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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第一章 12歳編 右手に杖を、左手に羅針盤を
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それはチートか成長か

(訂正)ちょっと日数設定を間違っていました。リッケン到着が「8月」→「7月」、アンティロス到着見込みを「9月半ば」→「8月初め」とさせていただきます。


実は裏でいろいろ日付とか季節風、緯度経度などを設定しているのですが、アリビオ号は快速船なので最初の設定よりもう少し速いだろうというところで、若干整理しなおした結果です。見通しが甘かったことをお詫びします。

 航路前半の、ストランディラの影響が強いあたりを抜けて、今は平穏な航海が続いている。

 現在の進路は南西、センピウス領ソバートン島の南を抜けるために、航路全体からすればやや南よりに進路を取っている。


「しかし、ケインも成長したな」


 と、言ってくれるのは当直の相方である二等航海士のリックだ。

 この船は2直6交代制となっており、今回は一等航海士のコールマンさんとカルロスで一班、そしてリックと俺でもう一班となり、4時間ごとに交代ということになっている。

 船長は当直に立たないが、何か異常があるとすぐに知らせが行くし、頻繁に甲板に出てきて索具や帆の張り具合を確認したり、望遠鏡をのぞいたり、船員に声をかけたりしている。

 トップが一番重労働だというのは異世界でも変わらないらしい。


「そうですね、技術的にはともかく、体力はついてきたような気がします」


 実際に、成長期であることもあるのだろうが、無人島時代から比べるとすこし背が伸びた実感があり、また船の仕事で筋肉もついていた。

 熱帯を旅していることもあって精悍に日焼けした肌とあいまって、もう貧弱なボウヤとは言わせない、的ないっぱしの船乗りの見た目になっていると思う。


「まあ、航海術は一朝一夕にはどうしようもないよ。だが、それもがんばっているようだし、当直では頼りにさせてもらうよ」

「ありがとうございます」

「だが、油断せずに勉強しろよ。海では何が起こるかわからない。お前も、カルロスも、なんとかして切り抜けて航海士としてアリビオ号を支えてもらわないといけなからな」

「はい」


 コールマンさんは一等航海士だが、元々トランド海軍に籍を置いている。海軍に置いてはどこでもそうなのだが、水夫は常に足りない一方、士官や艦長は人員が余っており、乗り込む船を見つけられないと半分の給与を与えられて休職状態となる。

 したがって、情勢悪化あるいは海軍での就職活動がうまくいった場合など、コールマンさんは船を下りて軍に戻ることになる。

 そうなった場合は、リックが一等航海士に繰り上げということになり、そのサポートをカルロスや俺がすることになる。

 将来のアリビオ号の体制を考えると、リックが中心となって船をまとめていくことになるのだ。


 さて、実際に俺の体は成長期ということで、たしかに船の生活で鍛えられてたくましくなっている。

 しかし、実際にはそれだけではなかった。

 師匠からアドバイスを受けた余剰魔素の使い道、それが体内に弱い魔力を巡らせて身体強化する、というものだったのだ。

 それによって俺の体力はこころもちアップしている。

 とはいえ樽を片手で持ち上げるといったことはできず、せいぜい体が軽くなり、マストを上るときなどにちょっと腕が楽といった程度だ。


 常に使い続けろとのことだったので、最初の頃は魔力のコントロール中に、ぼんやりしているのかと思われて叱責されたこともあった。アリビオ号が軍艦だったら危うく鞭打ちの刑になるところだった。

 俺の場合、何も指定しない魔力の発現が光なので、失敗したときには体の一部が……いや、変な意味ではなくて肩とか背中とかいろんな場所がぴかーっと光るので、周囲を怯えさせることになった。

 まあ、魔法の修行で、と言い訳をしたら納得していたから、こんなときには魔法士見習いでもあるという立場は便利だ。


 肝心の魔素の漏れの隠蔽についても、師匠によれば問題ないレベルのようだ。

 今度は身体強化を使っていることを感知されるのでは?と聞いてみたが、そちらの方は熟練の戦士や武術家などが自然に使っていることがあるので、魔素の漏れに比べればありうるとのことだった。

 まあ、修練の果てに到達できる域に、ただの魔素漏れの廃品利用で伍していることは尋常では無いだろうが、それは言わなければわからない。

 チートですか?いえ、成長です。


 そんなわけで、俺はリッケンまでの航海の間、ひたすら身体強化の習熟に努めた。

 途中、嵐とまでは行かないものの海が荒れることは何度かあったが、基本的には順調で、アリビオ号は一人も失うこと無しにリッケンへと到着することができた。


 セベシア出航から26日の航海の後に到着したリッケンは、多少肌寒かった。

 そういえば季節のことはすっかり忘れていたが、地球とほぼ1日の時間や1年の日数、季節などが共通しているこの異世界で、今は7月にあたる。

 ずっと熱帯を旅していたので季節感が無かったのだが、南半球に位置するこのリッケンでは今は真冬ということになるだろう。

 そういえば、最近夜の当直のときにちょっと寒いと思っていた。

 寝床は狭い中に押し詰められているような下甲板なので、むしろ暑苦しいほどであったが、上甲板に出ると風もあってシャツと半ズボンでは不足だったはずだ。

 実際には、身体強化の恩恵か、それほどでもないので気づかなかったが。


 西岸海洋性、あるいは地中海性かもしれないが、そうした気候区分に入るリッケンでは、それほど寒くなるというわけではなかったが、それでもシャツ一枚で出歩くものではない。

 このまま行けば緯度のほとんど変わらないアンティロスに着くのも8月初めというところだから、早めに上着など買っておいたほうがよいだろうか。

 セベシア・リッケン間はほぼ1ヶ月なのでそれなりに給料はでると考えて、中古でもいいからある程度船員らしいジャケットを用立てるのもいいかもしれない。カルロスのものと同じようなのでいいだろう。


 そう考えて、適当な古着屋に足を運んでみる。

 船乗りには立派な体格のものが多いので、ちょうど良いサイズのものがなかなか見つからなかった。店主に聞いてみる。


「2・3日くれるなら切り詰めるよ」

「あ、それじゃお願いします」


 ということで、古着を仕立て直してもらうことにした。簡単に寸法を測って、良さそうな古着を見繕って直しをお願いした。


「とはいえ、滞在中の衣服が困るな」

「それなら、こっちの麻生地の服なんかどうだい?ああ、ここらへんのデザインだけど、楽に着れるし、上に重ねるのも楽だ」


 そう言って店主が出してきたのは、いわゆる甚平のような、一重の和服のようなものだった。そうだ、ここは地球で言うところのアジア的文化圏だっけ。

 確かに、これならば上から羽織れば上着になるし、袖が短いので動作を妨げることも無い。アリビオ号のような熱帯を行き来する船は服装規定などあってないようなものだから、別段見咎められることもないだろう。

 そう思って、あわせて購入することにした。


 さすがに今回の上陸では、師匠の世話になるわけには行かないだろう、と考えていたのだが、師匠はそう思っていないようだった。

 やはり前回と同じ宿で同宿ということになった。


「いいんですか?」

「なに、問題ない。アンティロスのときと同じじゃ。お前とパットの面倒は師匠のわしが見る。が、そうじゃな……もしなんだったら、またわしにマッサージでもしてくれるかのう。前回もあれでかなり楽になったんでな」


 とのことだったので、心を込めてマッサージをした。

 師匠には、返しきれないほどの恩を受けている。そうだ、今度はアンティロスでもやってあげよう。そんなことを思いながら、その日の夜は更けていった。

今回の豆知識:


本来の所属のことがあるので、一等航海士のコールマンはあまり見習いを育てるのに熱心ではなかったりします。

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