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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第一章 12歳編 右手に杖を、左手に羅針盤を
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航海魔法士としての戦い

ちょっと修正、ラスト2行削りました。

あんまり主人公が自慢げにするというのもおかしいかなと考え直しました。

 正直、思い返してみればかなり綱渡りだったが、何とか全員を救出することができた。

 師匠とパットは、魔法士ということで手を縛られ、呪文を唱えられないように猿轡がはめられおり、杖も取り上げられていた。他の士官も手を縛られており、抵抗できないようにされていた。

 パットは、助け出されて横たわる見張りの体を見てビクッとしたが、自分で口を押さえて声が漏れるのは防いでいた。

 深呼吸をして気持ちを落ち着けてから、心配そうに見守る一同に声をかけた。


「……大丈夫……大丈夫です。ケイン、ありがとう、あなたが助けてくれたのね?」

「うん、だけどまだ終わっちゃいない。後で計画を話すから……」

「ええ、いけるわ。出来ることがあったら言って」


 と、顔色は青ざめていたがしっかりした口調で答えてくれた。

 師匠は、助け出されると士官室の惨状を見渡して、


「やれやれ、わしが育てとったのは航海魔法士であって暗殺者じゃないんじゃがのう」


 と、さすがに年の功だけあって軽口を口にする余裕があるようだった。

 師匠はそこで俺にだけ聞こえるように声を潜めて、


「まあ、このくらいではパット以外に気づくものはおらんじゃろう。じゃが、単節、杖無しで血流を止めるほどの熱を奪う陰魔法か……大丈夫、パットには後で言い含めておくわい」


 と、約束してくれた。

 そんなやり取りをしている間に、カルロスが船長やリックに状況と計画を説明していた。


「魔法士と掌砲長、あと各砲の砲手長をここへ」


 船長からの指示により、呼ばれたメンバーは士官室艦尾側に集まった。

 今は深夜2時ぐらいだろうか?夜明けまでの時間は4時間ちょっと、実際に太陽が出るのは7時前ぐらいだったと思うが、薄明かりになるのはもうちょっと前のはずだ。

 だが、午前4時には向こうの船で当直の交代がある。

 さすがにその前後は向こうも活動的になるだろうし、出来ればその前に計画を実行に移したい。

 時間はあまり無かった。


 俺とカルロスから、一同に計画を説明する。

 船長は考え込んでいる様子だった。残りのものは船長の判断が下されるのを、固唾を呑んで見守っていた。


「ダニエルさん、可能か?」

「うむ、わしも最初は聞いて驚いたが、魔法士の使いどころとしては間違っておらん。正直なところ、そんな使い方は思っても見なかったというところじゃ。いや、ああ、可能かといわれれば可能じゃ。問題ない」

「よし、ならば後は計画だが、俺の方からいくつか修正を加えた案がある。聞いてくれ」


 一同は改めて船長に注目する。


「まず、目標だが、左舷やや後方にセベリーノ号が位置している。こちらは至近距離といっても良いし、索で当船とつながれている。一方の海賊船は左舷前方にやや離れて位置している。こちらが索を切って帆を張って逃げ出したところで、余裕を持って砲撃を加えられる位置だ」


 海賊船はやや遠いので、こちらから詳しい様子はわからないが、無警戒ということも無いはずだ。もともとこの南の海域で、単独で海賊行為を行っていた船である。そのような油断は命取りとなる。


「一方で、海賊船に気を取られていると背後からセベリーノ号の砲撃を受けることになる。乗員の錬度は高いだろうし、砲の射程も長い。こちらも捨て置くわけにはいかない」


 帆船でどこが一番弱いかといわれれば後ろだ。前後に長い船を後ろから砲撃が貫いた場合、一発だけで全員が戦闘不能になる恐れもある。


「そこで、我々はまず索を切断した後、セベリーノ号に砲撃を加える。砲撃にはケインの案を採用し、可能な限り混乱を与える。十分だと判断したら展帆して、海賊船に対する。海賊船からは砲撃が来るだろうが、可能であれば鎖弾を使用して帆に損傷を与えてそのまま逃げる」

「船長」

「なんだ、リック」

「セベリーノ号には鎖弾ではだめなのですか?」

「鎖弾は帆に対して使うものだ。セベリーノ号の場合は奇襲なので、そもそも帆を張らせてしまってはこちらの負けだ。その前に砲列を叩いて混乱させることが目的となる」

「理解しました」

「他には無いか?」


 皆考え込んでいるようではあったが質問は無かった。


「では、続けて準備の手順だが、まず下に行って予備の帆を全て甲板に上げる。砲車の下に敷く。軸のきしみはどうしようもないが、甲板を転がる音は抑えられるだろう。そして次に、右舷の重短砲を左舷に移動させる。旧型の砲車が付いている型で助かったが、そちらも帆布を敷いて音を立てないように注意せよ。これで左舷側はそれなりの火力になるはずだ」


 長砲は重く、人員が多く必要なので難しい。だが、新兵器の重短砲であれば、砲自体の重量は軽く、移動させるのも難しくない上に、この至近距離であれば絶大な威力を発揮する。

 さすが自分で音頭を取って導入した重短砲の使い方を、船長は熟知している。


「では発火の担当だが、魔法士に2門ずつ受け持ってもらうことにする。後部2門はパトリシア、前部2門をダニエルさん、そして重短砲2門はケインにやってもらう」

「はい」「うむ」「了解」

「では、音を立てずに準備を始めろ」


 そして、深夜のアリビオ号が息を潜めながら牙を研いでいく。

 皆疲れきっているはずで、慣れない作業に苦労している様子だったが、不思議と目は生き生きとしていた。絶望から希望への、ほんのわずかだとしても道が開けたのだ。そのせいかもしれない。


 帆布を敷くという案は副次的に甲板上のものが見やすくなるという効果もあった。それによって大きな物音を立てることなく、あとすこしで準備が完了するというそのとき。


 カン、カン、カン……


 遠くから鐘の音と、それに続いて船内を人が行き来する音が聞こえてきた。


「八点鐘か、交代の時間だな」


 近くに居たジャックさんが身を伏せたままつぶやいた。


「すこし時間を空ける必要があるかもしれませんね」

「ああ、だがそうこうしているうちに夜が明けちまう。難しいところだな」

「ええ」


 作戦は、今回ばかりは艦尾ではなく甲板中央、メインマストの付近まで出てきた船長の合図で開始となる。

 船長はやはり身を隠しながら望遠鏡でじっとセベリーノ号を観察している。セベリーノ号はこちらの斜め後ろ側に、右舷をこちらに向けて停泊している。

 こちらはほとんど明かりが無いが、向こうは発砲の体制のまま待機しているようで、開けた砲門から中に明かりが付いているのがわかる。ジャックさんほど夜目が利かないにせよ、ある程度の様子は見て取れる。


 しばらく、そのままでじりじりとしながら時間が過ぎるのを待つ。


「各砲、狙いを定めろ。目標はセベリーノ号砲列甲板」


 ついに命令が下った。

 俺は、右耳だけに切れ端の布で作った耳栓を込める。

 ふさいでおかないと耳をやられるのだが、左耳は手でふさげば何とかなる。


「初弾は砲車を押し出さずに撃ち、可能な限り早く次弾を装填、あとは命令あるまで各自セベリーノ号へ砲撃を加えろ。掌帆長、展帆の準備はいいか?」

「大丈夫でさあ」

「よし……全砲、撃て」


 俺は、左耳に指を詰めて、右手の杖で大砲の炸薬の位置にめがけて魔法を放った。

「火よ」

 そして、闇夜の中轟音が響いた。

 もう一門。

「火よ」

 続いて、同じく重い砲弾を打ち出す低い轟音が響く。

 本当はこの程度の威力なら無言でも何とかなるが、それでは砲手達をびっくりさせることになる。俺はあえて威力を抑えて陽魔法を火として放っていた。


 残念ながら2発とも上に外れ、マストの間を縫って暗闇に飛んでいった。

 師匠とパットの4発は、1つが後部甲板を掠めて手すりを壊し、もう1発は砲列甲板の下の船体に当たった。被害状況はわからないが、長砲では船体には大した被害を与えられない。頑丈な軍船ならばなおさらだ。

 セベリーノ号では、鐘が連続で打たれて乗員が戦闘配置についているようだった。数人は早くもマストに取り付き、帆を広げようとしている。砲列甲板や後部甲板、舷側通路などで明かりが移動して、人が行き来しているのがわかった。


「心配するな。まだ操作に慣れてないだけで次は当たるさ」


 近くに居たジャックさんが声をかけてくれる。

 こちらの船もさっきの一撃のあと明かりがともされ、マストに登っている水夫もいる。大砲の担当は砲身の燃えカスを掻き出し、次弾装填の準備をしていく。


 そう、当たるはずだ。このやり方で大砲の弱点のひとつが克服されたはず。命中率は高くなっているはずだった。

 大砲は、言ってしまえば火縄銃と同じ仕組みだった。火種を火皿に押し付け、そこから小さな穴を通して火薬を伝って、砲身の炸薬が爆発して弾を発射する。

 違いを言えば、火種はばね仕掛けで打ち合わされた火打石で、その火種を使うこと。火種ごと火皿で砲身への穴をふさいでしまうため、穴から爆発があまり漏れないことぐらいだろうか。

 火縄銃と大砲に共通した弱点は、火種ができてすぐに発射とはならないことだ。火皿の火薬に火がつき、穴を通って砲身内に到達するまで、どうしてもすこしのタイムラグが生じてしまい、それによってせっかくつけた狙いが外れてしまうことになる。

 今回、俺が考えた魔法による大砲の利用とは、砲身へとつながる穴をあらかじめ密閉しておいて、魔法を使って直接砲身の中の炸薬に点火するというものだった。

 これによって大砲の弱点のタイムラグが解消されるはずで、狙いがつけやすくなっているはずだった。地球で後世の銃砲に広く使われる、銃身の中で衝撃で着火する方式の、いわば魔法版だ。


「次、いけますぜ」


 俺は、再び火魔法をかけるために左耳をふさいで重短砲へ向き合った。

「火よ」

「火よ」

 立て続けに放たれた砲弾は、片一方は前部甲板の手すりに当たり、そのまま何人か乗員も吹き飛ばして行った事が、向こうのカンテラの明かりでわかった。フォア(前部)マストは無事のようだが、索具にも被害を与えられたようだ。

 もう一方は、そのすぐ下あたり、今度こそ間違いなく砲列甲板の前部に命中した。砲門と砲門の間の船体部分だったが、重い砲弾はいともたやすくそれを突き破り、中の明かりが漏れ出していた。遠くて状況は良くわからないが、相当に被害を与えられたようだ。


「やった」


 一射目の修正が聞いたのか、今度は2発とも命中。地球では一時期イギリスの秘密兵器ともなっていたカロネード砲(と同じようなもの)の威力は大したものだった。

今回の豆知識:


アリビオ号のような平甲板船と違って、フリゲートの砲列甲板は一番上ではなく上から二段目です。

とはいえ、一番上は前部甲板と後部甲板、そしてそれをつなぐ左右の細い舷側通路ということになっていて、

砲列甲板中央部はかなり広く露天となっていて、そこに上陸艇などが置かれています。

前後が高くなっているというのはガレオン船からの派生で戦列艦ができて、その縮小版という由来からだと思います。

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