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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第三章 15歳編 船長と魔王
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ダンジョン制覇

「ぐはあっ」

「大丈夫ですか? ジャックさん」


 不意の一撃だった。ジャックさんはその場にうずくまる。


「……誰だよ、巨人族だなんていった奴は……」

「雷撃は俺が妨害します。護衛をよろしく」

「私が請け負う。マテリエはジャックが戻るまで一人で……」

「りょーかい」


 洞窟最奥部、そこにいた洞窟の主は、巨人だった……ただし単眼の。

 いわゆるサイクロプスというのだろうか。身長は3~4mぐらい。凶相を浮かべた顔には中央に1つの目、牙の生えた口、額に一本角と、通常の巨人ではありえないものが存在した。

 いわゆる自然に存在する動物からかけ離れた姿形は、それだけで存在力の強力さを表わす。すなわち魔法を使うことも多いため、冒険者の分け方でいえば鷲獅子級に格上げされる。


「ぐはあああ」

「ふんっ」


 振り下ろされた大きな斧をマテリエさんが槌で受ける。

 彼女がいつも持っている直刀は、カットラスをベースにしているので斬る武器だ。こんな大きな武器と打ち合うには重さが足りないし刃も欠ける。

 事前調査で巨人とかち合う可能性を把握していたからこそ、彼女は重く頑丈な槌をメインにこのダンジョンに挑んでいたのだ。


「隙あり」


 カイラさんの短刀がサイクロプスのわき腹を切る。

 青ざめた体だが、血は同じらしい。赤い血が肌を伝って流れていく。


「……○△×……○□」

「雷撃、来ますが防ぎます」

「伏せろ!」


 呪文を詠唱するのを聞いて、俺は干渉を強めていく。体内にあると仮定した門から存在力を引き出し、周囲にばら撒いていく。

 下手をすると魔法を使う以上の魔力、あるいは存在力を消費するが、その分だけ単純で、他者の魔法を阻害することができる。


「△×○!」


 一瞬先ほどのように雷撃が出る気配があったが、突き出されたサイクロプスの左腕に一瞬パチッと雷撃がまとわりついただけだった。


「よし、いける」


 マテリエさんが突き出された左腕めがけて槌を振りかぶって打撃を与える。

 骨が折れるいやな音が聞こえて、サイクロプスの左腕がだらんと垂れ下がる。


「ぐうぉぉぉ……」


 右手の斧を取り落として左腕を押さえて痛がるサイクロプスに、マテリエさんが次の一撃を振りかぶる。


「……ふんっ」

「きゃっ」


 一瞬でマテリエさんが吹き飛ぶ。

 何が……蹴りか。サイクロプスは後ろに下がってかわしながらマテリエさんの体に蹴りを放った。マテリエさんは槌で受けようとしたが、勢いに押されて3mぐらい吹き飛ばされて地面に転がった。


「マテリエ……くっ」


 横から一撃を加えようとするカイラさんをぎろっと単眼がにらみ、お前の動きは見えているぞ、と警告を与えると、サイクロプスはそのまま倒れているマテリエさんにゆっくり近づいていく。


「炎よ」


 俺は短縮して炎の魔法をサイクロプスの背中に向けてかけた。

 体に直接かけたのでは抵抗されるかもしれない。だが、空間に向けてかけたならば発動した炎の熱がダメージを与えるだろうという考えだ。

 だが、一瞬広がった炎はむき出しの背中にちょっと黒いすすをつけた程度で、やけどした様子も無かったし、サイクロプス自身は気も留めていない様子だった。

 まだマテリエさんは起き上がっていない。

 左手が動かないことを無視して、サイクロプスは残った右腕を振りかぶった。

 とどめの一撃。

 マテリエさんは力があるとはいっても体の構造的には普通の人間と同じ、この巨人の全力の一撃には耐えられないように思えた。

 しかし。


「ふんっ」

「……ジャックさん!」

「あああああっ」


 こちらからは巨人の影になってどのような表情をしているかわからないが、ジャックさんが突進してきて組み付き、巨人を押し倒した。

 そのまま、こぶしを振り上げる。


「があああっ……」


 丸太のような太い腕から繰り出されるパンチを腹に、顔に叩きつける。


「今だっ」


 その声にカイラさんと……マテリエさんが応じ、あるいは首を切り裂き、あるいは目をつぶし、そうして巨人は沈黙した。



 直後は座り込んで立つことも出来なかったが、やっと体勢を立て直して集まる。


「傷はどうですか?」


 一番重傷そうなマテリエさんに聞く。


「ああ、大丈夫。擦り傷はあるが、大して血も流れていないし魔法の必要はないよ」

「よかった……」

「それにしてもケイン、火の魔法はまずかったと思うよ」

「え?」

「サイクロプスは鍛冶の巨人だから火とか雷とかは得意なのよ。むしろいつもの氷でどかんとやってしまった方が良かったんだよね」

「そうなんですか……」

「だが、まさか単眼のやつが出てくるなんて誰も想像できなかったんじゃねえのか?俺もまさかの雷撃を食らったときにはびっくりしたぜ……」

「……確かにそうよね。ごめん、あたしがみんなに注意すべきだったわ」

「それを言うなら私が気配を察知できなかったことの方が問題だろう。まさかここにきて初の不意打ちを受けるとは……無念」

「ま、いろいろ反省点はあるけどとにかくみんな良くやったね。一休みしたら良さそうなものを拾って帰還しよう。みんなお疲れ様」


 こうして、俺の始めてのダンジョン探索は成功裏に終わった。

 だが、俺の仕事はまだ終わっていない。


「よろしく」

「はい」


 そして俺は今日何度目になるかわからない土魔法を詠唱し始める。

 これは何をしているかというと、洞窟を埋め戻す作業なのだ。

 俺たちがやらなくてはいけないのはダンジョンという危険性の排除だ。しかし、モンスターを一掃したからといっても放置しておけばそこにまたどこからかやってきたモンスターが住み着いて、気がつくとダンジョンが復活しているということになる。

 そこで、ダンジョンの入り口を大量の土砂で埋めてしまい、中に入れないようにする必要があるのだ。

 ということで、現在土木作業の真っ最中なのだった。


「おお、うまいうまい。これだけ出来ればスコップの必要もないよねえ」

「もう慣れましたから」


 下手な出し方をすると、単に通路を狭くしただけでちゃんと埋めることが出来ない。最初は失敗してばっかりで、出た土砂をスコップで通路をふさぐ形に積み上げるという作業を要していたが、何度かやるうちに工夫してうまくできるようになった。


「魔力は大丈夫?」

「そちらはマテリエさんも知っているとおり、まだ余裕があります」


 今この場には俺とマテリエさんしか居ない。残りの2人は外で戦利品の整理と見張りをしている。ここは山の中腹のために、馬車が入って来られないが、ふもとには馬車を留めてあるので、そちらに荷物を運ぶ作業というのもあり、決して休んでいるわけでは無いのだ。


「じゃあ、後2箇所ほど埋めたら、あとは入り口を閉めて終わりにしよう」

「はい」



 全てが終わったのはもう夕暮れだった。サイクロプスとの戦いはまだ午前中だったはずだから、昼からずっと土木作業をしていたことになる。


「みんなお疲れさま」

「おお、ようやく終わったな。さあ、酒だ酒だ」

「ちょっと待ちなさいよ……せっかくケインがおいしい料理を作ってくれてるんだから」

「へへ、悪いな。だが問題ないぜ。酒は馬車からたくさん持ってきたからな」

「あんたね……」


 そんな掛け合いをしているのは洞窟の前に作った焚き火を囲んでの事だった。

 俺は持ってきていた干し肉とジャガイモ、にんじんととうもろこしで作った塩味の煮物を作っている。

 正直言って、俺は料理がそれほど得意というわけでは無い。細かい味付けは苦手だし、とりあえず食べられるものが作れるというだけで、何回かに一回は思ったとおりの味にならないこともある。

 だが……このメンバーでは他の誰に任せるというわけにもいかないのだ。

 ジャックさん、残念ながらドワーフの器用さは食材には無力だった。

 マテリエさん、残念ながらエルフ一般の器用さはこの人には継承されていなかった。

 カイラさん……とりあえず砂糖とシナモンと酢で味付けされた牛肉のステーキというものは二度と味わいたくは無い。


 通り一遍の味付けだったが、暖かい食べ物というだけで、今の俺たちにはご馳走だった。大量に作ってしまい食べきれるのが不安だったが、このペースなら大丈夫だろう。


「しかし、なんかいいね」

「何がですか?」

「あたしも冒険者として何十年とやってきたけど、そんな中でも今回は良かったよ。なんかやってて楽しいのよね」

「私も着いてきて良かったと思っている。我々、相性がよいのかもしれんな。惜しむらくはケインもジャックも臨時ということだが……」

「そりゃそうですよ。俺達は船乗りなんだから……」

「だがよお、『冒険船長』みてえなのもいるじゃねえか」

「『冒険船長レイク』かあ……」


 マテリエさんが言った冒険船長レイクとは、いわゆる北方エルフと呼ばれる種族出身の有名な冒険者の事だ。世界中を旅したといわれており、魔王とも知り合いだったと噂されている。すでに引退しているが、まだ存命で北方エルフの国、シンシェットで暮らしているらしい。

 現在、魔物が多く住む魔王領の地図やその周辺の海図が、大まかなものであれ存在しているのは彼の功績だといわれている。


「まあ、もしケインがああいうのを目指すんなら、あたしは着いていってもいいかなっておもっているよ」

「おお、じゃあ俺もいくぜ」

「恩人であるケインが望むのなら私も……」

「ちょっと待ってくださいよ。というかジャックさんはアリビオ号はどうするんです?」

「おう、そりゃちょっと困ったな。まああの船だってそろそろいい年だし、あんまり古株がいつまでも居座っちゃ船長のためにもなんねえから、いずれは下りるときがくるだろうぜ」

「……そうなんですか……」


 とはいえ、ジャックさんはまだ45歳、人間にしても20代前半だ。ただ、すでにアリビオ号で20年近くを過ごしてきており、あまり逆らえるものが居ないぐらいの古株ではある。

 そういうのが良くないというのは、なんとなく理解できるような気がするが、かといってジャックさんが居ないアリビオ号というのも俺には想像が難しかった。


「まあ、まだ先の話よね。ケインはまだ15歳だから、4・5年ぐらいして手が空いていたら相談に乗るよ」


 マテリエさんがそう締めくくり、その話はそこまでになった。

今回の豆知識:


地球ではじゃがいものヨーロッパへの伝来が一つの大転換点となっていますが、私の考えではそれは偶然の産物だったと思います。

寒い地域でも問題なく栽培できるのですから、最初からそこが原産であってもなんの不思議も無かったはずで、そうなったら歴史はかなり変わったでしょうが、ありえない話とは思えません。

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