僕の日常
「今日も綺麗だね」
僕は、椅子に座る幼馴染の清水 楓の長い髪をブラシで梳きながら語りかけた。
楓は、「ん」の一言を言うと黙り僕にされるがまま、人形のように動かない。
楓は、本当に人形のように感じてしまうほど整った容姿と艶のある黒髪をもった少女だ。
こうして楓の身だしなみを整えるのは十年以上続く僕の日課だ。
「ようし、今日もかわいくできた。」
髪を綺麗に整えて、楓に完了を報告すると、彼女は振り向きながら僕に返した。
「薫もかわいいよ」
「やめてよ、かわいいなんて言われたくないよ」
そう、僕のコンプレックスの一つは、この女顔である。
知らない人が見たら、100人中99人が僕のことを女と思うだろう。
男に告白された回数は100以降数えていない。男でも関係ないと言われた回数は50以降数えていない。むしろ男だからOKと言われた回数は…やめよう思い出したくない。
僕は楓の部屋から出て行き一階に下りて、朝食の準備のためにキッチンに立った。
楓のための美容ジュースを作るためにりんごとグレープフルーツを切り分け専用の機械に入れ、スイッチを入れる。
「楓にはいつまでも綺麗でいてほしいからね」
僕は独り言と鼻歌を歌いながら朝食の準備を進めてゆく。
トーストが焼きあがり、目玉焼き、サラダ、スープと準備が出来ると制服に着替えた楓が机に座っていた。
二人で向かい合い
「いただきます」
の合図で食べ始める。
楓は基本無口だ、ほとんどしゃべらない
普通なら重苦しくなりがちな無言な空間だが、僕はこの空間が大好きである。
静かな空間の中二人は食べ終わり僕が食器を片付ける。
調度いい時間になり僕はかばんを手に取り、学校に向かうために、楓とともに玄関を出る。
僕が戸締りを確認していると後ろから声がかけられる。
「今日も通い妻ごくろうさん」
野太い声のするほうを見るとそこにいるは親友の木村 亮だ。
185cmを超える長身とワイルドな顔でアニキと慕う者が多数いる。
彼と知り合ったきっかけは…
きっかけは…
~二年前~
「俺と付き合ってください」
「いやです。ってか僕男です。」
「じゃあ友達から」
「からってなんだよ!発展しないよ!」
「それでもいい友達になってくれ」
「えっとぉ、まぁ友達なら」
と、こんな感じだ。
それ以降教室でよく話すようになり、同じ高校に進学し、家が近いことがわかると一緒に登下校をするまでとなった。
僕と亮が話しながら歩きそれを微笑んで聞きながら歩く楓が付いて来る。
これがいつもの僕らである。
学校が終わると僕は楓を迎えに行く。
僕が教室につくと楓のいる教室がざわつく。
男子も女子も僕を見つめる目があたたかい。
楓は、僕が来るまでいつも自分の机で本を読んでいる。
非常に絵になるなと、思いながら楓に近づき肩をたたく。
本を読んでいる時の楓は、周りの音が聞こえなくなっている。
「ごめん薫、帰ろ」
「うん」
ふたりで歩き出していくと教室の入り口に亮がいた。
自然に並ぶように歩き出し三人は校門から外に出て行った。
「明日、ってか土曜日暇か?遊びにいかね?」
亮がそう言ってきりだす。
遊びの誘いはいつも亮からだ
「うん、行きたい」
楓が返すと僕も続いた。
「うん、そうだね、いっぱい遊ぼう」
僕は期待に胸がいっぱいになった。
(さあ、明日は楓をたくさんたくさんおめかさせて出かけよう)
今にも飛び上がりそうな勢いで歩いていると三人の下に得体の知れない幾何学模様が浮かび、
目のくらむような光が三人を蔽った。
僕は目がくらみ必死に目を閉じた。
光がやんだ気がしたので恐る恐る目を開けた。
そこには一枚の大きな鏡があった。