楓の魔法2
旅立って七日目
七つ目の町に妾はついた。
ここはもう最前線の砦に近い。
東には鉱山、町にあるのは武器工房、食料貯蔵庫、酒場、娼館が七割を超える。
ここに武具、食料を集め、砦に送る。砦で休暇をもらった兵士が娼館にくる。砦に出稼ぎに行く娼婦もいる。それで潤っている町なのだ。
妾とフレデリカは町に出た。
町にいる兵士、傭兵は妾達を見て騒いでいる。
フレデリカは何度もこの町に来ている。フレデリカの人気はすごいの一言につきる。
フレデリカの歩く姿を見て妾は本物の王女のあるべき姿を見たのかもしれない。
フレデリカは自由参加の集会を開いた。
自由参加だというのに沢山の兵士や町民が集まった。
「日々苦しい戦いをしているあなたがたに私はいつも感謝しております。私は戦う力を持ちません。」
フレデリカの演説が始まった。
妾はフレデリカの横に立っていた。
フレデリカの演説は兵士や町民の心を突いていた。
兵士の顔がだんだんりりしくなっていく。
町民の中には涙を流している者もいる。
妾はフレデリカの言葉の一言一句を聞き逃さない。
明日、妾は同じ演説を砦でするのだ。失敗は許されない。失敗すればフレデリカが今まで築いてきた士気を上げるための象徴としての意味が無くなってしまう。
本当は怖い。出来ることならやりたくない。
でも、やらなくてはいけない。誰にでも始めてはあるのだから
演説が終わるとそこにいる兵士がみな精鋭に見えた。
その後、少数の護衛を引き連れて妾、フレデリカ、楓、ハクレンさんは町の視察に回った。
大工房、食料貯蔵庫、傷ついた兵士が沢山いる治療所
治療所はまさに地獄だった。
この間侵攻がありそれを守りきったのだ。
大分日がたって今すぐに手当てをしなくてはいけないような重傷者はいないがやけどや裂傷などで、「イテェよいてぇよ」という嘆きや
「殺してくれ」と懇願する者が何人もいる。
妾は平和な国育ちこんな場所を見るのは初めてだった。
胃の奥に熱い物がこみ上げてくるがなんとか耐えた。
中で働いている女性は病気が流行らないように包帯を変え、消毒液を塗る。
まさに女の戦場と言われる場所で活躍する英雄だった。
楓は白い顔をさらに真っ白にして近くにいた兵士に魔法を放った。
低い小さな声で「殺してくれ」としか言っていない
淡い光が兵士を包む。包帯の下の隙間から見えるやけどの後が綺麗になってゆくのがわかった。
うなっていた兵士が自分と周りを見る。
体が綺麗になっていることに気づく。
あれだけ痛みを与えていたやけどがまったく痛くない事に驚いていた。
体をさすっても何も無いことに気づいて彼は楓に跪いた。
「あんた、何をしたんだ、あれだけあった俺の傷をどうしまったんだ」
「あの…王都で習った治療魔法で治したの」
楓の説明に感謝を繰り返す兵士。そしてそれを見て楓を睨んでいる女性達
「まずいぞフレデリカ」ヒソヒソ
「何でですか?フレデリカ」ヒソヒソ
「みなの前で治療魔法をしたのじゃ、我も我もと来るじゃろう、ここで不平等でもしたらどうなるかわかるじゃろ」ヒソヒソ
「つまり女性方が睨んでるのはそういう意味なのですね」ヒソヒソ
「そうじゃ、どうやって収めるかのぉ」ヒソヒソ
楓は兵士から離れると妾達の近くに来た。
「ここにいる人達全員治しちゃ駄目?この人数なら難なく治せるよ」
「なんじゃと、ここには300人近くおるのじゃ」
「うん、1000人くらい余裕で出来る…多分」
「多分って」
楓は一人一人に魔法を施していく。途中フレデリカが数人纏めて出来ないのか聞いたが楓は「見たことないからわからない」と返していた。
全員に施すのに5時間近くかかり、他の訪問の予定は全てキャンセルになってしまった。
妾はその間治療をしていた女性達に女神の治療魔法を施していた。
いつの時も女性は綺麗でありたいみたいで、とても感謝された。
消毒液、体液、血で荒れに荒れた手、一瞬も気を抜けない状態で過ごしてきた為に出来た隈、疲労による肌荒れ全て治していった。
治療を受けた兵士は今日は安静にして明日妾達と一緒に砦に向かう手はずになった。