アルバイト
今日は2話上げています。
これが2話目になります。
やはり熱にうなされていると、いろいろ考えるものだ。
先の、自分がお払い箱になるのではないかということを始め、異世界人の俺には免疫が無いから、医者の見立てに反して俺はこのまま死ぬのだとか、あるいはファランも病死だったよなとか、それこそ取り留めの無い不安が襲ってくる。
まあ、それもこれも良く考えてみれば、気が弱っていたのだと思う。
自分はアリビオ号でそれなりに実績を出していてお払い箱になる恐れはたぶん無い。
たとえ免疫が無くても致死率100%なんて病気は無いのだから、体力が尽きなければすぐに免疫ができて病気は治る。
ファランは、あれが俺の転生としたら病に見せかけて殺されたのだから今回の状況とは違う。
などと、落ち着いて考え直せるほどには、俺は回復していた。
すでにアリビオ号出港から4日。
俺は医者の見立てどおり発病から7日後には問題なく動けるようになっていた。
今は寝たきりで落ちた体力を戻すように、しっかり食事して外にも出歩いている。
宿の代金は事前にかなりの銀貨を預けてあり、あとで清算ということにしてあったので心配ない。
荷物も船の個室から荷物箱ごと持ってきてもらったので、不自由することは無かった。
さて、明日からは行動を開始することにしよう。
すぐにアンティロスに戻るべきだろうから、まずアンティロス行きの船を捜さないといけない。出来れば病原菌のことがあるから4~5日後出港、ということは入ってきてすぐの船が適当ということになるだろう。
まずは港で船探しだな、とそんなことを考えながら町を歩いていると、突然声をかけられた。
「おーい、久しぶりー、少年」
この間延びしたしゃべり方は、と振り向いてみると前に会ったダークエルフのマテリエさんが、こちらに手を振っていた。
「おー、やっぱりそうかー、いやー、一瞬人違いかと思ったよ。ってあれ? アリビオ号って港にいたっけかな?」
「お久しぶりです、マテリエさん。ちょっと事情がありまして、一時的にアリビオ号を離れているんですよ」
「ほうほう、そういうこともあるのかな? まあ、あそこにはじいちゃんとお嬢ちゃんもいるし、大丈夫なのかな」
「いえ、師匠は引退してパットは別の船に乗っています。だから今はアリビオ号には僕一人だったんですが、熱病にかかってしまいまして」
「あー、そりゃあ大変だったねー。じゃ、少年は今失業中?」
「そういうわけでは……もう一周してここに戻ってくるまで待っているか、あるいはアンティロスに戻って待っていようかと思っています」
「そうかー、そうだよね。……んじゃさあ、あたしの仕事手伝ってくんない?1ヶ月以内には終わってここに戻って来れると思うんだけど」
1ヶ月か、今回のアリビオ号の航海は寄港先が2ヶ所増えているから、ここに戻ってきてからアンティロスへ船旅をしても十分間に合うことになる。このままアンティロスに向かってずっと師匠の家にお世話になるというのもちょっと気が引けていたところだ。かといって気を使って宿などとっても、結局後でわかってしまえば水臭いと責められることにもなる。俺にとってこの提案は渡りに船といえた。
ちょっと病み上がりなのが気になるが、まあその辺は肉体強化で乗り切ることが出来るだろう。
「じゃあ、お願いします」
「よし決まり、っと、ところで少年、あ、ケインだっけ? 冒険者の資格はある?」
「いえ、無いです」
「そうか、じゃあそこからだね。とりあえず今日は資格とって、明日みんなと顔合わせってことでいいかな?」
「はい、問題ないです」
「よし、じゃあギルド行こう、ギルド」
と、このようにして半ば強引に俺は手を引っ張られ、マテリエさんの後についていくことになった。
「そういえばケイン、冒険者についてどのぐらい知ってる?」
「ええと、依頼を受けてモンスターと戦ったり採取したり護衛したりするんでしょうか?」
「うん、そういうこと。それで成功すれば信用が上がって、達成を積み重ねて級を上げていくのよ」
「級、ですか」
「そう、今は7つ、いや8つあってね、下からひよこちゃん、うさぎちゃん、わんちゃん、くまちゃん……」
「って、そんな気の抜ける名前なんですか?」
「うん、大体合ってるよ」
大体って何だよ。
「それで、その上が巨人、鷲獅子、竜、魔族って級になってて、だいたい名前の相手と1対1で勝負できるか、同じぐらいの強さだっていう証明なの」
「上はまともですね」
「っと、ここだ、入るよ、ケイン」
俺はそのまま引っ張られて、なにやら薄汚れた大きな建物に入った。
中に入るとまず気づいたのは異臭だ。
これは、血の臭いだろうか。
俺は不意にあの海戦のときのことを思い出した。
とはいえ、誰かが流血しているというのではなく、奥に積まれた毛皮やなにやらから発生する臭いのようだ。まだ血のついて汚れているものも積まれている。
室内は薄暗く、数人いた冒険者らしき人達も、奥にいる職員らしき人も、入ってきた俺たちを値踏みするような視線を投げかけてくる。
殺伐とした空気の中、相変わらずマイペースな調子で、職員に俺の資格取得を依頼している。
しばらく待っていると、奥から年配の職員が出てきて、おれを座らせ、いくつか質問をされる。
「名前は?」
「ケイン・サハラです」
「年齢は?」
「13です」
「まだ若いな、大丈夫か? 得物は何が使える?」
「武器は剣と、あと魔法が使えます」
俺は病み上がりの歩行訓練中だったため、杖を持ち歩いていなかった。信用されるかどうかはわからなかったがしょうがない。
「ほう、魔法使い見習いってところか?じゃあまったくの役立たずってわけじゃないのか」
「ええ、こ……」
そこでいきなりマテリエさんが俺の頭を押さえつけた。
「何するんです?」
「いや、別に」
マテリエさんをにらむが、ごまかされた。
「何をやっとるんだ? まあいい。出身地は?」
「ト……「ミスチケイアよ。あたしの知り合いの子なの」」
「お前さんには聞いとらんのだがな。こういうことは本人の……」
「大丈夫よ。だって、あたしと組んで仕事をさせるんだから。何かあっても責任はあたしが取るし、ケインもあたし以外と仕事したりしないわよねー」
「……ええ、まあそのつもりですが」
「ふん、まあいいだろう。で、級はどれで申請する?」
「もちろん熊級で」
「入会金はいいとして、年銀貨10枚この子に払えるのか?」
「もちろん。なんだったらあたしが立て替えておいてもいいわよ」
「そういう促成栽培みたいなことは感心しないがな。まあ、いいだろう。受理する」
「ありがとうございます」
そうして、俺は熊級の冒険者として登録することができた。
下から4つ、マテリエさんの言葉を言いなおすと、小鳥級、兎級、狼級、熊級に関しては、基本的には希望制で、自分の望んだ級で登録できるそうだ。
級間の違いは、主に年会費によって分けられるので、自分に見合った級を自分で選択して登録するのだという。
年銀貨10枚程度なら俺にとってはそれほど大した額ではないが、中には生活費を除くとそれも払えない冒険者がいるということだろう。やはりどの業界にでも厳しい部分はある。
それにしても、マテリエさんはどうしてあんな干渉をしたのだろう? 帰り道、俺は彼女に真意を尋ねてみた。
「どうして、あんなことを?」
「え、ああ、うん。ちょっとね、今回の依頼主と言うのが……それに、目的地がね」
そしてマテリエさんから明かされた今回の依頼の詳細に、おれはあきれた。そしてじわじわと不安が湧き上がってきた。
依頼主はストランディラ都市国家連合の一員、ソバイトーの子爵、そして目的地はストランディラ共同統治領マローナ。まさに俺にとっては敵地となる都市への護衛任務だったのだ。
今回の豆知識:
なぜマテリエさんがランクを7つと間違えたのかですが、これは小鳥級があとから加えられたからです。
というのも、兎の中にも凶暴で人の首を一瞬で落とすような存在が確認され、それらは聖なる手榴弾でしか退治できなかったからです。
というのはもちろんうそで、実際には魔族級というのがほとんど超人の領域だから意識から除外していただけでした。
ネタのわからない人は「ヴォーパルバニー」または「聖なる手榴弾」で検索されると良いと思います。