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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第二章 13歳編 ローブを纏った航海士
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先手

「それ、どういうこと?」

「いや、カイラさんのお兄さんですから、獣人族の魔法士ですよね。あの時敵の船で魔法が妨害されたことも無ければ、魔法で攻撃された覚えもないし、そもそもあとで捕虜になった中に魔法士の人はいませんでした」


 仮に魔法士が居たら、あの戦いはあのような展開にならなかったかも知れない。距離にもよるが魔法の発動を察知されたり、魔法を妨害されたり、あるいはいっそのこと焼いてしまえということでアリビオ号に火をつけられた可能性だってあったのだ。


 俺の言葉を聞いたマテリエさんは考え込んでいる様子だった。


「……そうだね。とすると途中で船を下りたのか、または居たけどそのまま魔法士だということを隠し続けていたかだよね。前の方ならその後どうしているのか気になるし、後の方だって発覚してないってことは捕虜交換で戻ってきているはずだし……どっちにしても行方が気になるところね」


 猫獣人族の魔法士ということで、ふと俺は、セベシアであった魔法使いのことを思い出した。

 彼の耳や髪の毛は真っ白だったのを覚えている。一方でカイラさんのそれは真っ黒だった。

 果たして兄弟で白と黒で分かれることがあるのか、俺は地球で見た猫の記憶を思い出してみるがはっきり覚えていない。


「まあ、それも気になるけど、まずはアリビオ号よ。ちょっと町に出て色々聞いてみるわ。出来れば港まで行ってちょっと状況を見てくるし」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。なに、いざとなったら色仕掛けでも何でも……」

「……マテリエさん、いい年してそんなことをしなくても……」

「……」


 しまった。

 二度目までは確かに耐えた。自重した。

 しかし俺の自重力ジチョウニックパワーも2度の酷使により底をついたようだった。

 あれほど女性(特に100歳以上の)には年齢のことは禁物だと思っていたにもかかわらず、つい口が滑ってしまった。


 マテリエさんは何も言わない。


 沈黙が続く。


「すいませんでした」


 俺は素直に謝る。


「……ま、今は非常時だから許す。二度目はないよ」

「はい、肝に銘じます」


 そして俺は屋敷で警護として待機、マテリエさんは非番として町に出ることになった。

 屋敷の警備はカイラさんとすることになっている。

 マテリエさんが出かけてしまった後に、熱帯的な集中豪雨が降り出してしまったが、大丈夫だったろうか?

 暗くなった屋敷の中で、トレリー卿に近くに居るようにといわれたので、部屋の前に椅子を出して2人で待機している。

 部屋の中にはトレリー卿、そしてその前の廊下に俺たち2人。本当はさっきの話の内容についてトレリー卿と話したいのだが、この配置上難しくなってしまっている。

 カイラさんの兄がリーデ号に乗っていたということ、それはさっきのマテリエさんが触れなかったもう一つのことを表わしているのかもしれない。

 すなわち、彼女の兄を俺が殺してしまったということだ。

 彼女は冷静で表に感情を表わさない人だが、根はいい人に思えるし、そういう彼女と敵対するのは避けたい。

 だが一方で早めに話して結果を出すのもいいかもしれないとも思う。

 罵倒されるか、泣き崩れられるか、攻撃されるか、どうなるかはわからないが、このまま黙っておくよりも今自分から言っておくほうがいいのかもしれない。だが……


 結論が出ないでためらっているところで、状況が先に動いた。

 なにやら下が騒がしいと思ったら、階下から館の使用人が駆け上がってきた。

 あわてているということはその様子からわかったが、彼の言葉であわてたのはこちらも同じだった。


「襲撃です……賊が裏口から……早くご主人様を安全な場所に」

「まさかこんな場所に……で、人数や装備は?」

「5人以上は……詳しくはわかりません。みんな短剣を持って真っ黒の服を着ていて顔をも隠していてわかりません」

「そうか、じゃあこっちで隠れて……カイラさん?」


 彼女は一言も告げずにトレリー卿の部屋に入っていた。

 続けて俺も使用人を連れて入る。

 下の状況は気になるが、恐らくこれはカイラさんとトレリー卿を狙ったもの、運がよければ命を取られることは無いだろう。いや、これは虫のいい願望に過ぎないか。

 そして、当然賊を送ってきた相手は……


「いやいやいや、ずいぶんと直接的な方法を使ってくれるもんだね、伯爵も。いやはや、さすがに醜く太っても武人の端くれというわけだ」

「部屋で篭城しますか?」

「いや、ここは物が多いし、壊されたくないのもあるから、廊下で戦ってくれるとうれしいな」

「では、俺とカイラさんで出ます。窓からの侵入に注意してください。身軽な相手らしいので」

「わかったよ」「承知」


 そうして、部屋にトレリー卿と使用人を残し、俺たちは廊下に出る。

 廊下も何もないというわけではなかったが、幅が狭いし少人数であるこちらでも対処しやすい。

 まだ敵は上がってきていない。


「状況判断は適切だ。私が前に出るので援護とけん制をお願いする」

「わかりました」


 ほめられてちょっとうれしい。

 あとはカイラさんがどれだけ戦えるかということにかかっているが、まあ普段の身のこなしを見ていれば大丈夫だろう。

 来た。


 階段を駆け上がってくる音はかすかにしか聞こえなかった。しっかりと音を殺していることから、技量のレベルが推測できる。

 確かに黒ずくめで長袖と長いズボン、見る限り鎧のようなものはつけていなかった。外で頃合を見計らっていたのだろう、ずぶぬれであった。

 顔はマスクのように加工した布で覆っており、目と口と耳だけが出ていた、そして手には短剣を抜き身で持っていた。

 はっきり言おう。

 忍者っぽい。

 少なくともそれに近い役割を果たすための装束だった。

 そういう見た目をした賊が3人、階段から廊下に出てくるのが見えた。


 カイラさんは、右手に短刀、左手にそれよりは短いナイフを持って身構えた。

 賊が斬りかかってくる。

 短剣だから突き刺す動きだ。カイラさんはそれを左手のナイフで受け、右手の短刀で敵を斬る。

 カン

 金属がぶつかる音が聞こえ、賊の左手が短刀をはじいた。

 手甲のようなものだろうか、何も持っていない左手もそうやって防御に使えるようにしてあるのだ。

 だがカイラさんはその事を予期していたのか、体勢を崩すことなくそのまま反動を利用して、今度は突いた。

 狙いは敵の胸、鋭い動きに賊は対応できず、近い間合いでもあったことからその突きは敵の胸元に吸い込まれた。

 賊がそのまま前のめりに倒れる。


 俺のほうも観察ばかりして何もしていなかったわけじゃなかった。

 次の敵が接近してくる前に陰魔法の詠唱は終えていた。

 魔法を放つ。

 ただし敵の体ではなく、その向こうの空中だ。

 船の上でもそうだが、こうした屋内でも陽魔法は使いにくい。火は火事になるし、雷はどこに飛ぶかわからない。光にして目潰しをしようとしても、準備無しではこっちにも被害が及ぶ。

 敵の体がずぶぬれであることを考えれば、カイラさんを巻き込まないためにはこれが最良だと判断したのだ。

 敵はいきなり生まれた背後の冷気にひるんだ様子だった。

 そこにカイラさんが斬りかかる。

 さすがに衣服が凍り付いて動けないほどではなかったろうが、意表を突かれたことと体温をいくらか奪われたことで動きが鈍ったと思われる賊は、たちまち短刀の餌食となった。


 援軍は……来ない。

 ということは……

 俺はトレリー卿の部屋のドアを勢い良く開いた。

 ちょうどそのとき、窓を破って賊が侵入してきていた。2人だ。

 俺はとっさにそのうちの一人に短縮した陰魔法を放つ。


「氷よ」


 今度は足止めとけん制とか言っている暇はない。

 俺の魔法は賊に直接かかり、血流を止め、死に至らしめた。

 ところが、その間にもう1人が隙を突いて俺にナイフを投げてきた。

 左腕に痛みを感じた。

 刺すような、って実際刺さっているんだけど、痛みに続きの魔法への集中力が途切れる。

 刺さっているのは、投擲用と思われる細いナイフだ。左の二の腕に突き立っている。

 まずい。

 俺はとりあえず右手の杖を前に構えて、最後の一人に対峙する。ナイフは刺さったままだ。


 そのまま集中力を高め、何とか魔法を出そうとする。

 そこへ賊は、今度は格闘用と思われるさっきのとは違うナイフを出して切りかかってくる。

 とはいえ、こちらもただの貧弱な魔法使いではない。

 船上で続けていたカットラスの練習は、敵がどういう攻撃を仕掛けてきたらどう受ければいいかについて、俺にそれなりの力を身につけさせていた。

 ナイフを杖で受ける。

 複雑になった杖の先端部分に敵のナイフが絡まる。

 仮にカイラさんの短刀ぐらいの長さがあったらまずかったな、と思った瞬間、まさにそのカイラさんの短刀が、敵ののどを切り裂く。

 血が勢い良く流れ出し、敵はそのまま仰向けに倒れていく。


 とりあえず窓からの襲撃は排除した。


「やれやれ、こんなに汚してしまってはいろいろ台無しだね」


 トレリー卿は、賊の血が飛び散った室内や家具、机の上に出してあった書類などを見回して、そんなのんきな発言をした。

 部屋の床に座り込み、腰を抜かしたままだったが……


今回の豆知識:


HPやMPは完全に尽きると命を失いますが、JPジチョウニックパワーは尽きても無事のようです。

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