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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第四章 15~16歳編 魔法書は吊り寝台の中で揺れる
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西の大陸

 予定外のスケジュールになったが、俺達はソバートンで4日の寄港を余儀なくされた。

 こちらで引き取ってもらう積荷の引渡し、ウラッカ号の修理、マルテ・リーガ号のあれこれ……

 マルテ・リーガ号については、ソバートンで買い手を捜すことになった。何でも、元はソバートン駐留艦隊の船が奪われたものだったらしい。海賊に奪われたままにしておくのは忍びないとのことだったので、ひょっとすると海軍がそのまま買う可能性もあるそうだ。


「あの程度の海賊に船を奪われるというのは、センピウスの海軍力を示していますな」


 なんて、セリオあたりは皮肉っぽく論評していた。

 セリオというと、こんなことがあった。

 例の色々聞き出した海賊船の士官は、今はウラッカ号の水夫として、身なりもみすぼらしく変えて乗り込んでいた。さすがにソバートンやミナス東岸に置いていく訳にはいかないので、タロッテで下ろすことになっていた。

 その男が、あるときこんなことを言ってきた。


「セリオさんって、ミニュジアの言葉がわかるようですね」

「え?」


 そんなことは初耳だ。どういうことか聞いてみる。


「いやね、前にどれ……じゃなくて捕虜のれんちゅ……でもなくて人たちと話をしていたときなんですけどね……」


 その時、セリオの上着の左肩のあたりがどこかに引っ掛けたらしくてほつれていたそうだ。


「それで、その捕虜が、確かに『左肩』って言ったのに反応してとっさに自分の左肩を見たんですよ」

「指で指したんじゃないの?」

「いえ、そいつはまだ自分じゃ動けねえ奴だったんで、ただ意識ははっきりしてましたから、気になったんでしょうね」

「そうか……」


 一度確かめてみるか……


「え、ええ、確かに、話せますよ」

「言ってくれれば楽だったのに……」

「船長が楽になった分、俺が苦しい目にあうわけですよね」

「まあ、そりゃそうだけど……でも珍しいな、ミニュジア語までわかるとは……」

「船長!」

「な、なんだよ」

「ミニュジア語無しに、どうやって褐色猫耳娘に愛を語ればいいんですか? 俺は愛のためなら言語習得の10や20……」


 あー、うん。彼の歪んだ愛はどうでもいいのだ。俺としては、向こうに土地勘があればいいと思っていたのだが、どうも実際にミニュジア国内に立ち入ったことは無いらしい。


「せいぜいタロッテの西町ぐらいですよ」

「そうか……」


 でも、現地の人に事情を話す役には立つだろう。上陸隊は彼に任せることにしよう。

 海賊たちはソバートンの現地当局に引き渡した。一応聞いてみたが、審判の後、船長以外は労役刑ということになりそうだった。

 意外に近代的? とも思ったが、単に人手が足りていないだけのようだった。ソバートンのあるケーリック島は、まだ南部に手付かずの土地がかなりあって、そこを開拓して有効に活用したいのだそうだ。


 そこで思い出したのは、センピウスの事情だった。

 センピウス本国は乾燥地帯なので、特に食料生産に不安がある。現在は元々同じ国だったよしみと、ミニュジアやストランディラといった他国への防壁の役目への報酬として、北の旧ダカス諸国から安く食料を輸入できている。

 だが、そのままではいつまでも自立した国にはなれない。

 だからセンピウスは南の海に浮かぶ、ガニエ島、ケーリック島への進出を急いでいたのだ。両島は多雨なので米などを生産すれば食糧問題が一気に改善される。

 問題は、センピウスは元々の人口が多くなく、働き手が少ない事だった。その割に軍事が精強だと言われているのは、傭兵団をまるごと召し抱えるという政策のおかげだ。だから、この国の貴族には傭兵団の団長というのがかなりいる。領地も経営して生産すると言うよりはただの傭兵団の本拠地となっていることが多い。

 そういうわけで、健康な働き手、しかも罰として無給で働かせられる人員は、貴重なものだった。

 ちょっと気が軽くなった。

 苦しくても、生きていれば人生を立て直すチャンスもあろう。


 ウラッカ号の帆に関してだが、今回の戦いで弱点が浮き彫りになった。通常より大きな一枚帆を使用している関係で、砲撃で穴が開くとダメージが大きいのだ。


「なんとかしたほうがいいですね」

「そうか……」


 俺は手持ちの知識で何とか出来ないか考える。こっちの世界では他に見たことが無い帆だから、使えるとすると地球の記憶だ。

 だけど……地球のヨットは砲撃とか受けないからなあ……

 地球の帆船時代の帆がシップ型で、細かく別れた多くの帆を使っていたのはダメージを分散させる意味もあったのかもしれない。横帆が多くて操帆が手間だが、それも裏帆を打たせて砲撃時に狙いをつけやすくするという意味があるとも聞いたことがある。やはり広く使われているものにはそれなりの理由があるものだ。

 大きな帆……そういえば、よじれることも多いな。

 その時、閃いた事があった。


「そうだ、骨を入れられないかな?」

「骨?」


 何を言い出すのか、と言いたげなセリオの顔。


「もちろん、人や動物の骨じゃなくて、竹か何かを細くした骨組みを、平行に何本か帆に縫い付けるんだ。それで帆の形が崩れにくくなるし、砲撃を受けて穴が開いても、骨組みのところで食い止められる」


 俺の顔を見て、帆を見て、頭上を見て、頭のなかで色々想像してセリオはようやく納得したようだった。

 俺が思い出したのは、中国の船だ。ジャンク船といっただろうか? 大きな四角帆の水平方向に何本も骨組みが入って、それによってマストに登らなくても操作できる仕組みだったはずだ。下から滑車でするすると帆を上げ、ロープで引っ張ることで甲板上から自在に操作しているのを何処かのテレビで見たことがある。

 俺は早速、良い材料が無いかソバートンの町に探しに出ることにした。

 しかし、また目立つ船になるな。



 予定を全て終えて、ウラッカ号はソバートンから出航した。

 ちょうど条件に合う竹を見つけたので、とりあえずジャンク船のように水平に骨組みを入れておいた。縫い付けるだけだからそれほど手間ではなかった。


「若干重くなっていますから、マストに補強を入れたほうがいいですな」


 掌帆長が指摘したとおりに、マストを垂直に保つ索を増やして、これで大丈夫だろうとなってからの出航になった。

 これから向かうのは、俺にとっては未知の海域だ。同じマーリエ海だというのに、風の匂いも違う感じがした。

 2日の航海の後、ようやく陸地が見える位置まで到着した。


「もっと北だったかな?」

「そのようです。まあ、あまり近づきたくない辺りですがね」

「もっともだ」


 ケーリック島から西に航海してきたが、幸いに危険な目には合わなかった。だが、ここから北は紛争地域になってしまう。センピウスとミニュジアの軍艦がうようよいる海域のはずだ。


「まあ、沿岸を陸伝いに行けばちょっとはましかも知れませんね」

「ミニュジアの船はこの辺りから出ていないのか?」

「そっちの方がセンピウスの船に当たるよりいいと思いますよ。なんせ、こっちの行動を説明するのが手間ですから」

「それもそうか」


 ミニュジアにとっては、自国の国民を故郷に送り届ける船なんだから、問答無用で襲われない限りはなんとかなる。こっちには言葉のわかるセリオもいる。

 一方で、センピウスの船だったら、こっちの行動がまわり回ってセンピウスの為になるんですよ、と説明するのに苦労するだろう。むしろ、第三国であるトランド船が人道的に行動している、で押し通した方がいいぐらいだろう。


「引き続き、警戒しながら前進だな」

「アイアイサー」


今回の豆知識:


ケインは限られた現代知識しか持って行っていないので、そんな中でどうやって異世界にないものを実現させるかというのは苦労するところです。一般的な学生で、本職でもなく、ちょっと興味がある程度の知識で、まあこれぐらいは実現出来るだろうというラインはこのぐらいでしょうか……

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