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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第三章 15歳編 船長と魔王
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未来の選択

今日明日で3章ラストまで上げてしまいます。

3章はこれを含めて5話ですが、よろしくお付き合いください。

次は本日19日22時に予約しています。

「俺は、このタロッテとアンティロスの間の交易をしようと思っています」


 俺は「ドラコさん」に向かって、自分のこれからについての目論見を告げた。


「え……?」


 まさかそんなことを俺が言い出すと思っていなかったドラコさんは、あっけにとられた。


「まず、聞いてください。ドラコさんは、俺の魔法の勉強や今後の成長を考えて、タロッテに移住することを勧めてくださいました。いったんは承知したんですが、でも俺はトランドを捨てられません」


 パットも俺の言葉に一瞬驚いたが、今は落ち着いて聞いてくれている。

 ドラコさんは、グラスに残ったワインを飲み干し、テーブルに置いた。おかわりを注ぐ様子はない。


「でも、ドラコさんが心配してくれたのもわかります。確かにトランドを中心にしていては、魔法の勉強ははかどらない。ここ1年、俺は魔法ではほとんど進歩が無いことも事実です」


 そう、確かに魔法の修行は低調だった。だからこそ他の勉強に時間を費やしていたのだが、今は関係ない。


「タロッテとアンティロスの間を貿易しながらだったら、タロッテで文献を買って、アンティロスに向かう航海で勉強できます。それだったら、実質タロッテで勉強するのと同じじゃないですか?」

「だが……魔法書は高いぞ。大学の本は国外持ち出し禁止だし、そんな金がお前にあるのか?」


 ドラコさんの疑問はもっともだった。大抵のものは手に入るタロッテだが、魔法書は高い。さすがに金貨の必要な本は聞いたことが無いが、それに近いものも存在する。


「船員の給料なんて知れているだろう。いくらやる気があったって本がなけりゃ……」

「その点については解決策を考えました。船の積み荷に魔法書を加えようと思います」


 日本のマンガ本のように、ビニールで中が見られないようにされているわけではない。魔法書を積み荷にして、汚さないように注意しながら読めば、買わずとも勉強することができるはずだった。


「だが、それでも……そもそも魔法書を積み荷にしてくれる船なんてあるのか?」


 確かに、本は湿気を嫌うので船の積み荷としては優秀とは言いがたい。売るときの需要が読みにくいこともあって、船主に好まれる交易品ではなかった。

 だが、これにも俺は解決策を用意してあった。それは……


「ディオンさんと相談して、ウラッカ号を買い取ることにしました。だから船主は俺、船長も俺です」


 これにはドラコさんもパットも驚きを隠せないでいた。


「魔法書に関しては、俺はどの船主よりも、どの船長よりも目利きができます。身近に航海魔法の権威も居ますし、勝算はあると思っています」


 はじめのうちは不機嫌そうだったドラコさんも、いつしか真剣な顔で俺の話に耳を傾けてくれるようになっていた。

 俺が話し切ったあと、彼女はグラスを見つめていたが、ややあってから、ボトルに手を伸ばし、ワインをグラスに注ぐ。

 ちょっと口を湿らせてグラスを置く。

 そして口を開いた。


「しっかり考えたようだな。いや、お前を見誤っていたよ。まさかこんな手を思いつくとはな……」


 彼女は言いながら、テーブルに伏せられているグラスを2つ取ってワインを注ぐ。

 手を伸ばして、2つのグラスをテーブルのこちら側に置く。


「レインといい、お前といい、日本の男というのは一筋縄ではいかないな。いいよ、それで行きな。俺としてはお前の選択をこうして祝ってやることしか出来ない。さあ」


 促されて、俺とパットはグラスを取る。


「ウラッカ号船長、ケインの新しい船出に……」

「……私とケインの結婚の前祝い……」


 そこにも突っ込んでくるか、パット。やっぱりヤンデレ入ってんじゃね?

 って、俺も何か言わないとな。よし……


「第三魔王領、トランド、タロッテの発展と、偉大なる大魔法使いにして異世界人、レイン・リーンの功績と……」

「ケイン……長い」

「わかったよ……ともかく関わったみんなに……」

「「「乾杯」」」


 こうして、俺は自分の行く先を決めた。

 そうして、俺はパットと秘密を共有することになった。



********



「おい、ケイン、ちょっと顔貸せ」


 ドラコさんにそう言われたのは、次の日の事だった。

 予定通り、翌日には出港となるので交易品や食料の積み込みで忙しく、ようやく一段落したところだ。


「どこへ行くんです?」

「一応約束だからな、リーンの家で夕食だ」

「ああ、そういえば……」


 そんな約束もあったな。


「船長、じゃあ戻りは夜だすか?」

「ああ、そんなに遅くならないと思うから、ガフは最後の上陸楽しんで来ていいよ」

「へえ、ありがとうございますだ」

「あー、ケイン、ちょっとその後もあるから遅くなるかもしれん」

「はあ、まあ出港準備は済んでいますから問題無いですが」


 なんだろうか? 思えばドラコさんには色々引きずり回されたが、それも最後だろうから、黙って付いて行くか……


 リーン邸での食事は美味しかった。

 俺達が東で宿をとっていることを調べてあったらしく、西の、ミニュジア風の料理がふるまわれた。

 同じ鶏肉、同じ牛肉でもやはりスパイスの使い方や味付けなど、かなり違いを感じた。

 マルスさんの家族にも今回初めて会った。

 息子さんも娘さんも、まだ小さかったが、やはり将来の目標は魔法使いらしい。

 最初はドラコさんのことを怖がっていたが、話してみるとあの通りの気さくな人なので、すぐに打ち解けたようだった。

 俺はマルスさんにも、自分の選択について説明した。

 一瞬残念そうな顔をしたものの、「やはり世話になった人を無下には出来ませんよね」と状況を納得してくれた。

 俺もドラコさんも大いに飲み、食べた。

 名残惜しかったが、会食も終了の時を迎えた。

 俺はマルスさん一家に再会を誓った。

 ドラコさんは……


「俺は、まあ……そうそう来られないが、しっかり言い伝えといてくれよ」


 もう会えない可能性が高い。そのことに、子供2人は悲しそうだった。

 特に、娘さんの方はすっかりドラコさんと仲良くなって、「将来は魔王になる」なんて言い出していたので、今にも泣きそうだった。

 やっとのことで、大人たちが子供たちをなだめ、俺達はリーン邸を後にした。


「10年に1回ぐらい足を運んだらどうですか?」

「バカ言え、10年もたったらあの子も忘れてるさ」


 そうは言うが、ドラコさんの本心からの言葉かどうかはわからない。

 彼女があまり魔王領から出ないのは、仲良くなった人が過ぎ去っていくのを見たくないからじゃないだろうか? 根拠は無かったが、俺はそう思った。

 沈んだ空気を振り払うように、俺は話題を変えた。


「それにしても、西の料理はずいぶん違いますね」

「ああ、そうだな。どっちかって言うと西はインドの料理に近いな」

「そうですね……やっぱり大壁を隔てて文化圏が変わる……あっ!」

「どうした?」

「ドラコさん……今は夜ですよね?」

「そうだな」

「中央門は閉まっていますよね?」

「当然だな」

「じゃあ、俺達どうやって船に帰るんですか?」

「なんとかなる」

「なんとか、って……」


 ドラコさんは中央門を過ぎて更に大壁沿いを北に進んでいく。

 俺は遅れないように付いて行く。


「ケイン」

「はい」

「お前は俺やレインと身内のようなものだ。少なくとも俺はそう思っている」


 いつになく真剣な口調に、俺は少し残った酔いを振り払い、ドラコさんの言葉に耳を傾けた。


「だから、裏切るなよ」

「……はい」

「よし、じゃあ俺とレインの秘密を2つ、お前に教えておく」

「秘密……ですか?」

「1つはレインが作った、このタロッテ最大の秘密だ。もう1つは、俺達の正体についての秘密だ」


 正体? 地球からの転移者、という以外に何かあるのだろうか?

 それ以上ドラコさんは何も言わず、黙って足を進める。

 やがて、北の端、港へとたどり着いた。

 北からの海風が顔を撫でる。

 ここまでは陸軍の施設の柵に沿って歩いてきた。

 だが、港の近くは海軍の施設に切り替わる。

 そして海に張り出した大壁沿いには、タロッテ海軍北方艦隊の戦列艦、フリゲートがずらっと並んでいた。


「こっちだ……と、その前に」


 そう言ってドラコさんは俺の手を引っ張る。

 魔力がうねる。

 俺からは何も変わったように見えないが……


「まあ、正式な手続きをすると面倒だし大事になるからな。姿を消した」


 どうも、他人からは俺達2人が見えなくなっているようだ。

 そういう魔法もあるのだろう。原理は勉強不足で分からないが……

 俺はドラコさんに手を引かれて、そのまま海軍管轄の港に足を踏み入れる。

 ところどころ歩哨が立っているが、やはりこちらの姿は見えないらしい。


「ここだ」


 そう言って、ドラコさんが立ち止まったのは、ある扉の前。

 巨大な建物があって、大きな扉が海に面している。

 大扉の下は海水に浸かっており、この建物が中に船を収容できることを表していた。

 奥行きも長く、建物の先は大壁と一体化していた。

 俺達が立っているのは、大扉の前に渡された跳ね上げ橋。

 大扉を開くと橋にひっかかる位置にあるので、船を入れるときは橋を上げて大扉を開くのだとわかった。

 俺達の前にあるのは、人が入るための小さな扉だったが、この扉にもおかしな点があった。


「これは……」


 扉には普通の鍵がかかっていない。

 ただ、金属のプレートがはまっていた。

 俺はこれを見たことがある。

 さっきまで居たリーン邸、その書斎にあるレインさんが残した扉。


「まさか、魔法でしか開かない扉ですか?」

「ああ……見ろよ、大扉もそうなってるだろ?」


 薄暗い中、目を凝らして見ると、確かに船用の大扉も同様のプレートが存在する。


「さて、じゃあ開けるぞ」


 ドラコさんはそう言うと集中して、プレートに魔力を注ぎ込む。

 しばらくして、扉が音もなく開いた。


「見つかるとまずいから、さっさと中に入るぞ」


 俺はドラコさんに続いて扉の中に滑り込んだ。


今回の豆知識:


ケインがようやく自分の人生を切り開く転機となる回です。

ウラッカ号は古いので、手に入れても修理改装費で全財産ギリギリぐらいかなあと思っています。

自分のものになる、ということでケインも色々改装プランを持っているようですが……

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