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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第二章 13歳編 ローブを纏った航海士
32/110

一人前

新章開始です。

ちょっと短めですが、時間経過に伴う状況説明中心なので勘弁してください。

今後は一応毎日12:00更新で行こうと思います。

その分、長さは変動すると思いますがよろしくお願いします。

 すっかり定宿となってしまったリッケンの高級宿で、俺は師匠に恒例となったマッサージをしていた。

 例の一件があったので、あれ以降は師匠とは別の、ちょっと格の低い部屋を自分でとることにしたものの、それまでと比べれば倍になった給与のおかげで、それは大した負担にはならなかった。

 船員の方も、あれ以来そうした噂にはなっていないようで、半年以上前のこととはいえ、パットの爆発が印象に残っているらしい。

 と、そんな話をジャックさんにしたら、笑って切り返された。


「いやあ、ケインが海賊相手に暴れまわった姿を見てりゃあ、そんな不届きなことを言い出す奴なんかいやしねえぜ」


 どうも、あの海戦以後、大暴れした俺とジャックさんになにやら物騒な二つ名がついているらしい。

 いわく、「豪腕ジャック」に「魔人ケイン」だそうだ。

 「魔」という魔族を想像させるようなあだ名がついたことは、一瞬ドキッとしたものの、魔法の魔ということらしく、そう心配することも無いらしい。


 今回のマッサージは、実はかなり念入りにやっていた。

 というのも、師匠が、アンティロスに帰ったら引退して船を下りると宣言したからだった。

 あの海戦以後、アリビオ号のマーリエ海の周回航行は三周目になっている。

 最初の一周で、予定通りカルロスが正式に航海士として登録され、二等航海士となっている。

 二周目では、季節のために南に移動してきていた無風帯に引っかかって思わぬ低速での航海を強いられた。

 そして今回の三周目は、今のところ順調に推移している。

 ここまでの三周で、途中無風や嵐にはあったが、目だった海賊襲来は無かった。

 このことには、アリビオ号の改装の恩恵もあるかもしれない。


 それまで長砲を8門、短重砲を2門であったのを、思い切って長砲4門、短重砲6門に入れ替えたのだ。

 短重砲は、打ち出す砲弾こそ重いが、砲身が短いために長砲の半分から3分の1程度の重さでしかない。

 そのため、アリビオ号は軽量化を果たすことになった。

 乾ドックでの整備で船底もきれいにされ、海草やフジツボが張り付くのを防ぐ銅版も新品が張りなおされたアリビオ号は、軽量化の恩恵もあって往年の快速船本来の速さを取り戻していた。

 やや脳筋の気のある船長などは渋っていたものの、今回の改装についてはフランシスコさんの指示で行われたので、反対など出来るはずも無かった。


 俺の方といえば相変わらず、師匠に教えを請いながら、魔法士として、また航海士見習いとして船での仕事に忙しかった。

 魔法はかなり修行が進んだこともあって、物質、力の物理系魔法、師匠から教えを受けた治癒魔法、そしてこれはエルノーさんの本屋で買った本を読んで、独学で勉強している情報系魔法をちょっとかじった程度だ。

 情報系魔法、というのは師匠もあまり詳しくないらしいのだが、精神界にほんのわずかに干渉して、精神体の情報を読み取ったり、精神界を介して情報を送ったり、精神界に情報を保存したりする魔法だ。

 習熟すると、遠距離の思念伝達をしたり、遠方の状況を把握したりと色々航海にも使い道がありそうなので、現在仕事の合間を見つけて研究中だ。

 け、決して、パットと離れていてもお話できるから情報系を選んだってわけじゃないんだから、勘違いしないでよね。


 おっと、取り乱してしまった。失礼。

 パットといえば、次の一回り中には16歳になるはずだ。今回早めのお祝いとして、あらかじめリッケンで何か贈り物でも見つけておかなければいけない。

 俺のほうといえば、パットから1ヶ月弱遅れぐらいで14歳ということになる。

 実は、誕生日をどうしようかということについては2つの候補があった。

 1つは、地球での俺の誕生日、9月13日を誕生日としてしまうことだ。だが、神様が12歳と言っていたのだから、実際には俺がこの世界にやってきた日を基準とすべきかもしれない。これがもう1つの候補だった。

 無人島は2ヶ月ちょっといた。だから後者だと考えるなら、俺の誕生日は1月ということになる。

 だが、どちらか選べると言うのなら、俺はせっかくだから赤……じゃなくて、9月のほうを選ぶことにした。

 肉体年齢はともかく、記録としては早く年を取るほうが昇進その他の面で有利だと判断したからだ。

 け、決して、パットと年が離れちゃうのが嫌だからってわけじゃないんだから、勘違いしないでよね。


 おっと、また取り乱してしまったようだ。重ねて失礼。

 そんなわけで、俺ももうすぐ14歳になり、師匠も引退ということで、俺もアンティロス寄港時点で、正魔法士に任命されることになっていた。

 確かに年齢的には早いほうだろうが、治癒魔法も使いこなし、また航海士見習いとしての経験もある俺ならば、十分やっていけるだろう、というのが師匠と船長の判断だった。


 一方で問題が無いわけでもない。

 さすがに正魔法士と正航海士を兼任することは、業務量的にも難しいということだ。今は師匠と俺が手分けして行っている、水の確保、調理用の熱の発生、けが人の治療、衛生管理、船底汚水溜りの水の除去、凪いだときの風の発生、毛玉のモフモフなどの業務を、一人でやらなくては行けないのだった。おっと、最後のは重要任務だ。ケダマスライムの健康状態を確認して、異常があれば対処しなくてはいけない。

 け、決して、モフモフして癒されたいってわけじゃないんだから、勘違いしないでよね。


 おっと、さらに取り乱してしまったようだ。ここはもはや土下座する勢いで失礼。

 あとは、俺が発見したのだが、ビスケットを得意魔法となった陰魔法で冷却すると、コクゾウムシの発生を抑えられることがわかった。まあ、これによりさらに日常業務が増えただけだったが。

 ともかく、そのような魔法士の業務を一人でこなし、同時に2直6交代で当直に立つというのはなかなかに忙しいことになる。

 そのあたりをどうしようか、結論はまだ出ていないが、とりあえずは次の航海は航海士見習いのままにして、メインを経験豊富な一等航海士のリック、サブを俺、もう一直はメインをカルロスとサブを新しく入った航海士見習いのマルコで回すということになった。

 俺の当直は、最悪魔法士の業務で抜ける分には咎め無しということで、様子を見ることになっていた。


 ともかく、そんな感じで、俺にとっては四周目の航海は、残すところアンティロスへの20日ほどで区切りがつく。そして、師匠の40年近くにわたる航海の生活は終わりを告げる。

 俺は、感謝の気持ちを込め、力強く師匠をマッサージしていく。


「いててて」


 おっと、強すぎたようだ。いかんいかん。

 成長に伴って筋肉のついてきた俺では加減しなくてはいけないということを忘れていた。


 ともかく、そのようにして、リッケンでの夜は更けていったのだった。

今回の豆知識:


パットの誕生日は8月18日です。と言うわけで、1ヶ月弱の間、主人公とパットは3歳差となります。

け、決して、年上が嫌ってわけじゃないんだから、勘違いしないでよね。

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