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ゆる~らぶ  作者: 一 一 
一章 部活動 ~高校一年生・一学期~
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凛の十六 それは突然のことでした


 凛ちゃん視点です。


 私たちのクラスもようやく出場競技が決定し、次の体育の授業から行われる練習ができるようになりました。皆さんの間にある軋轢(あつれき)はまだ大きいですが、この体育祭で少しは解消されることを祈ります。


 ただ、気になることかあります。


 放課後の選手決めを行ったあの日から、どうにもクラスメイトの方々の態度が変なのです。


 以前は気さくに話しかけてくださっていたのに、皆さん私に対して私と同じような敬語に近い丁寧な言葉を用いるようになったのです。


 ご無理をなさっているのではないか? と思いやんわりと砕けた口調で構わない、と申し上げても、「めっそうもない!!」と首を横に振るばかりでした。


 ただ一人普通なままの長谷部さんにご相談しても、乾いた笑顔ではぐらかされるだけでしたし。


 これは新たな問題かもしれません。


 あ、でも、少しだけいいこともあるんですよ。


 相変わらず男女間の言い争いが続き、やはり体育祭の練習でも騒動が起こってしまいます。私たちのクラスは特に頻発(ひんぱつ)し、先生方にもご迷惑をお掛けしています。


 ですか、皆さん私が現場に駆けつけると、すぐに争いの(ほこ)を収めてくださるようになりました。表面的な和解なのは見え見えでしたが、謝罪しあって争いをやめてくれるようになったのです。


 その代わりに、皆さん何故か私を見ると一度ビクッ! と驚かれるようにもなりましたが、問題を広げなくなったのはいいことですし、特に問題はないと判断しました。


 そのようなこともあり、一年三組限定で生徒同士の口論が始まると、先生ではなく私が呼ばれるようになりました。私の練習する競技は走るだけですし、現場に向かうまでもいい練習になります。


 一番心配だったクラス競技である『綱引き』も、私が音頭(おんど)を取れば皆さん真面目に取り組んでくださっているので、ほっとしております。


 これならば大丈夫そうです、とクラス問題が少しだけ改善され、肩の荷がわずかに降りた気持ちで、前回は行けなかった部活動へと向かいました。


「……カリンさぁ」


「はい? 何ですか? ハーリーさん?」


「今度からはさ、嫌なことがあったら、私にも相談していいからね? ストレスをためすぎると良くないからさ」


「……はぁ。ありがとうございます?」


「ホント、遠慮しなくていいからね?

(……そうじゃないと、私たちの心臓がもたないし。美人の無表情って、めっちゃ怖いし)」


 道中、長谷部さんから妙に真剣な表情でお気遣いの言葉をいただきましたが、長谷部さんの意図がわからなかったので、お返事は曖昧になってしまいました。


 最後にボソボソと話された言葉もわかりませんでしたし、何やらお悩みのご様子でした。


「ハーリーさんも、何かお困りなことやお悩みがありましたら、私に何でもお話ししてくださいね? ハーリーさんは私の大切なご友人ですし、ご相談に乗りますよ?」


「う、うん。ありがと……」


 逆に心配となった私が、お返しにそう提案したのですが、長谷部さんの表情は微妙なままでした。


 事実、私が同性の友人で一番親しいと思っているのは、他ならぬ長谷部さんです。彼女が何かお困りでしたら、助けになってあげたいと思っております。


 長谷部さんのお顔から察するに、何かしらの問題を抱えているのは明白です。が、あまり根掘り葉掘り聞いてしまうと、長谷部さんも困惑なされるでしょう。


 自然と話してくださるまでは、私からはなにも聞かない方が良さそうです。以前購読した『人に好かれる108の言動』というコミュニケーション関連の本にも、過干渉は嫌われると書かれていましたしね。


 ……実際、私も家族から過干渉を受けている身です。本の受け売り以前に、私がやられて嫌なことは他人にしてはいけません。人間関係の悪化にしかなりませんからね。


「……何かすっごい優しい顔してるけど、多分カリンが考えてることは外れてると思うよ?」


「いえいえ、いいんです。無理にお話にならなくてもいいですよ。話したくなったら、私を頼ってくださいね?」


「あ、絶対わかってないな、これ」


 などとお話ししながら、私たちは演劇部の部室へ向かい、いつものように基本セットをこなしました。


「さて、みんなに集まってもらったのは他でもない。さる二週間後に開かれる体育祭で、みんなと出場する『部活対抗リレー』のメンバーを決めようと思います。

 はい、拍手!」


 そして、これから練習を始めようとしたとき、ミィコ部長の招集を受けて発せられた第一声がそれでした。


「あれ? みんなノリが悪いぞ~? はいもう一回! 拍手!」


「わ、わぁ~……!」


 最初に反応が遅れてしまったので、二度目を促されたときは、やや大袈裟なほどに拍手しました。大きく反応したのは、私以外には相馬さんと長谷部さんだけで、先輩たちの反応は淡白でした。


 そんな冷たい反応にもめげず、ミィコ部長は話を進めていかれました


「これ、演劇部(うち)の顧問から預かった出場順を書くプリントね。前も言ったと思うけど、あたしたちは文化部だから二百メートルを四組に分けてリレーするから、二人が二組、三人が二組だね。さぁ、ちゃっちゃと組み合わせ決めちゃおうか」


 ……あら? そういえば、まだ演劇部の顧問だとされる先生を見たことがありませんね? 一体どのような方なのでしょうか?


「まずは第一走者。キョウジ君とミトちゃんで! 去年のリベンジだよ! 頑張ってね!」


 おっと。それは後でもいいですね。今は誰と、どの順番で走るのかを確認することが大事です。


 しかし、キョウジ先輩とミト先輩、ですか。また意外なカップリングです。私も意表を突いたお相手となるのでしょうか?


「続いて第二走者。ターヤ、トウコちゃん、ハーリーちゃんで。もちろん、走るときはターヤが真ん中ね?」


 あ、ハーリーさんは呼ばれてしまわれました。できれば、気心の知れた方とご一緒の方が心強かったのですけど。


 仕方ありません。ここはお兄様以外であれば文句は言いません。家でもご一緒ですし、最近はお兄様の過保護ぶりには辟易(へきえき)としていますから、別の方とご一緒の方が気が楽です。


「そんで第三走者ね。あたし、トーラちゃん、オウジ君ね。真ん中はオウジ君で。よろしく!」


 大体、お父様もお兄様もご自身の考えが正しいと思い込みすぎなのです。私の意見を尊重する、という人間関係における初歩が出来ていないのです。


 もしかしたら、盲目的になるのは私に限った話かもしれませんが、それでも大問題です。親しき仲にも礼儀あり。例え家族とはいえ、現実に以心伝心が通じることなどあり得ません。


 人には言葉という意思伝達手段があるのですから、まずは話し合いを行い、お互いの考えを理解するように努めなければ、それはただの独りよがりです。


 まるで人格を否定されるような気持ちになりますし、押し付けられた側は迷惑極まります。


「ちょっ、ちょっと待ってください!!」


「はい、却下。メンバーに変更はないから。これ部長命令ね」


「ぐっ……」


 そもそも、お父様もお兄様も、ご自身の考えがすべて私のためになると本気で信じているのがたちが悪いですね。悪気がない分、自身の行動の間違いに気づくことが遅れまし、視野がさらに狭まります。


 ですから、私がお二人の言動でどのように感じたか、気づかれないのでしょう。見る限り、最近になって私が他人行儀な態度を取っていることにも、お気づきではなさそうでしたし。


 反抗期、というには理由がはっきりしすぎていますが、私がお二人に対して、嫌悪感に近い感情を覚えているのは間違いありません。


 一年前までは、お二人から向けられる過剰な愛情には気づいていましたが、(うと)ましく思ったことはありませんでした。


 それが明確な忌避感へ変わったのは、私自身が能動的に多くの方と関われるようになったからでしょう。多様な価値観に触れ、視野を広げられたからこそ、家族の異常性を再認識できたのです。


 そう。


 あの日、無愛想だった私に、勇気をもって接してくれた、男の子のおかげです。


「で、アンカーがレンマ君とカリンちゃんね。二人にはコッテコテでド派手な衣装を用意するから、()うご期待!」


「え? 僕とカリンさん、ですか?」


「……はへっ!?」


 えっ!? 私が、何ですか!?


 すっかり考え事に(ふけ)っていたときに呼ばれたものですから、びっくりして変な声が出てしまいました!


 一番聞かれたくなった彼に視線を向ければ、バッチリこっちに目を向けておられました。


 といいますか、ちょっと目が合っちゃいました!!


 あぁ……、恥ずかしいですぅ……!!


「異議あり!! この組み合わせは不当です!! 再検討を要求します!!」


 何かお兄様が騒いでおられますが、いつものことですね。無視しても構わないでしょう。


 しかし、私がぼんやりしていた内に、どうやら組み合わせは決まってしまったようです。先程呼ばれたのは、私のお相手についてだったのでしょう。


 私は誰にも気づかれないように、回りをキョロキョロと見回します。


 私以外で固まっているのは、まずキョウジ先輩とミト先輩のペア。ターヤ先輩とトウコ先輩とハーリーさんのトリオ。ミィコ部長とトーラ先輩と、お兄様、でしょうか?


 そして、最後に残った彼を見て、私は体が一気に硬直してしまいました。


 ……え?


 も、もしかして、私のお相手って……。


「僕も気になります。オウジ先輩のように反対とまでは言いませんが、どうしてこのような組み合わせになったのか、聞いてもいいですか?」


 内心の動揺を抑え、少しの間成り行きを整理しました。


 皆さんはすでに名前を呼ばれ、各々で固まっています。


 お兄様が騒ぎ、ぽつんと取り残されたのは、私と、相馬さんだけ……。


 そして、名前を呼ばれた直後、一瞬だけ、私と相馬さんの視線が交差しました。


 ……ま、まちがいありません……。


 私は、私のお相手は、相馬さんなのです!!


「ほ、ほら! 僕だけでなく、レンマ君も同じ意見ですよ! きちんと説明してください、部長!」


 ようやく事実に気づき、全身から表現しにくい熱さを感じていましたが、次のお兄様の言葉で瞬時に冷たくなっていきます。


 相馬さんが、お兄様と同じ意見……?


 そ、それは、私との組み合わせが、いや、なのでしょうか……?


「レ、レンマ、さん……? 私と二人三脚するのは、嫌、何ですか?」


 気がつけば、私は相馬さんとの距離を詰め、体操服の端っこを()まんでいました。


 なるべく冷静に、何でもないように聞いたつもりでしたが、声は震え、目には涙がたまっていくのを感じます。


 どうしましょう……。


 もし、相馬さんに、いやだと、おもわれていたのなら……、


 がまんできずに、ないちゃいそうです…………。


「ち、違うよ! カリンさんが嫌なんじゃなくて、理由が知りたいって思っただけだから!」


 拒否の言葉を覚悟していましたが、相馬さんは慌てたご様子で否定してくださりました。


 よ、よかったです。相馬さんから、嫌われては、いませんでした。


「レンマ君! カリンに引っ付くのはやめてくれないか! あとカリンを泣かせたらただじゃおかないからな!!」


 うるさいです、お兄様。


 と、反射的に口にしそうになりましたが、ここでようやく、私が泣きそうな表情になっていたことに気づかされました。


 慌てて相馬さんに背を向け、両手で顔を覆い、気持ちを整えます。


 相馬さんには私のことをもっと知ってほしいとは思いますけど、さすがに、泣き顔を見られるのは、はずかしいです、から。


 何度か深呼吸を繰り返し、(たかぶ)った感情を抑え込んでいきます。演劇部に入ってから、感情のコントロールも少しはできるようになったんですよ。


 心臓の鼓動も徐々に収まり、ほぼ平常心を取り戻すことができました。


 落ち着いたところで振り返りますと、目の前には相馬さんがおられました。


「お待たせ、カリンさん。じゃあ、練習しよっか?」


「は……、はひっ!!」


 苦労して戻した鼓動の高鳴りが、一瞬にして元通りになってしまいました!


 い、いえ、むしろ、さっきよりも強くなって、どんどん早くなってますぅ……!!


「だ、大丈夫、カリンさん? 熱でもあるとか?」


「ふへっ!? だ、大丈夫ですよ? ええ、私は平気です!」


 私は必死に冷静さを取り戻そうとしますが、理性に反して心拍数は上昇するばかり。相馬さんのご指摘がある通り、もしかしたら顔まで真っ赤になっているかもしれません。


 そ、そういえば、私、相馬さんとお話しするの、ほぼ二ヶ月ぶりなんでした。


 どうしましょう! 何をお話ししていいのかわかりません!!


 それからは、私は夢のようなふわふわとした気分で、相馬さんとご一緒の時間を過ごしました。相馬さんとの接し方を忘れ、大混乱した私でしたが、何とか練習はこなしました。


 しかし、二人三脚があれほど危険な競技だとは思いませんでした。


 だ、だって、二人三脚って、すっごく密着するんですよ!!??


 相馬さんと、て、手も握ったことがないのに、紐で片足を結んで、肩に腕を回して、お互いの体を、こう、ぎゅっ、って、引っ付けるんですよ!!??


 も、もちろん、いやじゃ、ないんですよ……?


 むしろ、その、とても、うれしかったんですよ?


 でも、でもでも、うれしすぎて、はずかしすぎて、しんぞうがばくはつしてしまうかとおもいました!!


 気がつけば、お兄様と一緒にお迎えの車に乗っていたくらい、私の記憶も薄れています。練習中にこけることは、なかったと思いますが、私の挙動不審さは目立っていたかもしれません。


 ぼんやりとした記憶の中で、相馬さんは(しき)りに私の体調を気にかけておられました。恐らく、私の焦り具合や体温の高さから、風邪の症状を疑ったのだと思われます。


 そんな相馬さんの些細(ささい)なお気遣いでさえ嬉しくて、さらに頭の中がボーッとしてしまいました。本当に風邪なら、重症かもしれませんね。


 はっ、と気づいたときには、お兄様に私の失態を見られたかもしれないことを懸念に思いましたが、お兄様の様子に変わりはありません。


 どうやら、私が男性慣れしていないためと勘違いし、相馬さんへの過剰反応を納得されたようです。笑顔の仮面の下で、私はものすごく安堵したのは言うまでもありません。


 まだ、私の相馬さんへの想いを、お兄様には知られてはいないようです。


 今日は突然すぎて混乱してしまいましたが、明日からは気合いを入れて挑まなければなりません。そうしなければ、また今日のように狼狽(うろた)えてしまいますから。


 しかし、本当にごまかせるでしょうか? 私、相馬さんとの二人三脚で、平静を(よそお)える自信がありません。


 そんな不安を覚えながら、私は幸せすぎて死にそうになるという、貴重な体験をすることができました。この日のことは、多分私にとって一生忘れられない思い出となるでしょう。


 ミィコ部長に感謝です!



 凛ちゃんへのご褒美と取るか、はたまたいじめと取るかは、皆様にお任せいたします。


 ちなみに、最後の方は一度書いたデータの一部が吹っ飛び、泣きそうになりました。凛ちゃん並みに。


 全部消えなくてよかったですよ、本当に……。


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