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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第三章 15歳編 船長と魔王
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扉、その奥、さらにその奥

この後は、明日21日の10時、12時、14時の3話で第3章が完了です。

よろしくお付き合いください。

 中は真っ暗だった。


「明かりは大丈夫ですか?」

「ああ、ここは誰も入ってこねえからな」


 俺は魔法で明かりを作り出す。

 中は、外観から想像した通りの構造だった。

 船のドック、ここなら雨風をしのいで船の修理が出来るだろう。

 残念ながら乾ドックではないので、船体の下の修理などは無理に違いない。

 だが、ただ1点、普通のドックにないものがあった。


「これは……圧縮空間ですか?」


 ドックの奥、大壁に面しているところに大きな境界面が見えた。

 幅も高さも20mぐらいあるだろうか、天井いっぱいまであるその境界面は、その気になれば船も通せそうだ……いや、


「これは船用ですか?」

「そのとおりだ。まあ、大型船だったらマストを下ろさないと通れないがな。どのみち建物に入る時点で下ろすから問題ないだろう。さあ、行くぞ」

「行くって、この先ですか?」

「ああ、ちょうどそこに小舟があるだろう? これで行くぞ」


 水面には、他にも大型のボートがあるが、あれは10人以上で漕ぐものだから俺達では動かせない。

 俺達は2人で焦げる小舟に乗り込み、境界面に向かう。

 境界を抜けるとき、今までに無いほどの気圧変化を感じた。

 耳が痛い。

 鼓膜が引っ張られるような感覚だが、ウラッカ号の圧縮空間ではこんな経験はない。


「これは……すごいですね」

「ああ、圧縮率40倍だ。40mを1mに圧縮している。ほら、見ろよ」


 そう言って、ドラコさんが右手を指し示す。

 先が見えない。

 ドラコさんの話によると、前は40m先で終わっている。

 左の境界面も何10mか先に見える。

 いま来た後ろはすぐそこに境界面がある。

 だが、この空間は右の方へは果てしなく続いているように見えた。

 俺は方角を整理する。そして、この馬鹿げた規模の圧縮空間の正体にたどり着いた。


「まさか……これは……タロッテの南までつながっているんですか?」

「正解」

「つまり、タロッテは南北の運河を隠し持っていたんですね!」


 船乗りの間ではよく話される話題がある。

 タロッテ地峡を南北に貫く運河さえあったら、どれだけ貿易が楽になるか。

 だが、そんなことをして素通りされてはタロッテの町は今ほどのにぎわいを保てるだろうか?

 確かに、運河の通行料を取ることが出来るかもしれない。通行順待ちの船の寄港地として栄えるかもしれない。だが、今タロッテの大きな収入となっている交易品の集積地という立場は失うことになる。

 だから、タロッテは意地でも運河なんて掘らないよ。という結論になるのが常だった。

 それが目の前に、現に存在しているとは思わなかった。


「あれ? だけど中央門は?」

「あれは丘の上だろ? だからこの運河は途中までは大壁の中にあるが、中心部では地中を走っていることになるのさ」

「なるほど! それであの扉の向こうが問題なんですね」


 隠し扉に関するドラコさんの態度も無理はない。

 あのトンネルが、転移門経由でなくまっすぐ掘られていた場合、西の下水路に辿り着く前に、この運河に当たることになる。

 もし部外者がこれを知って、広めでもしたら、タロッテは世界中の非難の的になる。

 運河はすでにあるんじゃないか。

 だったらなんで使わせないんだ。

 タロッテは言い訳に苦慮することになる。

 これほどのものならば得が失を上回ると判断されて、戦争を仕掛けられるかもしれない。


「まあ、大壁の両側は地下まで軍ががっちりガードしているから、それほど心配することではないがな」

「でも……こんな空間をどうやって?」

「作ったのはレインだ。そして、維持はタロッテの最高位魔法使い7人がかりで、必死にやっているな」

「じゃあ、マルスさんは……」

「そうだな、”楔守り“の1人だ。この運河は正式名称”タロッテの楔”と言うんだ」


 楔、確かにその名はこの運河の実態を表しているように思えた。小さなひび割れを、大きく広げ、やがては対象を真っ二つにする。この、外から見れば幅1mに過ぎないひび割れは、そういう力を持っているのかもしれない。

 俺は、なんだか怖くなってきた。どうしてドラコさんが俺をこんなところに連れてきて、こんな話をしてくれるのか、その意図がわからなかった。

 それでも、ドラコさんのこれまでの行動を見ていると、俺に悪意があるようには思えない。俺は思い切って直接聞いてみることにした。


「え? 意図? ああ、いや……まあ、保険、というかなんというか……」

「保険? 俺がですか?」

「ああ、さっき言ったとおり、楔守りはギリギリなんだ。今はなんとか維持しているが、将来はわからねえ。だから、そこそこの魔力があって、秘密を守って貰えそうなお前に手伝って貰おうか、と」


 つまり、将来の楔守り候補として目を付けられたわけだ。


「……残念ですが、俺は船乗りだから難しいと思います」

「ま、そうだろうな。ただ、まあ少しはタロッテのことも頭に留めておいてくれ。これが露見すると、この大陸は相当荒れるだろうからな」


 つまり、勢力図が変わって戦争が起こる可能性があるということだろう。


「さて、それじゃ2つ目の秘密に向かうぞ」


 そう言って、ドラコさんは舟を南に向けた。


「この先ですか?」

「ああ」


 俺達は、小舟を操り運河を進む。

 だが、この運河と同じぐらいの秘密となると、想像もつかない。

 俺は内心怯えながら、櫂を動かしていた。


「……じゃあ、純粋に軍事的に使われているんですね」

「実際には使われたことは無いがな。他国が攻めてきた時に、そっちに船を移動させて、戦力を倍にして追い返そうって戦略だ。まあ、日本と同じ、専守防衛用の仕掛けだな」

「使われたことはあるんですか?」

「知っている限りは一度もない」


 確か、タロッテがダカス帝国に占領されたのは200年前のことだ。大壁の建設はそれ以後だったことを考えると、この運河も当時は存在していない。タロッテを攻めようという勢力はそれ以後一度も現れていないのだ。


「それじゃ、本当に最後の手段というわけですね」

「そうだな……っと、いたいた」


 いた? 何が? 誰が?

 手を止めたドラコさんに習い、俺は漕ぐのをやめて、彼女が指し示す方を見た。

 すると、水面に白と緑の何かが見えた。

 あれは……いや、どう見ても……

 俺には、大きめの洗面器に白い犬か何かが乗っているようにしか見えなかった。


「おーい、アンタぁ」


 え? ちょっと意外だ。「俺」「お前」でしゃべっているドラコさんが「あんた」と呼びかけるのはキャラに合わないような気がした。


「えいっ」


 その白い何かは洗面器から飛び上がった。残った緑色はやっぱり洗面器にしか見えなかった。


「しゅたっ」


 自分で降り立つ効果音を口にしながら、その白いものは小舟に降り立った。

 犬……というにはちょっと違うような気もするが、しっぽの大きな小動物だった。目が真っ赤なのが異様だった。

 その小動物は、俺の方を向くと、こう話しかけてきた。


「やあ、君、僕と契約して魔法使いになってよ」


今回の豆知識:


秘密暴露編その1です。

圧縮空間のアイデアを思いつく前は、海面下の地下水路で南北がつながっているという設定でした。そうなったら潜水艦とか出ていたかもしれません。当然、大壁も無かったです。

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