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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第一章 12歳編 右手に杖を、左手に羅針盤を
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魔法の修行

 あ……ありのまま今起こったことを話すぜ。

 おれは、廃材に火の魔法を使ったと思ったら、いつの間にか廃材が光っていた。

 何を言っているのか(ry


 ということで、魔法を使えたことの感激も吹き飛ぶほどの衝撃を受けてしまった。

 振り回したり叩いたりしても、光ったまま。熱くない。

 舐めても海水につかっていた廃材なのでしょっぱいだけ。

 もふもふしても、って廃材はもふもふじゃないのでできなかった。残念。


 落ち着こう。

 魔力があって、魔法が使えることは確実。これは僥倖だ。

 ただ、魔法が思ったとおりに出てこない。

 火を出そうとして光った。

 どういうこと?

 うーん。


「試してみるか」

「火よ、出ろ」


 光り続ける廃材に、今度は同じように、ただし火が出るように明言してやってみた。

 同じように廃材の光が一瞬強くなって、だが今度は火がついた。


「おお」


 そうか、つまりちゃんと呪文を唱えろってことなのか。

 じゃあ今度は飲み水の水溜りに、


「水よ、出ろ」


 と、水位がたちまち上がって、帆布のくぼみからあふれ出た。


 それから何回か火と水の魔法を使った結果として、以下のことがわかった。

 1.呪文を使いましょう

 2.呪文を使わないと光ります

 3.威力はたいしたことありません

 4.一応、火と水と風と土と光と闇は使えるようです


 威力がたいしたことが無いというのは、独学だからしょうがないのかもしれないが、ともかくいわゆる異世界チートもののように人類最高の魔力だとかそういうのではないらしい。

 火は「劫火よ、出でよ」と呪文を大げさにしても廃材に火をつけるのがせいぜいで、水も2~3リットルくらいしか出ていない。

 風はせいぜいちょっと強めの風で土は小学生が体育の時間に校庭の砂で棒倒しするぐらいしか出なかった。

 闇は雨よけの角っこに出してみたが、半径10cmぐらいが真っ暗になり、周囲も暗くなった。でも火のついた廃材を近づけると全部見えたぐらいだからたいしたことはない。手を入れてみても闇に飲まれるとかはなかった。

 

 ふと思いついてやってみた。

 左の手のひらに闇を出して、手のひらが見えなくなってから、「この左手の闇が、ああ封印が……破られるうぅ」と言ってみた。

 むなしかった。


 さて、遊ぶ気になるのも気分がいい証拠だ。

 とりあえず、無人島生活をましにする手段は手に入れたようだ。

 これで何とかなるかもしれない。

 少なくとも某クルーソー氏よりは条件がいいはずだ。

 異世界転生ものみたいに魔法を限界まで使って魔力を鍛えるってのもやってみたらいいかもしれない。どうせ、雨季は過ぎるまでは暇がつづくんだから。

 俺の沈んだ心になんとか希望がわいてきた。



 ええと。

 ここまで何回か浮き沈みしてきた俺の気分ですが、最近また沈みがちです。

 というのも、助けがこないんです。


 あれから1ヶ月がたった。

 雨季は過ぎて、食生活は安定してきたが、そろそろ洗濯を繰り返してきたもとのTシャツとズボンやパンツがあちこち痛んでやばくなってきた。

 魔法の修行もさっぱりだ。

 いくら使っても威力は少しも上がらない。

 いろいろ呪文を工夫したり、廃材を杖っぽく使ってやってみたり、集中したりしてもだめだった。

 不思議と魔力が尽きるという感覚は無かったが、これは魔力が大きいというよりは威力を出せていないことが原因のような気がしてきた。

 つまり進展なしの停滞状態。

 なんかだんだん惰性で続けているようになっていた。


「もうだめかも」


 助けは来ないし魔法は……まあ便利だけど、修行の取っ掛かりもつかめない。

 夜になり波の音だけはうるさいぐらいする砂浜で、俺は絶望しかけていた。


 このままじゃ『運命』に殺されるどころか孤独死してしまいそうだ。

 まだ一人の異世界人にすら会っていないこんな状況で『運命』に抗うとか、力をつけるとかいったって何のあてもない。

 この状況すら『運命』の差し金だったとするなら、ああ、『運命』のやり方はうまいよ。正直見事だよ。もし呪いで人が殺せるなら、いや人かどうかも怪しいが『運命』に復讐してやりたい。

 向こうから関係してこないなら、『運命』ってのにもかかわらず生きて行けたらなあとなんとなく思っていたが、そんな甘いことを考えていてはだめだ。

 『運命』にも、それを含めた自分の運命にも抗うことができないならば、俺はこの世界で生きていくことなんてできないだろう。

 第二目標なんて甘いことは言ってられない。『運命』、その他自分に降りかかってくる全ての障害を排除すること。それこそが第一目標だ。

 自分が生きることはその余禄だ。

 生きて、あわよくば『運命』に勝利するではなく、運命に勝利することで生きる。

 そうだ、こんなところでぐずぐずしている場合ではない。

 明日にでも自力で島を出ることを始めよう。いかだを作り、保存食をつくり、それでこの島を自力で脱出する努力をしよう。

 勝負だ、運命。



 って、決心したときに限ってなんかそれをそぐ方向に事態が動くことってありますよね?マーなんちゃらさんの法則ですか?

 次の日の目覚めは、夜明けでもなく、寝床への浸水でもなく、虫刺されでもなく、人の声でした。

今回の豆知識: 中二病はむなしい

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