蓮の十六 体育祭の練習 ~部活編~
蓮くん視点です。
引き続き、体育祭の練習です。
時間いっぱいまで使って体育祭の練習を切り上げ、僕は演劇部へ向かった。いつもの半分くらいしか部活の時間はないけど、他のみんなもこれから部活が始まるため、方々へと散っていった。
部室に到着して少し、そこまで時間が経たずに全員が揃った。さっきまでグラウンドで体育祭の練習をしてたんだから、それはそうか。
いつも通りに基本セットを各自で行い、今日もキョウジ先輩に殴られるのか、と人知れずため息をついた僕だったが、いつもと異なりミィコ部長は全員を集合させた。
「さて、みんなに集まってもらったのは他でもない。さる二週間後に開かれる体育祭で、みんなと出場する『部活対抗リレー』のメンバーを決めようと思います。
はい、拍手!」
変にテンションの高いミィコ部長の宣言で、パラパラと拍手の音が鳴る。みんな突然でついてこれないみたいだ。僕もそうだし。
「あれ? みんなノリが悪いぞ~? はいもう一回! 拍手!」
僕らの薄い反応が気に入らなかったらしいミィコ部長は、歌のお姉さん的なノリでやり直しを要求してきた。
「わ、わぁ~……!」
このままでは話が進まないと判断し、 主に僕やカリンさんやハーリーさんが盛り上げるために強めな拍手をした。下級生だからね、上級生の圧力には勝てないんだよ。
ただし、ターヤ先輩や二年生の先輩たちは無反応だった。そ、それはそれでかわいそうじゃないかな?
「ありがとう、ありがとう諸君。そして君たち、一年生を見倣って空気を読もうとは思わなかったのかな?」
「付き合う必要がないね」
「ダリィ」
「すみませんが、私もちょっと……」
「いや!」
「無理矢理は~、ダメだと思いますよ~?」
「話を進めましょう、部長」
無視を決め込んだ先輩たちは、口々にばっさりとミィコ部長の抗議を切って捨てた。上から、ターヤ先輩、キョウジ先輩、トウコ先輩、トーラ先輩、ミト先輩、オウジ先輩の言葉だ。
先輩たち、やけに容赦ないな。
「はいはい、わかりましたよ。じゃあ、さっさと決めて練習ね? 体育祭が終わるまで、活動の半分を『部活対抗リレー』の練習に使うから、よろしく」
キツい反応だったけど、ミィコ部長は予想していたのか、肩を竦めただけで流した。それから、リレー出場順と書かれたプリントを取り出してきた。
「これ、演劇部の顧問から預かった出場順を書くプリントね。前も言ったと思うけど、あたしたちは文化部だから二百メートルを四組に分けてリレーするから、二人が二組、三人が二組だね。さぁ、ちゃっちゃと組み合わせ決めちゃおうか」
ゆっくりと僕らを見回し、品定めしながらミィコ部長はシャーペンを取り出した。
「まずは第一走者。キョウジ君とミトちゃんで! 去年のリベンジだよ! 頑張ってね!」
「……ちっ!」
「あらあら~」
最初に呼ばれたのはキョウジ先輩とミト先輩だった。キョウジ先輩は露骨な舌打ちをして顔を背け、ミト先輩は困ったように頬に手当てている。
っていうか、何でこの二人? 今まで接点とかなかった気がするんだけど?
「続いて第二走者。ターヤ、トウコちゃん、ハーリーちゃんで。もちろん、走るときはターヤが真ん中ね?」
「わかった。二人とも、よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「頑張りましょう」
次に決まったのはこの三人か。可もなく不可もなく、ってところかな? ターヤ先輩が二人に握手を求め、それぞれ意気込みを口にしているし。
とはいえ、珍しい組み合わせなのはさっきと変わらない気がする。
「そんで第三走者ね。あたし、トーラちゃん、オウジ君ね。真ん中はオウジ君で。よろしく!」
「おーっ! やるぞーっ!!」
「……は?」
第三走者も三人で走るみたいだ。ミィコ部長はトーラ先輩とオウジ先輩に目配せする。トーラ先輩は元気いっぱいに応えていたけど、オウジ先輩はポカンと口を開けたまま固まってしまった。
どうしたんだろう?
「ちょっ、ちょっと待ってください!!」
「はい、却下。メンバーに変更はないから。これ部長命令ね」
「ぐっ……」
オウジ先輩はすぐに復活してミィコ部長へ詰め寄ろうとしたが、今度は反対にばっさりとやられてしまった。勢いを削がれたオウジ先輩は、雰囲気の変わったミィコ部長に怯み、言葉を詰まらせている。
「で、アンカーがレンマ君とカリンちゃんね。二人にはコッテコテでド派手な衣装を用意するから、乞うご期待!」
「え? 僕とカリンさん、ですか?」
「……はへっ!?」
そして、最後に名前を呼ばれたのは、僕と柏木さんだった。不思議そうに目線を柏木さんに移すと、一拍の間を置いて普段では考えられない変な声を出していた。
風邪でも引いたのかな? ちょっと心配。
「異議あり!! この組み合わせは不当です!! 再検討を要求します!!」
すると、こちらもまた普段は上げない大声を張り、オウジ先輩はミィコ部長に二度目の抗議を発していた。
さっき撃墜したばかりなのに、もう噛みついてる。オウジ先輩、今日はいつになく押しが強いな?
「はい、オウジ君! 具体的にどの辺が不当なのかな!?」
「カリンの相手は僕以外に考えられないでしょう!! 二人三脚ならなおさら、僕とカリンは他の組み合わせよりも余程息が合うはずです!!
そもそも、他のメンバーにしたって選考基準が不明瞭です!! キョウジ君に至っては明らかに舌打ちをしていたではありませんか!! 息が合うとは到底思えません!!
組み合わせの変更を認めないというのであれば、せめて納得のいく説明をしてください!! それができなければ、組み合わせの変更を訴えます!!」
お、おおう。見事に私情と建前を入れた抗議だな、オウジ先輩。
前半だけなら、僕らも「あー、またか……」程度で流してたんだろうけど、後半部分は僕も疑問に思っていた。多分、他の先輩も思ってるんじゃないだろうか?
ちら、と周りを見てみると、キョウジ先輩は未だにミト先輩と目を合わせようともしないし、ターヤ先輩の組もどこか会話がぎこちない。オウジ先輩と組むミィコ部長はすでに空気が不穏だし、トーラ先輩は足に結ぶ紐を振り回して遊んでいる。
うん、見事にバラバラだ。
「僕も気になります。オウジ先輩のように反対とまでは言いませんが、どうしてこのような組み合わせになったのか、聞いてもいいですか?」
便乗ではないけど、僕もオウジ先輩の後でミィコ部長に聞いてみる。
純粋な興味で尋ねたのだが、ミィコ部長は目を丸くし、オウジ先輩も思わぬ援護射撃を受けたと言わんばかりに驚いていた。
「ほ、ほら! 僕だけでなく、レンマ君も同じ意見ですよ! きちんと説明してください、部長!」
あれ? いつの間にか僕まで反対派にされちゃったぞ?
「レ、レンマ、さん……? 私と二人三脚するのは、嫌、何ですか?」
すると、不意に服の端をちょいちょいと引かれる感触がした。振り返ると、ものすごく傷ついたという表情をしたカリンさんが、僕の服を摘まんでいた。
「ち、違うよ! カリンさんが嫌なんじゃなくて、理由が知りたいって思っただけだから!」
まるで僕がすごく悪いことをしたような罪悪感を覚え、かなり焦って言い訳してしまった。
だって、捨てられた子猫みたいな目で見てくるんだよ? やましいことがなくても、カリンさんみたいなかわいい子にあんな表情されたら、誰だってドキドキしちゃうじゃないか!!
「レンマ君! カリンに引っ付くのはやめてくれないか! あとカリンを泣かせたらただじゃおかないからな!!」
えぇ~、どうしろっていうのさ? そもそも僕が近づいた訳じゃないし、カリンさんが泣きそうな目をしてる原因はオウジ先輩の発言にもあるのに。
「もういいかい、ご両人? 二人が知りたがってる選考基準について話したいんだけど?」
おおっと、ミィコ部長を放置してしまっていた。はた、と気づいた僕らはミィコ部長へ視線を向け、聞く姿勢を整えて先を促した。
「よろしい。じゃあ説明するね。といっても、そう難しいことじゃないんだ。
この『部活対抗リレー』はどこの部活もそうなんだけど、基本的に『仲が悪い』、もしくは『今まで接点がなかった人同士』で走らせるのが、暗黙のルールだからだよ」
「え? じゃあわざと仲がいい組み合わせにしないようにしてるんですか?」
体育祭全体の点数には加算されないとしても、これって競争なんだよね? 多脚リレーになるのはわかってるのに、わざわざ不仲な人たちで組ませるなんて、不利になるだけじゃないの?
「そういうこと。くどいようだけど、西高の体育祭の目的は『交流』だからね。相手と競い合うことよりも、生徒同士の親睦が第一なんだ。
それに関連して、何らかの理由で関係がこじれてる人たちを一緒にしたり、今まで話したこともなかった人たちをペアにしたりして、なるべく色んな人と関われるように配慮するように言われてるんだよね。
演劇部の部員は、全体的に見ればそこまて険悪なムードはないけど、個人間で見たら別。だから、これを機に人間関係を修復、あるいは新たに構築してね? っていう学校側の要望を反映させた結果が、この組み合わせなわけ。
『部活対抗リレー』が人気なのも、体育祭のあとで友達が増えたり、喧嘩してた友達と仲直りしたりとか、そういう方向になりやすいからでもあるんだ。競技自体も盛り上がるしね」
なるほど。本当に勝負は二の次なんだなぁ。
言われてみれば、ミィコ部長の言葉通りの組み合わせだと思う。
キョウジ先輩とミト先輩は、練習こそ一緒にするけど、プライベートで仲良く話してる姿なんて見たことがない。さっきの態度を見るに、キョウジ先輩がミト先輩を苦手っぽい感じだけど。
ターヤ先輩、トウコ先輩、ハーリーさんは関係性の問題かな? 学年もバラバラだし、会話もまだぎこちないから、ただ相手に慣れていないって感じがする。
ミィコ部長は部長だし、誰にでも平等だけど、オウジ先輩とトーラ先輩は相性が悪そうだ。どちらかといえばクール系のオウジ先輩と、元気系のトーラ先輩は反発しそう。実際、親しげに話してる姿なんて見たことないし。
最後に、僕とカリンさんは客観的に見れば関係性ゼロだもんね。同じ一年生で、同じ中学出身で、同じ部活なのに、高校に入ってからまともな会話をした覚えが一度もない。
中学校ではそれなりに話をしていたけど、そんなのミィコ部長たちは知らないだろうし、今までの様子からすれば僕とカリンさんはほぼ他人だと思われても仕方がない。
そう考えれば、ミィコ部長のいう『交流』の機会にするっていう基準にも納得できる。
もしかしたら、さっき先輩たちがミィコ部長に容赦なかったのも、体育祭のコンセプトを理解してて、組み合わせに予測がついていたからかもしれない。
まあ、多少強引かもしれないけどね。反対に余計相手が嫌いになることもあり得るだろうし。
でも、ミィコ部長によると他の部活でもそうみたいだし、案外毎年うまくいってるからこそ、続いてるルールなんだろう。祭りの気分がそうさせてるのかな?
「なるほど、わかりました。では、カリンさんと練習してきます」
「何っ!? 待て、レンマ君! 何故そう簡単に引き下がるんだ!! もっと強く反対するべきだぞ!!」
「え? だって僕は元々組み合わせに文句があるわけじゃありませんから。理由が知りたかっただけですし」
「っ!? ……レンマ君、まさかカリンに密着したいがために賛成に回ったのかい……?」
「違いますよ、オウジ先輩じゃあるまいし。僕はそんな不純なことは考えてませんよ」
「なっ!??」
「それでは、失礼します」
「はーい、頑張ってね~」
段々オウジ先輩の相手がしんどくなってきたから、適当な返事になっていた気もするけど、まあいいか。嘘をいったわけでもないし。
ミィコ部長に断りを入れてから二人から離れ、僕はカリンさんのところに歩いていった。
「お待たせ、カリンさん。じゃあ、練習しよっか?」
「は……、はひっ!!」
中学の時みたいに話しかけたけど、やっぱりカリンさんの声は裏返っていた。
しゃっくりかな? 一回続いたらなかなか治らないよね。心配だ。
こうして、僕は久しぶりにカリンさんと話すことができた。
よくわからないけど、カリンさんは終始テンパっていたけど、どうしてだったんだろう? そういえば、練習の時も体がやけに熱かった気がする。
これは本当に風邪かな? と思ったので休むか聞いてみたけど、大丈夫だと押しきられてしまった。
う~ん、無理しすぎないように、僕もちゃんと見てあげなきゃダメかな。カリンさんってがんばり屋さんみたいだから、変に我慢して無茶しそうだし。
そうして、初日の体育祭の練習は終わった。
この設定も、創作物ありきな感じでしょうね。現実はほとんどが勝ち負けにこだわるでしょうし。




