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ゆる~らぶ  作者: 一 一 
序章 出会い ~中学三年生~
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凛の二 お返事ができました!

 注意:二話投稿です。

 凛ちゃん視点です。

 相馬さんが私に歩み寄ろうとして下さってから、二ヶ月の月日が流れました。


 だというのに、私は相馬さんに一度も口を利けないままでした……。


 ま、まずいということは、わかってますよ? 失礼という域をすでに越していることも……わ、わかって、いますよ?


 しかし、どれだけ気合いを入れ、相馬さんとお話ししようと意気込んだところで、私は毎回まともに顔を上げられませんし、口元の筋肉も硬直したまま。


 相馬さんが、いつも一人でいる私に気を使って下さってるのは察してますし、彼の気持ちは本当に嬉しいと思っています。


 感謝の言葉も伝えたいと思っています。


 ですが、いざ話しかけてくださった時、返事をしようとすればするほど言葉が喉に引っ掛かり、タイミングを逸してしまいます。


 相馬さんがこちらへ来てくださると、どうにも身構えてしまって顔に力が入ってしまいます。


 相馬さんのお話しに、せめて相づちだけでも打とうと意識を集中させて、いつも言葉の節々で相馬さんの顔をうかがいます。


 が、まるで一人語りのようにお話しされていますから、間に入る暇が見つかりません。


 そして、毎回何もできずに時間が過ぎ、座っているだけだったふがいない私。


 次の授業のために背を向ける相馬さんに、私は申し訳なさを込めて見つめることしかできません。


 なんという体たらくでしょうか。


 ただ、クラスメイトの男の子と会話をし、彼の優しさにお礼を言う。それだけのことができないなんて、末代までの恥になります。


 私はこれでもやればできる子です。


 勉強は予習、復習さえ欠かさなければ上位の成績は維持できます。


 運動も、幼い頃から新体操を、途中から護身用ということで空手を習っていますから、人並みにはできると思っています。


 何事も、いい結果を導くためには日々の積み重ねが大事です。


 そう、これまでの私は、俗にいう充電期間なのです。来るべき時のために、爪や牙を研いでいたのです。


 決して、日和(ひよ)っていたわけではありません!


 などと、自分に言い訳をしている間に、今日も相馬さんがこちらへいらっしゃいました。


 言葉にしたことはありませんが、最近相馬さんと顔を合わせるのが、私の密かな楽しみになっています。


 本を読むのも嫌いではないのですが、やはり誰かと一緒にいた方が心が弾みますからね。


「もうすぐ期末試験だよね。僕は勉強ができる方じゃないから、かなり心配なんだ」


 いつものように私の席へ来た相馬さんは、常にない沈んだ声でした。


 どうやら相馬さんはテストに苦手意識を持っているようです。学生の大半はそうであるように、相馬さんにとっても試験は鬼門のようなものなのでしょう。


 ため息まで吐いているようですから、相当嫌なのでしょう。見ていて気の毒になってきました。


 でも、相馬さんの見た目を考えると、とても理数系に強そうなイメージがあるのですが、違うのでしょうか?


「いつも全教科平均点以下でさ、いくら勉強しても点数が上がらないんだよね」


 それは、確かにテストや勉強が嫌になっても仕方ないかもしれません。


 人は一生懸命頑張って、いい結果を出したい、人に褒められたいと思うから、努力できるものです。


 逆に努力が報われなければ、やることのすべてが最初から無価値なものとなってしまい、実行に移そうという気概そのものが湧かなくなります。


 かといって、それを理由に最初からすべてを諦めることとはまた別のお話です。


 特に、学校の勉強は継続的に行えば、それなりの結果を導き出せるようなもの。


 芸術などといった、よりよい結果を出すためには天性の才能が必要不可欠、というわけではありません。


 記憶障害といった特殊な疾患を持たない限り、日々の積み重ねがものを言います。


「柏木さんは、勉強とかできそうだよね~。苦手教科とか無さそうだし、羨ましいな~」


 ……何となくですが、相馬さんは私がどんな知識でもすぐに吸収できる人物だと考えているような気がします。


 私とて今の成績を一朝一夕で手に入れた訳ではありません。


 成績を落とさないように問題を何度も解き、分からなかったところは理解できるまで追求してきました。


 相馬さんの言い方では、私がずるでもしているように聞こえてしまいます。


 これは訂正して上げなくてはいけません。


「相馬さん」


「……え?」


 私が声をかけると、相馬さんは酷く驚いたようにこちらを凝視しました。


 ただ名前を呼んだだけなので、そこまで驚かれることではないと思うのですけど?


「なっ、な、なに、かな?」


 ビックリしすぎて呂律も回っていません。何だか私が悪いみたいじゃないですか。


 納得できないモヤモヤを心に抱えながら、私は相馬さんの誤解を解くため、訴えかけました。


「テストの成績が心配なら、休み時間に勉強をすればいいのではないでしょうか?」


 勉強とは、地道な努力で好転するものなのです。


 しかし、テレビ等の娯楽用品など、様々な誘惑がある自分の家でいきなり勉強をしろというのも、難しいかもしれません。


 まずは、勉強をする環境の整った学校、特に空き時間になりやすい休み時間から自学自習に取り組んでみては如何でしょうか?


 そう考えて、相馬さんの悩みを解決するための解答と、私の体験からきたアドバイス。二つの意味を込めて、相馬さんに提案しました。


「……そ、そうだね。あ、あははは」


 どうやら、私の気持ちが届いたようです。


 少し引きつり気味だったのは気にかかりますが、相馬さんは笑って自分の席へ戻り、教科書を開き始めました。


 何だかいいことをした気分です。


 それに、よくよく考えてみれば、相馬さんと初めてお話しできたのではないでしょうか?


 ……そうです! 当初の予定とは違いましたが、私は相馬さんにお返事ができたのです!


 ふふん。どうですか。私はやればできる子なんです。


 この日のために読んできた、私の愛読書『人間関係を良くするための百の方法』は見事、その役目を果たしてくれました。


 友達が悩んでいれば、親身に話を聞いてあげて、的確なアドバイスをしてあげると喜びます、と書いてありました。


 やはり、本の知識は偉大です。これからも、私の人生のバイブルとして肌身離さず持ち歩きましょう、そうしましょう!


~~・~~・~~・~~・~~


 しかし、その後相馬さんはテスト期間が終わるまで、私のところへは来てくださいませんでした……。


 毎日のように来てくださっていたのに、すごく、寂しいです……。


 私は何か対応を間違えたのでは?


 ことここに至って、自分の行動に疑問を抱いたのですが、時既に遅し、なのでしょう。


 ううう、また、やってしまったようです……。


 しかし、一体何がいけなかったのでしょう?


 いくら考えても、答えは出てきませんでした。


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