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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第三章 15歳編 船長と魔王
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初探索の成果

今週は出来そうなので土日更新もします。

 一面から見るといいアイデアというのも、別の面から見ると都合が悪いアイデアだということがある。

 今の俺は、まさにそんなアイデアに動かされている。

 それも、自分が思いついたのだから誰にあたってもしょうがない。


 俺達は、東6号と名付けられた、タロッテの地下を南北に走る大下水路のうちで一番東にあるところを探索していた。

 嗅覚の鋭い獣人であるカイラさんやダイクさんはすでにふらふらだ。

 食器を洗った排水、トイレからの汚物、洗濯の排水、その他革をなめしたり糸を染めたり金属加工をしたりなどの工業排水。それらが全て流れ込んでいるここは耐え難いほどの臭いを漂わせていた。


 アイデアというのは、襲撃犯の逃走経路についての予想だった。


「……じゃあ、一度地下に降りてみることは確定として……あまり長居はしたくないですから、予め目標を決めましょう」

「それはいいけどケイン、何かいい案でもあるの?」

「犯人がどれだけ我慢強くても、下水道の中に何日もいたはずはありません。必ずどこかから脱出しているはずです」

「そうかなあ? 町中で目撃者がいないってことは2・3日ぐらい潜んでいたかもしれないじゃない」

「そうかも知れませんが、そうなると地下全域を探索ですよ」

「うっ……それは嫌だわね」

「ということで、いったんそちらの可能性は後回しにして、すぐ逃げたと仮定します」


 異論はないようだ。


「……そうすると、目撃者がいないから町中ではない。西の大壁は軍がいるからだめ。南北の港は人が多いからやっぱり難しい。ということで、東に逃げた可能性が高いと思います」

「だけどよ、大通りの向こうにも怪しいところはなかったって俺は聞いてるぜ」

「だけど、それは逃げる道に使っていないってことでは無いはずです。地下を通って大通りより東で地上に出て……その先はわかりませんが、そういう逃げ方をした可能性は高いと思いますが……」

「うーん、それでもどこかに拠点は必要なんだと思うけど……」


 マテリエさんは、あまり納得していない様子だったが、他にいい案も無いので、結局今日のところは東へ続く通路が無いかどうか、人が通った痕跡が無いかどうかを調べるということで、行動方針が立った。

 さすがにディオンさんは同行しないが、昼食のテーブルにいた残りのメンバーは全員で入ってきている。

 前衛をカイラさん、続いてジャックさんで固めて、最後尾はマテリエさん、残りのメンバーはその間に挟まれて暗い地下道を進んでいく。

 一応主要な下水路なので、水路の両脇に狭く通路があって人が通れるようにはなっているものの、水路が詰まって汚水が乗り上げてきているところや、正体の分からないどろどろしたものがあり、足元に注意が必要だった。

 一応ランプは持ち込んでいたのだが、汚物を踏んでしまったパットが光の魔法を使うことにしたらそちらのほうが明るかったので使わなくなった。よく考えれば空気が汚れるのも心配だからそれで良かったんだろう。


「足跡を探せばいいのだろうか?」


 カイラさんの声は、石造りの水路に反響して思いの外響いた。まあ、モンスターが跋扈するダンジョンでは無いからいい、とも言えるが、ちょっと心配だ。


「ええ、それと横道で人の入れるところは一応同じように調べておいてください。西から東へ向かった、という仮定で調査していますから」

「わかった……ところで、西ってどっちだ?」

「右側です。北から入ってきましたから」


 まさかこんな単純な通路で方角を聞かれるとは思わなかった。

 それはともかく、俺達は水路を調べて行った。

 中央の汚水の流れは幅2m程もあり、時には対岸に飛んで横道を調べにいかなければいけなかったが、それはカイラさんに任せておけばよかった。全く危なげない様子で、汚物を避けながら身軽に移動して調査は進んでいった。


「モンスターとかはさすがにいないね」

「ええ、せいぜいネズミやトカゲ、あとはごき……」


 そこでパットが青い顔をして袖を強く引っ張ってくる。俺はバランスを崩して汚物を踏みそうになった。


「……わざわざ言わなくていい」


 パットは船での生活が長いだけあって、たいていの虫は平気だ。コクゾウムシの潜んだ堅パンだって、俺はちょっと気持ち悪いと思うのだが、彼女は全然気にする様子はなく、食卓にトントン叩きつけて虫を追い出して気にすることもなく食べている。

 ただ、あの黒いつやつやした虫だけはどうにも無理らしい。俺が地球での殺虫剤にそういうのがあったのを思い出して、「冷やせばいいんだよ」と告げたことがあったが、その直後からやたらと船室のあちこちが魔法で凍らされていた。もちろん現物を探しだして捨てるのは俺の役目だった。

 当然この排水路にはたくさん潜んでいるだろう。あえて口にはしないが。


「何かいる! 水の中」


 カイラさんの声に全員身構える。

 見ると確かに水の中でうごめく影がある。

 魚……ではないよな?

 それよりは複雑な形をしているようだった。


「あ……ああ、大丈夫。危ないやつじゃない」

「知ってるんですか? ドラコさん」

「ああ、タコの一種だ。泥水に棲んでる奴だ」

「タコ?」


 光を当ててよく見ると、確かに濁った汚水の中にいるのはヌルヌルとした軟体動物だった。これは……タコだな。


「まあ、どうしてこんな環境がいいのかわからんが、ただの水棲生物だから気にすることも無いだろう。普通のタコと違って食べられないしな」


 当たりまえだ。


「えっ、ドラコさんは……普通の、海に住むタコは食べるんですか?」


 パットが驚きの声を上げる。

 そうだった。

 こっちの世界ではタコはいるが、少なくとも俺が立ち寄ったところでは食べる習慣はない。地球でだってあれと食用にする国は多くなかったはずだ。こちらでも一般には食用ではないのだろう。


「うん? そのまま刺し身にしたり、酢で味付けしたりするとうまいぞ?」

「……気持ち悪いです……さすが……魔王というべきか……」


 やはり悪食扱いされている。皆の顔を見てもパットと同じような感想のようだ。うん、俺はこっちの世界で手を出すのはやめておこう。元々そんなに好物じゃないし、タコ以外にも食べ物はたくさんあるのだ。

 軽くカルチャーギャップを感じたが、そんなこととは無関係に探索は続く。


 そして、ついに……


「出口だね」

「ええ」

「何もなかったね」

「ええ」

「ここまでの時間は無駄だったね」

「そういうことに……なるかもしれませんね」

「全部ケインのせいだね」

「……」


 マテリエさんの追求に、俺は返す言葉がなかった。

 みんなの目も冷たかった。

 特にパットの目が冷たかった。


「おい、あんたら何してんだ? ……って臭えな。あんたらまさかこの中を通って来たのか?」


 そんな俺達に声をかけてきた人がいた。

 見ると、薄汚い作業服を着たおっさんだった。髭面で帽子をかぶり、ランプと何か書類を持っていた。

 メンバーをちらっと見回す。エルフ、ドワーフ、獣人が2人、女の子、奇抜な衣装で言動も奇抜な魔王……うん、俺が応対したほうがいいだろう。


「……えーと、調査で、その……襲撃事件の……」

「襲撃事件、って調査ってことはあんたら冒険者か?」

「ええ、一応町の正式な許可はもらってやっています。ところでそちらは……」

「俺? 俺はここの管理を担当している者だけど」

「ということは町のお役人ですか」

「まあ……そうなるな」

「水路で変な人が出入りしているのを見たことは有りませんか?」

「ああ、あるよ」

「本当ですか!?」


 お、これは思わぬところで情報を発見。


「おう、今目の前にいる」


 俺はメンバーを振り返る。エルフ、ドワーフ、以下略……うん、たしかに変な人達だ。何も間違っていない。


「俺たち以外では?」

「いや、こんな臭い場所に入っていくような物好きは聞いたことねえよ」

「そう……ですよね」


 ああ、結局ダメなのか。


今回の豆知識:


デビルフィィィシュ!

ということでタコですが、料理に使うのは東アジアと地中海沿岸ぐらいで、しかも宗教で食べてはいけないことになっている場合があるので、やはり食べる人は少数派のようです。

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