僕と楓の約束
過去のお話です。
中学一年生の時
「あのね薫…実は私…き、きたんだ」
「えっとなんのこと?」
「あ、あの日」
僕はその場で立ち上がり玄関に向かう
「か、薫どうしたの?どうして帰ろうとするの?」
そんなの恥ずかしいからに決まっていた。
「ち、違うよ、買い物に行ってくるだけだよ、買い忘れたものがあるんだ」
「え?なに?」
「小豆」
「?」
僕はその場から逃げ出し携帯で赤飯の炊き方を調べながらスーパーに向かった。
夕食が終わりまったりとした時間だ。僕はこの時間が好きだ。
僕の家は父はいない、母は日本どころか世界を飛び回ってメイクの仕事している。最悪家に帰らなくてもいい
楓の母は、夫である楓の父親の暴力に耐え切れずに雲隠れした。
楓の父は売れっ子の役者だ、もともと世間に公表しないで結婚して、公表しないで別れた。
そして楓を見捨て別の女の人と結婚して鴛夫婦の代名詞にまでなっている。
楓のことは、生活費と住む場所を与えているだけで、いないことも同然として扱っている。
母も楓を引き取ろうと説得しているが楓が父親に義理立てて首を縦に振らない。
もしかしたら、暴力を受けた記憶のせいで、父親を裏切るのが恐いのかもしれない。
楓の世話を始めてかなりたつ
楓が僕の肩に頭を乗せた。
「ねえ、薫」
「なに?」
「学校で習ったよ、これで私子供が作れる体になったんだよね」
「そ、そうだよ」
僕は恥ずかしくて顔から火が出そうになった。
「じゃあ、わたし、薫の子供欲しいな」
楓は父親の暴力の影響なのか精神の発育が未熟で、こういう子供っぽい発言をよくする。体の成長はクラスの誰よりも大人なのに
「まだだめ」
「なんで、私薫のこと大好きだよ」
「いい、楓、君のお父さんはなんで楓をたたいたんだ?」
僕は楓が思い出したくない事をあえて思い出させた。
「お父さんが売れなくて、お金が無くて、それで」
楓が自らを抱きしめ振るえ始めたので僕は抱きしめながら頭を撫でた。
「僕も楓の事が大好きだよ、でも今楓と子供を作ったら楓と同じことになっちゃうかもよ」
「薫はそんなことしない」
「するかもよ、僕らはまだ中学生だ、世間が僕達の事を悪く言うだろう。母さんも僕達のせいで仕事を失うかもしれない。そうなったら僕は君と子供に暴力を振るうかもしれない。」
「やだ、そんなのやだ。」
「じゃあ待ってて、僕は楓が大好きだしこの気持ちが変わることがないよ」
「うん、待つよ、どれくらい?」
「そうだなぁ、高校卒業して、専門学校行って、母さんの手伝いしながら資金を貯めて4年で独立してみせる。だから24歳までかな」
「あと12年長いなぁ、でも待ってるよ」
「ありがとう、楓と子供を育てられるようになるまで我慢してね」
「薫はフレデリカ様の影武者やるんでしょ、それならちゃんとお給料いっぱい貰えるだろうし
私も研究室で一ヶ月に普通の家庭のお給料の2.5倍くらい貰えるってロウカイさんが約束してくれたから
だから、おねがい」
僕はどうするか迷いながら楓を抱きしめ天を仰いだ。