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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第一章 12歳編 右手に杖を、左手に羅針盤を
24/110

意外なる再会

今日はこれに加えてあと1回か2回更新します。

 やっぱり俺はヘタレだ。

 結局、パットとろくに1対1で話をする機会がないまま、3日が過ぎた。

 風は順調に吹いており、もう1週間もすればアンティロスに到着というところに来ている。

 今日こそは、と思う俺だったが、正午からの当直がまもなく終わるというときに、見張り台から叫ぶ声が聞こえた。


「左舷に船だあ、2隻いるぞ」


 と、このような場合には規則どおり船長に判断を委ねないといけない。甲板はリックに任せて、俺は船長室へと向かった。


「失礼します」


 船長はちょうど打ち合わせ中だったようで、許しをもらって船長室に入ると、主計士と数字の書かれた書類を挟んで座っていた。


「なんだ?」

「船視認、2隻です」

「よし、すぐに出る。……すまないが食料の配給の件は後で」


 と、主計士に断って、船長は上着を羽織り、望遠鏡を持って部屋を出る。俺も後に続く。


「船長、船が2隻接近中で、1隻はトランド海軍の旗を揚げています。もう1隻は前回撃ち合った海賊船のようです」


 すでに船上に出ていたコールマン一等航海士が、リックに状況を確認したらしく、船長に報告する。


「うむ、交戦中ではないのだな?海賊船に旗は?」

「はい、そちらにもわが国の旗が掲げられていますので、海軍船が拿捕したものと思われます。私が上がって詳しい状況を確認しますので、望遠鏡をお借りできますか?」


 そう言って、コールマンさんは慣れた様子で、借りた望遠鏡を持ったままトップ台へ上っていく。

 しばらくして、降りてきたコールマンさんは船長に報告した。


「確認しました。トランド海軍28門搭載フリゲート、セベリーノです。艦長は変わっていなければデルリオ艦長、私のかつての上司です」

「そうか、ならば後の海賊船は拿捕船ということで間違いなさそうだな」


 上から見張り員が叫んだ。


「セベリーノから信号。停船命令です」

「了解、と……またこちらに囚人を何人か引き受けろということだろうか。まったく、海軍は面倒ばかりこちらに持ち込む」

「海軍所属の身としてはなんとも返しようがありませんな。まあ、危険な海賊を排除してくれたのですから、護送の手伝いぐらいしろといわれて、断ることは難しいでしょう」

「ふん、今度来たら新型砲で蹴散らしてやったところだがな。まあ、しょうがあるまい。帆をたたんで停船しろ。使者が来たら船長室で出迎えるから、後は頼む。ああ、ジャックに言ってワインの用意を頼むといっておけ。ガルシア家の持ち船として、海軍の使者に何ももてなしをしないで帰したとあっては悪いうわさがたつからな」

「了解」


 そして、アリビオ号は珍客を迎えるための準備に忙しくなった。

 甲板には水が撒かれ、毛玉が転がり、索具の点検もなされ、上半身裸だった乗員も手持ちの中でなるべく白く見えるシャツを着て、来客に備えた。

 俺も、この間買い求めたばかりの上着を着(考えてみれば船上では初だ)、出迎える準備をして近づいてくる船を観察していた。杖に関しては、当直中に起こったことでもあったし、今回は普通の航海士見習いとして整列していたので置いてきた。


 セベリーノ号は28門搭載、艦首の2門の追撃砲を除けば片舷13門の砲が並んでいる。いかにも撃ち合った後らしく、帆や手すりに補修の後が見受けられたが、現在は少なくとも航行に問題があるようには見えず、船上も整然としているようだった。

 アリビオ号の倍以上の砲を積むとはいえ、船体は思ったより小さく見えた。とはいえ、これはアリビオ号のほうが変わっているといえよう。全長50m近くになる前後に長く、細身の船体は、船歴30年にもなろうという老朽船でありながら並ぶもの無しといわれるほどの快速船なのだ。「南マーリエの隼」の異名は伊達では無い。


 後に続く海賊船のほうも帆や船体のダメージは補修されているようだった。実際に体験したからわかるが、あれほどの戦力を有した船をいともたやすく(かどうかはわからないが)拿捕してしまう軍艦というのは、やはり規格外の存在なのだと改めて実感した。

 海賊船の甲板には、銃を持った歩哨が数人立っており、いかにもな見た目をした海賊が20人ほど、後ろ手に縛られて座らされているようだった。してみると、あれがこちらで引き受けることになる囚人ということになるのだろうか。

 アリビオ号は比較的余裕のある航海をしていることもあり、何とかなるといえばなるが、船底あたりに転がしておくとしても、乗組員にとってはあまり気分の良いものではない。これからの1週間あまりの航海は、それほど楽しいものにはならないだろうと思えた。


 至近距離といっても良い、数10mはなれたところに帆をたたんで停船したセベリーノ号から、小型艇が下ろされ、士官が乗り込むのが見えた。

 さすがにこの辺りは波も高くはないとはいえ、漕いでこの距離を渡ってくるのは大変だろう。漕ぎ手は汗を流しながら号令に従ってこちらに漕ぎ進む。

 緩やかに波が寄せて船に当たる音が聞こえ、船のきしみ音が聞こえるだけの静かな中、日もかなり傾いてきて影が長く伸びている小型艇を、アリビオ号でも、向こうのセベリーノ号でも、乗組員が甲板で見守っている。

 やがて、こちらの舷側についた縄梯子が下ろされ、士官がそれを上ってきた。

 誰何への返答から、艦長ではなく海尉であるらしいその人物は、制帽をかぶって制服を着こなした、どこから見ても立派な海軍士官という格好をしていた。年は30代後半~40代といったところだろうか。日焼けして、海上生活にも年季が入っている様子だった。


「トランド海軍セベリーノ号二等海尉、アマデオ・モンタネス。乗船の許可を求める」

「トランド国ガルシア家所属、商船アリビオ号一等航海士のコールマンです。乗船を許可します」

「うむ、感謝する。まずは船長に挨拶をしなければいけないが、用件は察しがつくと思うが、拿捕した海賊船の乗組員護送を手伝って欲しいので、準備いただけるだろうか」

「はい、そうだろうと思っていました。ところで、デルリオ艦長はご壮健ですか?」

「艦長のお知り合いかな?」

「ええ、前の乗艦のタニア号でお世話になっていました。当時私は二等海尉として乗船していましたので」

「なるほど、半給休職中というわけか……ならば!」


 いきなり腰の剣を抜いたモンタネス海尉は、そのままコールマンさんの腹を斜め上に切り上げる。

 まさか、といった感じでそのままコールマンさんは甲板に倒れ伏す。流れ出した血が血溜りをつくっていく。

 その場に居た一同も、とっさのことで身動きが取れないでいた。


「おっと、動かないでもらおう。20門の一斉射でこの船を傷つけたくはないのでね」


 その言葉にセベリーノ号と海賊船を見やると、ちょうどこちら側の大砲がゴロゴロと砲車の音を立てて突き出されているところだった。

 同時に、舷側の縄梯子を上って、水夫たちが甲板につぎつぎと姿を現した。誰もがカットラスを構え、幾人かはマスケット銃も装填済みらしいものを持っていた。


「何事だ?」


 船長室のほうから船長の声が聞こえ、飛び出てくる。上着は肩から引っ掛けた状態で、あわてて飛び出してきたのがわかる。


「これは船長、ガルシアのご子息でしたな。あなたの船は我々の手土産となってもらいます」

「手土産……だと……まさか!」

「その通り、我々セベリーノ号副長以下184名がストランディラに亡命するのに、『隼』ほど良い手土産は無いはずです。いささかオンボロですが、今でも並ぶもののない快速船。解体して設計図を起こすだけでも計り知れない利益をもたらしてくれるはず……貴様、何をやっている!」


 船長との対峙の結果、捨て置かれていたコールマンさんにこっそり近づいたパットが、小声で治癒魔法をかけていたのだった。しかし、その試みはモンタネスに突き飛ばされたことで中断してしまった。


「ほう、魔法士というわけか、ちょうどいい。どうせ拷問して航海魔法技術を聞き出すならアルフォンスとかいう爺よりも、こういう少女のほうが楽し……いや、やりやすいだろう。おい、縛っておけ」


 配下に指示して、モンタネスは再び船長に対峙する。


「おとなしくしていたら命だけは助けてやれるだろう。まあ、奴隷として売りに出されるだけだがな。ここで死ぬよりはいいだろう」

「貴様あっ」


 つかみ掛かる船長だったが、モンタネス配下により取り押さえられ、甲板にうつむけに押さえ込まれる。


「状況を良く見たほうがいい。セベリーノ号、それにあちらの海賊船、まあ実体はストランディラの私掠船なのだがね、双方合わせて20門以上がこの船を狙っているということがわからないかね?」

「くっ」


 船長を初めとして、俺たちになすすべは無かった。

 こうして、アリビオ号は裏切り者の手に落ちることになった。

 ばたばたと後続のセベリーノ号や海賊船の乗組員が乗り込んでくる中、ふと見るとコールマンさんはこと切れていた。

今回の豆知識:


軍艦だと艦長以外の指揮士官は海尉となります。

地位に着いた日付が早いほうが上役で、順に「一等」「二等」「三等」……と続いていきますが、一等海尉のことを一般的には副長といいます。

商船であるアリビオ号の場合は、そのまま「一等航海士」としています。

コールマンさん……名前ありでは初犠牲者です。

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