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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第一章 12歳編 右手に杖を、左手に羅針盤を
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目覚め

 目覚める前に見た夢は、不思議と頭に残るものだ。

 なんだか怖かったり、悲しかったり、ふしぎと満ち足りた気持ちになっていたり、そういう感情の残滓と一緒に、何らかの風景が思い出されたりする。

 今日は、なんだか安心して目が覚めた。


 そうだ、異世界、神様。『運命』の敵。

 はっとして起き上がるとそこは砂浜だった。

 日差しは高く、目の前には青い海、遠くで海鳥の鳴き声がする。

 

 服装は交通事故のときに着ていた緑のTシャツとズボン。今は体が縮んだようで、足先は出ていないし、Tシャツはぶかぶかだ。

 部下の服がぶかぶか。

 ふと、そんなネタを思い出したがあれはどこで聞いたのだったか。


「ともかく、状況を確認しよう」


 あえて声を出してみた。日本語じゃなかった。


「そうか、これが言語能力というやつか」


 というかむしろ日本語忘れてるんじゃないか?これ。

 試してみた。

「空」「スカイ」

 そう思って口に出した言葉は、耳から聞くと同じ音に聞こえた。

「インフォームドコンセント」「納得診療」

 あの悪名高き、政府が無理やり日本語化した外来語も同じ音に聞こえた。が、こちらはなんか不思議で意味の無い音にしか聞こえない。

「野球」「ベースボール」

 これもやはり同じ音ではあったが、意味の無い音にしか聞こえない。


 とりあえず、いろいろ試してみた結果、思考的には日本語で考えているらしい。エ○ァも日本語をベースに操縦できそうだ。

 ただし発生する言葉としてはこちらの言語になっているようで、なんかご都合主義っぽいけど安心した。やはり日本語・英語など地球での言葉は発音できなくなっており、完全に言語能力だけ入れ替わったようになっている。

 あと、こちらの世界には野球もインフォームドコンセントも無いらしい。医者にかかるときには注意しなければ。


 すそを二重にまくり上げて、とりあえず立ってあたりを見回してみる。

 日差しは高く、少なくとも亜熱帯~熱帯であることは間違いないようだ。

 目の前には海、ときおり潮風が強く吹き付けてきて湿度の高い空気だが気持ちいい。

 砂浜はそこそこ広く数百mほど続いており、両端は岩場になっている。

 陸地側はしばらく行くと熱帯の植物がうっそうと茂っており、遠くには高くなっている場所も見える。

 植生的にもここは南国ということで間違いないだろう。


「とりあえず移動するか」


 残念なことに部下、じゃなかった靴もぶかぶかだったので、とりあえず砂を詰めて履けるようにする。

 ジャングルではだしとか、危険性を考えたらしゃれにならない。


 優先すべきは水の確保、それと食料の確保、それとなにより重要なのは人里を探すこと。

 12歳の身ではよほどの事情が無い限りは一人で生活などできないだろう。

 人里で何か手伝いでもして日銭を稼ぎながら、この世界での生活を始めよう。

 さあ、新たな人生のスタートだ。


 結論から言おう。

 無理だった。

 高台に上ってみたところ、ここが無人島だったことがわかった。

 高台が島の中心で、半径1km程度、丸い島だった。


 幸いなことに、湧き水が出るところが発見できたことと、南国的なマンゴーのような味の果実やレモンのような果実が発見できたことで、当面の食料はなんとかなりそうだった。

 いわゆる大型動物に遭遇しなかったことも幸いだった。もちろん蛇とか虫とかに遭遇して肝を冷やすことはあったが、それも別段攻撃的ではなく、ひとまず危険ではなさそうだった。

 大型動物がいないということは、たんぱく質が取れないことでもあるが、ここは幸い海に囲まれているため魚を獲れればなんとかなるだろう。


 問題は、見渡す限り海しかないということだ。


「ああ、これはロビンソンクルーソーみたいにがんばるしかないか」


 今は晴れ上がっているが、熱帯ということは雨が多いはずで、夕方から土砂降りということも考えないといけない。というかよほど雨が降らなければ熱帯植物のような植生はありえないから確実だ。


「とりあえず雨をよけるところだな」


 定番は洞窟のようなものが探せればよいのだが、そうでなければ木で骨組みを組んで葉っぱで屋根を作るなども必要かもしれない。

 虫や蛇のことを考えると、地面がむき出しになっているところ、可能性としてはこの高台か砂浜だろうが、どちらも一長一短ある。

 砂浜は下が砂のため横になったときに楽だろうが、土砂降りや潮によっては水が浸入する、あるいは流される恐れがある。一方高台は下がごつごつした岩場で寝るのに不便なことと、風が強くてすぐ屋根が飛ばされそうだ。

 洞窟にしても、虫や蛇の来襲を考えると完璧とはいいがたい。


「ともかく動くか。行ってないところを見てみよう」


 すでに日が傾き始めているので、地球と変わりないとすると東と思しき方向に向かって高台を降りる。最初の砂浜は西のほうで、つまり朝のうちは森と高台にさえぎられて日差しが無かったわけだ。

 比較的開けたところを選んで、しばらく森の中を進むと海岸に出た。

 こちらも砂浜になっていることは高台から見てわかっていたが、そこで思いがけないものが見つかった。

 砂浜のすみっこに乱雑に放り出されているのは、木片とロープ、汚くなった厚布などだった。


「これは明らかにごみ捨て場だよな」


 砂浜に散らばっているならあるいは漂着物の可能性もあったが、こうやってまとめられているのを見ると人為的なものだ。


「すると、希望がないわけじゃないのか」


 誰かがこの場所でごみを捨てたということは、絶海の孤島……では確かにあるのだが人が立ち入らないような場所でもないということだ。

 ここに来て意外とイージーモードになったのかもしれない。

 そりゃあそうだ。

 神様がわざわざ転移させてくれたんだから無人島で孤独死なんてのはないだろう。

 大丈夫、きっと助けがくるはずだ。

 そう思って、廃材の中から使えそうなものを選び、ロープで枠組みをつくり、厚布(おそらくは帆布だろう)を使って即席の屋根を作る。

 そうして夕方になり、やはりスコールがあったが、なんとか雨宿りはできた。

 それまで蒸し暑かったのが、なんとか過ごしやすくなった。

 本当は昼間にかいた汗で気持ち悪かったのだが、その日は疲れ果てていたので泥のように眠った。助けがくるかもしれないという希望で安心したのもあったかもしれない。


 甘かった。

 あれから1ヶ月経っているのに、助けは一向に来ない。

 とりあえず熱帯なので1ヶ月経っても冬になったりはしないが、数日前から雨季に入ったようで、雨が多い。

 幸い、こっちの東海岸に近い水場と果樹の場所は発見でき、雨の中なんとか食料は確保できた。

 問題はたんぱく質不足だ。潮溜まりで小魚をとる程度のことはできそうだったが、生で食べるというのはやめたほうがよいだろうから火をおこす必要がある。

 廃材と倒木、落ちている枝を集めて何とか燃料になりそうなものは確保したが、木の摩擦で火を起こすというのは難しい。

 木の棒に重りになるような石を巻き込んで帆布の切れ端でつつみ、ロープの切れ端で固定した。ほかの木切れの両端にロープを結んで棒の尻の部分で固定、即席の火起こし棒を作って廃材に使ってみた。

 頭から煙が上がるほどがんばってみたが、なかなか成功しない。一度何とかして火をおこせたことがあり、そのときは感激のあまり飛び上がったが、残念ながら燃料につかえる良い木というものがあまり無く、四六時中火をつけっぱなしにするわけにもいかなかった。

 さらに雨季に入って湿度が高くなっているせいか、それ以降なかなか火をつけられなかった。

 ということで、現在食料・水ともに底を突きかけており、おまけに即席の屋根の下まで水がしみてくる状態で俺の心理状態は最悪だった。


「水は雨があるから何とかなるけどな」


 屋根に使った以外の帆布を、砂浜に穴を掘ってくぼませたところに敷き、何とか水溜りを作って飲み水は確保できた。最初は帆布から汚い油が滲み出してきたのを何回も捨てて、いまではそれなりに油臭いものの飲み水は確保できている。


「問題は火だよなあ」


 結局そこに行き着く。近くの潮溜まりで魚は確保できるが、こんな状態で生魚を口にすると危険だ。だが、最終的にはそうしないといけないかもしれない。


「こんなことなら晴れているうちに干し魚にでもしておくんだったな」


 後悔しても遅かった。

 結局手詰まりなのだ。


 ふと、思い出した。


「そうだ、魔法」


 そうだった。

 ずっと無人島生活的な、ロビンソンクルーソー的な思考でやってきていたが、俺の今の状況とでは決定的な違いがある。

 こちらはファンタジーの異世界だ。

 魔法で火だって水だって出せるんじゃないか。


 ためしに、魔力(的なものが体内にあると仮定して)を練っ(たような感じで想像し)てそばにあった乾いた廃材に火をつける(ようなイメージで手をかざした)。

 廃材から光が漏れ出した。


「おお、火が……」


 光っただけだった。

 ちっとも熱くなってなかった。


「なんでやねん」


 思わず関西人でもないのに関西弁が出た。

今回の豆知識: 異世界にはインフォームドコンセントは無いので医者にかかるときには注意。

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