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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第三章 15歳編 船長と魔王
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昨日今日と、土日ですが更新しています。

 俺のアイデアによる初探索では悪臭を体にまとわり付かせただけで終わった。俺の株価絶賛暴落中、いや、こっちの世界でも株があるのかどうか知らないが。

 だが、そこでマテリエさんが口を挟んだ。


「ちょっとまって、あなたこの仕事長いの?」

「あ……ああ、もう10年以上やってるよ」

「それなのに、本当に誰も見たこと無いのよね?」

「……そ、そうだが」

「どういうことですか?」


 俺はどうして彼女が突然話に加わってきたかわからなかった。


「カイラが言っていたけど、盗賊の中にはここを使う事があるらしいじゃない」

「あっ」


 そういえばそんな話があったな。


「10年以上もここで働いているんだから、何回か見ていてもおかしくないでしょ?」


 マテリエさんはおっさんに厳しい目を向ける。


「いや、本当に見てねえよ。大体、夜に入ったことなんてねえから……」

「夜?」

「あ、いや」

「ちゃんと話してもらうわよ。こっちには短気で乱暴なドワーフもいるんだから。あの斧で斬られたらあなたなんか真っ二つよ」


 ジャックさんは、たぶん色々納得いかないところはあるだろうが、ちからこぶを作ってマテリエさんの説明に信憑性を与えた。大人の対応といえる。


「ひ、ひえっ……わかった、わかったよ。話すから、くれぐれも上には黙っておいてくれよ。こんな仕事だけど今失業しちまうわけにはいかねえんだよ」


 脅しが効いたのか、おっさんは観念したようだった。


「……あのな、これは前任者から、いや代々引き継がれているんだが、俺たちは昼にしか中に入らねえ。それで何も問題ねえことになっている」

「ふうん、じゃあ夜の管理人は別にいるってわけね」


 夜の管理人(意味深)……というわけではないだろうが、そうだとすると……


「結局、例の団体とは関係ないですね。10年以上前からだと時期が合いません」

「……そうね」

「ケイン、これでは地下の線は無いのではないか?」

「……まだそうだと決まったわけではありませんよカイラさん。……そうだ、その夜にここを使っているという組織のことを調べられませんか?」

「うむ、ちょっと難しいな。相当危険な橋を渡る事になる」

「じゃあ力押しで何とかならねえか?」


 キャラづくりを引きずっているのだろうか、ジャックさんがそんな提案をしてくる。


「うーん……どうしようもなくなったらそうするしかないかもしれませんね……」


 正直なところ、少数な俺達としては目的外の組織とことを構える余裕は無い。


「あの……俺はもう……」

「おっと、まだ聞いておきたいことがあるのよね。あんた、昼にしか中に入らないって言っていたけど、本当に、神に誓って、何も見てないの?」


 後ろで再びジャックさんが威嚇を始める。なんか楽しくなってきたのだろうか?


「うへっ、わかった、わかったよ。本当に言いふらしたりしないでくれよ。俺から聞いたってことは特に……」

「約束するわ」

「水路の壁に隠し扉があるのを見つけちまってな。ただ、うまく隠されているようで次に行ったら見つからなかったんだ」

「場所は? この東6号?」


 もしいま歩いてきたところにあったのだとしたら、カイラさんの目をごまかしたことになる。だが、逃走経路を考えるならば、ここ以外には考えられない。


「いや、違う。東1号の西側だ」


 東1号、というと最も大壁に近い側、水路の中で最も西を走っているもののはずだ。

 ふと気配を感じて振り返ると、ドラコさんの様子がちょっとおかしい。


「なるほどねー。じゃあ、結局逆だったわけだ。これはもしかして壁超えの逃げ道でも掘られているかもしれないわね」


 そうだろうか?

 マテリエさんが言うように東1号から西に、壁を超えて西1号までつなぐには、相当な距離を掘り進めないといけない。

 そんなことが果たして……いや、そうか、仮に『聖者の園』であれば可能かもしれない。なにせそのトップにはかなりの力を持った魔法使いがいるという噂なのだ。

 大体の場所を聞いて、マテリエさんはやっとそのおっさんを解放した。


「絶対に他に言わないでくれよ。絶対だぞ」


 と念押しをして男は水路の中に消えていった。

 さて、残った俺達は、今後の方針を考えないといけない。

 このまますぐに宿に帰るのは町の人に迷惑だろう。汚水の臭いを周りに振りまきながらでは申し訳がない。

 俺達は、ひとまずウラッカ号に戻ることにした。

 とりあえず魔法でお湯を作って、体を拭き、清潔な服に着替えて俺達は船尾の大きなテーブルを囲んでいた。

 各自適当な飲み物を手にしていたがリラックスした様子は無い。今日の仕事はまだ終わってはいないのだ。


「さて、初探索の結果としては……まあ、実際には探索自体には何の意味もなかったわけだけど……」


 マテリエさんが俺の方に目をやりながら言った。嫌味が心に突き刺さる。


「と……ともかく、2つ、いや3つの選択肢が出てきました」


 動揺して数字に弱いイギリス人みたいになってしまった。


「地下を使っている盗賊を探る。隠し扉を調べる。これまでどおり地下を調べる。という3つです」

「ちょっと待てよ。隠し扉っていうのは盗賊が使っているんだろう? じゃあ1つ目と2つ目は一緒じゃねえか?」


 そう言ったジャックさんだけはいつもどおり酒を飲んでいた。まあ、彼は酒以外飲んでいるのを見たことが無いのでいいのだろう。


「それはわからないわね。盗賊と無関係に『聖者の園』が作ったのかもしれないし、もっと言えば両者が協力しているのかもしれない」

「まさか……」

「いや、ありえねえことじゃねえな……どちらにしてもだ、俺はその扉とやらを調べるのが先だと思うぜ……まだ夜まで時間はあるから、これから……」

「やめておけ」


 ジャックさんの提案は、ドラコさんの強い言葉で遮られた。

 それまで黙って聞いていた彼女の、突然の発言がそれだったので、皆驚いて言葉がなかった。


「……どうしてか、聞いてもいいですか?」

「前にも言ったが、地下には色々面倒な事がある。俺がダメだと言った、それが理由では不満か?」

「それは……」

「不満だね」


 そこにマテリエさんが反駁する。彼女はドラコさんに目を合わせながら続けた。


「あんたがそう言うってことは相当なんだろうけど、こっちも冒険者よ。延々と地道な調査を続けるって性じゃ無いし、突破口があるなら危険を侵すのが当たり前。少々のことでは引く理由にはならないよ」

「少々のことではない。場合によっては俺の手でお前たちを皆殺しにしなくては行けない可能性もある」


 俺たちを? 皆殺し?

 突然意外な言葉が飛び出てきたので、誰も言葉を出せなかった。

 実力的には可能だろう。

 だけど、そこまでして彼女が否定する理由はやはりよくわからなかった。

 これは……無理だろうか。

 ドラコさんが頑なに拒む以上は、それに従うしか無い。ただ、これまでの調査によるとやはり襲撃犯が地下を使っている可能性は高い。そして、その扉は一番あやしい場所だった。この可能性を捨て去るのも惜しい。どうするべきか……何かいい案は……


「……あの、場合によっては、ということはそうじゃない場合もあるんですか?」


 俺が発したのは、思いついたそのままを口にした言葉だった。

 彼女は扉の先に行ったらダメだ、とは言ったが、扉の先に行ったら皆殺しだ、とは言っていない。そこには何か条件があるはずだ。


「そもそも、もし本当に扉の先に教団の拠点があったとしたら、他をどんなに探しても無駄です。地道に調査を続けても何も出てこないでしょう。そうだとするとこの依頼は達成不能になりますが」

「それは……」


 ドラコさんは、何か言いかけてやめる。


「残念ですが、俺も船員に滞在期間がどれぐらいになるか教える義務があります。このまま何週間も留められる事になったら彼らの不満もたまりますし、怠けぐせがついてしまいます。早急に解決できる可能性があったら、そうすべきじゃないでしょうか」


 ドラコさんに視線が集中する。彼女は、右拳を握ったり開いたりしながら、視線を伏せて黙っていたが、やがて口を開いた。


「……本当のことをいうと、俺は1人で行ってこようと思っている。あの先が俺の心配通りなら、それに関わった者は全員皆殺しにしないといけない。魔法を使うわけにはいかねえが、剣だけでも俺なら大丈夫のはずだ」


 そこまでの覚悟だったのか。だが、それでは中にいる少数は全滅できても、結局教団を壊滅させることはできない。また、本人は黙っているが、ダイクさんの願いもかなわない。


「……じゃあ、その心配なことは俺達が見なければいいんですよね」

「それは、しかし難しいだろう。状況次第で偶然、ということもある」

「それなら、ドラコさんの指示に絶対服従、というぐらいで何とかなりませんか? 指示のない場所には近づかない。止まれと言われればすぐに立ち止まる。と言う具合に」

「……出来るのか?」


 すぐに返事はない。だが……


「そういう軍隊みたいなのは正直苦手だけどね、まあ新米の頃はそういうのもあったよ」

「俺たちゃ船員だからな、そういうのは慣れているぜ」


 など、肯定的な返事が返ってくる。

 それを受けて、ドラコさんもついに決断する。


「よし、それでは扉を超えたら俺の命令に絶対服従。破った奴は死んでもらう。それでいいな?」


 条件は厳しかったが、それでも突破口が開けた。俺達はその条件を受け入れることになった。


今回の豆知識:


イギリス人に含むところは有りませんが、モンティ・パイソンで繰り返しネタにされていますので……

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