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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第三章 15歳編 船長と魔王
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タロッテ

 航路の後半は本当に平穏だった。

 まあ、ドラコさんが見つけた船にまたドカンと魔法を打ち込もうとして、それがかつてアリビオ号と共闘したセンピウス王国のダイアレン号だとわかって、慌てて止めに入ったということがあったが、大体は平穏だった。

 もちろん、いろいろ面倒な事情がウラッカ号にはあるので、ダイアレン号には近寄らない。代わったという話を聞かないから、まだジョプリン艦長のはずだが、今回は素通りした。


 予定していたより1日遅れ、というのはネンチャククラゲの一件を考えれば上出来だろう。なんとかウラッカ号は交易都市タロッテに到着した。

 タロッテは、「結び目」と称されるとおり、異なる文化圏の思惑が複雑に絡み合った都市である。


 タロッテは、北のラクア、西のミナス両大陸の間の最も細くなっている部分、昔は別の名前があったのだが今ではただ都市の名を取ってタロッテ地峡と名付けられた、南北5km程度の細くなった部分に広がって存在している。

 正直この距離だったら運河でも作って船を通せばいいのに、と思うのだが、そうしないのは政治的な状況によるものがあった。

 タロッテの西はミナス大陸に唯一存在する国家、ミニュジア連邦の勢力圏になっている。そして東側は、現在センピウス王国領だが、元はラクア大陸の大勢力であったダカス帝国のものだった。タロッテはこの両者の間の緩衝地帯として中立を貫いた。

 実は、一時期ダカス帝国に占領された時期があり、実際にその時には運河の計画もあったそうだが、占領は短期間で終わった。

 計画が実現する前に、ダカス帝国が崩壊してしまったのだ。

 その崩壊の原因は実は定かではない。

 突如として数ある大貴族が独立を宣言し、内戦が起こったのだそうだ。

 それだけ聞けば、いかにもありそうな話だが、問題は、何が引き金になったのかが全くわからないことだ。

 ある大貴族、つまり後の某国国王が言ったところによると「他の貴族が独立を宣言したから」らしい。そして名指しされた貴族は「いや、俺のところが最初じゃない」と言う。いろいろ調べて、最初期に旗揚げした貴族に聞くと「別の貴族が独立するという噂を聞いた」などと答える。はたまた、「貴族の独立より先に王家が全滅していたのだ」という話をするものもいる。

 正直、どれが本当でどれが嘘なのかも分からない。

 ただ、全員が共通して言うのは「あれはタロッテが裏で糸を引いていたのだ」ということ。

 あれほど栄華を誇ったダカス帝国を崩壊に追い込んだと噂されるタロッテだが、領土的野心を持たないと公言し、事実その通りだったので放置されることになった。下手に藪を突いて蛇を出すよりは、これまでどおり交易の要所として付き合うほうが得だと各国は考えたのだ。

 それに、分裂した北の諸国にせよ、ミニュジアやその他の国にせよ、あの帝国を崩壊させる事ができるような相手とまともにやりあおうとは思わなかったらしい。

 そうして、タロッテは昔のまま、今も交易都市として賑わっていた。


「あれが『大壁』ですか」

「そうだな、あそこを境に北大陸と西大陸の文化がわかれているということになっている」

「なっている?」

「あ、いや、建前の話なんだが、実際に西側にはミニュジア出身の者が、東側には旧ダカス出身の者が集まって住んでいるという程度だ」

「船はどうなんです?」

「陸路で運ばれるのもあるから、船籍は関係なしにダカス向けなら東、ミニュジア向けなら西に寄港する。そういうこともあって、あの壁は建前以上のものではないよ」


 ドラコさんが説明してくれたのは、町の中心を南北に貫いている高い壁だ。タロッテは町の中央に向かって高くなっていく丘にある都市だが、壁もその丘に沿って高くなっている。丁寧なことに、壁は海にも張り出して、港も東と西にわかれている。船との対比で考えると、高さは20m程度だろうか、非常に頑丈な作りに見える。


「まあ、あれがあるから陸路で軍が通れないということにもなっている。タロッテを占領しても軍が足止めされるのでは意味が無いからな。そういう意味では平和の役に立っているのかもしれん」

「なるほど……門はどこにあるんです?」

「1箇所、丘の一番上、町の中心だな」

「開いた状態ですか?」

「昼はそうだが、夜になると閉められる」

「それは面倒ですね、俺達の行動的にも」

「ああ、だが今回は大丈夫だ。俺はここではそれなりに顔が利くからな」

「大丈夫ですか? もう長いこと来ていないんでしょう?」

「問題ない、エルフの知り合いが何人か残っているはずだから、そこをあたってみるさ」


 俺達は、南港の東側に寄港することになった。

 大壁に沿った部分はタロッテ海軍の軍港とドックになっており、逆に町外れの方は商船のテリトリーだった。これは、丘を避けて荷物を運ぶための大通りが南北に通っているために、交易には都合が良いためだ。

 俺達は交易に来たわけではないから、比較的大壁に近いあたりに船を泊める。新米船長としては入港も初めてだったので緊張したが、この辺りは人気が無いようで、比較的楽に船を桟橋に付けることができた。


「お疲れ様だす、船長」

「なんかガフもそわそわしているな……わかっている、上陸だな」

「へい」

「給料は支払ったな……あの臨時収入も……よろしい。じゃあ、3交代にして2休1勤としよう。ガフは悪いが俺と1日交代ということにする。今日は上陸していいが、こっちの仕事が大詰めになったら俺も船に戻れない事があるかもしれない。その時は頼む」

「その辺はしょうがないだすな、では皆に伝えてくるだす」

「よし、騒ぎだけはごめんだぞ。皆にくれぐれも注意するように言っておけ」

「アイアイサー」


 ガフは待っている船員の元に、上陸の班分けをしに行った。

 後部上甲板に残っているのは、俺たち関係者だけになった。


「貫禄がついてきたんじゃない?」

「からかうのはやめてください、マテリエさん」

「まあまあ、長い航海を無事に乗り切れたのはケインくんの力です。自信を持っていいと思いますよ。私も推薦した甲斐がありました」

「……ありがとうございます。ところで、今後の行動計画は?」

「それについてはドラコさんからどうぞ」

「ああ、とりあえず拠点を決める。色々調べるにも町の中心部に近いところに宿を取ったほうがいい。ケイン、パット、ジャックは船のこともあるから苦労をかけるが、とりあえず上陸した時はそこに集合ということでお願いする」

「なにかあったら情報魔法でお願いします」

「了解した。それで調査は俺が昔のつてをたどって、ディオンが役人や貴族関係、他のものは酒場や冒険者中心に調べてほしい」


 一同が了解の返事をする。


「よし、じゃあ行動開始だ」


 ドラコさんの声で、俺達も動き出す。



********



 久々に人の少なくなった船内を俺は見て回る。

 船員たちの区画はちょっと気を使うが、それでも港についたことで多少は気安くなったのか、お互いに軽口を叩き合った後、迎え入れてくれた。

 魔法で増設した倉庫は、十分に活用されていた。

 いつの間に作ったのか、木で棚が作られており、船員の荷物が圧縮空間の上からはみ出した部分にまでいっぱいに積まれていた。

 圧縮空間の中は外からは見えない。俺は屈折率の関係かとも思ったが、パットによるとどうもそうではないらしい。

 俺は圧縮空間の中に入り込んでみる。

 中には荷物が棚から溢れて、床にも積まれていて足の踏み場を探すのに苦労した。

 パットに教えてもらっているが、まだ俺はこの魔法を発動するに至っていない。

 頑張らなければ……そう思っていると、聞き覚えのある声が頭に響いた。


”ケイン、聞こえるか?“

“ドラコさん、どうしたんです? 宿が見つからなかったとか……”


 俺は「圧縮空間の中と外でもこれって通じるんだなあ」と思いながら返答する。


“そっちは問題ない。ただ、ちょっと気をつけてもらいたいことがある”

”なんですか?“

“この町に、魔族の気配がある”

”魔族……”

”微かにしか感じねえし、場所もよくわからねえ。ただ、町の中心に近い位置だと思う。船にいるときはまったく気付かなかった“

“ということは、そんなに強い魔族ではないんですね?”

”そうだと思う。ただ人間ではありえねえぐらい存在が濃いことは確かだ。それに、なんか似た気配のやつがいたような気がするんだが……だめだ、思い出せねえ”


 俺は衝撃を受けながらも、ドラコさんと会話を続ける。だが、何か対処ができることでもないので、結局は「お互いに気をつけよう」という程度のことで落ち着いた。あと、宿の場所もちゃんと聞いておいた。

 俺はこの会話の中で1つ話題に出すべきかどうか迷った事がある。だが、結局それはドラコさんの口から出ない限りこちらから聞くべきでは無いという結論に達し、最後まで口にすることはなかった。

 それは「その気配とはレイン・リーンさんのものではないのですか?」ということだった。

今回の豆知識:


おそらく3章で一番説明が多い回でしょうか。

当初はあまりタロッテについての設定を考えないまま3章を書き始めてしまったのですが、途中で出てきたとある設定と絡めることを思いついて、なんだか秘密の裏設定が出来てしまいました。さて、そのとある設定とは何でしょうか? 答えは3章終盤で。

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