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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第三章 15歳編 船長と魔王
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大魔王語る

第3章は残すところ後1話となりました。

本日21日14時に3章最終話「また今度」を予約してあります。

「さて、それを踏まえて、僕の考えを言うよ」


 いよいよ本題のようだ。


「まず、その『聖者』とやら……僕は魔族じゃないと思う」


 『聖者』が魔族、いや魔王クラスの力を持っているらしい、という推測はドラコさんが説明していた。それでもなお、「魔族でない」というのは……?


「理由は2つある。1つは、行動が魔族らしくないこと。人間の集団を従えるなんていう発想は、魔族には無いように思う」

「さっきの……第一魔王はそうでは無いんですか?」

「あいつだって魔族以外を従える気なんかないよ。たかだか100年や200年で使えなくなるような存在なんて居ないのも同然だからね」


 こうして話していると、お互いの認識の違いを感じさせられる。彼らにとって100年働けないというのは、余命1年の候補者が国会議員に立候補するようなものなのだろう。


「もう1つは……そんな近くで転移門なんて大魔法が使われた気配を全く感じなかったこと」

「寝ぼけてたんじゃねえのか?」

「それは……うん、その可能性もあるけど、むしろもっと説得力のある説明もあるんだ」


 そこで彼は一旦言葉を切った。

 なかなか続きが出てこない。

 俺は先を聞きたい気持ちだったが、一方で今の言葉を考える時間も必要に思えた。

 魔法を使えばそれなりに魔力が漏れる。

 今は力を失っているとはいえ、元々大魔王である存在に、これほど近くで気づかせない魔法行使。そんなものがありうるのだろうか?

 少なくとも俺の知識ではそんなことは不可能のはずだった。


「なんだよ、焦らすなよ。いったいどういう説明だ?」


 そう言うドラコさんにも見当がつかないようだった。


「うん、僕も信じられないんだけどね。そいつは『神の力』だよ」

「「神!?」」


 いや、確かに一神系の宗教の教祖だから、まったく無関係な言葉ではなかったが……。それでも大魔王が神を語るというのは、なんだか質の悪い冗談のようだった。


「ちょっと待ってください……宗教の教祖が神の力を使っているというのは別に変なことではないのでは?」


 確かに、一般の神官が使う術は、細部に違いはあれど基本的に魔法と同じだ。

 現にアンティロスの町中で治癒奉仕活動をしている神官が使う魔法も、普通に魔力を使った治癒魔法だった。

 だが、教会のことを調べていると、時に魔法では説明の付かないことを行ったという記録がある。

 教会の公式な発表では、それを奇跡と称している。

 最も多く記録されているものでは、天啓というのがある。

 高位の神官に本来知ることが出来ないはずの知識が与えられることがあるのだ。

 その知識に沿って行動し、大災害が回避されたり、国を滅亡から救ったりという事例が幾つか知られている。

 身近なところではアンティロスのミデアス大司教も、過去に天啓を受けたことがあるとか聞いたこともある。

 そして、天啓は魔法では説明がつかないのだ。


「まあ、一見そう思えるよね。だけどね、僕だけが知っていることと合わせると、これはちょっとおかしなことなんだよ。そもそも神って何だと思う?」

「えーと……」


 俺はかつて会ったことがある、神様のことを思い出していた。この世界を管轄する存在。俺をこの世界に転生させる事は出来るが、万能というわけではないらしい存在。

 俺が考えを整理していると、それを待たずにアンタルトカリケが先を続ける。


「……僕はね、ずっと考えていたんだ。魔族ってなんだろう、ってね」

「さっき自分で言っていたとおりじゃねえのか?」

「そうだね、それは間違いない。じゃあ魔族じゃないものってなんだろう?」

「それも言っていただろ? ボケてんのか? 寿命が来たら死んでしまう、姿形を変えることも出来ないいきもののことだろう?」

「そうだね、だけどおかしくないかい? どうしてそんな違いが生まれるんだう? 言い換えると、意志の力で存在し続けられる魔族という存在があるのに、生に執着した人間が生き続けられないのはどうしてだろう? 死に際に全身全霊をかけて生き続けたいと願った人間なんていくらでもいたはずなのに」

「あれ? でもドラコさんは人間から魔族になったんですよね?」


 そこで、ドラコさんは一瞬渋い顔をしたが、観念したように答えた。


「俺は、元々魔族だ。人間から魔族になったんじゃない……ああ、そうだ、レインもそうだった。意志の力が全てと言っただろう? あいつは魔族でありながら人間のように老い、人間のように死ぬことを自ら望み、そうなるように意志の力で仕向けていったんだ」


 そういうことか。

 世間で逆に「魔王ユークは人間から魔族になった」と広まっているのは、レインさんの秘密を守るためだったのだ。レインさんとその家族、子孫を守るためにドラコさん自身がそう言ったのかもしれない。

 ということは、俺も……


「ああ、お前も元から魔族だから放置するとそのまま生き続けることになる。まあ、パットと添い遂げたいなら年取って死ねるようにがんばれ」


 死ねるようにがんばれ、と励まされるのは希少な経験だろう。


「ともかく、魔族とそれ以外は厳然として違う。だから僕はその理由について考えた。そして気づいたんだ。魔族以外で唯一つ、存在し続けているものの存在にね」

「そんなのいるのかよ? ドラゴンだって長生きだけど寿命はあるぜ」

「それは……世界だよ」


 世界。

 神という言葉が出てくるのかと思ったが……


「……わからないかい? 魔族が自分の意志の力で存在し続けるように、世界も世界自身の意志の力で存在し続けているんじゃないかってことさ」

「おい、それはつまり……」

「魔族以外の全て、世界の全ては1つの魔族みたいな存在じゃないかってことさ。そしてその意志を、人が神と呼んでいるんじゃないかって考えたんだ」


 あまりのことに俺もドラコさんも言葉が出ない。

 あっけにとられた様子の俺達を見て、アンタルトカリケは勝手に続ける。


「いやー、すごいねー、だって世界だよ世界。もしそんな魔族がいるんだったら、いくら全盛期の僕だってひとたまりもないね。いや、僕だって昔は陸地を全部削って世界全体を海に沈めるぐらいのことはできたけど、さすがに世界を消滅させるなんて不可能だからね……」

「あの……」

「なんだい?」

「世界全体を神と同一視するっていうのは、地球でもこちらの世界でも珍しくないと思うんですが……」


 神が「光あれ」と言ったから世界が作られた、的な話は造物主を規定している宗教ではありふれたもののはずだった。それが魔族かどうかはさておき『一神の導き』も似たようなことは言っていたはずだ。


「うーん、そうなんだけど……あのね、僕はそれを法則のようなもの、存在し続けるシステムのようなものだと思っていたんだ。それなら問題は無いんだ。ただ……」


 ちょこちょこと近づいてきた小動物然とした元大魔王は、俺の顔を下から見上げるようにして言葉を続けた。


「ケイン、君が『神』と名乗る存在に会っていなければ問題なかったんだ。僕もさっきまでシステムのようなものだと思っていたから納得していた。だけど、それが一つの意志あるものとして、それも言葉を発するような個性を持ったものとして存在するというのは、どうにも据わりが悪い」

「それは……神が何か具体的に意図を持って世界を変えようとしている、ということですか」

「それはわからない。だけど、警戒はしておいた方がいい。『聖者』は僕が感じ取れない神の力を、まるで魔力のように使って、転移なんていう複雑な術を使ったんだ。そんなことが出来る存在を僕は知らない。未知のものに気をつけるのは当然だろう?」


 ドラコさんも横から口を挟む。


「奇跡とやらは、祈っていれば起きるかも知れないっていう程度だ。確かに魔法で説明できないことが起きるかもしれないが、あやふやで大雑把なものだ。それが転移のように精密な計算と手順が必要な術という形で使えるんだとしたら、それは脅威だと思う。俺も警戒すべきだという意見には賛成する」

「魔王でも神の力は察知出来ませんか?」

「魔力になっていればわかるけどね、そうじゃないとしたらわからないな。ほら、他人の体内を流れる血流なんてわからないだろう? ちょうどそんな感じかな。それよりケイン、ここまで教えたんだから、お返しに君が会ったという神のことについて話してよ」


 そのことは、異世界人であることを明かしたパットにも話していない。それは巻き込むことを恐れてだったが、この場にいる2人なら危険も跳ね返せるだろう。それに、最も真理に近づく可能性が高いのもこの2人だ。

 俺は無人島で目が覚める前のことを、覚えている限り話した。

 2人に取っても、初めて聞く話が多かったらしく、時折質問したり、考えたりしながら聞いていた。

 全て話し終わった後、アンタルトカリケが感想を漏らした。


「なるほど、転生なんて僕には出来ないしやり方の見当もつかないから、やっぱり神なんだろうねえ」

「もしかすると俺が夢を見ていたのかも知れませんし、忘れていることもあると思います。あくまで参考ということでおねがいします」


 ふと隣を見ると、ドラコさんがなにやらぶつぶつとつぶやいていた。


「……転生……転生か、そうか、そうなんだ……」


 俺はちょっと話しかけづらい雰囲気を感じて、小声で傍らの小動物に聞いてみた。


「アンタさん、アンタさん、ドラコさんが変なんですけど……」

「ああ、あれね。うん、えーとね。ユークはレインに惚れていたからね。結局ふられたけど、レインが転生しているかもしれないって聞いて興奮しているんだろう」

「えっ! そうなんですか? でもさっき言ったように記憶は消えているんですよ?」

「まー、そうなんだろうけど、未だに引きずっているらしいから……知ってる? 魔族の間じゃ『クランク腰抜け、バトーは脳筋、第三ユークは行き遅れ』なんて言われているんだよ」

「こら、そこ、聞こえてるぞ!」

「「ひえっ」」


 なんか、いつになく迫力があるドラコさんの声に縮み上がる。


「やあ、ちょっとは元気が出たみたいだね。ケインを連れてきたのは君にとっても幸運だったわけだ」

「……どういうことですか?」

「ユークは滅びかけだったんだよ、たった今まで。まあ、魔族の存在力なんて言ってみればこの世への未練だからね。レインがいなくなって長いから、ユークは生への執着をなくしかけていたんだと思うよ」


 それが、レインの生まれ変わり、という可能性を知ることで持ち直したということか。思えば、彼女がわざわざタロッテに足を運んだのも、思い出に接して生への執着心を取り戻すことが真の目的だったのかもしれない。

 それにしても、その程度の情報で滅びから復活するとは、男らしく見えても意外にドラコさんも女の子だったというべきか……というかむしろヤンデレ?

 滅びかけであれだけ強かったのだ。爆発したら危険度はパット以上だろう。

 俺は、世界平和のためにも地雷は踏まないようにしよう、と固く決意するのだった。


今回の豆知識:


秘密暴露編その2。

ドラコに関しては70%ほど、敵の正体に関しては60%ほど露出したでしょうか。意外と低い、それとも高い?


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