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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第三章 15歳編 船長と魔王
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教会

 食事を終え、手分けして情報収集に向かうことになった。

 ディオンさんは教団の背後関係に貴族や役人が関わっているかどうかの調査。これは初めて知ったのだが、ディオンさんはこちらに留学に来たことがあるそうだ。その当時の学友や恩師を訪ねるらしい。

 マテリエさん、ジャックさん、カイラさんは、昼の間はそれぞれ同族のつてをたどるそうだ。なるほど、あまり気にも留めていなかったが、そういえば3人ともマイノリティだ。闇雲に聞き込みをするよりも可能性は高い。夜は酒場で合流、ということになる。

 俺はというと、つても無ければ町にも不案内ということで、役に立てるところがない。


「それなら教会は?」

「教会?」

「同じ一神ひとつかみ系ということで、思うところがあるんじゃない? 一度聞いておいた方がいいわ」

「ああ、なるほど」


 マテリエさんの言うとおりだ。

 町中で騒ぎを起こしているような連中が、自分たちの宗派とつながりがあるというのは迷惑に違いない。日本でも90年台には仏教、特に密教系の宗派は肩身が狭い思いをしたという話を聞いたことがある。


「そういえば、ケイン。そっちはさすがに俺じゃ同行できないが、後で連れて行ってやりたいところがあるから、暇になったら通信送ってくれよ」

「ドラコさんはどこを担当されるんですか?」

「俺は……その辺をぶらぶらしているよ。もし相手がそれなりの奴なら俺の気配を感じて出てくるかもしれねえしな」


 一理ある。

 普通に行動していても、その魔王という規格外の気配を感じ取って妙な動きをとるものがいるかも知れない。逆に気配を感じ取れないような相手は敵ではない、ということだろう。


「ではみなさん、お気をつけて」


 ディオンさんの言葉で、俺達は行動を始めた。



********



「ここか……」


 なるほど、これは……


「流行ってないなあ」


 なんだか定食屋の品定めをしているような感想だが、俺の本心といえた。


「……すみませんね、流行ってなくて」

「あ、ごめんなさい。失礼なことを言ってしまって」


 だが、その声は咎めるようなものではなく、むしろ本当に済まなさそうな口調だった。

 声の主は、まだ若い、聖職者の格好をした男だった。銀髪というより灰髪という感じの艶のない髪を短く切りそろえ、気弱そうな下がり眉が印象に残った。


「もしかして、教会の方ですか?」

「ええ、下っ端ですが、ここで事務を担当していますベルゲン・スラストと申します。本日はどのようなご用件で?」

「ああ、ご丁寧に。私はケイン・サハラと申します。見ての通り船乗りで、トランド人です」

「それは、ずいぶんと遠くからいらっしゃったんですね」

「ええ、昨日ついたばかりです。それで、ちょっとお聞きしたいことが……」

「それでしたら中でお茶でもどうですか? 粗末なところで申し訳ないですが、旅人をもてなすのは神の御心にも沿いますので」

「よろしいんですか?……そうですね、ではお邪魔します」


 案内されて入った教会の中は外見の第一印象通り、みすぼらしかった。

 主たる聖堂、祈りの間はそこそこ小奇麗になっていたが、左奥の扉から先は壁にヒビが入り、ところどころ塗装が剥げていた。


「いや、お恥ずかしい。もちろん掃除はしているのですが壁を塗り直すような費用が、ね……」

「やはり苦しいですか……」

「だからこそ、やりがいがあると思っています。サハラさんはトランドということは王立教会ですか?」

「そうですね。とはいえ船の上ではなかなか……アンティロスに帰った時に教会に顔を出す程度です」

「いや、それでも信仰を守っておられるようで、感心いたしました」


 トランドでは比較的教会の権威がある。王立である、というのもあるだろう。それに、船乗りなんていつ何が起きて命を落とすかわからない仕事をしている者が大勢いる。形だけでも祈る対象が必要なのだろう。

 かつてディオンさんが言ったように、狂信的な者は少ない。ディオンさんなら、それは政治が成功している証だと言うだろうが、それでも王立協会はトランド人の心の拠り所の一つではあった。

 振り返って俺はどうかというと、元が多神教で周囲の目が気になる日本出身者だ。目立たない程度に周囲に合わせて教会に行ったり、導きの書を読んだりはしている。


「どうぞ」


 ここはさすがタロッテというべきか。地域によっては高価なお茶が出てきた。この裕福とはいえない教会で通りすがりの客に出せるほどに、ありふれたものなのだ。


「それで、聞きたいこととは何ですか?」


 ところどころニスの剥げたテーブルの向かいに座ったスラストさんが促した。


「ええと、私は船乗りなんですが、一方で冒険者もしています。それで、依頼によってこの町の騒動を解決する事になりまして……」

「騒動……というと?」

「『聖者の園』の件です」

「ああ、そのことですか」

「何かこちらに悪影響はありますか?」

「そうですね……元々我々……に限らず神の教えを説く者は少ない町です。こんなことを言っていいのかわかりませんが、物好きが少数いる、といった空気でしょうか。当事者ではないことがはっきりしている我々では、それほど風当たりも感じませんね。むしろマスケッシなんかが大変なんじゃないでしょうか」

「マスケッシ……というと、やはり救世主の扱いですか」

「そうですね」


 『正道マスケッシ』は、ここから西のミニュジアで生まれた宗教だ。よくよく調べてみると、崇拝しているのはこの教会と同じく一神なのだが、祭礼の方法などかなり違う。

 ちょうど地球でいうところのキリスト教とイスラム教みたいなものだろう。知っている人は知っているが、両者とユダヤ教も含めて同じ神を崇拝しながら、度々喧嘩をしている。

 こちらの世界の一神とマスケッシも仲が悪いが、教義の違いによって戦争を起こす程ではない。確かにダカス帝国とミニュジア連邦の対立は、今もセンピウスが帝国に代わって継続中だ。しかし、それは主に領土と経済の対立が主体で、宗教戦争的な要素は希薄だった。


 『一神の導き』は救世主を認めていない。正確には可能性を否定してはいないのだが、少なくとも人として生まれるということは否定している。一方の『マスケッシ』は、建国の王や大活躍した軍人などが救世主であると教えている。よく考えれば、ミニュジアの国威掲揚のために宗教を利用しているだけなので、『一神の導き』からは批判されていた。


「でも意外でした。教会で働かれている方はもっとあちらに厳しいかと思っていました」

「まあ、この町は『みんな仲良く』が基本ですからね。違った考えを受け入れる素地がなければ暮らしていけません」

「そういうものですか……それで本題の『聖者の園』についてなのですが、何か知っていることはありますか?」


 スラストさんは、口を湿らせるようにお茶をすすり、言葉を選びながら答えた。


「これは、伝え聞いた話で、情報源を明かすことは出来ません。予めご了承ください」

「構いません」

「このタロッテにかなり広まっているようです。おそらく知られている以上に……」

「それは……例えばこの教会よりもですか?」

「そう聞いています」

「ならばなぜ、あのような襲撃事件を起こすんでしょうか? 普通に教会を建てて信者を集めればいいのでは?」

「それは……そうですね、私もそう思います。聞いた話では、暴れているのは一部だそうです。それと、表に出ないのは教祖の方針だそうで……」

「組織が細かく分かれている、と言う話も聞きましたが……」

「そうらしいです。多くても20人程度の集まりらしく、先ほどかなり広まっていると申しましたが、それも推測でしかありません。詳しくはわからないのです」


 なんだろう? どうも宗教団体というよりはテロリストの話をしているような不思議な感触だ。そこまでして秘密を守る必要があるのだろうか? それに、そこまでしっかり組織を作っている一方で、末端が暴走して騒ぎを起こしているというのも解せない。

 スラストさんに話を向けてみると、やはり彼もわからないということのようだ。俺はお茶ともてなしの礼を言って、教会を後にした。


 教会は東を南北に走る大通りの更に東にあった。この辺りは見るからに貧しい者が住む区画で、タロッテ当局からは町の外、という扱いらしい。

 それでも田舎で暮らすよりは、ここで仕事を探したほうが楽なようで、例えばこの東側であればラクア大陸全土から人が集まってくるそうだ。

 雰囲気はやはり町の中心部と違い、俺は教会の人が警戒すると思って杖を置いてきたのを後悔する。何か隠し持てる杖を用意したほうがいいかな、とも思う。

 一応師匠に言われてずっと続けている身体強化術は、もはや無意識の習慣になっているし、杖なしでも対人魔法程度ならそうそう遅れは取らないが、世の中何があるかも分からない。

 考え始めると周囲が全て警戒すべき相手に見えてくるから困る。そう、例えば向こうからやってくる獣人の一団とか……


 先頭を来るのがリーダーだろう、イヌ……いや、狼系だろうか、鋭い顔つきをして体も鍛えているようだ。まだ若そうだが剣呑な空気を身にまとっている。その後ろには獣人も人もドワーフもいたが、やはり先頭を行くその男が一番強そうだった。

 値踏みするような視線を感じる。

 俺はまあ船乗りとして鍛えているし、日焼けもして精悍な雰囲気はあるだろうが、一つだけ悩みがある。背があまり高くないのだ。

 これは不思議なのだが、地球での同じ年齢の時と比べても10cm程度低い。いや、確かめようが無いがそう昔のことでは無いのではっきり違いがわかるのだ。

 パットより低い、という格好の付かないことにはさすがになっていないが、それでも威圧感に欠けることは否めない。

 ひょっとして身体強化の影響なのかもしれない。まあ日常生活には困っていないし、ジャックさんなんかもっと背が低いのにあれだけ強い。理由は分からないが気にしないことにしている。


 すれ違うときに、ふん、と鼻で笑われたような気がするが、気のせいということにしよう。余計な波風を立てている場合ではない。

 俺は、無視してドラコさんとの約束の場所に向かった。

今回の豆知識:


160cmぐらいかなあ。

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