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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第三章 15歳編 船長と魔王
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三人寄れば……(2)

 以後の航海は「平穏」な日々が続いた。


「船長、フタツノクジラ視認だす」

「ドラコさん、お願いします」

「よし、任せろ」


 ドカーン。

 海上が爆発して、クジラは逃げていった。


「船長、海賊だす」

「ドラコさん、お願いします」

「よし、任せろ」

「あ、すいません人死には無しの方向で……」

「ちっ、しょうがねえなあ」


 ドゴーン。

 どうやったのか、轟音とともに敵船のマストがもぎ取られ、戦闘能力を失った。


「あの船、拿捕しないのか?」

「それは無理です。こっちに人が少ないですし」

「そうか、じゃあ俺がちょっと行ってなんかぶんどってくるよ」


 そう言って彼女は敵船に飛んでいった。

 ジャンプ? 飛行魔法? どうやったのかは分からないが、海上をすっ飛んで行って、甲板上で騒ぎがあったと思ったら、しばらくして戻ってきた。


「ほい、大して貯めこんでなかったぜ」


 そう言って渡してくれた箱には、金貨がぎっしり入っていた。

 ただ、大半が銀貨だったので重さほどの価値はなさそうだった。


「いいんですか?」

「まあ、報酬の前渡しぐらいに思っといてくれ。いや、別に報酬を値切ろうってんじゃなくて……なんて言ったものか……うん、ボーナス、臨時収入みたいなもんだ」

「それは……ありがとうございます」


 部屋で数えてみたら銀貨で300枚ぐらいあった。

 よし、配るのはあとでもいいが、まずは知らせといてやろう。ボーナスが出るとなれば、みんなのやる気にプラスになるはずだ。


「……ということで、臨時収入でもあるし、船として何かやったというわけではないので、一人頭銀貨10枚を上陸時に支給することにする」


 一同の歓声が上がる。

 俺は、船員全員を集めた昼の集まりの時に説明した。銀貨10枚といえば有能な船員の1ヶ月分の収入にあたる。かなりの高額なのだ。

 この船で、一般船員より上位にいるのは、俺とパット、ガフ、ジャックさんだった。俺とジャックさんは船員以外の分でももらっているので、残りの銀貨はパットとガフで等分ということにした。

 本来ならもっと一般船員の取り分は少ないのだが、まあ今回は異例中の異例と断った上でこのようにした。正直俺たち働いてないもんなあ……



********



 とまあ、こんなふうにクラゲ以降の障害はドラコさんが一蹴してくれたおかげで、俺は船の指揮と訓練に没頭することができた。

 さすがに熟練の船員だけあって、大砲の扱いに慣れている海軍上がりのものもいて訓練ははかどった。

 船員との関係も、クラゲの一件以降は壁が1枚なくなったかのようにうまくいっている。やはりコツコツ実績と行動を積み重ねていく以外には、信頼を得る手段はないのだと思い知らされた。


 仕事に余裕ができた俺は、他にも色々とやることがあった。


「じゃあ、ドラコさんも空間魔法が使えるんですね」

「ああ、前に言った分解ってのはそれの最上位だな。一点を中心して全方向に空間を広げることで物体を粉々にするって仕組みだ」

「はあ、すごいですね」

「いやあ、すごいのはレインの奴だ。あいつがこの世界の魔法を地球流の科学知識で再構成したんだ。確かにそれで魔法は使いやすくなった。理にかなったものになったからな」

「それは……不思議だったんですけど、こっちの世界と地球の物理法則は同じなんですか?」


 これは疑問だった。この世界でひたすら魔法を勉強していたが、向こうの世界の知識が役に立つことも多かった。

 例えば、土魔法を使うとしよう。

 呼び出すものはいろいろ変えられるが、最も大量に呼び出せるのは何も指定しないで「土」とすれば良い。

 ならば、これを「鉄」としたらどうだろう。呼び出せる量は人より多い俺の魔力を使っても一掴みの半分程度だ。

 もしや、と思って「金」を呼び出してみたら何も出なかった。ように見えたが、ほんの砂粒程度のかけらが出現していた事がわかった。

 つまりこれは原子の組成割合に関係しているのだ。おそらく世界全体の、ではないだろう。海と陸では呼び出せる土の量がかなり変化する。一定範囲内に存在する原子の割合によって、呼び出す量が決定されるのだ。

 この話を前にジャックさんにしたら、こう切り返された。


「ああ、確かにそうだな。俺達が山に住んでいることが多いのも、ドワーフには少ねえんだが、魔法使いが鉄や銅を魔法で取って来られるからだ。だから炭鉱や鍛冶の仕事をする奴が多いんだよな」


 つまり、大地の組成は地球とこっちで変わりないことがわかる。

 そして、物質の動き方で俺が違和感をおぼえたことはほとんどない。ほとんど、というのには魔法が関わっている事があるためだが、その魔法自体も発動後は地球と同じ物理法則に従っているように見える。


「魔法を除けば、同じと思っていても問題ないそうだ」

「ああ、やっぱり……でも、そうすると魔法って何なんですかね?」

「わからねえ……もしかしたら俺達の世界でも魔法が使えたのかもしれねえな。まあ、今となっては確かめようもないが……」


 そうだな、かつて彼女がこっちに来た穴というのもふさがったようだし、そもそも俺にしても彼女にしてももう知る者のいない地球に帰る動機も無い。

 異世界のちっぽけな船の後部上甲板で、背後から吹く湿った海風に髪と服を揺らしながら、ただ2人となった地球出身者は、しばし言葉なく佇んでいるのだった。

 俺は沈んだ空気に耐えかねて、どうでもいいようなことを彼女に聞いた。


「……そ、そういえば、その分解魔法というのは俺でも使えますか?」

「あ……それは……無理じゃねえか?」

「どうしてですか?」

「だってお前魔力弱いし」

「えっ?」

「確かに、人間の魔法士にしては圧倒的だけど、普通の魔族レベルだぞ? お前」

「じゃあドラコさんや、レインさんはそうじゃなかったんですか?」

「ああ、まあ魔力、というか存在の力か、それは今と昔でほとんど変わっちゃいない。だからこそ俺は本当にお前が地球出身者か半信半疑だったんだが……」

「そうなんですか……」

「まあ、俺達も普通の転移や転生とちょっと違うから、お前のほうが普通なのかもしれない。ともかく、分解まで使うなら魔王クラスじゃないと難しいな」

「じ……じゃあ、あのパットの使っていた一次元圧縮ですか、あれなら使えますよね? 教えてもらえませんか?」

「あ、いや、だが俺は人に物を教えるのはうまくねえし、それに……ほら」


 そう言って彼女が示した先には、階段の手すりに身を隠してこちらを睨んでいるパットの姿があった。

 見つかったことを確認した彼女は近づいてくるなり、


「浮気禁止」

「えっと、そんなつもりじゃ……」

「二股禁止」

「そんなことはこれっぽっちも……」

「側室も禁止」

「あの、パット?」

「魔王とか不毛、寿命が違いすぎる。だからエルフもだめ」

「おーい」

「そうするとあとは頭残念と動作残念の2人だけ、でもあの2人になら……」

「ちょっと、ドラコさんも何とか言ってくださいよ」

「えいっ」


 ドラコチョップ、がパットの頭に炸裂。

 効果はてきめんだ。

 ハッと正気を取り戻したパットは、俺とドラコさんの顔を見回して、俺の袖を引っ張って引き寄せながらドラコさんに言った。


「とにかく、ケインは私のもの。魔王様には渡しません」

「あーいいよいいよ、別に取ろうなんておもってない。って訳でケイン、圧縮魔法はそのお嬢ちゃんに教えてもらいな」


 そう言って、ドラコさんは船内に戻っていった。


「ケイン」

「なに?」

「最近良くあの魔王様と居るみたいだけど……」

「それは、いろいろ魔法についてとか聞きたいことがあったから……」

「本当にそれだけ?」

「いや……あと、異世界のこととか、ほら、あの人しか知らないこととかあるから、せっかくだし聞いておきたいなって……」

「本当に、それだけ?」

「それだけです」


 最後は敬語になってしまった。

 確かに気をつけないといけない。俺が異世界から来たと知っているのは、この2年半で師匠とドラコさんだけだ。俺はまだパットにもそのことを告白していない。

 いずれはパットにぐらいは……とも思っているが、未だにその機会は来ていないし、本当に話して大丈夫だろうか? という気持ちもある。

 少なくともこんなところでなし崩し的に打ち明けるのはどうかとも思うし、ここはごまかしておこう。


 ただ……いつパットに告げるか、ということに関してはもう一度考えないといけないだろう。

 このままパットと交際が進んで、いずれ結婚とか子供をつくる、ということになった後で、というのは不誠実な感じがする。

 逃げられない状態で打ち明けをしても、それを本当に受け入れてくれたかどうかの不安は消えないだろうと思う。もしかしてしぶしぶ従っているのかもしれない、おかしなことを言う人だけど、子供のために我慢しようと思っているのかもしれない。

 俺は彼女がそんな人ではないと信じているが……信じて……いや、信じきれていないのかもしれない。

 いずれにせよ俺は彼女に自分の出自を明かさなくてはいけないだろう。そして、それはそう遠く無い日のようだ。


 もう一つ、パットに即打ち明けるのにためらう要素がある。それは、たった今パットが言ったことと関係する。つまり魔王ほどではないが魔族並みに存在の濃い俺は、寿命が長いのでは無いかということだ。

 そうなると、むしろパットのほうと寿命が合わないことになる。果たして俺はそれでも彼女と付き合っていくことができるだろうか?

 ヒントになりそうな前例はある。ドラコさんと同じぐらいの力を持っていたレイン・リーンは人として死んでいる。彼がどうやったのかは分からないが、同じ方法を使えば俺も人間としてパットと生き、老い、そして死んでいくことができる。

 なんだか不思議な気がする。不老不死を求めた権力者という前例はいくらでもあるが、老いて死ぬことを求めた人間というのはそうはいないのではないだろうか? ただ、それが俺の望みであり、その実現のためにも数少ない前例であるレインの話は是非に聞いておきたいものだった。


 パットがこのような状態なので難しいかもしれないが、いずれ機会を見つけてもう一度ドラコさんと話をしよう。

 俺はそう考えていた。

今回の豆知識:


昔、『クトゥルフの呼び声』というTRPGがありまして、そこに正気度(SAN値)というパラメータがあって、怖い目に合うと減っていき、0になると発狂するというルールがありました。散々ネタになってますから知っている人も多いと思います。

同様に、ケインが他の女性と一緒にいるのを目撃したパットはヤンデレ度(YAN値)が増えていき、SAN値を上回るとヤンデレを発動するという設定が……あったら怖いですね。

ということで「三人寄れば……」三角関係? をお送りしました。

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