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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第二章 13歳編 ローブを纏った航海士
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隼と獅子と

 基本的には、軍艦は商船と同行するのを嫌う。

 その一番大きな理由は、足が遅いこと。いくつかの例外を除けば、商船というのは一杯に荷物を積んでおり、また積めるようにでっぷりとした鈍重な船体をしている。

 これについては、アリビオ号はその例外といえる。快速で細身の船体、どちらかというと軽い荷物を積んで、遠方を短時間で結ぶことに特化した船である。


 もう一つの理由は、規律や技量の問題。

 いくらまじめに訓練をして、規律を保っているとはいえ、すぐ近くでだらけた商船の姿を見ていては、そちらに感化されないともいえない。また、帆の向きを変えるのも商船のほうがもたもたしていることが多く、ただでさえ人数が少なめで運行されることもあって、軍艦の足を引っ張ることが多い。

 こちらについても、アリビオ号は商船にしては人数が多く、技量も高いので、例外といえよう。


 そういうことで、先方としても本心はどうか知らないが、快く同行を引き受けてくれたそうだ。


「まあ、われわれが南大陸から豊富な物資を運び込めば、ソバートンとしても助かるはずだからな。そのあたりをほのめかして伝えておいたことも功を奏しただろう」


 ともかく、船長の指示の元、アリビオ号は風をさえぎらないようにダイアレン号の右後方に位置して、付いていくことになった。

 俺は船長と相談し、残りの航海は魔法士一本で行くことにした。どのみち、出発した時点で乗っていなかったので、航海士としての経歴の申請には使えない航海だったし、服装も魔法士のローブしか持っていない。航海士として必要な六分儀や望遠鏡なども置いてきていたので、当直に立つのは難しかった。

 上着としてはローブ以外には持っていなかったので、背中をばっさりやられた部分は自分でつくろった。

 そんなわけで、俺は普段よりは幾分気楽な航海を楽しんでいた。


 最初は、捨てた水の代わりの補充や、けが人、病人の治療などで忙しかったが、それが一段落した今となっては平常どおりだ。

 スライムも、最初は元気が無かったが、聞いてみると気づいたものが水をかけて置くように見張りに頼んでいたらしく、干からびてはいなかった。今は元気に朝夕甲板をゴロゴロやっている。


 船の針路はダイアレン号任せになっている。

 こっちの本音としてはまっすぐソバートンに行きたいのだが、向こうもフリゲートだから、独立独行で獲物を探す航海をしている。守ってもらうこっちの都合は後回しにされても文句は言えない。

 幸いに、残り少なかった食料はダイアレン号から一週間分程度分けてもらえたので、その面での不安は解消していた。その意味でも、アリビオ号としてはダイアレン号に恩がある。

 実際にはアリビオ号のほうが優速なので、ダイアレン号は一杯に帆を張っているがこちらは減らしている。

 2隻だけの船団は、今は少し北のほうに位置しており、ケーリック島よりガニエ島のほうに近いぐらいの場所にいた。


 ガニエ島は、まさに戦争中の島だった。西に位置する大陸のミニュジアと、センピウスとの間で争いが行われている。

 もともと、ガニエ島にはミニュジアから少数の人間が渡って生活していた。ただ、ミニュジア本国へは山脈を一つ越えないといけないので、往来が少なかった。

 一方センピウスは、すぐ近くにあるこの島に他国の勢力があることが我慢できなかった。

 戦いには自信があったセンピウスは船で侵攻し、たちまち拠点を作り上げたが、このことがミニュジアの怒りに触れた。

 大陸での争いは、地続きになっているとはいえ、中間にタロッテという交易都市が存在するために、一段落している。そのためにミニュジアは余る戦力を全てこちらに振り分けてきたのだ。

 現在は主にガニエ島西部の海上で、二国間の小競り合いが行われている。

 最終的にはガニエ島にどれだけ多くの戦力を上陸させるかという戦いなのだが、ミニュジアにとってガニエ島は、南のブンジー海峡を回ってこないといけないので遠い。一方のセンピウスは伝統的に海軍が脆弱であった。

 そんなわけで、いまだ海上での小競り合いの状態で膠着してしまっているのが現状なのだ。


 今居るガニエ島の東側は、タロッテに出入りする船の航路でもあるので比較的安全だった。そこでダイアレン号はそこを通る敵国の船を狙って航路を変更したのだが、運よくそれらしき船影を見つけたらしい。


「敵船発見、だと?」


 船長室から知らせを受けて飛び出してきた船長がリックに問う。後からはトレリー卿も現れた。


「はい、右舷前方に。こちらでも確認しましたが、武装したフリゲートのようです」

「国籍は?」

「それが……ストランディラです」


 背後からでは無いので、おそらく追っ手ではないことはわかる。

 となると、タロッテ方面の航路監視を行っている船だろう。こういう船が出ているから、トランドにとってタロッテ方面への航行は危険なのだ。

 ダイアレン号に続きの旗が揚がる。


「続け、か」


 「待て」ではなく「続け」、つまりアリビオ号にも戦えということになる。

 俺は船長に聞いてみる。


「いいんでしょうか?」

「うむ……こちらも一応私掠船としてストランディラに対することは出来る……できるんだが……」

「なるほど、私の方は隠れていたほうが良いでしょうね。確か船で安全なのは最下層甲板でしたか……」


 気を利かせて下りていくトレリー卿。

 だが、最下層は確かに砲撃には強いが沈むのは一番先だ。

 まあ、そのとき余裕があったら連れ出してあげよう。一応まだ依頼主だし……


「ここで不興を買うわけにもいくまい。幸い2対1だし、もう一隻がダイアレン号だから勝てるだろう。それに、ここまでされたお返しもしておきたい」


 ここまで長い付き合いの船員たちからも不満そうな声は聞こえなかった。皆、ストランディラには頭にきているということだろう。

 そこに降って湧いた、ストランディラに仕返しする良い機会、これを生かさない手は無かった。


「よし、では戦闘準備」


 そこで、船長はダイアレン号の甲板の様子を見る。


「ダイアレン号に続いて砲撃する。右舷の砲列で敵を叩く」


 そして、鐘が打ち鳴らされ、船は戦闘準備へと突入する。

 まず、甲板に滑り止めの砂が撒かれる。これが無いと誰かが流血したときに滑ってしまい、戦闘を続けられなくなる。

 下から砲弾、装薬、そしてカットラスの入った箱が持ち出され準備されていく。

 砲弾は砲弾置きに並べられ、装薬は誘爆を避けるために最低限の量が各砲に配られる。水の入った桶が用意されて、甲板各所に置かれていく。


 俺はといえば、まず帆や索具が燃えないように水を出してかける。これが出来るのも魔法のおかげなので人力でやるとなると大変だ。

 ダイアレン号でも同様のことが行われているようだった。

 準備を終えた俺は、後部上甲板で船長の脇に控える。

 砲列は前部2門をマルコ、後部2門+長砲1門をカルロスが指揮をとり、リックはその後ろで船長の命令を伝え、全体の指揮をとる。


 船長の予想通り、ダイアレン号は敵船に右舷で接するようだ。

 もうこのあたりになると、敵船の様子も見えてくる。

 船名まではわからないが、ストランディラのフリゲート、片舷13門ということは26門搭載で、ダイアレン号よりもかなり小型だ。

 実際にはアリビオ号と比べてもこちらの方が全長は長そうだが、これはこちらが速度を重視した細身の船だからであって、船員は向こうのほうが2倍以上、大体200人前後は乗っているはずだ。

 向こうは逃げる様子は無かった。

 こちらの方が風上だったし、逃げるにしてもアリビオ号の方が速い。

 仮にアリビオ号ぐらいならば退けることが出来たとしても、もたもたしていたら後ろから重装のダイアレン号が追いついてくる。

 臨時のペアではあったが、この、「隼」と「獅子」の有名な2隻が組んでいるとなると、先方にとって非常に厄介な相手に違いなかった。


 戦闘準備で進めながら、彼我の距離は徐々に縮まっていく……

今回の豆知識:


帆や索具に水をかける、という描写は、今手元に帆船小説を持っていないので確かでは無いのですが、あまり見かけたことはありません。ただ、実際にはやっていただろうなと考えています。

帆に水をかけるのは、他には風が弱いときに、より帆が風をはらむようにとかける、という描写は見たことがありますが、今回のアリビオ号の場合はむしろ縮帆しているのでそういう場面はありません。

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