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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第三章 15歳編 船長と魔王
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始まりは海……じゃない?

※ネーミング変更 南の大陸の港を「ニスポス」と変更 詳細は活動報告参照

“ああ、なんでこんなことになってんだろうなあ”

“……自業自得”

“って言ったって、サイラスさんの事だって、マテリエさんがここの探索を請け負った事だって、俺のせいじゃないよ”

“でも、どっちもケインが連れてきた人”

“そりゃそうだけど……”

“大丈夫だとは思うけど、無理しないで”

“うん、わかってる。それじゃまた明日”

“ええ”


 そうして、俺は情報魔法の一つ、「魔法士同士の通信」の効果を解除した。


「何か変わったこと言ってた?」

「特には……ただ、最近は荷物が多くなって休みが減らされたって怒ってたぐらいです」

「へー、それ以外には?」

「別に……」

「ケイン、愛してる。とかそういうの無いの?」

「まさか。パットがそんなこと言うような性格じゃないってわかってるでしょう?」

「いやー、意外とああいうのは落ちると一途だよー。うんうん、お姉さんはそう思う」


 はたして、「お姉さん」という言葉は何歳上まで使っていいものだろうか? 俺は、言語学上の難問に直面して、失言が無いように考えながら答える。


「それに、パットだってここから3日ぐらいの港に来ますから、会おうと思えばすぐに会えます」

「確かにそうだけどねー。でも、地上に上がるだけで2・3日かかるよ?」

「そうですよね」


 現在俺たち、つまり俺、マテリエさん、カイラさん、それとなぜかジャックさんが居るのは、とある洞窟の中だった。

 洞窟といっても、普通の洞窟ではなく、分類としてはダンジョンということになる。

 ダンジョン、というのは平たく言うと1つの国である。

 ある地域で表立って生きていけない人やモンスターが、その住処を地下に求めて、その中で一つの集落になったものだと定義される。

 例えば、アンティロスの裏の山にストランディラの工作員が洞窟を掘り、その中で自給自足が行われ、秩序が守られていたならそれはダンジョンなのだ。

 もちろん、こういったものはその地域の地上に生きているものにとって危険となる。そのため、ダンジョン討伐ということが行われるが、その任務に普通の軍があたることはまずない。

 中が狭い上に見通しが悪いので、軍の兵士では力が発揮できないからだ。それよりもむしろ腕利き冒険者を雇うことで、その討伐に当たることが多い。

 しかも中に住み着いているのがモンスターだった場合は、なおさらそういった相手と戦い慣れている冒険者に依頼が来る。

 そういったわけで、俺達は南大陸のとあるダンジョン討伐を4人で行っているのだ。


「そろそろ船の揺れが懐かしくなってきちまったな」


 と、ドワーフにあるまじき感想を述べるのがジャックさんだった。彼の荷物の半分は酒だった。その辺はドワーフらしい。


「私も、食料などの関係からいったん戻る必要があると考えるが如何?」


 つづいてカイラさん。


「そうだね、だけど私の勘だとそろそろ最深部ってところなんだけどね」

「やはり、牛耳っているのは巨人族だとマテリエさんは思いますか?」

「ああ、間違いないね。だからどっちに行けば最深部かはわかりやすかった。大きい通路を進んでいけばいいんだからね。だけど……」

「後ろから襲われるのも避けなきゃいけねえってこったな」

「……とまあ、ドワーフの酔っ払った頭でわかるぐらいだから、しらみつぶしにしていくしかないんだよねえ」

「おお、私はさすがの慧眼、やはり土の精霊とも言われるドワーフ族は違う、と感心しておったのですが……」

「あんたもすこしは頭を使いなさいよ。ほんと……そんなのでよく斥候スカウトが勤まっていると思うよ……」

「ぬぬっ、何か私が非難されているような気配が……」

「気配じゃなくて、真正面から非難してるけど?」

「むう、これは不覚」


 と、いつもの調子だったが、実際カイラさんは役に立っている。敵の気配を見つけるのが早いし、モンスターが仕掛けた粗末な罠も全て見抜いている。正直彼女が居なければ、今頃誰かが重傷を負っていたこともありえた。


「まあ、あと一日ぐらいだねー。それでだめならいったん帰ろうか」


 マテリエさんもそういう方針のようだ。俺としても賛成だ。


「じゃあ、いつもどおりに交代で休みをとるということで、よろしく」


 このダンジョンに入ってからは、敵襲を防ぐために、いつも行き止まりで休みを取ることにしている。といっても、明かりなど無いし、疲労もたまるので1日ごとよりは短い間隔で休むことにしている。

 2人は見張りを、その間に残り2人が休むことになっている。

 洞窟という環境での敵の接近を察知することができるジャックさんとカイラさんが別れるので、今回は俺とカイラさん、ジャックさんとマテリエさんでペアということになっている。


 見張り中、とはいっても常に武器を構えているわけでは無い。俺達は腰を下ろして体を休めながら敵の気配を探る。もちろん武器はすぐ手に取れる位置に置いたままで。

 ここまで洞窟内を4日、もうかなり奥なのでじめじめした岩の、平らなところを選んで座る。一応帆布を何枚も重ねた簡易クッションのようなものを作っているが、じわじわと水がしみこんできて気持ち悪い。


「そういえば、あと半年ですね」

「うん、そうだな。色々とケインにもお世話になった」

「サイラスさんが自由になったら、カイラさんはどうされます?」

「どうもこうも無いだろう。もうニスポスに家も買ったし、これからも今までどおり南大陸で冒険者だな。兄は航海魔法士を続けるだろうし、まさに今の状況がそのまま続くと思ってもらっていい」

「ははは、それじゃあ僕はお役御免ってことですか?」

「いや……そういうわけじゃ……」

「まあ、確かにサイラスさんの技量ならどの船でも大丈夫だと思いますが、俺もアリビオ号の魔法士をずっと譲るつもりはありませんよ」

「そうか……だが、ケインなら冒険者でもそこそこやっていけるように思うのだが?」

「そうですね。でも、俺はやっぱり海がいいです」

「ふむ……まあ、私としては兄もお前も……男というのはわからんという印象しかないな」


 今、サイラスさんは仮釈放ということになって、師匠との研究の成果をいくつか試すために、アリビオ号に乗り込んでいる。そのとばっちりを受けて俺が船を下りることになったわけだが、まあ給料は出ているし、俺としてはアンティロスで図書館通いをするつもりだった。

 そこに、マテリエさんが「いい仕事があるんだけどケイン手伝って」と持ってきたのがこの話。

 南大陸のニスポス周辺の獣人部族の依頼で、最近発見されたダンジョンを何とかして欲しいという依頼があったというのだ。これはトランドにとっても、現地の心象を良くする為にぜひ受けなければならない、ということで師匠を通じて国からも受けるように圧力がかかった。

 ついでに、「壁必要だよね壁」ということでなぜかジャックさんまで引きずり込まれて、この4人でダンジョン攻略ということになってしまったのだ。


 思えばこのカイラさんとの付き合いも1年半に及ぶ。

 出会ったのは13歳の夏だったから正確に言うともうすぐ1年半ということだが、その間、カイラさんは獣人族ということもあって南大陸で大活躍して名前を知られるようになった。

 トランド念願の冒険者ギルドも、首都アンティロス……ではなく、南大陸のニスポスに支部が開設された。まあ、アンティロスはただの小島なので依頼が少ないということはあるだろうが、首都をスルーされたのは意外だった。

 そんなわけで、ニスポスを拠点とした冒険者は日に日に増えているが、その中でもマテリエさんとカイラさんの活躍は群を抜いていた。

 この調子ならもうすぐ昇格もあるか、という噂も聞こえてきている。


 俺の方はというと、この1年半相変わらずアリビオ号で仕事をしていた。すでに航海士としての資格は取れているのだが、アリビオ号に3人の航海士は過剰なので魔法士として乗り込んでいる。

 ただ、最近になってようやくマルコが航海士の資格を取ったので、やはり航海士は過剰になり、リックかカルロスが他の船に移るということも検討されているらしい。

 長年親しんだ仲間と別れるのは辛いが、船乗りはそういうものだ。

 それに、リックだったらどこかの船で船長としてやっていくのに十分だろう。出世なのだから喜んで送り出してやらねばなるまい。


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