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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第二章 13歳編 ローブを纏った航海士
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始末に困る

 呼び出された先は船長室だった。

 行ってみると、そこに居たのは船長、トレリー卿、マテリエさん、カイラさん、ジャックさんだった。

 この人選は何だろう?

 俺には心当たりが無かった。


「揃ったな」


 船長に指示されて、俺は扉を閉め、部屋に入る。

 船長室の中は、普段どおり……ではなかった。なぜか執務机の上に、樽が置かれていた。

 見覚えはある。

 あの時、マテリエさんがつかまって命拾いをした樽だ。


「では、説明する。この、マテリエが拾った樽だが、中を開けてみたところ、とんでもないものが入っていた」

「いやー、あたしもね、最初は浮いていたし中身は空だと思ってたんだけど、それにしてはちょっと重いんで、酒でも入っているかって思ったんだけどねー」


 ということで、密封されていた中を開けてみたそうだ。


「そうしたら、中には藁が入っていて、布にくるまれた金属の塊が入っていたのよ」


 樽に? しかもわざわざ緩衝材を入れて? 金属の塊? ひょっとして金とか?


「それがこれだ」


 船長が執務机の引き出しから取り出したのは、金ではなかった。

 知っている他のどの金属でもなかった。青白く、一見すると銀に近いかと思うが、それとは違った輝きを持っているインゴットだった。


「これは……」


 ジャックさんが、おそるおそる手を伸ばして、そのインゴットに指を滑らせる。


「こいつぁ……いや……間違いねえ、ミスリルってやつだ」


 これがそうなのか。

 確か金より希少のはず。前にロバートさんの鍛冶屋で聞いた話だと、わずかなかけらでも銀貨何十枚……いや、むしろ金貨で支払わなければいけないぐらいの価値があるはずだ。


「これがミスリルだとして、どれぐらいの価値があるんでしょうか?」


 俺は想像も付かなかったので聞いてみた。


「ふむ、この重さ、確か金とミスリルの価値は……えーと、何倍だっけ?」

「大体でいいなら10倍ぐらいと見ていいはずだね。いやいやいや、ものすごい価値だよ」


 ジャックさんの質問にトレリー卿が答える。


「……ということは、少なくとも金貨500枚ぐらいの価値はあるってこったな」


 金貨500枚……俺達は言葉を失った。

 本当に大体の換算だが、日本円で言うと金貨1枚が100万円ぐらい。

 すなわち、このインゴット一つで5億円ぐらいの価値があるということだ。

 非常に高価な代物だ。

 これ一つでそれなりに大きな船でも買えるんじゃないだろうか?

 もちろん、ダイアレン号やアリビオ号を新造するとなればその程度ではどうにもならないが、ラウカト号を中古で買い取るというぐらいのことはできそうなぐらいだった。


「とんでもねえな……」


 ジャックさんの言うとおり、これはとんでもない。


「それで、問題は、これの所有権なのだ」


 船長が後を継ぐ。


「確かに、これは恐らくラウカト号が運んでいたものだと思われる。なぜこんな高価なものを運んでいたのかはわからないが、生き残った乗組員を尋問した結果、この樽が艦長室に運ばれていくのを目撃したものがいた」


 だとすると、これは拿捕したアリビオ号とダイアレン号の共通の獲物ということになる。ラウカト号を拿捕したことによる分け前も含めると相当な額になる。


「だが、問題はこれが一度海に放り出されているということだ」

「つまり……海岸に流れ着いたものを拾ったのと同じ扱い、ということになりましょうか」


 トレリー卿の目が光る。


「……仮に海岸であれば、その国の政府が所有権を主張するかも知れませんが、ここは公海上ですからな。いやいやいや、なんとも複雑な事態になったものです」

「ラウカト号の艦長が生きていればその証言で所属を明らかにすることも出来るだろうが、死んでしまっては真相がわからない。俺としては残念だが、これは海上での拾得物とするしかないと思う」


 仮にこれを拾ったのがアリビオ号の乗組員だったら別の道もあったかもしれない。

 だが、拾ったのはマテリエさんだ。

 出身はミスチケイア、現在の任務はストランディラの貴族の護衛、そして何より問題なのは彼女自身が自由冒険者であるということだった。

 自由冒険者は国家から独立した存在だ。

 特に、いまだ支部が開設されておらず、今後の南大陸の開拓を考えるとギルド連合の不興を買いたくないトランドにとっては、ここでもめるのは得策ではないということだろう。


「ということで、これを拾ったことはこのメンバーだけの秘密としておき、所有権はマテリエということにする。皆、他言無用だぞ」

「いやー、さすがに独り占めは出来ないから、うちのパーティで分けることにするよ」

「えっ?」「なんと」


 俺とカイラさんは、まさかそんな言葉が出てくると思わなかったので、驚いた。


「まあ、私の方はそれなりに蓄えもあるしね、この塊の半分ぐらいを買うぐらいの金は銀行に預けてあるし……まあ、冒険者らしく山分けってことで」

「……相談なんだがマテリエ君、依頼主の私にもすこし……」


 いつに無く真顔のトレリー卿。


「働かざるもの食うべからず……とはいえ、これはストランディラのものらしいから、いくらかは口止め料として払う。だけど絶対に、秘密にしてよね」

「そりゃもちろん。これでも貴族の端くれだから、秘密を守ることに関しては信用してもらっていいよ」


 どこかの商売人のように揉み手をしながら請合うトレリー卿だった。


「あと船長とジャックにも、あとで何かプレゼントするよ。引き上げてもらったお礼もあるし、それぐらいはさせてもらうよー」


 と、話が進んでいく中で、取り残されていたのは俺とカイラさんだった。

 少なく見積もっても金貨100枚以上、それが手に入るとなると、普通にアンティロスに家を買って何年も生活できるレベルだ。

 使い道まで頭が回らない、ただただその事実を飲み込むのに一杯で、呆然としていた。

 自分のことには頭が回らなかったが、カイラさんの顔を見て思いついたことがあった。


「そうだ、カイラさん、お兄さんと一緒にアンティロスに引っ越しませんか?」

「えっ?」

「お兄さんの命が助かるとしても何年か牢屋に入らなければいけないなら、向こうでそばにいてあげるのもいいんじゃないかと思ったんです。家を買って、マテリエさんも一緒に南の大陸で仕事をすればいいんですよ」

「……なるほど」


 この兄妹にはストランディラに戻るという選択肢は無いはずだ。特にサイラスさんはストランディラの重大な秘密を握っているわけだから、帰ってもすぐに拘束されて殺されてしまうだろう。

 ならばいっそのこと、ストランディラに一番交流の無いトランドに来るというのはいい考えに思えた。


「確かに、それもいいかもな。親戚も向こうには居ないし別に未練も無い。ありがとう、ちょっと考えてみる」


 となると、俺のことは置いといて、後の問題はトレリー卿か……

 どうするんだろう?


今回の豆知識:


 wikipediaの「インディファティガブル」(もちろん初代です)の項目にもある、1804年のスペイン金輸送船の話、これをやりたかった訳です。『ホーンブロワー』でも『オーブリー&マチュリン』でもネタになっている有名な話なので……

 もちろん異世界なのでアレンジして、ちゃんと主人公に大金が入るようにあれこれプロットをこねくりまわしていたわけですが、着想はそこにあります。

 活動報告でもちょこっと書いたのですが、二章のテーマは「ケインが大金を手に入れる」というものだったので、これで一応目的のところまで書けました。


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