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ホテルってたまに泊まると居心地のよさに驚く

今回のプロローグ




「白道様、せっかく胸に穴が空いたので、その隙間を私で埋めてみませんか?」

 

 「いや、比喩表現的なアレならそれなりにロマンティックあげるよって感じだけど、物理的に空いてるからね。ただの移植手術だよそれ」


 「でも、最近は好きな人へのお弁当に自分の肉を交ぜるのがトレンドだとか。それと似たようなものでは?」

 

 「違う違う違う。断固違う。頼むから変な情報ばかり集めないでくれ」


 「ふーむ、じゃあ私の心の隙間を埋めてください。方法はA、B、Cのどれかでお願いします」


 「おかしいな、じゃあって言葉はそんな風に使わないはずなんだけどなあ。つーかなんだよABCって。48?」


 「あきら、ぶっちゃけ、ちょーカワイイの略です」


 「え、そうだったの? 予想と違うんだけど。つーか違うにも関わらず相変わらず訳がわからないんだけど」


 「さすがにちょっと恥ずかしいです」


 「恥ずかしいの基準がわからねえよ。つか表情かわってねえよ。俺にしかわからないよその変化」


 「あなたにだけわかっていただければ、それで満足です」


 「……ああ、そうかい」



――――



はげを退治してから、重傷を負った俺は、以外にも役立ったホッチキスで穴を閉じて、陰陽師の力で治療しつつ近くにあったホテルに泊まった。謎の刀傷を負って病院にいくわけにもいかなかったので、明らかにあやしい俺たちを泊めてくれたホテルに感謝だ。


 傷は一日で治ったので、俺はしこたま眠ったあと、重い頭を抱えて寝室からでた。リビングのほうで、狐がソファに座っていた。


「ふ、ふふふふふふふ。でゅふふふふふふ。ふひへへへへへへ」


「おい、気持ち悪いぞ狐。なに馬鹿笑いしてんだ」


 しばし眠っていたら、いつのまにか狐がおかしくなっていた。いや、もとからおかしいけども。


 「ふへへ、お主が尻尾を取り返してくれたおかげで、儂はご機嫌じゃ。いまならちゅーでもなんでもしてやるぞ。ありがたくおもうがよい」


 「丁重にお断りします。死ね」


 「おい! 丁重でもなんでもないじゃろその態度! でもそんなところもかっこいいぞっ!」


 「ぞ! じゃねーよ。お前キャラおかしくなってっからな。尻尾の一本でどんだけデレるんだよ。ちょろいよ。ちょろ狐だよ」


 まったく、せっかく穴がなくなったのに、また疲れちまった。俺の胸は常に痛みっぱなしだ。しかし、飲まず食わずで二日たったから腹が減ったな。玲に飯でも頼むとするか。


「おーい、あき――」


「こちらに用意してあります。和風、洋風どちらにいたしますか?」


「おや? 俺はまだなにも言ってないんだけどな。用意がよすぎて怖いなあ」


机の上にはとても手造りとは思えないレベルの料理が並んでいた。ここはホテルのはずなのに、どうやってこれほどのものを用意したのかが本当に謎だ。


「白道様のことでわからないことなどありません。あ、ですが流石に髪の毛の本数はわかりません」


 「え、逆に言えばそれ以外なら、なんでも知ってるのか!? 俺より俺を知ってるよなお前!」




閑話休題






「で、尻尾が帰ってきたわけだけど、なんか、見た目以外変化が無いな」


今までは普通の狐と同じく一本しかなかったが、今の狐の尻には、二本の尾が生えている。けれど、力が戻っている様子はない。


「ふうむ。まあ、妖怪というのは一つのパーツを失うだけでも、存在を著しく失うことになるからの。たかが二本程度では猫又と変わらん。これでは力も戻るわけがないの」


 妖怪は、その存在のみは古くからあるが、その見た目のイメージは、人間によって作られている。そのため、アイデンティティというものは人間よりも大事である。なんてことは当然知ってはいたが、ここまで変化がないとは。


「まあ、力が戻らずとも、尻尾がもどればそれでよい」

「さいですか」

「力と言えば、お主の力はとんでもないのう。あのなまはげはそれなりに強敵のはずなんじゃが」

「陰陽師だしな。それくらいは当然だ」

「それにしても、原子レベルで操れるというのは凄過ぎるじゃろ。平然と台風とか出しておるし」

「白道様は一万年に一人の天才と呼ばれるほどのお方ですので、当然です。むしろ、もっとすごくてもいいぐらいです」

「一万年って、陰陽師とか存在してねえよ。だれが言ったんだそんなこと」

「けれど、一族で最も才能があるのは確かでは?」

「戦闘だけな。今の日本でどれだけ戦えようと、金になりゃしねえよ」

「生まれる時代を間違えたのう。ま、儂にとっては都合がよいがの。ご都合展開じゃ」


ご都合展開、ね。確かに都合がいい。良すぎるくらいだ。だが、俺はガキの面倒を押しつけられ、胸に穴を空けられと、いいことが無い。不都合展開だ。


「それで、これからどうするんじゃ? また寺に戻るのか? あの長い移動はご免こうむりたいがのう」


それはこっちのセリフだ。誰のために新幹線の料金まで出してやったと思ってるんだ。


「けど、儂は御主とならどこにだっていけるぞっ!」


「もういいよそれ、ほんっとにうぜーよ。二本になった尻尾ちぎるぞこのやろう」


「それは流石にダメだぞっ!」


「Go f○ck yourself」


「!?」


 もう無視することに決めた。こいつに付き合っていると人生が三回あっても足りやしねえ。さっきから『だぞっ』って言うたびに変なポーズとるから余計にストレスがたまる。なにフロンティアのなにシンデレラなんだ。


「実家にはいかねーよ。あそこには今は用はねーし、一旦静岡にいく」

「……静岡ですか?」 


俺が言うと、玲が突如立ち上がった。玲にしては珍しいほど声を荒げて、表情を変えて。あまりにも珍しいので、俺のほうが驚いてしまった。それでも、敏感な人ならどうにか気付く程度の変化ではあるが。


「なんじゃ、静岡になにかあるのか?」


狐は玲の変化に気づいていないのか、のんきに二本の尻尾を振りまわしていた。


「静岡には、白道様の妹、凛様がいらっしゃるんです」

「妹? お主、妹と離れて暮らしておるのか? 意外と複雑な家庭なんじゃな」

「いいえ、違います。そんな一般的な理由ではありません」


なんのことを言ってるんだこの犬娘は。俺も狐もぽかんとして、玲を見る。玲は冗談を言っている風ではなく、真面目そのものだった。しかし、俺の記憶では、玲は凛に会ったことがないはずだ。そんな玲が一体全体なにをそんなに気にしているのか。頭に指をあてて考えてみるが、なにも思い当たらない。


玲に目をやり、視線で尋ねてみると、神妙な顔つきでこう言った。


「凛様は、白道様のことが好きすぎて、離れさせられたのです」

「…………」

「…………」


ふむ。


「お前、前々から思っていたけど、その犬の耳は脳にまで達してんのか?」

「似たような種類の動物として恥ずかしいわい」


「……、少し言葉がきつくないでしょうか。特に白道様に真顔で言われると、少し傷つきます」


玲は耳をふにゃりと曲げて、肩を落とした。だが同情する気はまったくない。俺の妹は少々ブラコンなところもあるにはあるが、そんなアホな理由で家を追い出されるほどじゃあない。どこから聞いたんだよそんな話。


「玲はほっとくとして、静岡には俺の家と懇意にしている寺があってな、そこに妹もいるんだよ」

「ふむん。じゃあなんじゃ、修行のために家を出たみたいな話なのじゃな?」

「そーそー、間違ってもあほらの言うようなことはねーよ」

「あの、白道様、私は玲です」

「そうか、よかったな」


富士山は日本で最も有名な霊峰だ。その近くなら陰陽師として最高の修行の場になる。凛は俺なんかとは違って、占い呪いなんでもこいのオールマイティなやつで、あっちの寺のほうからぜひ来るように言われたほどだ。

 


「まあとにかく、凛の奴なら、尻尾の探索には役立つはずだ。あいつは失せ物探しとかバイトでやってたしな」

「ほう、心強いの。ふふふ、お主らはまったく、儂の為にいるような兄弟じゃのう」

「うるせえ。んじゃ、飯も食い終わったしとっととチェックアウトするぞ。玲、財布取ってくれ」


 口をとがらせて、いじけている玲に声をかけ、俺は鍵をとって立ちあがった。思っていたより長く滞在してしまったので、金が心配だ。静岡についたら一旦金を稼ぐのもありかもしれない。


「本当にいくのですか? 白道様。私はやはり賛成できません」


財布をもってきながら、玲はそんなことを言う。気持ちはわからないが、どうにも本気で言っているのはわかる。できることなら、あまり嫌がることはしたくないけども、状況的には凛の所へ行くのが最善だ。調べたいこともある。置いて行くのも可哀そうだし、ここは、一肌ぬぐとしよう。


「じゃあ、ついてきた暁には、その礼として俺の時間を一日お前にやるよ。それでどうだ?」


 俺が言い終わるより前に、玲は沈んでいた顔を上げた。


「な、え、そ、それはつまり一日白道様に何をしても良いということですか? 朝からいちゃいちゃしたり、ご飯を食べさせあったり、買い物に行ったり、お風呂に入ったり、ぺろぺろしたり、くんかくんかしてもよろしいのですか?」


「よし、ひとまず落ち着け」


 前半からひどいものではあったが、後半のひどさが許容できん。犬かお前は。いや犬なんだけども。しかしここでひくのは普通の男。俺はこれでも玲とは長い仲なので、この類の妄言は無視する。


「変態的なことはともかくとして、まあある程度のお願いごとなら聞くさ」


「それでしたら、こんなところで話している暇はありません。至急静岡へ急ぎましょう。私は先に行って新幹線の切符を買って参ります」


早口でまくしたてた後、玲は妖怪の力をフルに使って部屋を飛び出していった。びゅん、という音が聞こえてきそうな急ぎ方だ。妖怪だとばれるんじゃないかあれ。


「お主はあれじゃのう、なんだかんだであの犬と仲がいいのう」


 少し呆れた顔で、狐は話しかけてきた。


「もう家族みてーなもんだしな。仲がいいっつか、遠慮が無いってだけの話だ」


「かかか、素直じゃないのうお主は。ま、それはそれで面白いのからかまわんがの。それでは、儂らもいくとするか」


座っていた椅子から飛び降りて、狐は入口へと歩いていった。俺もバッグを肩にかけ、狐の後を追う。シーツに俺の血が若干ついたままだが、気にしないでおこう。


次に秋田に来る時は、血を流すことなく平和に観光したいもんだ。






――――











「白道様、ひとつお聞きしたいことがあるのですが」


「珍しいな。何を聞きてーんだ?」


 「妖怪と人間は結婚できるんでしょうか」

 

 「………………………………、まあ、愛があれば?」

 

 「いえ、愛はあるので大丈夫です。もう相思相愛どころの話じゃないですので」


 「………………………………、じゃあ、あとは妖怪の戸籍がちゃんとしてるかどうかじゃね?」


 「戸籍……。白道様、私の戸籍はどうなっているんですか?」

 

 「真面目な話、一応、何不自由なく健康保険に加入できるくらいにはしっかりしてるはず」


 「白道様」

 

 「なに」

 

 「今すぐ市役所にいきましょう」


 「断固断る」


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