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蒼海の魔法使い~海洋系リアル派異世界冒険記~  作者: あらいくもてる
第一章 12歳編 右手に杖を、左手に羅針盤を
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港町での一日

 師匠に連れられて訪れたトランド海洋国海事協会リッケン出張所では特に収穫は無かった。

 当たり前だ。

 難破船情報を探ってみても、該当するようなものは存在しない。

 とりあえず所定の手続きをして、小額の手数料を支払ってトランド国民ケイン・サハラとしての身分は確定した。国民だろうと無かろうと、トランド船籍の船で働いている以上、そこから一定の税金は徴収されているそうだが気分の問題だ。

「難破船捜索願いを出しておきますか?」

 と聞かれたが、当然のごとく遠慮した。


 次に師匠と向かったのは、杖の販売店。

 杖は特に魔法をかける対象を制御するのに有効らしく、なるべく使ったほうがいいらしい。

 師匠の杖もパットの杖も、同じように曲がったり折れたり複雑な形をしていたが、これは曲がった部分で回転を、折れた部分で切断や分離を、そして杖の根元にかかってのまっすぐな部分では直線を表わしているそうだ。

 たとえば、曲線の部分で風を回転させるイメージで出すと竜巻などが作りやすいということらしい。

 ともかく、初めての杖は師匠から弟子に贈られるものらしいので、そこそこしっかりしたつくりのものをありがたく頂戴した。


「服はお前さんの場合、船乗りとしての活動もあるからローブでなくても良かろう。本当は、ローブも持っとくと暑さ対策にはいいんじゃがな」

 ん?どういうことだろう?日差し対策ということだろうか?

 聞いてみた。

「いや、ローブの中で陰魔法を使うと快適なんじゃよ」

「それって、女性魔法士以外禁止されてるんじゃ……」

「ばれなきゃいい。わしも寝るときとかは使っておるぞ。お前は個室じゃないからばれないようにするには難しかろうがな」

 師匠は意外と適当だった。

 あきれたことに、冷却魔法を女性魔法士に限って認めるという規則を作ったのが当の師匠本人だそうだ。

 師匠はものすごく適当だった。


 ともかく師匠と食堂にて焼いた鶏肉とシチュー、久しぶり(というかこっちの世界に来てから初めて)のやわらかいパンなどの昼食を楽しんだ後、別行動となった。


 さて、まずは宿の場所の確認をしてから町を散策といきますか。


 中心街をしばらく行くと、やっぱりありました。

 冒険者ギルド。

 異世界テンプレの王道。

 受付のかわいいお姉さんと仲良くなったり、柄の悪い冒険者に絡まれて逆にぼこぼこにしたり、薬草採取やゴブリン退治で必要数の何倍もの成果を上げて「最強のFランク」とか呼ばれたりするあれですよ。

 だけど。

 今はいいか。

 前に考えたように、俺は今12歳の体。

 冒険者としてやっていくことがあっても、それは早くても3年先で、いまはまだ力を蓄えるときだ。

 そう、まだ早い。

 決してチラッと中をのぞいたときに受付にいたのがおばちゃんだったからとかそんなことは関係ない。


 それにしても、このリッケンという町、いやクウェロンがそうなのか。

 やたらに、地球で言うところの東洋人的な顔をしている人が多い。

 アリビオ号の乗組員はどちらかというとみんな西洋風の顔立ちだったのではっきり違うことがわかる。

 してみると、魔大陸南部の独自文化というのは地球で言うところの東洋文化ということなのだろうか?北の大陸の東側ということで、ノヴァーザルというのがそうなのかと勝手に思い込んでいたけれど、そうでは無いのかもしれない。

 いや、ないな。

 東洋的だったらもっとジパングとかトーキョーとかペキンとかそういうネーミングになるはずだ。断じてこんな奇妙奇天烈な名前の文化圏では無いはずだ。


 そういえば、俺は転生では無いから日本人の容姿をしているはずだ。

 だが確かに回りに比べて、少々彫が深い顔立ちだったことで、そういえば小学校のころは「ガイジン」「ピエール」といじめられていたのだった。

 いかん、目から汗が。


 思わぬトラウマを自ら掘り起こしたことはさておき、荷物になるので帰りに買う衣服や何やらの店を下見しながら歩き続けていると、また発見してしまった。

 檻。

 露天の奴隷商だった。

 奴隷、それも異世界テンプレの王道。

 虐げられた美少女、できれば猫耳とかをお買い上げして、戦闘で役立ってもらいながら耳とか尻尾をモフモフなでなでして、夜は寝床でかわいがって……

 いや、ないな。

 そもそも今の俺、ただの一船員だよ。

 残念ながらTUEEE分もNAISEI分も、はたまたシュークリーム分も、そういった奴隷購入に必要な成分が俺には足りない。

 いや、最後のは違うか。

 財政的にもまったく足りていないし、今回は見送るとする。

 そう、まだ早い。

 決して、見た感じおっさんの獣人ばっかりで猫耳美少女がいなかったからとかそんなことは関係ない。


 ともかく、俺はシュークリーム分補給のため、いやシュークリームはここには無かったが、そういえば甘いものとか久しく食べていないことを思い出して、買い食いに走るのだった。


 夕方になり、宿に戻ると、同室の師匠は寝床に横になっていた。

 何事かと思ったが、聞いてみると、腰痛治療のために治癒術をかけてもらい、風呂でゆっくりして体を休めていたそうだ。

 そう、そこそこ高級な宿をとってあって、さすが師匠は太っ腹で高給取りだなと感心したものだが、いつでも入れる風呂のある宿で腰をいたわることが目的だったらしい。

 なんとなく恩返しがしたくなって夕食後にマッサージをしてあげた。

 地球時代の祖父にも好評だった俺のマッサージの腕には、師匠も喜んでいた。


 そういえば、ちょうど交通事故死したときは実家に帰るときだった。

 そろそろ足腰が弱くなってきていたが、子供のころよく遊んでもらっていた仲良しの祖父と久しぶりに会えるというのも楽しみにしていたんだった。

 ああ、今頃、といってもこっちの世界と地球とで時間の流れが一緒かどうかもわからないし、おれ自身は何回も生まれ変わりに失敗しているからどれぐらい時間が経っているのかもわからない。


 祖父は悲しんだだろう。


 長生きできたのかな。


 神様いわく、死後魂は転生するということだから、ひょっとしたらこっちの世界で出会う誰かが祖父の生まれ変わりかもしれない。


 会えるといいな。


 覚えてないだろうけどな。


 こっちも気づかないだろうけどな。


 そんな風にすこし感傷的な気分になって、その日寝床で涙がこぼれてきた。

 そんなこんなで、港町での一日は、テンプレを回避したり、トラウマがよみがえったり、

センチメンタルに浸ったりして、心揺れ動く、忘れられない一日になったのだった。

今回の豆知識:


いいだしっぺは意外と規則を守らない。

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