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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第四章 15~16歳編 魔法書は吊り寝台の中で揺れる
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準備の日々

「まあ、そのあたりが落とし所だろうね。いやいやいや、しょうがないかね……」

「もし、それで問題があれば……」

「うん、まあ永久には独占できないだろうから、そちらでもあまり積極的に広めないというのであればこっちは受け入れられるだろう。いや……私の造船所の話だったね。受け入れることを約束しよう」

「……ありがとうございます」


 アンティロスへの根回しは済んでいる。

 ウラッカ号を改造してくれた造船所にも同じ技術を伝える。その上で、「タロッテにおいては」トレリー卿の造船所の独占技術として、使用しても構わないとする。そんな条件で、新造船はトレリー卿の造船所にお願いすることにした。

 ただ、ここで彼には言っていないことがひとつある。

 武装関係、具体的には大砲にまつわるものはこちらではなくアンティロスで作ってもらう。タロッテで作ってもらうのはあくまで船体部分のみだ。大砲は、あえて中古の適当なものをダミーで載せることにする。アンティロスに戻って大砲を載せ替えて完成という手順になる。

 これは、もちろんそれが武装であり、軍事的に重要であるという事が関係している。そういうものを国外に出すのには問題があるとの判断だった。


 前回から1往復ということになるが、上陸休暇が取れなかった分アンティロスで長めの休暇を取ったので、もう季節は秋になっていた。

 「タロッテ委員会杯レース」の参加申し込みも始まり、俺も早速申し込んでおいた。

 今回は南港を出発して北港までのコースだけになるので、あるいは帆装による部門分けがあるかと思ったが、結局それは無かった。船の全長によって単純に3つに分けられているだけだった。おおよそ、マストが1本、2本、3本に分かれることになる。

 港のドックでは確定したルールに従って自船を改造する船であふれていた。


「いや、こういう状況だから新参のうちにもかなりの注文が入っていてね。残念ながら……」

「ああ、それは問題無いです。もともとレースまではウラッカ号を使うつもりでしたし……」


 新造船をレースに使うということもちらっと頭をよぎった事があったが、そちらの船だとエンバー・ガット号と部門が分かれてしまう。簡単な口約束だったが、あの船と競う約束をしたのを裏切るわけにもいかないだろう。


「レースに関してはウラッカ号をしっかり整備することで対処します。それ以降の完成で問題有りませんよ」

「そう言ってもらえると助かる。まあ、どちらにせよ、レースに間に合わせるのには回航日数もかかるから、ちょっと難しいと思っていたんだよ」

「回航?」


 あれ? タロッテにあると思い込んでいたが、彼の造船所は離れたところにあるのだろうか?


「ああ、言ってなかったかな。うちの造船所はタロッテの北港に面しているんだ。だからレースのスタート地点である南港に持ってくるには1ヶ月以上かかる」


 そういうことか。


「じゃあ、レースが無事終了して、そのまま北港で乗り換える形でいけそうでしょうか?」

「うーむ。まあ、なんとかやってみるよ。レースが近くなったらかえって暇になるかもしれないし、開催中は1ヶ月ぐらい暇なはずだから……」

「よろしくお願いします」


 そんな感じで、正式発注ということになった。




 次に、アンティロスに寄港した時にはいくつかの喜ばしいニュースに出会った。

 1つは、カルロスが正規の士官になったという知らせだった。

 本人はそのまま海で勤務が続いているらしく、師匠を通じて知ったのだったが、小型船の副長として勤務しているらしい。


「務まっているのかな?」

「お前だって船長を無事務めているじゃないか」


 そうでした。

 考えてみれば軍艦といえども、ウラッカ号とそれほど大きさに違いは無いはずだ。もちろん軍艦だから船員は多いだろうが、それでもアリビオ号ほどではないだろう。アリビオ号で十分な経験を積んだカルロスに出来ないはずはない。


「となると、あとはリックですかね」

「ああ、そちらの方も……内々の話なんだが、来年にはガルシア家の持ち船で引退する船長が出る予定なんで、そちらの後釜にどうかという話が出ているそうじゃ」

「それは良かった。と、そうなるとマルコが一等か……」

「あの子か……さすがにそれは厳しいんじゃないだろうか?」


 師匠は、乗り込んで来たばかりのマルコしか知らない。その後、彼もずいぶんとしっかりしてきてはいるのだが、師匠に取ってはあの頃のマルコの事が思い出されて、不安になっているのかもしれない。

 ただ、一等航海士となると、俺も最近の彼は知らないが、ちょっと不安になる。


「その辺りは他から呼んでくる手もありますしね」

「そうじゃな……」


 リック、カルロスの出世に関する事の他に、もう1つ喜ばしい事があった。

 例の下水道工事が実行されたのだ。

 町に入ってみれば、今までと空気が違うのがわかる。今まで生活の臭いだと思っていたが、ただの悪臭であったらしいものが、ずいぶんと薄れているのがわかった。

 俺としては意見を求められただけだし、それがどれ位影響があったのかは分からないが、これでアンティロスの衛生環境が良くなるのは単純に喜ばしいことだ。


「じゃあ、始めてください」

「アイアイサー」


 俺はウラッカ号に試作した大砲を積んで、アンティロス近海に出ていた。

 古くなった樽を海に流して、距離をとって的にする。

 今日は大砲の試射をすることになっていた。

 鋳造自体はロバートさんにお願いした。彼は「大砲みてえな大物を扱うのは久しぶりだ」なんて言っていたが、出来たものは非常に高精度に作られていた。

 準備用の魔法を発動する。

 大砲ごとに魔法士を一人配置するならそんな苦労して魔法を開発する必要は無いのだが、魔法士を1つの船で10人以上雇うことのほうがありえない。どうしても、魔法の効果の切り替えは、魔法士以外の普通の船員にやってもらう必要がある。

 軍あがりだという、ウラッカ号の少ない人員の中で最も大砲の扱いに長けた男に場所を明け渡す。

 彼は、初めて扱う大砲なので慎重に一連の操作を行うつもりのようだ。だが、必要以上に確認に時間を取られているように思える。


「大丈夫、ちょっと変わっているけど基本は普通の大砲と同じで、火薬で鉄の弾を飛ばすだけだから。注意すべきはいつもと同じで、装薬の扱いだけだよ」

「アイサー」


 俺がうながし、彼は作業を続ける。余計だったか? もしかして俺の気がはやっているだけかもしれない、と思い直してじっと待つ。

 長い時間をかけて準備してきたのだ。そのことが俺を焦らせているのかもしれない。

 やっと彼の操作が終わり、後は点火するだけになった。


「いいですか?」

「よし、狙いをつけて……やってみて」

「アイサー」


 弾を飛ばす仕組みは通常の大砲と同じだが、装填と発火に魔法を使用している。そして操作は船員にやってもらう。

 それではあの海賊船と同じ、魔法使い以外に魔法を使わせることになるのではないか? というのはちょっと違う。実際にこちらの世界にも魔法に似た効果を発揮するアイテム、いわゆるマジックアイテムのようなものがある。せいぜい火打ち石程度の効果を発揮する程度なのだが、魔法使い以外の一般人でも使用できる。とはいえ、火打ち石を使えば済むことなので、値段の問題もあって普及はしていない。

 だが、今必要なのは火打ち石程度の効果そのものなのだ。

 船員が、慎重に樽に狙いをつけて、大砲の発火効果を発動させる。

 やや低い轟音が鳴り響き、大砲から弾が発射された。

 見ると、水しぶきは目標のずいぶん手前でたっていた。


「失敗……かな」

「……船長、よろしいすか?」

「なんだ?」


 砲手である軍上がりのベテラン船員が発言を求めてきた。


「あっしの見立てでは、これは火薬が湿気っていた時なんかの感じと似ているっす」

「……でも、今回はしっかり確認してはずだけどな」

「うまく言えねえすが、大砲によって火薬の量や配合を変えとったことを覚えていやす」

「なるほど……火薬の調整が必要だということか……」


 なるほど、大砲の大きさによって最適な火薬の配合があるのだろう。


「そうか、ありがとう」

「いえ、差し出がましいことを言いました」

「いや、参考になった」


 まだ要研究ということか。


 アンティロス滞在中には他にももう一つうれしいニュースがあった。

 これはちょうどタイミングが合って寄港してきたパットからもたらされたのだが、マテリエさんとカイラさんの冒険者のランクが上がったとのことだった。


「そうか……カイラさんもついに自由冒険者か……」

「本人は、恩があるトランド所属じゃなくてすまない、って言ってた」

「まあそれはしょうがないよ。マテリエさんと行動を共にするんだったら所属解除しか選択肢は無いはずだからね」


 巨人級に達した冒険者は、引き続き国家ギルドに所属するか、国家ギルドから離れるかを選択する。後者を選んだ場合には、国家の枠組みから自由な自立した存在として扱われる。その分、色々責任も増すのだが、すでに自由冒険者となっているマテリエさんといういい見本がいるのだから、心配は無いだろうと思う。


「そういえば、ケイン? なんか船を作ったって聞いたけど」

「ああ、そうなんだ。パットに相談しようと思ったんだけどなかなか会えなくて……」

「そんなことはいいから、乗り換えたら私も乗り込むから」

「えっ、あ、いや。うん歓迎するよ」

「当然。ただでさえ家のこととか後回しになっているんだから」


 家、つまり師匠の家を出て俺とパットで住む家を手に入れるということなんだが、それは当然結婚ということになる。

 つまり、いつまでも待たせるな、ということなのだが、ただ今回はウラッカ号の非力さの方が気になっていたのだ。


「もちろん。新しい船になったら今よりたくさん交易できるし、家の方もそう遠くないよ」

「期待してるからね?」

「ああ……問題ない」


 そこでパットは思い出したようにこんなことを聞いてきた。


「ところでケイン、その新しい船の名前はもう決めたの?」

「うん、まあ前の、こことは違う世界でのある小説で出てきた名前を借りようと思うんだけどね……新しい船の名前は……」




第4章 了


あとがき


ということで、4章、実際には3.5章みたいなものですが、終了しました。

本来は4章がレースのつもりだったんですが、ちょっとその前に解決しておくべき内容があって、独立した章にしました。

今後の予定ですが、間を開けずに次をスタートしたいのですが、ちょっと忙しくなってきまして、あと大体のストーリーはできているんですがミニュジア関連の設定がまだ未整備なんで、時間がほしいところです。

もちろん、1ヶ月後なんてことにはなりませんが、今週末から例のSFの方も更新しないといけないので、今週中に再スタートは難しいかもしれません。

あるいは、ペースを落として続けるかということも考えていますが、ちょっと仕事のほうの見通しが良くならないとなんとも言えないところです。

とはいえ必ず完結まで書きますので、よろしくお願いします。

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