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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第二章 13歳編 ローブを纏った航海士
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帰途

今回はちょっと短めですが、切りのよいところで。

次回で2章完結となる予定ですが、まだかけてないのであくまで予定です。

今後ともよろしくお願いします。

 ソバートンには都合4日の滞在となり、予定のリッケンへの寄港はキャンセルしてアンティロスに向かい、アリビオ号は出航した。

 風向きの関係上、ソバートンから直接東に向かうのではなく、島の南端まで南進し、そこから東へ向かうことになった。後半の航路はリッケンからアンティロスへのものと同じということになる。

 今度こそ、安全な航海になる、と期待していたが、そうは問屋がおろさなかったようだ。


 朝方の当直の時間だった。

 ようやく追い風になり、船は快調に進んでいた。俺も忙しい時期が過ぎて、波を乗り越えていく船の揺れに身を任せて、若干気を抜いていた。

 突如、ガンという衝撃が船を襲い、俺はよろけて近くの大砲に手を突いた。


「状況確認、急げ」


 リックの号令が飛ぶ。

 船の前の方で起こった衝撃だということは感じられたので、俺もそちらの方へ向かう。


「鯨です!」


 そういった船員の指した方を見ると、たしかに大きな背びれが見えた。

 状況を見ていると、特にこちらに向かって来るというわけではなさそうだった。

 浮かんだときに大きさを見たが、アリビオ号の半分ぐらいの体長があるように見えた。ということは、20m以上の大型ということになる。

 近くに来ていたリックに、下から上がってきた船員が報告する。


「浸水が起こっていやす」

「規模は?」

「手のひらぐらいの大きさでへこんでいやす。すでに船匠の旦那が応急修理を始めておられやす」

「よし、ではここに居るもので4人、排水ポンプにつけ。修理が終わるまで交代で水をかきだす」

「アイアイサー」


 鯨はもうかなり遠くになっていた。

 この分だと警戒の必要は無いだろう。


 海の危険というのは、何も海賊や嵐だけでは無い。陸上で猛獣やモンスターが襲ってくるのと同じく、海にもそういった存在がある。

 だが、その危険性はそれほど大きくない。

 アリビオ号は上甲板から海面までは4m程度ある。船に乗っている人を襲うためにはその4mを飛び越えてくる必要があるが、そのような能力のある海のモンスターは少ない。

 となると、あとは船体を損傷させるような相手だが、もともと水圧に耐えられるように頑丈になった船体に深刻なダメージを与えるような生物もそれほど居ない。

 ことモンスターの襲撃という点で見るなら、海の旅は陸のそれよりも安全だといえるのだ。

 今回の鯨はその例外だったといえるだろう。

 そういえば俺が地球で死ぬすこし前に、太平洋横断中のボートが鯨に衝突されて沈没し、自衛隊が助けに行ったという事件があったのを思い出した。

 鯨は種類にもよるが、体表が硬いものもいるため、危険なのだとそのとき知った。

 さすがにこの大型船が鯨の衝突で沈むはずは無いだろうが、あれが好戦的なモンスターだったり、角を持つ種類だったりするとどうなるかはわからない。

 魔法士としても対策を考えておかねばならないだろう。


 今回の損傷は完全修理するには至らなかった。

 海面下の損傷の場合は噴き出してくる海水を押さえ、そこにまいはだと呼ばれる、木の皮を裂いて繊維にしたものを詰め、上から板で押さえて固定するという手段をとる。

 それでも完全に浸水を止めることは出来ないし、外側の損傷はそのままなので、最終的にはドックで修理をする必要がある。

 今回も、水がじわじわ染み出してくる状態のまま残りの航海を続けることになった。


 航海7日目、予定ではもうアンティロスに着いていていい頃なのだが、やはり浸水の件で遅れが出ているようだ。

 俺が午後の当直の引継ぎを済ませて下に下りると、士官室大テーブルにはカイラさんとサイラスさんがいた。

 兄妹水入らずの会話を邪魔してはいけないと思った俺が、個室に向かおうとするとカイラさんから声をかけられた。


「ケイン、すまないがいいだろうか?」

「……ええ、何か?」


 俺は、2人並んで座っている向かいに腰をかけた。


「カイラからお願いするよ」


 サイラスさんが妹を促す。彼も一時は憔悴していたようだが、最近はすこし元気なようだった。たまに監視つきだが甲板に上がって歩いているのを見かける。


「では、私から。まずは、今回の一件、兄が大変な迷惑をかけた。ケインにも余計な苦労を負わせてしまい、この船でも死人が出たことをお詫びする」


 俺はちょっと考えてから返答した。


「いえ、まあ確かに苦労でしたが、偶然が重なった結果でもあります。俺個人の苦労はまあ経験として流せますし、船の死者についても直接じゃないので気にしないでください。ラウカト号と戦ったことはむしろアリビオ号の都合です」

「……そうか、そう言ってもらえると助かる」

「ですが、もしマローナで死人が出ていたら俺も違う思いを抱いていたかも知れません。今回はあくまで直接の人的被害が無かったから、こうして許しますが、もし今後も……」


 ここは釘を刺しておかなければいけないことだ。もはや俺は実感として、この世界が自分が19年生きてきた平和な時代の地球と違い、隙を見せて生きていけるほど甘くは無いのだと理解していた。


「いや、それはない。私達はもうカイデンに戻る気は無い。できればこのままアンティロスに定住しようと考えているのだ」

「……御両親は大丈夫なんですか?」

「両親は南大陸にいる。私たち兄妹だけが身を立てようとストランディラ船に乗って北の大陸に向かったのだ。カイデンも借家しかないので戻らなくても問題ない」

「そうですか」

「いままで国と国との関係などはあまり深く考えていなかったが、今後の事を兄と相談したら、このままトランドが発展した方が南の仲間達のためにもいいのではないかという結論になったのだ。兄も罪を償ったらそうしたいと言っている」

「……では、私達は同じトランドのために働く仲間ということでいいですか?」

「仲間、か……うん、そうだな。これからもよろしく頼む」


 俺達は旅が終わる今になってようやく本当に仲間となったということだ。おかしな事に思えるが、修羅場を共に潜り抜けていない者を仲間と呼ぶことははばかられることもあるだろうから、良くある話なのかもしれない。

 俺はとりあえず友好の証として、ソバートンで買い求めていたワインを開けて二人に勧めた。本当は師匠へのお土産のつもりだったのだが、かまわないだろう。師匠なら、新しい友人を得たことの方を喜んでくれるはずだ。

 結局、俺も付き合うことになったが、うん、これはかなりおいしい。それほど飲みなれているわけでは無いが、はるか北方、旧ダカス帝国地域のローレンジア王国の特産品だ。すこし草っぽいにおいがする、さっぱりとした白ワインだった。


 そうこうして、俺が2人にアンティロスの事を色々と教えていると、甲板でどたどた音がするのが聞こえてきた。

 程なく、階段上から、


「アンティロス視認したぞー」


 と大声が聞こえてきた。

 すこし遅れたがようやく故郷に帰ってきた。

 今回は……つかれたなあ。

今回の豆知識:


作中で言及があるヨットの事故ですが、2013年の6月にあったことです。

ケインは2014年8月、つまりこれを書いている時点より未来に事故にあったということなので、今のところ私や皆さんが知っている事象は知っていておかしくないという設定にしています。念のため。

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