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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第三章 15歳編 船長と魔王
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事件、その他の後始末

3章最後まで書き上がりましたので、今日の夜から明日にかけて全部アップする予定です。

次は本日20日20時に予約しています。

 『聖者の園』事件はこうして幕を閉じた。

 教祖である『聖者』の行方は知れなかったが、ここまで大事になった以上は、もはやタロッテで何か悪巧みを続けるのは難しいだろう。

 もっとも、『聖者』は莫大な魔力を持っているらしいので、なんとでも出来るだろうが、それはタロッテに限らない。

 気にしても仕方ないのだ。

 ともかく、タロッテから公文書で各国に警戒を呼びかけることにはなった。


 教団は解体され、襲撃犯の首謀者は、死刑その他の厳罰が下ることになった。

 何度も蒸し返して考えてしまうが、グルドが生き延びているのにその手下が死刑になるというのは完全には納得出来ない。

 だが、地球でもアメリカなどでは司法取引という制度がある。捜査に協力することで減刑される制度が、ここで適用されたと理解するしかないだろう。

 実際に、彼の証言で最後の大襲撃を未然に防ぐことが出来たのは事実なのだ。

 裏に1000人はいる、と噂された『聖者の園』だったが、あのように大きな騒ぎを起こし、実行前に全員逮捕ということで、すっかり求心力を失ったらしい。

 後は自然解体していくだろうというのがディオンさんの見立てだ。


 一方、教会がまるごと乗っ取られていた『一神の導き』だが、こちらも大騒ぎになった。

 総本山からの発表によると、こちらに派遣されてきた司祭はすでに亡くなっていたらしい。といっても、殺されたわけではなく、病死したのをスラストさん達が隠して教会を私物化したのだという。

 元々タロッテ教会は閑職ということもあって、あまり追求は無かったのだが、事態を重く見た総本山は、タロッテ教会を廃止してしまうか、むしろテコ入れするかで真っ二つに割れて論争中らしい。

 俺としては、悪名が響いてしまったから潰してしまえばいいと思うのだが、他文化圏の境界であるタロッテからの撤退には抵抗が強いらしい。


「よし」


 俺は土砂で埋まった通路を見て、思わず歓声を上げた。

 ここまで大変だった。

 『聖者の園』が作った東西の秘密連絡通路だが、数日経っても転移門が消滅する気配は無かった。

 2ヶ月以上も存在しているのだから、いつ消えてくれるかわからない。

 そこで、俺が土砂を呼び出して、通路を塞ぐ作業につくことになったのだ。

 正直、タロッテの魔法使いにやらせろよ、と思ったが、秘密を知るものは少ないほうがいい、とのことで俺が駆り出されている。

 ちなみに、ドラコさんは「細かい作業は苦手」と逃げ、パットも「臭いから嫌」と拒否したので、全部を俺がやることになった。

 そんなわけで、ついてくる仲間もおらず、汚水が臭う薄暗い地下で、俺は地道な土木作業に従事していたのだ。

 もっとも、ここを塞いだとしても、また『聖者』クラスの魔法使いがやってきたら同じ事だ。そこまで魔力が無いとしても、このまま地下を掘り進めていけば東西を貫通するトンネルを掘ることが出来るかもしれない。

 だから、今後は軍の一部が、この地下水路を巡回して警戒することになっていた。

 俺の事が知られているとは思えないが、今後中央門をくぐるときには不快な任務を持ち込んだ申し訳無さを感じることになるかもしれない。


 地下水路から出た俺は、しばらく風にあたって服の臭いを嗅ぐ。

 ああ、やっぱりこれもダメだな。

 今はできるだけ無駄遣いをしたくないのだが、この臭いをまとったまま人前に出る気にはなれない。服飾費がかさんでしまう。

 俺は、船に戻って着替えることにした。


「ケイン、お疲れ様」


 船に戻った俺に声をかけてきたのはダイクさんだった。


「ようやく終わりましたよ。これであの臭いからようやく解放されます」

「はっはっはっ、俺も二度と嗅ぎたくねえなあ」

「それより、例の件、大丈夫でした?」

「ああ、先に手紙で知らせたから問題ない。ガイアートで下ろしてもらえば、そこから陸路で故郷に帰れるさ」


 ダイクさんとグルドにとって、タロッテから陸路で帰るのは危険だ。

 少なくとも、まだ隠れた『聖者の園』の信者がいる状態では、いつ正体が露見してもおかしくない。

 そこで、船で2日ぐらいの位置にあるセンピウスの首都、ガイアートから陸路で北を目指すことにした。

 タロッテとセンピウスは、政治的には仲が悪くない。だが、商売に関してはそうではない。

 商品の流通を一手に握るタロッテと、その関税を回避して南北の貿易をしたいセンピウス。

 お互いの利害が相反するので、商人レベルではお互いを嫌っているのは広く知られている。

 そこで、ガイアートでセンピウス商人の隊商を見つけて、それに同行する形で北上するのが一番安全だという事になった。

 少し時間はかかるが、そちらのほうが安全だという判断だ。


「グルドはおとなしくしていますか?」

「ああ、おとなしく……というか船酔いでぐったりしてるぜ」


 波の穏やかな港でそれだと、海に出たら大変だな。まあ、2日ぐらい我慢してもらうとするか。


「そういえば他のみんなは?」

「ディオンさん以外は揃ってるぜ、宿から荷物を引き上げてきたらしいからな」


 そうか……出港はディオンさんの用事次第だが、一応明後日ということになっている。

 そろそろ皆も船旅の準備に入ったということなのだろう。

 ならば、俺も覚悟を決めるか……

 俺は、甲板後ろの扉を開け、上フロアの船室に入った。

 メイカさんは、陸に上がってからは基本的に宿で過ごしている。

 たまにディオンさんに付いて行くこともあるのだが、船には一切寄り付かない。

 そのあたり、自覚はあるのだ。

 彼女には彼女の適所というものがあり、それは船上ではない。

 おそらく乗船も最後になるに違いなかった。


 船尾の広間にはドラコさんが座って酒杯を傾けていた。


「おう、ご苦労だったな」

「ようやく全部埋められましたよ。もう地下には行きたくありません」

「まあそうだろうな……ところで、あの件はどうなった? もう話したのか?」


 と、そこで甲板への扉が開く音が聞こえ、足音が近づいてくる。


「ケイン、戻ってる?」

「こっちだ、いいから入って来て」


 扉が開き、パットが入ってくる。

 ドラコさんがいるのを見て、ちょっと会釈をした。


「さすがのケイン探知機といったところだな」

「からかわないでくださいよ」

「で、繰り返しになるが、もうこの子には話したのか?」


 俺はドラコさんの言葉を、促しているものと受け止めて、パットに正面から向き合う。


「パット、大事な話がある」

「……なんでドラコさんがいるの? 関係……無いよね?」

「いや、ちょっと関係がある」

「……なんだ、求婚じゃないのか……」


 爆弾発言だったが、俺はあえてスルーする。


「いや、それはまた……今度……じゃなくて、話というのは俺の出自に関するものなんだ」

「出自?」

「俺は異世界出身者だ。正確にはドラコさんと同じ世界の、ほぼ同じ時代からこっちにやってきた」


 パットは俺に目を合わせたまま、黙っていた。

 俺も、パットを見つめ返す。

 しばらくそのままの状態だったが、パットが口を開いた。


「……超年上? おじいちゃん?」

「いや、そうじゃなくて、年はパットより1つ下なのは間違いない。どうしてか知らないけど、俺は200年ずれてこっちに来たみたいなんだ」


 どうしてか? もちろん俺は理由を知っている。だが、そこまで明かしていいものか、それを明かしてどうなるか、俺には確証が持てなかった。


「……じゃあいい。別に結婚に障害は無いよ?」

「……他に何か無いの?」

「他にって?」

「いや、怖いとか、気持ち悪いとか……」

「ありえない。ケインはケインだよ? 3年も一緒ならどんな人かわかる」


 俺は、思わずパットを抱きしめた。

 地下でのあの時とは違って、今度はパットも手を俺の背中に回してきた。

 俺達2人の世界に、邪魔者は……


「熱いねえ」


 言いながら窓を開けようとするドラコさん。

 正直なところ邪魔者だった。

 というか、もう少し黙っていてくれてもいいのに……

 俺はしぶしぶパットを離す。

 彼女の手は、それでも最後まで名残惜しそうに俺の背中に当てられていた。


「まあ、結婚式には呼んでくれよ。派手に祝ってやるから」

「それは……ちょっと先かもしれませんが、よろしくお願いします」

「ケイン……じゃあ、魔力が強いのもそれ?」

「ああ、先輩であるレインさん、ドラコさんよりはだいぶ落ちるらしいけど、俺もそれなりに強い魔力を持っているらしい。まあ、使い方を勉強しないとあんまり有効に使えないらしいけどね」

「ケイン、俺が言ったのはそっちのことじゃないんだが……」


 そうだろう。

 ドラコさんがパットに告げるように促したのは、もう一つの用件。俺がタロッテを本拠地にするということに関してだ。

 パットに出自のことを話したのは俺の独断、そしてドラコさんに同席してもらったのは説得力を補強するためだった。


 そして俺は彼女に向かって、自分のこれからについての目論見を告げた。


今回の豆知識:


当然、タロッテの東に教会がなくなったら、タロッテに西からの宗派が勢力を伸ばしてくることになります。更にはその東にも……ということで、簡単に廃止するわけにもいかず、総本山は困っているわけです。

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