黒鎖刀の騎士~1
”黒鎖刀”という剣がある。
剣の柄の両端から黒い鎖が二本伸びているのが一番の特徴だ。使用していない時は、黒い鎖が銀色の刀身を包み、鞘としての役割を果たす。
私、大刀洗勇花はこの”黒鎖刀”を手に、同じく不思議な力を持つ武器―――――オプティクムと呼ばれる武器を使う戦士たちによる決闘に参加していた。
戦場は夜の無人島。貸し切り状態だから、オプティクムを使った超人的な力で暴れまわっても問題はない…とのことだ。
予定の夜十二時ちょうどの五分前に私は準備を完了していた。
対戦相手が現れた。
赤いジャージを着た、高校生……か?文広仁という名前と、”無限鬼銃”の使い手だということだけ聞いた。
だぼだぼのジャージの腰には合皮性の安物っぽいホルスターが巻いてあり、右腰に銀色の拳銃が差してある。おそらくあれが”無限鬼銃”。
全体的にガサツそうな人間だった。端的に言うならば、不良。あまり気が合う相手とは思えなかった。
「おめーが大刀洗勇花か?……男か」
文広は露骨にがっかりしたような顔をした。
この人は何を期待していたんだ、と呆れつつ私も尋ねた。
「はい。こちらも確認させてもらいますが……あなたが文広仁さんですよね?」
「当たり前だろ」
自分は質問しておいて、こちらの質問はこの扱いか……。
自分勝手なやつめ。心の中で毒を吐いた。
「チョロそうだな、あんた。今からめいいっぱい戦うっていうのに、ポロシャツにネクタイなんか締めてるし。本気でやって大丈夫なのか?」
「はい……お手柔らかにお願いします」
腕時計を見ると、あと三分で戦闘開始の時刻だった。
しかし、待ちきれないのか、文広は「もう始めようぜ」などと言う。
「ルールでは夜十二時ちょうどからスタートですよ……あと三分です」
「俺は今からでもいいぜ」
「ずいぶんせっかちなんですね」
ルールは守るものだ。何でも自分のいいようにやろうとするのは、子供だと私は思っている。
そして、背中に差した黒鎖刀に手を掛けた。
鞘の両端から伸びる黒鎖刀の鎖は私の右腕に絡みつき、腕と一体化した。肘より下の部分に二本の鎖が巻き付く。これが黒鎖刀の戦闘モードだ。
「かっこいいじゃん、それ」
超絶は黒鎖刀に単純に興味を持ったようだ。
「どうも。ありがとうございます」
自分の武器を褒められ、やや浮ついた気持ちを締め直すため、白いシャツの襟を直し、深紅のネクタイを締めようとした。
しかし、私の右腕には黒鎖刀が装着されていたので、片手しかつかえないことに気付く。
黒鎖刀をいったん解除し、服装を整えたところで、約束の十二時に達した。
―――――――戦闘開始。
黒鎖刀を構え、私は前傾姿勢で文広へ向かって駆けた。
一撃一瞬で勝負は決まる。余計な口上など不要!
文広ホルスターから銃を抜き、私に銃口を向け引き金を引く。
すると、私の目の前に人型の青い魔力の塊が召喚された。
「一気にぶっ潰す!」
無限鬼銃の力は、人型の魔力―――――”鬼”を召喚する力を持つのか。
二匹の鬼と同時に襲い掛かってくる文広。
それでも私は止まらない。
斬撃の間合いに入った瞬間、黒鎖刀の刃が煌めく。
足を止めることなく、すれ違いざまに二体の鬼を斬りつけた。
黒鎖刀の斬を受けた鬼は魔力スパークを発しながら消える。
敵が近づくと私の体を操り、自動で迎撃する――――それが黒鎖刀の力だった。
それがたとえ、弾丸であっても全て弾き返す。
――――――黒鎖刀の騎士は敗北しない。