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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第一章 12歳編 右手に杖を、左手に羅針盤を
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ケイン・サハラとしての戦い

前話ラスト2行削ってます。

サブタイにあわせる形でねじ込んでいたのですが、主人公があんまり自慢げなのもキャラじゃないと思い直して変更しました。変更前に読んでいた方ごめんなさい。

その代わり、という感じで今回のサブタイトルはこんな感じになりました。

 戦いは続いている。

 セベリーノ号の混乱は、だが全体にまでは及ばなかったようで、ばらばらながら砲撃が返ってきた。

 船体を震わせる衝撃、そして甲板にも1発飛び込んできて、後ろの方で木片が飛び散るのが見えた。

 一瞬おくれてこちらの砲撃、これもばらばらだったが、3発の砲が火を噴いた。

 2発命中、1発は後部の砲門近くにあたり、もう1発は後部甲板に飛び込んだようだった。


 3発あったということは師匠もパットも無事ということだ。

 3発しかなかったということは、大砲がひとつやられたかもしれない。

 混乱と、砲煙がたなびく暗い船上で、甲板の後ろの方の状況ははっきりしない。


 俺は心配になったが、今の持ち場もある。

 装填が終わるまで待機しながら俺は、火災防止のため水が含まされ、皆がはだしで歩くので汚くなっていた帆布に自分の杖を押し付けていた。

 じわっと水が染み出してくる。


 セベリーノ号の状況を確認した船長が大声を張り上げた。


「帆を広げろ、離脱する」


 たちまち、ヤードで待機していた船員が端から帆を開いていく。

 砲撃開始前には索ははずされており、このまま行き足がつけば混乱したセベリーノ号は振り切れるという判断だろう。

 帆を張ったアリビオ号は少しずつ動き出した。

 となると次は海賊船だが……


「まずい、もう動き出してやがる」


 耳元でジャックさんがうめくように言った。

 あわてて前方を見ると、すでに帆を張っていた海賊船は、若干距離があるが、こちらの進路を押さえるようにして動き出したところだった。


「右へ転進、海賊船に左舷を向けろ」


 船長の指示が飛ぶ。


「各砲は海賊船に狙いをつけたまま待機。長砲は弾丸を鎖弾に変更して装填しろ」


 鎖弾は丸い弾丸が半分に割られ、それが鎖でつながれている構造だった。鎖ごと打ち出して、帆を破り、索具やマストにダメージを与える目的で使われる。俺の担当の重短砲にはその弾種は用意されていなかったので、こちらはそのままだ。

 海賊船との距離は重短砲の射程ぎりぎりのようだが、その前に方向を合わせないと撃てない。まだそれほど行き足の付いていないアリビオ号では、旋回もゆっくりだった。


 そのとき、船に砲撃が走った。何かが船の中、足の下を転がっていく音が聞こえ、後ろの方から悲鳴と怒号が聞こえた。

 走ってきた水夫が大声で船長に報告する。


「セベリーノ号からの砲撃で、舵がやられました。装舵手も1人が吹き飛ばされ、もう一人も血まみれで重傷です」


 後ろからの砲撃。

 恐れていたことが起こった。

 舵を破壊した砲弾は、そのまま下甲板を転がっていったのだろう。

 おそらく士官室はむちゃくちゃだろうし、前の方にも被害が及んでいるだろう。

 ほぼ全員が上甲板に出ているのが不幸中の幸いだったかもしれない。


「……やられたか。よし、リック、リックはいるか?おまえは長砲列の指揮をカルロスに引き継いで、舵の状況を確認。修理できそうなら……」

「船長、カルロスは負傷です」

「なにっ……重傷か?」

「そうですが、治癒魔法のおかげで、気を失ってはいますが助かります」

「むう、すぐに復帰は無理か……よし、砲列は俺が引き継ぐからリックは行け」

「はい」


 カルロスが……いや、助かったというのだから大丈夫だ。

 それより舵が気になる。このままでは前から海賊船、後ろからセベリーノ号の砲撃にさらされることになる。非常にまずい。

 だが、船足はこちらの方が速いからだろうか、徐々に海賊船は左舷前方を併走する形になってきており、こちらの左舷と右舷で相対する形になった。距離は100mほど、至近距離といえる。


「よし、撃て」


 船長の号令の元、海賊船にアリビオ号の砲撃が発射された。

 だが、うっすら明るくなってきた海上で、海賊船上に目立ったダメージは与えられなかったことがはっきりわかった。


「やはり動きながらでは勝手が違うか」


 ジャックさんがため息をつく。比較的正確に狙いをつけられたセベリーノ号への砲撃は停泊中だったことも影響していたということのようだ。


「ええ、ですが次は必ず」


 そうだ、こちらに戦える手段があるうちは何とかなる。仮に切り込みがあったとしても、俺の魔法を使って、そのときは暴れまわってやる。

 と、そこまで考えたときだった。

 敵船の方から大砲の発射音が聞こえ、一瞬後に近くでなにか砕ける音が聞こえた。とっさに目をかばった俺は痛みを感じるのと同時に吹き飛ばされた。

 全身が衝撃で圧迫されて一瞬息が止まる。顔や首、胸、腕、そして足が燃えるように熱くなって痛みが走った。


 痛い。

 頭の中はそのことだけに占領されたまま、俺は甲板に打ち付けられ、転がった。


 痛い。

 俺は衝撃で耳鳴りがして、全身の痛みに耐えていた。


 痛い。

 漂う砲煙に咳き込みながらも、おれは呼吸を回復し、何とか息を、酸素を取り込もうとする。


 痛い。

 しばらくそのままで、ようやく動けるようになってから見ると、全身こまかい木の破片が刺さっていて、左腕に刺さった大き目の破片のあたりからは血が滲み出していた。左足のすねの部分も破片にぶつかったのか、裂け、血が流れ出していた。


 痛い。

 かばったおかげで目はやられていなかったが、全身に痛みを感じている。


 痛い……ということは……

 痛みを感じられるうちは、まだ動けるっていうことだ。


 俺にはもう諦めるという選択肢はない。

 そんなのは師匠にだって、パットにだって、カルロスにだって、あるいは『運命』にだって笑われちまう。

 出来る限りやる。

 いや、出来なくても出来る方法を見つけて、やる。

 そうやって、俺は俺として生き抜いてやる。

 そう心を決めた俺は、ひとりでに、自分でもわけがわからず叫んでいた。


「あああああああああーっ!」


 その声は周囲の怒号にまぎれたのか、気にとめたものは少なかった。

 だが、


「おい、ケイン、傷むのか?」


 声をかけてきたジャックさんは、やはり木片で怪我を負っていたが、動くのには支障が無いようだった。


「……いえ、大丈夫……ちょっと……気合を入れていた……だけです」

「そうか、ダニエルさんを呼んで来るか?」

「いえ……そういうわけにも行かないでしょう」


 海賊船はもう20mほどに寄せてきていた。


「手と足は縛って止血しておいて、俺も戦います」


 ジャックさんは何か言いたげだったが、結局うなずいて、俺の肩を叩いた。


「よし、わかった。じゃあまず腕に刺さっているのを抜くから、ちょいと我慢しろよ」


 そして、ジャックさんは俺の左腕の木片に力を込める。

 激痛が走るが……、なんとか我慢する。


「本当は消毒とかした方がいいんだろうが……とりあえずこれで血は止まるはずだ」


 ジャックさんは傷口を布で覆い、さらに腕の上の方を固く縛ってくれた。

 結局、最初の航海でだめになってしまったか。と、俺にはリッケンで買った上着のことを考える余裕があった。


「よし、足もこれで何とかなる。早めにダニエルさんに見てもらえよ」

「はい」


 そこで、船に衝撃があった。

 海賊船が船ごとアリビオ号にぶつかってきて、そのまま接舷しようとしている。

 ちょうどぶつかったのが船首と船首あたりだったので、双方のバウスプリットが交差し、索具が切れて帆が破れ、絡み合った状態になっていた。

 衝突の衝撃で離れようとする船の間に、鉤爪の付いたロープが投げられ、巻き上げ機で引っ張られながら再び2船が近づく。

 板でできた足場が渡され、こちらに海賊が乗り込んでくる。

 場所は、船首部分。砲撃で崩された重短砲のあったあたりより、さらに前だ。


 俺は立ち上がり、足場を歩いてくる海賊に魔法をかける。

「冷気よ」

 一瞬苦しそうな顔をして力が抜け、海賊は足場から海へ落ちていく。

 しかし、すぐ後続が来ている。

 魔力を自分で操作して目標に照準を合わせている状態で、とっさにすぐ魔法が間に合わない。

 だが、

 キイン、と金属同士が打ち合わされる音。

 そう、俺はどこかへ飛んで行ってしまった杖ではなく、カットラスを右手に持って魔法を使っていた。

 発動補助として使うわけではないから素手と変わりないが、それは見張りを倒すためにやったことと同じだ。


 俺は、敵の2撃目を待つことなく、魔法を発動した。

「冷気よ」

今回の豆知識:


舵は、舵輪を使うようなイメージではなくて、長い棒を使って、2人がかりでてこの原理を使って

曲げるようなイメージです。艦橋が遠い動力船とか、小さい船とかならともかく、この規模だと人員が多いし

そっちのイメージの方が合うかなという判断です。

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