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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第一章 12歳編 右手に杖を、左手に羅針盤を
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船長と魔法使い

「なるほど、それは大変だったな」


 乗船すると、ジャックさんがすぐに船長室に行き、ほどなく戻ってきて俺を船長室へと連れて行った。船尾左舷の船長室には飾り窓があり、甲板下であってもそれなりに明るい。ジャックさんは仕事があるのか俺を置いて退室した。

 室内には俺と船長、そしてもう一人の老人だけ残されていた。


「記憶喪失か、それを治す魔法というのは聞いたことがないのお」


 船長の脇に座っている老人が、そう継いだ。


「まあ、徐々に思い出すこともあるじゃろう。自然に任せるのが一番じゃ」


 船長は、30代ぐらいの赤毛を短くした大男。名前はフェルナンド・ガルシアというらしい。その横で座っている老人は、血色はよいのだが腰が悪いらしく船の揺れに時折顔をしかめている。

 特徴的なのは老人の服装で、いわゆる、ありがちな、そのまんまの、魔法使い然とした服装だった。灰色のローブに、グニャグニャと複雑に折れ曲がって、先のほうに宝石のようなものがついた長い杖をもっている。まあ、ひざまでローブを捲り上げているのはしょうがない。船長室も窓は開け放っているがかなり暑い。


 船長が口を開いた。


「次の寄港はリッケンだが、南大陸になど何もないから、その次のアンティロスか、セベシアあたりで下船させてやったほうがいいだろうか……言葉の感じから言うとやはり北大陸西方、旧ダカス諸国あたりの出身のようだから、係累を探すのならばやはりセベシアから陸路で西へ向かうのがよいかもしれん」


 俺は用意していた答えを返す。


「いえ、すこし思い出したのですが船には両親と乗っていたような気がします。だから……もう亡くなっているとあきらめようと思います」


 そうか、と船長は目をそらした。

 俺はこんな嘘八百で同情を引いてしまったことに気まずさを感じながら続けた。


「ですから、ただ乗せてもらうのも悪いですし、僕にこの船で仕事をもらえませんか?」

「それは水夫見習いということか?」

「はい、あと一応読み書き計算はできるので、そちらのほうでもお役に立てると思います」


 え?そんなこと断言して大丈夫かって?

 実は船長の机の上の書類(航海日誌だったが)を盗み見て文字も数字も理解できていることは確認済みなのだ。

 

「なるほど、教育を受けているというのなら、あるいは航海士見習いでもいいな。むろん、希望するならだが」


 航海士というのは、いわゆる船の指揮を取る仕事で、行き先を決めたりとっさのときの判断をしたりする。軍艦だと、航海をする航海士と、戦闘指揮をとる指揮官は、平時はほぼ同じ業務をするものの明確に分かれている。その場合指揮系統的には艦長が指揮を取れなくなったら順番に指揮官の上位に権限が委譲されることになるが、目の前に居るのは「艦長」ではなく「船長」であるので、この船は軍艦でないことがわかる。

 したがって、航海士見習いから航海士へと昇進していけば、いずれこういった商船の指揮を取ることができるようになるはずだ。

 俺としては水夫見習いよりも良い選択肢を与えられることになる。


「よいかな、船長」


 そこで、隣の魔法使い風の老人が口を開いた。


「何か、ダニエルさん」


 この爺さんはダニエルさんというらしい。


「さっきジャックに聞いたが、そやつは無人島で火や水を魔法で出して生活していたらしい。わしの弟子ということではどうじゃろう?」

「魔法士見習いということか?あなたにはすでに一人任せているじゃないか」


 少し非難めいた調子で船長は返す。


「うむ、じゃが奴はもうある程度独り立ちできておるじゃろう。わしとしても、そろそろ腰が言うことをきかんようになってきて、遠からず船に乗るのは難しくなるじゃろうて。国のために、一人でも後継を残しておかんといざというときに困ると思ってな」


 船長は少し考えるようにして言葉を継ぐ。


「うーむ、確かにダニエル・アルフォンスの弟子が増えることは好ましいが、一方で航海士もわが国には不足しているということもあるのだがな。それで無くともニスポス開港の件でストランディラとの関係がこれまでになくきな臭くなっていると聞いている。うちのような海運だけで成り立っている国家にはなるべく多くの航海士が必要なのだがな……」


「ならば、両方の見習いということではどうじゃ?わしが船に乗るようになったのは20代半ばで船乗りの修行をするには遅かったし、パットは女で魔法士としてはともかく航海士としては向かん。わしの弟子として今後の航海魔法の担い手となってもらうなら、航海士としての知識も必要になるはずじゃ」


 あれ?なんで船に乗ることになってるの?『運命』に抗うために冒険者とかなって自分を鍛えるとかじゃないの?と思われるかもしれない。

 だが、よくよく考えてみると俺はまだ12歳だ。

 いくら21世紀の地球よりも若くから働くといっても、やはり体がもうすこし成長しないとそうした冒険者稼業などは無理だ。

 少なくとも3~4年、体がある程度成長して15・6歳程度にならなければ厳しい。それに、どうもこの世界は「普通の異世界」のようで、一時期はやった「ゲーム的異世界」では無いようなのだ。

 無人島生活で、魔法のスキルやMP的なものが増えなかったことを考えても、「ステータスオープン」とかいろいろ言葉を変えてやってみてもできなかった。棒切れを剣に見立てて素振りとかもやってみたがうまくなっている感じではなかったし、一応蛇とか相手に魔法を使ってレベルアップしないかどうか確かめてもみた。

 つまり、「ステータス」「スキル」「レベル」のようなゲーム的概念は通用しないようだ。


 それならば、地道にここから3年間、ある程度戦えるように他医術や魔法を鍛え、自立して世界を旅することができるようになるまで何らかの生活手段と安全確保が必要になる。

 加えて、目の前に練達の魔法使いらしき人がいるのだ。

 話の流れ的に弟子にしてくれそうだし、ここは期待して何も口出しせずにいよう。


「そこの、ケインとか言ったな。ちょっと手のひらに魔力を出してもらえんかな」


 おれは、無人島でやったように手のひらに魔力を集中した。光が出た。


「うむ、ヨウジュツの傾向ありというわけか」


 ヨウジュツ?妖術ということだろうか?

 俺の不思議そうな顔を見て、魔法使い、ダニエルさんは説明してくれた。


「陰陽の陽、陽術じゃ。つまり光・火・雷などの実体のない力として出す術に適性があるということじゃな」


 そうか、そういうことか。

 俺はこの世界の魔法の仕組みについて、最低限の理解を得たような気がした。

 つまり、エネルギーというわけだ。

 地球でも、エネルギーは熱エネルギーや光エネルギー、あるいは電気エネルギーなどいろんな形で存在し、それらは相互に変換可能だった。

 電球は電気を光に、太陽光パネルは逆に光を電気に、あるいは電気ストーブなどは電気を熱に変換していた。

 この世界の陽術と呼ばれるものは、そうしたエネルギーに相当するものの総称で、方向性を与えることで光になったり火になったりするということだ。ということは試していなかったが雷も出せるということだろうか。


「無人島で水も出せたということは陽術と水術は最低限使えるということじゃな。その二つが航海でもっとも重要な魔法じゃ。船長よ、この子は航海魔法士としてやっていけるだけの資質を持っておるぞ」


 うれしそうに、だがやはり腰が痛むのか、時折顔をしかめながら、ダニエルさんは笑い声を上げた。

 船長は、やれやれといった風に、俺とダニエルさんを眺めていた。



 そして俺、ケイン・サハラは武装商船アリビオ号、航海士ならびに魔法士見習いとして正式に採用された。

今回の豆知識:


船の揺れは腰に良くない

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