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ゆる~らぶ  作者: 一 一 
一章 部活動 ~高校一年生・一学期~
47/92

凛の十九 体育祭 ~騎馬戦~


 凛ちゃん視点。


 観戦のみです。


「……あぁ、身内として、恥ずかしいです……」


 先程『男子百メートル走』が終わり、私は椅子に座ったまま両手で顔を覆っていました。競技は最後まで見ていたのですが、途中から見ていられなくなった事情があるのです。


 それもこれも、終盤の組で走られたお兄様のせいでした。


 スタートラインに並ぶだけで歓声が上がり、とても綺麗なフォームで百メートルを走りきり、ゴールしたついでにモデルのようなポーズを取って女性を()かせていました。


 それだけならば、私だって文句は言いません。以前からお兄様が何かする(たび)に、女性が強く興奮するのは当たり前でしたから、お兄様に注意を促しても仕方のないことです。


 では、私が何に対して恥を覚えているのかと言いますと、一連のお兄様の行動がすべて私を意識して行われていた、ということです。


 最近、少しお兄様に思うところがある上、五組の青組でしたので、体育祭では敵同士です。心情的にも表向きにも、応援する必要はありません。


 ですが、一応、私と血を分けた兄妹であり、演劇部の先輩でもありましたので、少しくらいなら、と思いまして声援を送りました。


「お兄様、頑張ってください」


 他の女子生徒の方と比べれば、そこまで大きな声援ではありません。それどころか、大きすぎる女子生徒たちの黄色い悲鳴でかき消えてしまうほどの声量でしかありませんでした。


 ですが、それが間違いでした。


 お兄様は色んな声が飛び交う中に混じった私の声を聞き分け、走る寸前に私と目を合わせてきました。


 そして、家族に向けるには甘すぎる笑顔を、私へと放ってきたのです。


『キャアアアアア!!!』


 私の周囲にいた女子生徒の方々は、自分に向けられたと思ったのでしょう。さらに歓声を強くして、お兄様へアピールするために手を振っていました。


 しかし、浮わつく彼女たちの気持ちとは裏腹に、私の気持ちはどんどん沈んでいきました。


 何せ、整列からゴールまでずっと、お兄様は私へと視線を固定させて競技に挑んでいたのです。ともすれば、私の周囲以上の気合いで、私に、アピールをしてくるのです。


 ちらちら、というレベルではなく、終始私と目線を合わせたまま器用に走っておられました。最後に髪をかきあげられた時など、わざわざ体勢をこちらに向け、決め顔と流し目を作ってまで見せつけてこられました。


 そんな、(わたし)相手に全力でアピールするお兄様に、私は無性に恥ずかしくなりました。


 好意を向けておられる相手が、私であろうが他の女性であろうが関係ありません。


 見たいとも思えない、身内の本気なセックスアピールを見て、平然としていられる方など存在するのでしょうか? いえ、私はいないと思います。


 たまたま偶然見かけた、という状況ならば気まずさだけで済んだでしょうが、お兄様は私が注目していることを理解し、それも大勢の人が見ている中であのような行為をしてみせたのです。


 特に、私の知り合いの方にお兄様の姿を見られたと思うと、赤面せずにはいられません。『あれ』が私の兄だと思われた、と考えるだけで、どうしようもない羞恥を抑えられないのです。


 せめて人前では、家族として恥ずかしくない行動をしてください、お兄様!


 と、すぐにでも本人に強く言い聞かせたいところでしたが、まだ競技も終わっていません。


 私は真っ赤になった顔を隠す手の間から、恨めしい視線をお兄様へ送りました。視線そのものには気づいたようでしたが、嬉しそうに手を振り返す様子から、込められた意味にはまったく気づいていないようでした。


 それからは、なるべくお兄様を無視して競技を観戦していました。突き刺さるような視線を常に感じていましたが、勤めて無視し黄組の方を応援します。


 退場の際ですら私を強く意識するお兄様に、もう言葉も出ません。あんな人、もう知りません。


「えっと、次の競技は、長谷部さんが出場される『騎馬戦』ですね」


 私だけ針の(むしろ)のような気分を味わった『男子百メートル走』が終了し、プログラムへと目を落とします。お兄様のことは忘れましょうそうしましょう。


 この『騎馬戦』では、学年、男女関係なく行われます。組まれる騎馬は男女混合ではありませんけどね。


 選手の皆さんは事前に色組に別れ、三つ(どもえ)の争いを行うこととなります。赤組、青組、黄組はそれぞれの色をした帽子を被り、それを敵の組に取られるか落とされれば騎馬を崩さなければなりません。


 そして、時間切れまで残った騎馬の数によって、それぞれの組に点数が加算されるようになっています。


 試合は全部で三回戦行われ、一回戦が男子だけ、二回戦が女子だけ、三回戦が男女混合の総力戦で行われます。


 陣営が三つ、ということで敵の数が多く、闇雲に攻めるだけでは負けてしまうため、戦略が大事になるそうです。定期的に開かれていた『騎馬戦』出場選手によるミーティングで、かなり綿密な話し合いが行われたようです。


 私の知り合いでは、クラスメイトを除きますと演劇部の長谷部さんとトーラ先輩、そしてトウコ先輩が出場されています。


 長谷部さんはクラスでも仰っていましたが、足の速さは並みであり、徒競走の系統は無理、と断っていらっしゃいました。


 そもそも、運動自体が得意ということもないそうで、自信があるのは体力だけ、ということでした。


 よって、長谷部さんは立候補で『騎馬戦』と、『応援合戦』を選んだのです。今回の『騎馬戦』では騎馬の前方を担当するそうで、「頑張ってくるね!」という頼もしいお言葉を残して出陣されました。


 トーラ先輩は先程の『女子五十メートル走』に出場していたため、足はとても速い方です。しかし、本人が仰るには「私は協調性がないんだ!!」と力強く宣言されており、実際『学級対抗リレー』は自ら辞退されたそうです。


 同じリレー形式の競技である『部活対抗リレー』でも、トーラ先輩は「たすきは私に渡さないで!」と仰り、受け渡しはミィコ部長が引き受けるほどでした。


 なので、他にトーラ先輩のパワーを活用できる競技は、『騎馬戦』しかなかったのでしょう。身長の関係で騎馬の上を担当するようで、ずいぶん張り切っておいででした。


 トウコ先輩も、大体長谷部さんと同じ理由だったのですが、ちょっと毛色が違うのはトウコ先輩の得意分野が『殴り合い』と仰っていたことです。


 詳しく聞くのが怖かったのですが、一応お窺いしますと、「キョウジに付き合ってたら、自然と、ね?」という、思わず納得してしまう理由でした。


 あまり他人の過去を詮索(せんさく)したりはしませんが、少なくとも相馬さんと行うキョウジ先輩のスパーリングは、妙に手慣れているような印象を受けました。


 つまり、喧嘩慣れしているのです。それも、殺陣(たて)ではあり得ない、実戦を念頭に置いた動きが多々見られました。


 今は通っていませんが、昔は試合を行う流派の空手道場に出入りしていましたから、私も少しはわかります。型はなく、とても自由な動きでしたが、キョウジ先輩の動きはかなり洗練されておいででした。


 恐らく、生まれもっての動体視力や反応速度、あとは恵まれた運動神経をうまく活用する術を、キョウジ先輩は本能的に理解しているのだと思われます。


 ただ、先天的な才能だけでは喧嘩慣れなどつきません。空手などの武道でも同じことですが、実戦をいくつも経験したからこそ、試合の勘は身につくものです。


 そんなキョウジ先輩の近くにいたのですから、トウコ先輩もそれはそれは過酷な環境に身を置いた時期があったのでしょう。そして、順応なされたからこそ、そのような物騒な自信が芽生えたのだと思われます。


 当然、トウコ先輩は騎馬の上に昇り、男女関係なく狩っていく! と意気込んでおられました。怪我人がでないか心配です。


『騎馬戦』に出場する私の主な知り合いは、それくらいでしょうか? あとはクラスメイトの方や、顔見知り程度の部活見学でお見かけした方々もいらっしゃいます。


『選手、入場』


 アナウンスが響き、大勢の人がグラウンドへ入ってきました。どこか合戦を思わせる物々しいBGMが流れ、駆け足で所定の位置につく彼らを鼓舞しているようでした。


『第一陣、用意』


 配置につきますと、『騎馬戦』独特の言い回しで男子の方々が騎馬を組み始めます。三学年総勢二十七クラスの騎馬が揃うと、圧巻ですね。


『出陣!』


 そして、開始の合図とともに『騎馬戦』がスタートしました。


 第一回戦の男子のみの『騎馬戦』は、作戦の個性がかなり浮き彫りになっていました。


 赤組は騎馬を二手に分け、青組と黄組を同時に攻めようとしています。数は半減してしまいますが、やられる前にやれ! という感じで敵陣へと果敢に攻め入っています。


 青組は逆に、防御を固くしています。指揮官らしい騎馬を中心に、団子状態に騎馬を集合させて全方位に目を光らせています。恐らく、損害を最小限にし、堅実に点数を稼ぐ作戦なのでしょう。


 そして私たちの黄組は、奇しくも赤組と青組の作戦を足して二で割ったような動きをしています。戦力を二手に分け、しかし騎馬同士は固まりながら相手の組へと移動しています。


 制限時間は五分間。短い時間の戦いですが、内容はとても過激でした。


 一番激しかったのは、やはり赤組と黄組の衝突です。遊撃隊のように分散しながら攻める赤組と、孤立した騎馬を囲みながら帽子を奪う黄組は、開始早々乱戦の様相を呈しました。


 外から見る限り、考えなしに突っ込んだ代償か、赤組の騎馬の方が早く騎馬を解体しています。黄組も無傷ではいられませんが、この様子ですと赤組の騎馬を倒しきることもできそうです。


 一転、膠着(こうちゃく)しているのが青組陣営へと向かった騎馬たちです。ほとんど動かず、要塞のように待ち構える青組に、赤組も黄組もどうやって手を出したらいいのかわからないみたいです。


 血気盛んな赤組の騎馬が何度か挑んでいましたが、中央の騎馬からの指示が飛び、すぐに囲まれてしまっていました。そうなった騎馬は、抵抗こそすれあっさりと帽子を脱がされ、脱落していきます。


 黄組も隊列を組んで挑んでいるようでしたが、常に同数以上の青組騎馬が目の前に立ち塞がり、攻め込むことができません。小競り合いで数組の青組騎馬を落としましたが、全体的な損害では黄組が大きくなっています。


 残り時間一分を切っても、青組陣営の騎馬は大半が残り、赤組はかなり数を減らし、黄組は両者のちょうど中間くらいの騎馬が残っています。


 このままではまずい、と判断したのでしょうか。対立していた赤組と黄組の戦場が一度解体され、青組へと流れ込んでいきました。


 最終的に赤組と黄組で青組を包囲していましたが、敵の敵は味方、というわけもありません。青組へ攻めた赤組騎馬の背後を黄組騎馬が、あるいはその逆が、という状態も見られました。


『撤退!』


 そうこうしている内に、終了の代わりの合図が伝えられて、一回戦が終了しました。


 内容は、見事な青組の作戦勝ちと言えました。積極的な行動を見せず、他二組の潰し合いを尻目に騎馬を守ったおかげで、八割もの騎馬が見事生還していました。


 黄組の残存騎馬は六割ほど。騎馬が複数で固まり、一体を確実に倒す戦法が功を(そう)し、大きく数を減らすことなく着実に敵の騎馬を倒していました。


 大ダメージを受けたのは赤組でした。騎馬の動きはバラバラで、猪突猛進という言葉が似合う攻め方が(あだ)となり、結局二割ほどしか生き延びることができませんでした。


 私たち黄組は大きく負けはしませんでしたが、このまま同じ試合運びとなりますと、青組の大量リードを許してしまうことになります。


 恐らく、二回戦、三回戦と、青組は同じ戦略で耐えるでしょうし、打開策がなければ一気に不利となります。


 競技の中では点数が稼ぎやすい『騎馬戦』で、大きく差ができてしまうと挽回が難しくなります。以降の試合で流れを変えなければ、黄組も劣勢となるでしょう。


『第二陣、用意』


 続いて、女子の試合に移行しました。赤組にはトウコ先輩とトーラ先輩の姿が、黄組には長谷部さんを始め、クラスメイトの方が見られます。


『出陣!』


 すべての騎馬が組まれたと同時に、二回戦が始まりました。


「らあああああっ!」


「いっくよーっ!!!」


 開始早々飛び出したのは、赤組のトウコ先輩とトーラ先輩でした。とても大きな、それこそ男子の騎馬よりも大きな掛け声とともに、足元の騎馬に指示を出して進んでいきます。


 遅れて他の赤組の騎馬も移動しますが、あれだけやられたというのに作戦の変更はなさそうです。トウコ先輩を先頭に青組へと攻める隊と、トーラ先輩を先頭に黄組を攻める隊とに分かれ、やはり突っ込んでいきます。


 青組は予想通り、男子の方々と同じ作戦でがっちり防御を固めています。黄組は少し作戦を変えたのか、まず攻めてくる赤組に対処することにしたようです。全騎馬がトーラ先輩たちへと向かっていきます。


「あははははっ!!」


「きゃっ!」


「あっ!」


「は、はやっ!?」


 すると、戦況はすぐに動きました。


 黄組とぶつかったトーラ先輩は、なんとたった一組で黄組の騎馬三組を瞬く間に撃墜したのです。


 小さな身長と身体能力を存分に利用し、黄組の騎馬の攻め手を()い潜ってカウンターを繰り出したのです。的確に帽子を弾いたトーラ先輩は、倒した騎馬には目もくれず、次の標的へと走っていきます。


「はっはぁ!! なめんじゃないよ!!」


『きゃあああっ!!』


 一方、青組の方も大変でした。


 一組だけ先行していたトウコ先輩の騎馬が青組の要塞へと突っ込み、青組の陣から悲鳴が上がりました。


 トーラ先輩とは違い、トウコ先輩は先手必勝の押せ押せ戦法でした。相手になにもさせない早業で、防御が固いはずの青組の騎馬をどんどん崩していきます。


 そうして開けた穴に突入していく赤組の騎馬隊。トウコ先輩を旗頭とした赤組は、怒濤(どとう)の勢いで青組の騎馬を解体していきました。


 密かに心配していた怪我人ですが、帽子が落ちた青組の方を見る限り、大きな怪我はなさそうです。女性ばかりでしたし、トウコ先輩も配慮したということでしょうか? 何にせよ、安心しました。


『撤退!』


 しかし、競技の成績という点では(かんば)しくありません。


 二回戦はトウコ先輩とトーラ先輩の二強が大活躍したことにより、青組と黄組の残存騎馬がほとんどありませんでした。赤組は被害をほとんど出さず、まさに一人勝ちといった結果です。


 一回戦、二回戦と成績を残せなかった黄組が、かなり不利な展開になって参りました。点数も他の組とは大きく離され、上位争いから置いていかれた印象が(ぬぐ)えません。


『第三陣、用意』


 そして、最後の試合が始まろうとしています。最終戦では男女総出での騎馬戦であり、うまく立ち回れば大幅に得点を稼ぐことができます。


 皆さん、頑張ってください!


『出陣!』


 アナウンスが試合開始を告げ、『騎馬戦』最後の戦いが始まりました。


 前二回とは違い、とても静かな開幕です。青組の戦法ではありませんが、どの組も固まったまま様子見に入り、動きがありません。


 三回戦では保守的になれば大量得点を狙えますが、三組ともが同じように睨み合いを選択してしまった場合、以前の試合結果で勝負が決まってしまうことになります。


 つまり、このまま黄組が何もしなければ、『騎馬戦』の勝者は赤組か青組になってしまいます。


 追う側となっている黄組は、騎馬を崩されないように点数を確保しつつ、赤組青組の獲得点数を削っていかねばなりません。


 この難局を、長谷部さんたちはどう乗り越えるのでしょうか?


「……あぁーっ! まだるっこしい!!」


「トウコちゃんに賛成!! 私は行くよ!!」


 そして、三つ巴の均衡を破ったのは、またしてもトウコ先輩とトーラ先輩のお二人でした。


 動きのないまま一分が経過したところで、二回戦の時と同様、単騎で突撃していきました。どうやら点数的にライバルである青組をターゲットとしたようで、お二人ともそちらへと騎馬を進めています。


 お二人につられて、赤組の騎馬が後続で続きます。ほぼすべてが女性の騎馬であり、男性騎馬は突然の事態に驚き固まっています。


 どうやら、トウコ先輩たちの動きは作戦にないイレギュラーなものだったようです。一気呵成に攻め込む女子たちの騎馬を、困惑しながら見送ることしかできません。


「今です!」


 すると、他の組も動き出しました。


 トウコ先輩とトーラ先輩の二強が離れた頃合いを見計らい、ハーリーさんが黄組の騎馬へと呼びかけました。そして、集合したままの陣形で、進路を赤組男子騎馬へと向けます。


 青組はあくまで防御に徹するようで、男性騎馬を周囲に展開してトウコ先輩たちの侵食を阻みます。


『うわああっ!?』


 戦力が半分となった赤組男子は、総戦力で雪崩(なだ)れ込んできた黄組に、完全に怖じ気づいていらっしゃるようでした。


 騎馬四体一組で迫る黄組の猛攻に、赤組は次々と帽子を取られていきます。元々の戦略から、チームワークなどは練習でも重視していなかったのでしょう。面白いように背後や側面から帽子を奪われ、次々と騎馬が崩れていきます。


「……ちっ!」


「あぁー、もう! 面倒くさいなぁ!!」


 青組陣営では、トウコ先輩もトーラ先輩も苦戦していました。


 散発的に攻撃を仕掛けては、何体かの騎馬を崩してはおられましたが、内側から現れる新たな男性騎馬に行く手を遮られ、思うような進撃ができないでいます。


 攻めに回った赤組女子の被害が軽微なのはさすがですが、このままいけば青組に軍配が上がりそうです。


「四方を囲め! 赤組残存騎馬には深追いするなよ!」


 すると、残り時間半分を切ったところで、黄組の大将である男性騎馬が指示を送りました。


 見ますと、赤組男子はすでに全滅しており、退場させられていました。黄組の被害は小さく、うまく漁夫の利を狙えた形になります。


 そして、黄組は男女混合で部隊を四つに分け、青組の要塞を取り囲みました。赤組女子たちも囲める位置につき、じりじりと距離を詰めていきます。


「女子隊、前へ!」


 ある程度まで距離が近づくと、黄組は女子の騎馬を全面に並ばせました。皆一様に鋭い視線を青組男子に送っております。


「かかれ!!」


『やああああっ!!!』


 黄組大将の合図に従い、黄組女子騎馬は一斉に青組男子の壁へと突っ込んでいきました。


「え!?」


「ちょっ、まてって!!?」


「う、わぁっ!?」


 すると、鉄壁の防御を見せていた青組の騎馬たちが、強い動揺を見せました。


 赤組女子の槍のような点の攻撃とは違い、黄組の攻撃は女子全員による面での攻撃です。滅多に見せない女性陣の険しい形相も相まって、男子たちは一斉に腰が引けていました。


「男子隊、赤組を抑えろ! 倒さなくていい! 時間を稼げ!!」


 同時に、黄組の男子はほぼ全員が赤組女子の騎馬隊を囲み、身動きを封じます。


「はっ! そんなんで私が怯むとでも思ってんのかい!?」


「黄組、いただきっ!」


 しかし、あのお二人が大人しくしているはずもありません。

 

 黄組の男性騎馬に囲まれたにも関わらず、トウコ先輩とトーラ先輩は闘志を絶やさず攻勢に出ました。手当たり次第に騎馬へと近づき、黄組の帽子を狙います。


「っ?! こ、んのぉ!!」


「わ! とっ?! まっ! てぇ!!」


「わぁ、すごいです!」


 私は部活動の先輩が不利になった姿を見て、知らず歓声を上げていました。


 二体のポイントゲッターと相対した黄組男子は、華麗な動きを見せました。一体で迫ったお二人の騎馬の前に一体が立ち塞がり、足を止めたところで側面や背後へと騎馬を移動させます。


 そして、(おとり)役となった一体の騎馬を守るように、トウコ先輩とトーラ先輩の帽子を四方向から狙ったのです。


 一対一なら強かったお二人でも、さすがに四体の騎馬を同時に相手にするのは厳しかったようです。激しく動かしていた攻め手を防御に回し、騎馬の上で体を大きく(ひね)って逃れます。


 他の赤組騎馬はトウコ先輩たちのような気概がないのか、囲まれたまま動きを見せません。一回りは体が大きい男性騎馬に萎縮(いしゅく)しているようでした。


『わあああっ!!?』


 残り時間一分を切りますと、ついに青組の壁が崩壊しました。


 黄組女子の勢いに戸惑っている間に、青組男子の防止は(ことごと)く弾き落とされていました。男子を防御に回していた青組はほとんどが女子騎馬のみとなり、余裕がなくなっています。


「よしっ! 仕上げだ! 敵の後ろをせっつけ!!」


 赤組女子の抑えに回っていた黄組の大将がまたしても声を張り上げ、意図を察した黄組騎馬隊は陣形を大きく変えていきます。


『やああああっ!!!』


『うおおおおっ!!!』


『えっ!?? きゃあっ!?』


『ひゃあああっ!!?』


「ちっ!」


「わ、わ、わぁ!!?」


 黄組の動きに、青組は驚いて固まり、赤組のトウコ先輩たちは舌打ちをしたり焦りを見せていました。


 青組を囲んでいた黄組女子は、分散していた騎馬が一ヶ所に集まり、全軍で一気に距離を縮めてきました。数の暴力を恐れた青組は反対方向へと移動し、黄組から離れようとします。


 同時に、トウコ先輩とトーラ先輩を包囲していた黄組男子も騎馬を集結させ、赤組へと迫りました。雄叫びとともに接近する男子に驚いたのか、赤組女子もまた黄組男子から逃れるように反対方向へと逃げていきます。


 道中で足止めを食らっていたトウコ先輩とトーラ先輩も赤組の逃走に巻き込まれ、望まぬ方向へ騎馬を動かさざるを得ませんでした。


『っ!?』


『ちょっ、邪魔!!』


 そして、赤組は黄組女子から逃げてくる青組と正面衝突。三組の騎馬が入り乱れての大乱戦に発展しました。


「よっしゃあ! 後は細かいことはない! 存分に暴れろ、みんなぁ!」


『おおおおおっ!!!』


 残り時間三十秒で黄組大将の最後の指示が届き、黄組が外側から攻め立てました。敵味方めちゃくちゃな混戦状態で、防御も無視した帽子取りに専念していきます。


『撤退!』


 そして、激しく動き回ったせいで立ち込める砂ぼこりが舞う中、最後の試合が終了しました。


 騎馬の上部にいた生徒たちが帽子の有無を確かめながら、自陣へと戻っていきます。


 結果、赤組はトウコ先輩とトーラ先輩も含む二割程度が、青組はほぼ壊滅的で数体の騎馬が、黄組は七割ほどの人数の騎馬が残りました。


 全三回の対戦の結果は、最終戦の踏ん張りもあり大きく点数に差ができることはありませんでした。順位をつけるならば、青、黄、赤組の順番です。


 競技全体の総得点も、まだまだどの組も一位になれる余地があり、勝負の結果は不透明なままです。


 一時は冷や冷やとしましたが、皆さんの頑張りのおかげで追い付くことができました。


 今度は私も頑張りましょう!!


『騎馬戦』の選手が退場していくのを見守り、私は一人両手を胸の前で強く握って意気込みました。




 騎馬戦って、こんなんでしたっけ? 書いてて大丈夫かな? と思ったことが何度かありました。


 あと、演劇部の部員がハイスペック過ぎて困ります。どこの競技でも大活躍ですね。


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