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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第三章 15歳編 船長と魔王
70/110

三人寄れば……(1)

今回の豆知識:


幾分取り残しがあるようですが、もともと船は航海していると海藻やフジツボなどが船底にくっついて船足が鈍るものだそうです。

その対策として古くは喫水下に薄い銅板を張ったとのことですが、それでも完全に防げるものではないようです。

ということで、若干ウラッカ号の船足は鈍っていますが許容範囲内だと考えています。

 ネンチャククラゲ──超大型のクラゲで、大きいものだと船の全長ぐらいあるそうだ。そして、その特徴というのは色々なものをくっつけるということ。すなわち海草や漂流物、魚の死骸などをくっつけた状態で、船にまとわりついて来る。その結果として、船足が極端に鈍り、ひどい場合にはそのまま陸地に着けずに乗員が餓死してしまうこともあるらしい。

 ひどく厄介なモンスターといえる。


 対処方法は、長い棒で突いて引き剥がすというものだ。ただ、体が柔らかくてすぐに裂ける上、本体が死んでも粘着力が失われないので容易ではない。うまく引き剥がすことのできなかった死骸と、そこにくっついたたくさんの余計な荷物を引きずったまま航海することになる。結局、最後は港のドックに上げなければ船足が回復しない。そしてドックでも完全に乾くまで作業が始められないので敬遠されるし費用が高くつく。

 本当に厄介なモンスターといえる。


 さらに悪いのは、このクラゲ、毒があるということだろう。何でもかんでもくっつけてしまうというのはそれで魚を捕まえて餌にするためのものらしく、人間が手で触ってもかぶれて皮膚がただれ、ひどく痛むらしい。そういうこともあって、海に入って手で引き剥がすという手段も使えない。

 全くもって厄介なモンスターといえる。


 救いといえば、こいつは積極的に動くことができず、海を漂っている。また、船体から引き剥がそうとしても抵抗はしないため、作業員の不注意で海に落ちたりしない限りは人的被害が発生しないということだ。

 ただ、このままでいいはずもない。実際に先程から風は変わっていないのに船足が目に見えて落ちてきている。

 嘆いてばかりいても仕方が無い。俺は状況を確認しに周囲の船員を伴って船首に移動する。


「これは、真正面からぶつかったな」

「そうだすな。いや、当直のおいらの責任だす」

「いや、こいつは近づかないと見えないから、ガフの責任とは言えないな。まあ、不幸な事故だったということだ」

「申し訳ないっす……」

「気にするな」


 しかし、困った。残念ながら舷側をかすめるように当たったとかではなく、船首から左右にベチョッと左右に別れて潰れる形でへばりついている。よく見るとすでに海藻やなんやらをくっつけているのがわかる。

 例えばアリビオ号だったら、船首に網状のカバーをかぶせてあり、どうしても引き剥がせない場合はそれごと海に投棄するという方法で対処できる。さらに言えば、あの船だと速度が速いので、正面からぶつかってきたネンチャククラゲをそのまま両断して船体にほとんど残らなかったということも一度経験した。

 だが、ウラッカ号は残念ながらアリビオ号ほどの速度は出ないし、船首もそれほど尖っていない。さらに、アリビオ号にあったような網状のカバーも装着されていなかった。


「うーん、これは……」

「ケイン、なんか手伝えることはある?」

「特に無いですね、マテリエさん。通常だと長い棒で引き剥がすんですが……」

「何か別の方法でも?」

「せっかく使える人が多いんで、まずは魔法でやってみようと思います。ガフ、悪いがパットと……あとドラコさんも呼んできてくれ」


 俺は2人が来る前に大まかな方針を考える。

 一番簡単なのはドラコさんに一発大きいのをお願いするというものだ。正直力技だが、どうしようもなくなったらそうするしかない。

 だが、航海魔法技術の開発で知られた師匠の弟子として、それはちょっと悔しい。

 できることならば普通の魔法士で対処できるような手段を確立したい。そうした細々とした改良が蓄積されてトランドは一等の海洋国として知られるようになったのだ。功にはやる気持ちは抑えるべき、という考えも頭をよぎるが、普通の船には魔王は乗っていない。やる意味はあるだろう。

 


「……ということで、なんかいい考えはない?」

「ケインの考えはどうなんだ?」

「俺にもあるんですが、一応船長でもあるので、そっちに引っ張られる前の意見を聞いてみたいんですが……そういうドラコさんは何か?」

「うむ、やはりここは原子分解魔法で……」

「やめてください!」

「ケイ……船長? “原子”って?」

「うっ……えーと、その、あれだよ。物を小さく分けていくと分けられない粒になるっていう学者の話が本にあったんだよ。いやー、本当にそんな魔法があるんだなあ」

「……おお、そのとおりだ。まあ、俺ぐらい魔力に余裕がないと使えないがな。はっはっは」

「……ドラコさんの案は論外として、パットは何かある?」

「えっと、一人でできるのがいい?」

「そうだね。どうせなら普通の船で対処できるような方法だった方が、公開してみんなの為になると思う」

「それじゃあ、凍らせて砕くというのは?」

「あの巨体を凍らせられる?」

「凍らせるのは船体にくっついている部分だけでいい。上から椅子で吊り下げてもらって、凍らせる。すぐに船体との間を槍か何かで砕いて引き剥がせばいい」

「パットさん、それはちょっとまずいだすよ」

「どうして?」

「グニャグニャしたあいつを引き剥がすのは大変だすが、氷を突き崩すのも人出がいりやす。前に北の海で流氷に囲まれた時にゃあえらく苦労したもんだすよ」

「確かに、この船だと人が少ないから難しいな」

「……そう」


 パットはガフの指摘に残念そうだった。


「じゃあ次はケインの番だが、なんかあるか? やはり俺の分解魔法で……」

「だからそれは駄目ですってば……俺の案はパットのと同じで凍らせるというものです」

「それは駄目だろ?」

「いえ、ちょっと使い方が異なります。陰魔法で凍らせるのは、船体から少し離れたところです」


 一同の続きを求める視線を確認して、俺は説明した。


「問題は引き剥がす時に柔らかくて裂けやすいということなんだから、本体を凍らせてしまって、それを棒で突いて船から離してやればある程度は残るでしょうが、大部分は引き剥がせると思うんです」

「それは……いけるかもな」


 ドラコさんのつぶやきに、しばし考えていたみんなも同意の声をあげる。


「じゃあその案でやることにする。魔法士はパットで、ガフは棒突き班の編成を、俺は吊り下げ班を作って全体の指揮をとる。一同解散」


 そして、ネンチャククラゲ対策に、船が動き出した。

 ちなみに……パットのもう一つの案も聞いてみたのだが、確かに1人では難しかった。せめて高位の魔法士が2人は必要だ。だが、その案は今回使えなかったものの、俺にある1つのアイデアを浮かび上がらせた。今回は関係ないが、いずれ俺が本当に自分の船を手に入れた時にはきっと役立つはずだ。この旅のうちにパットに修行に付き合ってもらおう。



********



 俺は左舷の手すりにもたれかかって、下の様子を見る。

 クラゲは最初に見た時のまま、船体にベッタリとへばりついている。そして、その上からパットが帆布の椅子で吊り下げられていく。


「準備完了です」

「操帆は大丈夫か?」

「問題ありません。あと、周囲に陸地、船影ともに見当たりません」

「よろしい……では作戦を始める、パット」

「了解」


 パットが陰魔法を詠唱する……発動。海面が数mほどにわたってクラゲごと凍りつく。周辺のクラゲの体は、神経が通っていないのか特別動く様子もない。

 もともと自分で動くような生物ではないことは知っていたが、それでも体の一部が凍らされたことにダメージを感じないのだろうか? まあ、引き裂かれても別に抵抗しないしそういうものかもしれない。


「よし、突き棒隊引き剥がせ」

「アイアイサー」


 ガフ率いる4人の力自慢が、凍ったクラゲを長い棒で押していく。

 おお、離れた。

 船体部分には10cm程度のクラゲの残骸しか残っていなかった。凍った部分の方は、クラゲ本体からも引き離されて、遅いながらも前進していくウラッカ号から遅れて離れていった。


「よし、成功だ」


 周りでも「やったぞ」「すげえ」などと歓声が上がっている。

 俺はパットに叫ぶ。


「よくやった、今度はもう少し船体ギリギリを狙ってもらえるか?」

「了解」

「よし、パットを移動させるぞ、吊り椅子隊、落とさないように注意しろ」


 そして、同様の手順で作業を続ける。



********



「じゃあ、舵ではどうしようもない、ということか?」

「そうだす。どうしても右に右にと曲がってしまって進路が維持できないだす」

「そうか、参ったな……」


 どういう状況か?

 左側のネンチャククラゲを処理し終えようという時に、船尾から報告があった。船が右に進路を逸れていっているというのだ。

 考えてみれば当たり前のことだ。右舷側だけに抵抗となるクラゲを引きずっているのだがら、そちら側に舵が取られていくのは仕方がない。

 すでに、舵をいっぱいに切っても止められないということで、こちらに指示を仰ぎに来たのだった。


「うまくいきすぎて、そっちの方を忘れていたな。うん、俺の失敗だ」

「船長……」


 確かに船長は皆を導くために堂々としていないといけないが、失敗を認めないというのとは別だと思う。それはそれとして反省して、次に成すことを決断すればいいのだ。


「よし、左舷の作業は中断して右舷側をやる。左舷は……すまないがパット、一発船体を巻き込んで凍らせてくれ」

「了解、船長」


 左舷に抵抗を増やせばとりあえずは舵で修正可能な範囲になるだろう。氷が溶ける間に、右舷を処理すればいい。

 だが、手順として考えるなら、いちいち引き上げないといけないから面倒にはなるが、左右交互に処理したほうがいいのだろう。うん、処理方法を公開するときには注意として書いておこう。

 そして、およそたっぷり半日かかったが、無事にネンチャククラゲの処理は終わった。

 今は、順調に船は進んでいる。

 こうして、いろいろあった1日は終わった。

 まだ港を出てから3日だけど、今後もこのペースだったら嫌だなあ。


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