですよー帰っていいです。相手はお家に送りましたからー」

「ふうん……まあいい。槍はくれるって言ってたけど?」

「イジメすぎなんですよーやりすぎ。かわいそうです。保護欲とか母性を掻き立てられるくらいー」

「生半可な気持ちで戦おうなんてするから悪いんだ。はははははっ……」

クローネは機嫌よく笑いながら島から消えた。


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