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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第三章 15歳編 船長と魔王
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港町での邂逅

※南大陸の港町の名称を「ニスポス」に変更しています。詳細は活動報告参照。

 翌日、後片付けをして最後の確認をする。

 ダンジョンの出入り口がたくさんあるということも無いが、さりとて1ヶ所というわけでもない。

 いわば中に居るものにとっての砦なのだから出入り口が多いというのは守りにくくなるし、同様に1ヶ所しかなければ中に居るものが閉じ込められたり窒息したりする可能性がある。

 今回はメインの入り口のほかに2ヶ所、そういった出入り口が見つかっていた。ダンジョン探索に時間がかかるのはそういった場所を発見して塞ぐ作業が入るからなのだ。

 大体そういう裏口は外からはわからないように隠されているため、どうしても中から探索する必要がある。

 今回もしも中で倒し損ねたモンスターが存在したら、そうした裏口の封鎖が破られている可能性が高いので、その見回りをして、ようやくこのダンジョンは閉鎖と確認が取れることになる。

 幸い、裏口はどちらもふさがったままだった。


 帰りの馬車の旅は順調だった。

 聞いた話では北の大陸ではこうは行かないことも多いらしい。


「向こうには盗賊とかがいるからね」

「こっちは盗賊がいないんですか?」

「だって通るものが少ないから商売にならないわよ」

「それに、我々はこの地域の平穏を守るための仕事をしたのだから、どの部族のものであれ、感謝の念を抱いていないはずは無いからな」


 そう言うカイラさんの故郷はもっと南にあるそうだが、通り道のいくつかの集落でも彼女が前に立つことでトラブルは起こらなかった。

 基本的には南大陸のほとんどは獣人の領域で、俺やマテリエさんやジャックさんは歓迎されているとは言いがたい。

 現に、部族連合の証書が与えられているから立ち入ることが出来るものの、本来ならば俺達はニスポスから足を一歩踏み出すことすら許されてはいない。

 南大陸との付き合いは、トランドにとっても始まったばかりなのだ。


「見えてきたぞお」


 一つ丘を越えて、はるか向こうに海と港町ニスポスが見える。

 ようやくこれで、元の生活に戻れる。短い間だったが、俺はすっかり海が恋しくなっていた。


 港町ニスポスは、周囲を板壁で囲まれて隔離されていた。

 規模としてはアンティロスの半分ほどであったが、最近はだんだんにぎやかになってきていて、もう少し広げるという交渉も行われているようだ。

 トランドが南大陸にこの港を築くことが出来たのは、最初に領土的野心を持たないということを宣言していたからだ。

 基本的には町の板壁の外には出ずに、港としての交易の利益のみを得るということで、地元の部族との共存を図ろうという方針だった。

 もっとも、実際には農業の指導などで町の外に出るトランド人も居るのだが、土地の所有権は得られないということになっている。


 貿易が主、ということで町の西半分は全て倉庫街となっている。ここには南大陸の農産、畜産、狩猟などで得られた食料が蓄えられており、トランド国民全員でも1年や2年では消費しきれない量があるそうだ。

 東側に通常の町としての機能が集中しており、東側の中心部に庁舎がある。この庁舎の中ですら、かなりの割合の地元獣人族が働いている。

 あくまでトランド側はこの地を借りているという姿勢を貫いているということだ。


「よし、じゃあ戦利品と手続きはあたしとジャックが、馬車はカイラが返しておいてくれ。たぶん損傷してないし馬も怪我は無いから問題ないと思う」

「承知した」

「で、ケインは庁舎でここ2週間の情報を聞いといてくれ、ギルドじゃ海のことはからっきしだからね」

「はい、集合はいつもの酒場でいいですね?」

「うん、たぶんあたし達が一番遅いはずだから、先にやっといてくれよ」


 ということで、俺は庁舎に向かう。

 本来はあまり暑くならないニスポスでは石造りなどの方がいいはずだが、ここも地元に気を使ったのか、木造であまり装飾も多くない、質素な庁舎だった。まあ、大きさだけは仕事の量に比例してかなり大きかったが。


「ケイン君か、こんなところで会うとは珍しい」

「ディオン様こそこんなところで、何を……」

「それだけこの港が重要だということだよ。最近は1ヶ月に1度はこちらに顔を出している」


 受付を素通りして奥の部屋に居る顔馴染みの役人のところに向かう途中、声をかけられた。

 ディオン・ケーバス四等爵、実は最近になって爵位を授けられて貴族の仲間入りをしたトランドの国政を取り仕切っている宰相だった。

 たしか、爵位に伴う港の権利もニスポスで得ているということを聞いたことがあったので、そう考えるとこちらに居ることは不思議なことでは無いのかもしれない。


「君のところの船だったら、朝に出港したよ。一足違いだったね」

「いや、そちらはいつでも会えますので……」

「会える? ……あ、そうか、あの子のことだね」

「うっ」


 やぶへびだったろうか。


「私はてっきりそのままアンティロスに帰る足にするつもりなんじゃないかという意味で言ったんだけど、へえ、なるほどねえ」

「……あの、まあ、その事は置いといて、最近変わったこととかありますか?」


 どうせならこの人に聞いた方が情報をたくさん得られるだろう。


「……そうだね、南大陸で言うと最近モンスターが住み着いた洞窟が見つかって……」

「ああ、それは塞いできました。今帰ってきたところです」

「なんと、そうか、冒険者みたいなこともするんだね。無事のようで何より」

「あれ? 今回の依頼についてディオン様は知らなかったんですか?」

「そういった治安維持に関わることは軍の管轄だからね。さすがに地元との関係もあるから一応耳には入っていたが、そうでなければ本来関わりはないよ」

「そうですか」

「あとは海のほうで言うと、最近はストランディラがなぜかおとなしいのであまり問題は起きていない。北大陸や西大陸の方も目立った展開は無いかなあ」

「そういえば『聖者事件』はどうなったんです?」

「ああ、あれか。あまり芳しくないねえ。そもそもその『聖者』なるものの正体すらつかめない状態で、今のところ各国受身にならざるを得ないようだ」

「そうですか……難しいですね」


 確かに、宗教がらみは難しい。

 事の発端は、半年ほど前から交易都市タロッテで、新興宗教が暴れ出したということだった。

 彼らは口々に「聖者が降臨なされた」「裁きのときだ」「魔族を一掃しろ」などと叫びながら、貴族を襲ったそうだ。もちろん、都市の警備兵に鎮圧され、何人も逮捕されて処刑されたが、結局その組織全体がどうなっているのかは不明のままだった。

 彼らの言う「聖者」というのが何者なのか? いや、そもそも存在するのか? などについて色々な噂が立っているが、確証が無いままひそかに信者を増やしているらしい。

 中には、「聖者様は確かにすばらしい力をお持ちで、もしかすると大魔法使いレイン様の生まれ変わりかもしれない」などと荒唐無稽なことを言い出すものもいたそうだ。


「一応トランドとしては王立教会、ミデアス大司教と連絡を緊密に取って国内の情報を集めているが、まあ、まだ大丈夫だろう。宗教の台頭は政治の失敗だからね」

「そういうものですか……」

「人は現実に満たされていれば救いを求めるなんてしない。せいぜいご先祖様を敬いましょう、死んだ人を悔やみましょう、正しく生きましょうぐらいで済むはずだ。ひどい生活をしている者だけが現状の否定を宗教に求める」

「いいんですか? そんなこと言って」

「まあ、教会関係者がいる前では無理だな。だが、一面真実だと思っているし、私は徹頭徹尾政治の人間だ。他人に押し付ける気は無いが、それぐらいの責任感を持って仕事をしているという表れとして受け取ってもらいたいね」


 そんな感じで、俺はディオンさんと立ち話を続けたが、別れ際に彼はこんなことを言ってきた。


「そうそう、ケイン君。ちょっと臨時で船長とかやってみないか?」


今回の豆知識:


いきなりダンジョンの入り口を塞いでしまっても、こういう理屈で脅威を取り除くことができないという言い訳的説明を入れました。感想でご指摘いただいたことに対応したのですが、一応の説明になっているでしょうか?

テンプレを一通り考え直してみるというのを一つのアプローチとしているので、ちょっとダンジョンのあり方として特殊かもしれません。

今後もご指摘、ご指導お待ちしております。

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