正体
※重要なお知らせ
ちょっときついので、若干更新ペースを落とします。
今まで毎日12:00だったのを「平日(月~金)12:00」とさせていただきます。さすがに隔日にするとあまりにゆっくりになりすぎるので、週当たり5回というペースを選択することになりました。
ということで次回は26日(月)12:00に更新になります。
これも長く続けるためなのでどうぞご理解ください。
「それとも健三?」
「なんで二を抜かすんですか、ドラコさん」
「いやあ、2と2の倍数のときだけアホになって記憶が飛ぶんだよな」
「それは3でしょ!」
「ということは、時代的にそれほど離れてないってことだな。21世紀初め、ということで間違いないな」
「そこで『間違いない』は出てこないんですね……」
「なにそれ?」
たしかあれは3の倍数の人よりも前だったはずだ。俺は子供のころで覚えているから、おそらく彼女は俺よりは後の人間ということになる……だが、
「あなたも地球、いや、日本からやってきた人だったんですね」
「そういうお前もな」
声をかけてきたのはさっき別れたはずのドラコさんだった。まさかこんなところで偶然にも俺と同じ日本人に会うとは思わなかった。
「……まあ、いいでしょう。認めます。俺は佐原健二、2014年夏の19歳のときに、交通事故で死んでこちらに記憶を持ったまま飛ばされました」
いろいろはしょっているが、まあいいだろう。
「そうか、じゃあ俺も自己紹介しよう。俺の地球での名は辰巳優香、2018年にこちらに来たときには17歳だった……」
なるほど、ということはほぼ同時代ということでいいだろう。
「……そして、こちらでの名前、今は辰巳の辰、つまりドラゴンからの連想でドラコと名乗ったが、もっと有名な名前は、ユーク」
「……それは」
「そう、一般には第三魔王で通っている」
第三魔王。
女性だとは思わなかった。だが、もっと大事なことは、確かその名が歴史に現れた時期だ。
「……ということは、ドラコ、いやユークさんにとって今は何年ですか?」
「いや、そちらの名前は目立つからな、ドラコでいい。地球とこっちで時間の流れが同じだと仮定すれば2215年ぐらいだ。1つ2つ数え間違ってるかもしれねえがな」
ああ、やはり。
転生を繰り返したことから、かなりの時間が経っていることは予想していた。だが、その確証が得られなかった。
それにしても200年だ。
もう俺が知っている人は誰も生き残っていない。
それどころか日本という国がまだ存在しているのかもわからない。
すこし寂しい気がした。
「そういう質問をするということは、お前は最近になってこっちにきたってことか」
「ええ、2年半ほど前に無人島に、12歳の姿で」
「そうか。それはまた……」
「それよりも、ドラコさんはどんな事情で? 神様には会いましたよね?」
「神様? そんなのがいるのか? いや、俺もどっちかってえとまともな事情じゃねえから、説明もむずかしいが……そうか、お前は4年前ってことは『実験』とは無関係なんだよな」
「何ですか? その『実験』って?」
「ああ……まあ、こっちだとそんなに秘密にすることでもねえか。一部の狂った奴が向こうとこっちの世界をつなぐっていう実験を強行したんだ。こっちにくる1年前、2017年のことだな」
「それは……そんなことが……で、どうなったんです?」
「まあ、いろいろあったが、とりあえず一時的にはつながって最後には穴がふさがれた。だから普通には行き来する方法はもう無い」
「そうですか」
出来れば一目日本を見て……いや、いまさらそんなことをしてどうなるというのだろう?
俺は次々寄せてくる新事実に満足に頭が働いていなかった。
「ま、とりあえず確認したかっただけだ。なんせ地球の記憶を持っているのは俺とお前だけだ。同郷のよしみでなんかあったら力になるさ」
「あ、お願いします。俺も色々面倒なことに巻き込まれるんで、色々教えてください」
「そうだな。俺はちょっとこの後遠方に出かけるんですぐには難しいが、俺の城に来てもらえれば歓迎する。さっきも酒場で言ったがかなり荒っぽい連中が多いんで道中は気をつけて来なよ」
「ははは、まあ、力をつけていつか行きますよ」
そして、思ってもみなかった同郷人との話はそこまでになった。
帰る道々、そして宿の自分の部屋に入ってからも頭はそのことで一杯だった。
しかし驚いた。
200年、あるいはそれぐらいかもという覚悟はあったが、事実として突きつけられるとやはり衝撃だった。
それに第三魔王自身、あんな人だとは思わなかったが、考えてみれば第三魔王領はすぐお隣だ。元々人間ということもあるし、悪い人ではなさそうに思える。
それに、神様の事についても彼女は知らないと言った。
一度は第三魔王が例の『運命』、俺を殺そうとしている黒幕に思えたが、どうも今日会った感じではそうではなさそうだった。
彼女の力だったら、俺を闇討ちすればそれで済むのだから。後のことなど彼女ならどうとでも出来るだろう。
だがそうしなかった。
俺の知らない『実験』とやらの事についても教えてくれたし、力になるとも言ってくれた。
軽々に味方と断じるわけにもいかないだろうが、敵対する必要も無いように思えた。
まあ、いずれにしても彼女との次の邂逅はかなり先となるだろう。
今の自分で魔王領に踏み入って無事とは思えない。
そこはモンスターが跋扈し、時には魔族と出会うこともある領域で、俺の技量では対処のしようが無いだろう。
だからこそ、第三魔王と交渉を持つときも、トランド側が魔王領に足を踏み入れるのではなく彼女の方からアンティロスに来るということになっているのだ。本来力関係からすれば逆なのだが、彼女に会う前に全滅してはどうしようもない。
最低でも魔族級冒険者が複数必要だろう。
そして、現存する魔族級冒険者など10人も居ない。
まずは、自分が力を蓄える必要がある。まだ巨人級にすら手が届いていない現状で、それは果てしなく遠い先のことに思えた。
次の日、俺は昨日の返事をしにディオンさんの事務所へ向かった。港から一本入った通りにあったそこは、見た目には周りの建物と大して変わらない木造の建物だった。
入り口は両開きで、特に門番も立っていなかったのでそのまま入る。
中は机が並んでいて、すでに業務の真っ最中だった。書類に埋もれた人の横を通り抜けて、二階へ続く階段を登る。
こちらに守衛がいた。
俺が名乗ると、守衛は鈴を鳴らして中から人を呼び、確認する。
しばらくその場で待たされた後、俺は中に通された。
案内されたのは正面にある応接室だった。
とはいえさほど高級な調度があるわけでもなく、ただソファセットがあり、テーブルがあるだけの質素な部屋だった。
「やあ、早いね」
そう言って入ってくるディオンさん。今日は自宅ということでいつもの装飾付きの服ではなく楽なシャツと長ズボンだった。
「ええ、まあ船乗りですから」
「そうか、で? 受けてくれる気になったかい?」
「はい、受けさせていただきます」
「そうかそうか、それは良かった。君に断られていたら別のものを探さなくてはいけなかったところだ」
「ところで、昨日は突然のことで詳しくお話を聞けなかったですが、具体的に何の目的でタロッテに行くのかということと、道中の危険などについて教えていただけますか?」
「ああ……そうだね。本当なら知らないままで済ませた方がいいとも思うんだが……」
「ただ、それによって航路も変わりますし、どれぐらいの警戒態勢が必要かも変わります」
「それもそうだね……よし、秘密は守れると信じているよ」
「はい、決して他言しません」
「では、お話ししよう。タロッテには、私ともう一人の乗客を乗せて可能な限り早く現地について欲しい。道中の危険はほぼ無いが、まあ向こうで何かあるかもしれない。そちらに関しても基本的には心配はいらないよ」
「もう一人……ですか?」
「そう、まあここまできたら会ってもらった方がいいだろう。ちょっと待っていてくれ」
そう言うと、ディオンさんは席を外して部屋を出て行った。
程なくして戻ってきた彼が伴っていたのは、見覚えのある人だった。
「こちらがもう一人の乗客……」
「ってドラコさんじゃないですか!」
今回の豆知識:
ナベアツさんは2007年、ケインが12歳でドラコは6歳ということで、彼女もぎりぎり覚えています。
一方の長井さんは2003年ですので、ケインは8歳、ドラコが2歳でケインのみが記憶に留めているという計算になります。
ちなみに、ケイン君は流していますが、前回の話でドラコさんはこっそり『忍者』と漏らしています。こっちの世界には居ませんけどね。




