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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第二章 13歳編 ローブを纏った航海士
36/110

熱帯の「熱」

今日は2話上げます。

これが1話目で2話目はいつもどおり12:00で。

 俺は、後番での上陸として入港2日目に町に下りた。

 セベシアでの予定といえば魔法使いギルドに顔を出すことぐらいだろう。

 もちろん目当ては会報だ。

 すでに、師匠に続いてパットも俺も準会員から正会員になっていた。年会費銀貨10枚というのは、今の俺にとってはそれほど負担では無い。

 このギルド、アンティロスにはまだ無いので、師匠やパットの分はここから船便で郵送ということになる。少々郵送料がかかるので、早くアンティロスに支部を作って欲しいと要望はしているのだが、なにせトランドは小国で、まだ実現していない。

 いずれ、南大陸への足がかりとして認知されれば、冒険者ギルドなどと共に支部が開かれることになるのだろうが、今はまだ先のことのようだった。


 正会員用の会報となると、その情報量は多く、ちょっとした全国紙の朝刊ぐらいの分量になっていた。

 まあ、研究したり文章を書いたりするのが得意な者でないと魔法使いなどしないから、そうなるのかもしれない。各国の政治・経済の情勢から新しい魔法の研究成果、果てはモンスターの注意情報などが、噂レベルのものも含めて細かく書かれていた。


 これはまあ、航海中の楽しみにしよう。

 俺は会報を受け取ると、さっさと宿をとることにし、そのまま町を移動することにした。

 相変わらず、セベシアの町はにぎやかだ。

 位置としても東西そして南のトランド方面との交差点になっており、船乗りの姿やそれを当て込んで(各種)商売をするもの、さらには冒険者らしき姿もちらほら見える。

 気温異常に活気があり、熱気あふれる港町だった。

 冒険者といえば……あの人と会ったのもここだったよな。

 もちろんあの人というのはダークエルフの冒険者、マテリエさんのことだ。何かと強烈な人だったが、あれから何度かの寄港の際にも見かけてはいない。いまでもこのあたりで元気にやっているのだろうか?

 いずれ南の大陸へ行くといっていたから、アンティロスかニスポスに引っ越してくるのだろうか?そうなったら、トランドの巨乳率が上が……じゃなくて、にぎやかなことになるのだろうと、俺は少し期待もしていた。


 そういえば、俺が最初にこの世界にやってきたときの無人島は、ここから船で2・3日の距離で、ミスチケイアの領海に属している。

 あれがそうだ、と船で教えてもらったその島は、その中で2ヶ月も暮らしていたのが不思議になるぐらい小さい島で、詳細な海図でないと位置すら書かれていなかった。

 よくもまあ、幸運にもアリビオ号がこのセベシアで積み込んだ柑橘類がだめになっていてくれたものだ。そうした諸々を考え合わせると、ここは俺のこの世界での出身地と言えるかもしれないし、アリビオ号という幸運を運んでくれた港でもある。


 物思いにふけりながら歩いていると、ふとよろけて後ろから来ていた人と肩がぶつかった。


「あ、すいません」

「い、いえいえ、こちらこそ不注意で」


 見ると、魔法使いらしく杖を持った人だった。見た目は特徴があり、耳が白い毛で覆われていて、髪の毛も雪のように真っ白だった。やせて背が高く、若い感じのその魔法使いは獣人族だった。


「あなたも魔法士ギルドからですか?」

「ええ、会報が溜まっていたので受け取ってきたんですよ。新しい情報は重要ですからね」


 そんなたわいもない言葉を交わし合って、その場は収まった。よかった、ぶつかったのが物騒な人じゃなくて。

 と、そんな風に安心していたら、本当に物騒な人がやってきた。


 大柄な、船乗り風の男で筋骨隆々としたのが3人、なにやら向こうからこちらをにらんでいる。出来れば関わりたくないのだが……


「おい」

「……」

「おい、そこの小僧」


 ああ、残念ながら周囲に小僧はいなかった、俺以外は。

 観念して、俺はできるだけ冷静にその場に対処しようと思い、男に返事をした。


「はい、なんでしょうか」

「おまえ、アリビオ号の魔法士だな」

「え?」


 何でわかったのだろう?


「しらばっくれてもだめだ。ちゃんと船を下りるところを確認したからな」


 ご苦労なことだ、ここまで後をつけてきていたのか。


「お前のところの船には色々恨みがあってな、なに、じじいの魔法士は手練らしいが、聞いた話じゃ引退したってなあ。お前みたいなガキだったら俺たちでもなんとかなるってもんだ」


 そう言って、男達は俺を取り囲んで身構える。

 周囲の人々は遠巻きに状況を見守っている。


「それはいいですけど、ここで揉め事を起こしたら捕まりますよ」

「へっ、なに、このあたりは俺たちの国の縄張りだぜ、手早くやれば衛兵が来るまでには全て終わっちまうよ」


 と、その言葉と共に声をかけてきた男が殴りかかってきた。

 俺は、とっさに魔法を使おうとして……出来なかった。

 なんだ、魔力が……うまく操作できない。


 腹に一発くらって、俺は息が詰まる。俺は思わず倒れ込んだ。


「おっと、一発で終わりか?やっぱりガキだな、戦い方はなっちゃいねえってこった」


 そう続けながら、男は俺を蹴りつける。残りの2人もそれに加わる。

 俺は、腕や背中、腰や足など全身を四方八方から蹴りつけられて、だが何も出来なかった。

 腹を殴られた影響か、むかむかするし、魔法を使うための集中が出来ない。

 俺は、うずくまり、小さくなって男たちの蹴りを少しでも防ごうとした。


 どれだけ蹴られたか、回数なんて数えちゃいないが、いつの間にか攻撃は終わっていた。

 しばらく何もないので、恐る恐る顔を上げると、男が衛兵と言い争いをしているのが見えた。

 やった、助かった、と安堵を感じると、俺はそのまま路上で気を失ってしまった。



 目覚めると、どこかの部屋の中だった。

 俺はベッドに寝かされていた。

 起きようとしたが、なぜか体に力が入らない。

 手を握ってみるが全然力がこもっていない。

 それに、寒気がしてなんだかとても気持ちが悪い。


「ケイン、大丈夫か」


 この声は、ジャックさんだ。

 俺の枕元で覗き込んでいる。


「ああ、ジャックさん、俺は?どうなったの?」

「路上で気を失って、衛兵に船まで連れて来られたんだ。とりあえず陸のほうがいいだろうと言うことで、いつもの宿で個室を取って運び込んだ。どうだ、痛むか?」

「そうですか、ありがとうございます。痛むというより、なんか寒気がして力が入らない感じです」


 それに、魔法が使えなかったりよろけたりしたのも今考えると前兆だったかも知れない。俺が、怪我以外に体調を崩していることは明らかだった。


「そうか、怪我に加えて病気とは困ったもんだな。よし、ひとっ走り医者を呼んでくるぜ」


 そして、ジャックさんは部屋のドアを開け放ったまま出て行った。

 そうだ、怪我ならば……

 とはいえ自分自身に治癒魔法をかけることは難しい、魔法をかける主体である自分が、自分の精神体と肉体を操作するというのは、そこそこ使い慣れたはずの俺でも難しい。何より、今まではその機会が無かった。ちょっとした傷ならば肉体強化で自然治癒するままに任せていたのだ。

 結局、肉体強化しかないか。

 俺は、それこそこの1年以上、使い慣れた肉体強化魔法を発動する。これぐらいなら杖なしで今のような状態でも失敗は無かった。

 それまで感じていた、背中や腕や足の痛みが若干薄れたような気がした。

 だが、全身の悪寒と倦怠感は続いている。

 俺は眠ることも出来ずそれらの不快感に耐えていた。


 いつの間にかすこし眠っていたのだろうか、気がつくとジャックさんに体をゆすられていた。


「おお、ケイン、気がついたな。医者を呼んできたぞ」


 医者、といってもこの暑いところだから白衣じゃなくて、普通の半そでの、色ばかりは白のシャツを着ていた。

 医者は俺に色々症状を聞き、熱を計るなどして結論付けた。


「これは、熱病ですな。このあたりの、暑い地域のものはかかってもこれほど高熱にならないのですが、稀に北方の、寒い地域から来るものなどが高熱を出すことがあります。場合によっては命を失うこともあります」

「せ、先生、ケインは……なにか薬は無いんですかい?」

「まあ、この子の場合は健康そうだし、命にはかかわらんでしょう。だが一週間ほどは様子を見ないと、いったん熱が下がってもぶり返す恐れがあります。ま、それまでは安静にして下さい。薬は熱を下げるものがありますので……よろしい、出しておきましょう」


 さすがに保険診療とかは無いので、単なる解熱剤を出すだけでも銀貨を要求された。だが、航海中の病気は船主に治療の義務があるそうなので、往診の費用と込みで、船長が出してくれるらしい。

 それはありがたいが、問題は期間だ。


「熱病ということは、いくら軽いとはいえ、船には乗せられねえな」

「そうですね」


 とりあえず薬を飲んで、しばらくするとちょっと楽になったような気がする。


「こりゃあれだな、今回はケイン抜きで船を出さなきゃいけねえかもな」

「そうですね、ご迷惑をおかけします」

「なに、病気じゃ仕方ねえさ。ま、俺が船長に報告しておくからゆっくり休んでろ」


 俺一人のために、船の出港を遅らせるわけには行かない。ただでさえこの港はトランドにとっては出港のタイミングが1日おきにしかないのだ。それに、たとえ熱が下がったとしてもしばらく病原菌を周囲に撒き散らすことになるだろう。狭い船の中で熱病が蔓延したら大変だ。

 魔法士無しでの航海は色々不便をかけるだろうが、今回はそうしてもらうしか無いようだった。

 俺は薬が効いてきたのか、そこまで考えたあたりで意識が途絶え、眠りについた。



 次に目が覚めたのもやはりジャックさんに起こされてのことだった。


「ケイン、臨時で魔法士を雇うことが出来たそうだ。だからアリビオ号のことは心配すんな」

「そうですか。それは良かった」

「ま、西へ行くのはその魔法士に任せて、お前は治ったらアンティロスで待っててくれよ」

「ええ、そうさせてもらいます」


 その魔法士とはマーリエ海を一周してセベシアまでという契約になったそうだ。だから実際にはここで待っていてもいいのだが、滞在費用がかかる。出来れば完治したらアンティロスに戻っておきたい。

 ひょっとしたらその魔法士がすごく優秀で、俺がお払い箱にされるかもしれないな、とふと思った。だが、きっと病が気を弱くしているのだと思い直して、とりあえず肉体強化魔法に集中した。

 意識のあるときは常にそうしているのだが、もう怪我のほうはかなり治ってきた。病気に関しては自分の体と病原体の両方を強化してしまうので、あまり効果は無いが、少なくとも体力の消耗を防げることだけは確実だったので続けている。


 それからもたびたびジャックさんは顔を出してくれたが、一度ジャックさん自身には移らないのか気になったので聞いてみた。


「まあ、人族でもドワーフ族でもかかる病気はあるが、そうじゃないのもある。それに俺は今まで病気らしい病気はしたことが無い」


 とのことだった。

 とりあえず元気そうだし、あまり何人も来て熱病がその人にうつってもいけない。俺は信用することにした。


 魔法士を臨時で確保したアリビオ号は、予定通り5日の滞在期間でセベシアを出港した。

 こうして、俺は一人、病床で取り残されることになった。

今回の豆知識:


帆船時代の船医はだいたい外科医で、しかも複雑な手術をする腕は無いのが普通です。

せいぜいすばやく木片が刺さった手や足をのこぎりで切り取り、患部の壊死を防ぐ程度のことしか出来ませんでした。

ということで、今回ジャックは町の医者を呼んできたわけです。

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