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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第一章 12歳編 右手に杖を、左手に羅針盤を
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首都アンティロス(1)

『運命』さんがアップを始めた?かもしれません。

 海戦の死者は0だった。

 運よく被弾が少なかったこともあり、また魔法士隊(俺は数に入っていない)の活躍もあって、手足を失うような重傷者もいなかった。

 それでも、船体の修理や飛び散った構造物の除去、破れた帆や索具の補修などで船内は大忙しだった。

 海賊に襲われていた商船とは、航路が違ったのか、それ以後出会うことはなく、10日の航海の後、アリビオ号はトランド海洋国首都アンティロスへと到着した。


 アンティロスはドラ島南西に位置する湾の全体に広がる大港湾都市だ。

 港から東北に向かって徐々に高くなっており、高台の背後は森となっておりそこから山になっている。

 高台には王宮や教会、そこから下って貴族街、商業区域、住宅街、職人街を経て港周辺の施設と続いている。

 規模としては数万人程度の町ということになるだろうか。もっとも、トランドは海運国なので常に人口の一定割合は洋上で生活しているのだが。

 アリビオ号は桟橋に着けることができた。

 驚いたことに、この桟橋は船長の家の所有物なのだそうだ。専用埠頭ということらしい。

 アンティロスの埠頭は、多くは共用のもので使用には金がかかるのだが、貴族は埠頭の占有権を有しており、そこは自由に使うことができる。

 これは、トランドが海運立国であることと深い関係があるそうだ。


 元々、ドラ島は南北に細長く、周辺の島々をあわせたトランドの領地というのは面積が少ない。漁果を加えてようやく自給自足できるかどうかという程度で、都市部の人口もあわせると食料は輸入に頼らざるを得ないぐらいだ。

 そこで、領地を持つ貴族というのは貴族の中でも一等爵・二等爵の上級貴族のみで、そこから下の三~五等爵に関しては埠頭の占有権か国家から出る俸給で生活をしているらしい。

 海運が発展しないことには国も発展しないという状況で、自前の船を持ち貿易をしている貴族は埠頭の権利を与えて貿易をさせるというのがトランドの方針のようだ。


「とはいえ、五等爵のもらえる埠頭などたかが知れておってな、ガルシア家の権利とわしの権利を合わせてようやっとこれだけの幅を使えるというわけじゃ」


 ということで、師匠が友人のガルシア家党首フランシスコ・ガルシアに権利を貸して、ガルシア家のアリビオ号を含めた4隻のための埠頭となっているとのことだった。

 師匠も船長の父フランシスコさんも、爵位としては五等級となる。等級は5つしかないのでいわゆる公候伯子男でいうところの男爵といったところだろうか。


「そんなわけでわしは魔法長としての給料の他に、埠頭の使用料もガルシア家からうけとっておってな。お前一人ぐらい増えたところで問題ないから遠慮するんじゃない。宿を取る必要は無いからアンティロスではうちで面倒をみてやろう」

「はい、お言葉に甘えさせていただきます」


 ということで、船が再び出港するまでの二週間の休暇は師匠のところでお世話になることになった。


 と、上陸する段になって俺の杖が見当たらない。

 あれは師匠からもらった大事なものなので、なくしたなどとあっては大変だ。

 念のため、同室のリックやカルロスに聞いてみたが知らないという。

 とすると船内のどこかに置き忘れて、積荷にまぎれて運び出されてしまったか。

 まあ、海の上では無いし危険は少ないだろうからとりあえず船に残る面々に見かけたら保管しておいてくれるよう、お願いした。

 師匠もパットも杖は予備を一本持ち歩いているようだし、町でもう一本どうせなら手に入れておくのも悪くない。

 そう考えて、俺は師匠と待ち合わせている場所に向かうために船を下りた。


 リッケンでもそうだったが、上陸するとまだ足元がゆれているような不思議な感じで、注意していないと酔っ払ったような足取りになってしまう。

 慣れていないだけかと思っていたら、周囲を歩く船乗りも同じようなふらふらした足取りなので、全員が全員酔っ払いというわけでないのなら、当たり前のことなのだろう。

 埠頭に寄せて倉庫街があって、仲仕の人たちが荷物を運んだり積んだりしていた。

 そんなとき。


「危ない!」


 あっ、という間もなく、積んであった樽が崩れて転げ落ちた。崩れた樽がまた別の樽に当たり、勢いよくこちらに転がってくる。

 よけなきゃ。

 そう思ったが、いくつも樽が転がってくるのでよける場所が無い。

 まずい、そうだ魔法で土を。

 と、とっさに思いついて愕然とした。

 杖が無い。

 まずい。

 一瞬で冷や汗がわいてくる。

 仕方ない。

 なんとか樽を飛び越そうとして、うまくはいったものの転んでひじやひざをすりむいてしまった。

 息を落ち着けて、何とか立ち上がると樽は周辺に居た仲仕や船乗りによって止められていた。さすがに船で何ヶ月か生活して体力がついたとはいえ筋骨隆々とした海や港の男たちとは比べ物にならない。


「だいじょうぶか、ボウズ」

「ええ、大丈夫です。たいした怪我じゃありません」


 そうか、と声をかけてくれた仲仕のおっちゃんに返答しながらも、俺は別のことを考えていた。

 ほかならぬ『運命』のことだ。

 31回俺を殺した『運命』のことは、船での忙しい日々の中でいつしか遠くに行ってしまっていた。

 今回のこれはどうだろう?


 実は、魔力の流れを見ることができるようになって、俺はちょっとした魔法なら瞬時に出せるようになっていた。

 もちろん精度は甘くなるし威力も弱い、100%成功するわけでもなく、なにより杖無しでは成功率が著しく下がる。

 今回のこれも杖があったら土の塊を出して防ぐことができたはずだったが、ちょうどタイミング悪く杖を紛失した状態だった。


 考えすぎなのかもしれないが、樽にぶつかっていたら、死にはしないだろうがそれなりの怪我はしていたかもしれない。

 だめだ、安心しきっていた。

 俺を殺そうとする「なにか」がひょっとしたらこの町にも居るのかもしれない。

 そう考えると船に逃げ込みたい気持ちが頭をもたげてくる。

 だがそういうわけにもいくまい。

 油断しないようにしよう。町でも、そして船でも。

 そう、思い直して俺は待ち合わせの場所に向かった。


 目的の場所はすぐに見つかった。

 入港のときに見えていたのでその目立つ建物は一目でわかった。

 トランド国海員協会

 いわゆる海員ギルドといったところだ。

 俺はリッケンでトランドの国民登録はしたが、それとは別に航海士見習いとしての職歴と航海魔法士見習いとしての職歴をこの海員協会で登録しておかなくてはいけない。

 これを怠ると、将来他の船で働くときに経験の証明を求められた場合に困ることになる。

 航海士見習いとしては船長が、魔法士見習いとしては師匠が証明書類を出してくれたので、俺は少なくとも航海1回分、一ヶ月あまりの経験があるという身の証を立てられることになる。

 この航海1回分というのは港から港なので、俺の場合は無人島からリッケンへの分は計算に入らないことになる。


「では、こちらの書類に名前と年齢、所属を記入してください」


 そうして海員協会の受付で渡された書類に記入していく。

 もちろん、航海士にせよ魔法士にせよ読み書きができないとなれないのだが、俺も問題なく空欄を埋めていく。


「はい、では問題ないようなので受理します」


 今回は、海員協会への登録と、証明書類の提出の両方を一度で行ったことになる。

 椅子に座って待っていてくれた師匠のところに戻って、問題なかった旨を報告する。


「よし、では行くとするかの」


 そう言って師匠は立ち上がり、俺についてくるように言った。


「貴族とは言っても、わしはずっと海じゃからな、どうせばあさんと2人しかおらんので港の近くにすんどるんじゃ」


 師匠の家は、確かに町の中心部より港側、本来一般市民がアパートとして分割して住んでいるような建物で、周囲にも似たような建物が並んでいた。


「まあ、貴族といってもトランドは海でなりたっとるような国じゃから、似たようなことをしとる奴も珍しくはないわい」


 そう言って師匠は、こればかりは少ししっかりしたつくりのドアを開ける。


「おい、帰ったぞ」

「はあーい」


 と出てきたのは師匠の奥さんらしきおばあちゃん……と、なぜかその後ろからパットだった。


「「え?」」


 俺とパットの声が重なる。


「あれ?言っとらんかったかの?パットは昔からうちで面倒をみておるし、ケインは宿を取らせるのももったいないからうちで泊まるように勧めたんじゃ」

「まあまあ、あなたがケインちゃんなのね?先に帰ってきたパットから色々とお話は……」

「マリアさん!」


 ちょっとふくれたようなパット。


「あらあら、余計なことだったかしらね。ともかく歓迎するわ。自分のうちだと思ってゆっくりしていってね」


 とまあ、こうしてアンティロスの初日は師匠夫妻、パット、そして俺でごちそうを食べ、いろいろ語り合って、ゆっくりと眠りについたのだった。

今回の豆知識:


師匠の家はアパートの一棟買い取りみたいなもんです。

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