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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第一章 12歳編 右手に杖を、左手に羅針盤を
26/110

反撃開始

今日はここまでです。


明日で第一章完結まで進めようと思いますので、よろしくお願いします。

「ジャックさん、どうやって?」

「なに、船に弱いドワーフの振りしてな。まさか船員だとは思われてねえから、船長の知り合いの便乗客ってことにして、そのまま船長室に転がされてたってわけさ」

「よく通じましたね?」

「まあ、船長とかダニエルさんとかと違って、俺みてえな下っ端のことは知られてねえかもと思ってな。賭けだったが、船長の客とかの見よう見まねでお上品なふりをして、なんとか信じてもらった。船酔いはロバートの真似をしたがな」

「上は、大丈夫なんですか?」

「ああ、船首トイレに行くって言ってちょっと抜けてるだけだが、船長の酒をごっそり持ち出して飲ましてやってるから直に大いびきだろうさ。甲板上は昇降口と船長室の前に1人ずつ。あとは交代が2人船長寝室で寝ていて、モンタネスの野郎は今俺と酒盛りの真っ最中。あと、他の船だが警戒は緩んでいるようだ」

「そうか、ドワーフだと夜目が利きますね」

「おお、そういうこった。っとそろそろ戻らねえとやべえ。また機会を見て出てくるから、そのときまでになにか考えといてくれや」

「はい、必ず」


 そうして、なにやら酔っ払いのたわごとのようなことをぶつぶつつぶやきながらジャックさんは船尾へ向かった。

 これは運がいい。

 俺は急いでプランを練った。

 クリアすべき点は2つ。

 1つは、船内の15人を無音で制圧すること。これは、ジャックさんの協力があれば上は大丈夫だろうから、下甲板の10人を何とかすればいい。

 難しいが、やってやれないことは無いはずだ。

 そして2つ目、これが難しい。

 2つの船に察知されて砲撃される前に帆をあげて逃げ出すこと。現在索でつながれているし、帆をあげれば夜間だろうと察知されてたちまち砲撃を食らう。

 魔法で炎を飛ばしたり水を落としたりして混乱させるというのも、即効性は無いだろう。俺は魔力があっても一度にたくさん使う方法を知らない。師匠は知っているかもしれないが、それにしても夜間ということもあって100m以上間隔を開けて停泊している船に魔法を命中させるのは簡単では無いだろう。


 魔法というのは、距離の二乗に反比例して威力が落ちていく。10mの距離で放ったのと同じ魔法を100mの距離で使うと、威力は100分の1にまで落ちてしまう。

 仮に、俺の魔力を一度にたくさん使う方法を、俺が師匠に短時間で習ったとしても、100倍の威力を出してせいぜいが樽2~3個分の水か、そこそこ大きな焚き火程度の火を出すのがせいぜいだ。

 それに、そんなに簡単では無いだろうという感じもする。

 簡単だったら師匠はすでに俺に教えてくれているはずだ。


 いい考えが浮かばない。

 ふと、こちらの様子をうかがっているカルロスのほうを見ると、彼は声をかけてきた。


「いけそうか?」

「いや、難しい。難しいけど、計算だけじゃだめってカルロスも言っていたし、今の計画でやってみるかって気になってる」


 そう答えるとカルロスは、首を振った。


「違うよ、ケイン。違うんだ。ちゃんと計算できるのはお前の武器だろう?それを捨てちゃだめだ。武器だったら敵に突きつけて最後まであがけよ。失敗の言い訳にしちゃいけない。コールマンさんも言っていたけど、大砲は撃つことが大事なんじゃない、撃つ前に弾道を計算して、狙いをつけることが大事なんだ。だめだと思ったらあきらめずに計算をやりなおさないと」

「……うん。わかった」


 あきらめずに、計算をやり直せか。よし。

 もっといい計画を、より確実な結果を、俺がそう知恵を絞っていると、不意にカルロスのさっきの言葉のどこかに引っかかったものがあるのに気づいた。


「そうだ、大砲だ」


 俺は、さんざん魔法では大砲にかなわないということを考えていたにも関わらず、こっちが大砲を使うということをまったく考えに入れていなかった。

 もちろんそれには理由がある。大砲の準備をするのに音を立てる。暗い中で火皿に火薬を入れる細かい作業をする必要がある。点火がうまくいくかわからない。かりに発射されたとしても、一斉射で敵に混乱を引き起こせるかはわからない。などである。

 だが、魔法を使えばこのうちいくつかの欠点は何とかなるかも知れない。

 俺は、カルロスにアイデアを話し、彼と細部をつめていく。



「おう、どうだ。いけそうか?」


 再びジャックさんが声をかけてきたのは深夜12時の当直交代があってしばらくしてからの頃だった。大体午前1時ごろだろうか。


「はい、下のほうと、船を振り切って逃げる算段は何とかなりました。後は上ですが……」

「なに、大丈夫。モンタネスは酔いつぶれちまったし、交代した見張りにも酒を持っていってやったから、あとは2人だ。いまにも居眠りしそうだから何とかなる」

「では、すぐに決行します。後のことは制圧後に」

「アイアイ、サー」


 それは、確か地球で言うところの、イギリスやアメリカの海軍で、上役の士官に対して「了解」の意味で使われる言葉だ。

 もちろん、例の反則的な言語理解能力を介しているから、実際に言われた言葉はこの世界流の、あるいはトランド流の言葉だったろうが、俺の理解としてはそう聞こえた。

 つまり、俺は思いもかけずジャックさんから上役として認められたということになる。

 うれしいが、うれしがってばかりはいられない。気を引き締めてかからないと、この船全体の運命がかかっているのだ。

 俺は自分の杖を脇に抱えて、船尾の方へ、つまり見張りがいるところに向かった。

 船員達はあらかじめカルロスや他の頼りになる准士官を介して言い含めてあるので、何が起こっても騒いだり驚いたりはしないはずだ。

 俺は、見張りの1人に声をかけた。


「すいません」


 気が抜けていたのだろう、柱にもたれかかってこっくりこっくりと船を漕いでいた見張りは、そのままでも無力化できそうだったが、実際にはこことその先の士官室とで10人いる。

 あせってはいけない。


「なんだ?」


 そう言って、その見張りは同じく昇降口付近の見張りをしている他の2人を起こして俺に銃を突きつけながら近寄ってきた。

 まずは思い通りに事が運んだ。

 夜間ということで、普段の船の習慣が出たのだろう。休んでいるものを起こさないように夜間の船では可能な限り音を立てないようにする。

 これが気の聞いた見張りで、士官室にまで聞こえるような大声で応対されては計画が台無しだ。


「あの、船の前の方にですね、魔法士さんの杖の予備が置かれていたので、これはお持ちしないといけないと思いまして……」

「ああ、そうだな。魔法に関わるものは厳重にしないといけない。どれ、預かっておこう」

「はい、で気づいたんですけど、この杖のここに……」


 と、俺は杖を相手に渡して、明かりの近くへと促し、杖の複雑に入り組んでいるところの影のところを縛られた手で指差し、続けた。


「ここに何か書かれているようで、ひょっとしたら高価な杖じゃないかなって思って……」

「うむ、良く見えんな」

「あ、こっちですこっち、そこの人たちのほうからだと見えるかもしれません」


 と、3人が近寄ってきたところで、俺は唱えた。


「冷気よ」


 魔力で守られている俺は大丈夫だった。

 だが3人は、一瞬で体から熱を奪われ、凍りつくにはいたらなかったが心臓を止めてその場に崩れおちた。

 危ない。

 こっそり近寄ってきていたカルロスと掌班長始め数人の水夫が、うまく縛られた腕で受け止めてくれていなければ、3人が倒れる音が士官室に聞こえるところだった。

 俺達は、ひょっとしたらまだ仮死状態かも知れない見張り3人を、音を立てないように注意しながら横たえて、足を忍ばせて士官室へと向かった。


 床で、士官個室から奪ったであろう毛布を引いて寝ているものが5人、そして士官室の大テーブルについて眠そうにしているものが2人。これならいける。

「冷気よ……冷気よ」

 俺は立て続けに2人に冷気を飛ばし、その生命活動を停止させる。

 後から続いていたカルロスと掌帆長たちが2人の体が倒れ込むのを防ぐ。

「冷気よ」

「冷気よ」

「冷気よ」

 同様に寝ている男たちにも冷気を放ち、血流と心臓を止めていく。

「れ……っ!」

 と、あと2人というところで1人の男が気配に目を覚まし起き上がる。

 しまった、最後に回すはずの男だ。

 俺が魔法をかけていた男はそっちじゃない。


 起き上がった男は周りの状況を見渡し、大声を上げようと息を吸った。

 と、伸びたずんぐりとした手が男の口をふさぐ。

 やはりずんぐりとしたもう片方の手が男の後頭部に伸ばされると、一瞬で男の首はひねられ、男は絶命した。男の吸い込まれた息は声帯を震わせることなく、吐き出された。

 手の主はジャックさんだった。

「冷気よ」

 俺は魔法をかけた男が動かなくなっているのを確認してから声をかけた。


「ジャックさん、ありがとうございます。早かったですね」

「なに、ケインが始める前にさっさとモンタネスと眠っている2人を片付けておいたからな。あとは下の様子を確認して、残り2人を絞め殺した。まあ、ドワーフの腕力にかかればこんなもんだ」


 そして、作戦の第一段階は成功した。

 俺達は音を立てないようにしながら、皆の縛られた手を開放し、船長達の救出作業に入った。

今回の豆知識:


ジャック「自分でロバートのまねをしてみて思ったんだが、確かにありゃあ酒樽だな」

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