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ゆる~らぶ  作者: 一 一 
一章 部活動 ~高校一年生・一学期~
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蓮の十四 僕の知る常識とは違った


 蓮くん視点です。


 テストまでの期間は、かなり無理して自習を進めた。授業が終わるとすぐに家路につき、そこからは外出もせずにひたすら勉強を毎日続けた。土日もそれで一日潰れたし。


 ハーリーさんに指摘された通り、僕の勉強に対する理解度は基礎の基礎から見直さなければならないレベルで、それはもう大変だった。


 四月からのノートや課題を広げ、約二ヶ月分の範囲を総復習って感じになり、目がぐるぐる回るくらいには頑張ったと思う。


 まあ、結果はお察しだ。自分なりにやれるだけはやった、としか言い様がない。全教科のテスト用紙の内、問題の半分くらいは空欄だった、といえばわかってくれると思う。


 やっぱりね、入試の時は柏木さんの個人レッスンによる、成績の底上げが凄まじかったんだと痛感したね。僕一人の実力じゃ、所詮はこんなもんだよ……。


 テスト終了後、燃え付きながら鞄をつかみ、僕は演劇部へと足を運んだ。


 ほぼ一週間ぶりに部活が再開されるけど、体力が落ちていないか心配だ。ずっと机にかじりついてばかりだったからね、鍛えた分が減ってるんじゃないかと思わなくもない。


「よぉ!」


「いたっ!?」


 少し弱気になりつつ部室へ向かっていると、急に後ろから背中に強烈な張り手をもらった。こけたりはしなかったものの、勢いに任せて数歩前へとつんのめる。


「しけたツラしてんなぁ、レンマ。テストの結果でも気にしてんのかぁ?」


「あ、キョウジ先輩」


 後ろを振り返ると、そこには好戦的な笑みを張り付けたキョウジ先輩が立っていた。僕の背中を殴ったのも、キョウジ先輩だろう。


 ちなみに、この人が笑うと基本的に獰猛な感じになる。鋭い犬歯を見せつけ、獲物として狙われているような印象を受けるのだが、これがキョウジ先輩の素で、全く他意はない。


 見た目は凄い不良っぽいけど、理不尽な暴力を受けたことも、カツアゲみたいなこともない。本当に顔が強面(こわもて)なだけのいい先輩だ。


「あんなもん気にすんなよ? 将来に役立つ知識なんて、ほっとんどねぇんだしよ。赤点だろうが補習受けりゃなんとかなるし、ずっと欠席でもしねぇ限り卒業はできんだ。気楽にいこうぜ、気楽によ~」


「キョウジ先輩、前に似たようなこと言って、トウコ先輩に蹴られてませんでしたか?」


「あ~、あの男女の言うことは気にすんな。真面目に聞いてたら、お前もがり勉になるぞ?」


 そんなに悪いことじゃないのでは? と思ったが、キョウジ先輩の機嫌が悪くなっても怖いし、曖昧に笑ってごまかすことにした。


 そういえば、キョウジ先輩といえば、最近よく下校を一緒にすることが多くなった。


 あれは、演劇部のみんなで勉強会をした、次の日からだったかな? 何故か学校から出ようとするとキョウジ先輩と遭遇することが多くなり、そのまま一緒に下校する、という流れになるのだ。


 偶然って凄いなぁ、と思っていたが、よくよく考えれば学年が違っても授業の時間割りが大きく変わることはないんだし、同じ時間に学校を出るのは不思議ではない。


 というわけで、ここ一週間はずっとキョウジ先輩が隣にいた気がする。帰り道では他愛のない話をしたり、嘘か本当か昔のキョウジ先輩の知り合いが起こしたという武勇伝を聞いていた。


 その知り合いは喧嘩っ早い人らしく、色んな人に喧嘩を売ったり売られたりしては、ぼっこぼこにしていたらしい。


 でも、その知り合いが相手をしていたのは、主に上級生や同級生の不良たちだけだったみたい。だからか、キョウジ先輩の話は、どこかその人を主人公とした不良漫画っぽくて面白かった。


 やっぱり、僕も男の子だからね。弱いもの虐めをしてる悪いやつを撃退するとか、憧れがある。暴力は苦手だけど、ヒーローっぽくて格好いいしね。


 でも、僕があまりに熱心に聞いたり、その人の話を聞きたいとねだったからか。キョウジ先輩は微妙な顔をするようになり、話渋るようになった。拝み倒せば一、二個は話してくれるけどね。


 そんなこんなで、ちょっとだけキョウジ先輩との距離が縮まった気がする。初日からすれば、かなり打ち解けたのではないだろうか?


「っつっても、今日から部活も始まるし、体育祭もある。落ち込んでる暇はねぇぞ?」


「そ、そうですよね~……」


 連れだって部室へと歩く(かたわ)ら、キョウジ先輩はテストから目をそらそうとしてか、話題を体育祭に移した。


 スマートで細マッチョなキョウジ先輩だったら、運動イベントは歓迎すべきことなんだろうけど、運動音痴の僕は憂鬱だ。キョウジ先輩みたいに、テンションを上げられない。


「おいおい、テンション低いな。気分だけでも上げとかねぇと、途中でバテてまた倒れるぞ?」


「やめてくださいよ、キョウジ先輩。縁起でもない」


 割りと本気でそう思ったのだが、キョウジ先輩は冗談だと思ったのか、からからと笑っている。他人事だなぁ、もう。


「おーし、だったら今日はトレーニングもかねて、ちょっと演技もやってみっか? そろそろ体力作りだけだったら、レンマも飽きてきてるだろ?」


「え? 本当ですか!?」


 それはちょっと嬉しい。演劇部に入部してほぼ一ヶ月。僕だけ違うメニューばかりだったから、最近はちょっとだけ疎外感を感じていたのだ。


 演者を積極的にやりたい、ってわけじゃないけど、もうそろそろ演技の練習くらいさせてもらってもいいんじゃないか? とは考えていた。


 これは乗っておこう!


「ぜひ、お願いします!」


「おっ!? ヤル気満々だなぁ? よっしゃ、逃げんなよ?」


 ……あ、一気に不安になった。キョウジ先輩は今さら逃げないようにか、僕の肩に腕を回してガッチリと固定する。


 勢いに任せて、僕はとんでもない提案に頷いてしまったのかもしれない。


 後悔先に立たず、僕は売られていく子牛の心境で、キョウジ先輩に部室へと連行されていった。




「オラァ、レンマァ!! 逃げてないで向かってこいやぁ!!」


「ひぃえぇ~!!」


 嫌な予感とはよく当たるもので、僕はものっそい及び腰になりながら、鬼のような形相のキョウジ先輩と向き合っていた。


 頭には、ヘッドギア? っていうのかな? とにかく頭を保護する感じの変わったヘルメットをかぶらされ、手にはガチのボクシンググローブを装着させられている。


 目の前のキョウジ先輩も似たような格好で構えており、すっかり()る気だ。ヤバイ、めっちゃ泣きそう。


 僕は基本セットを何とか先輩たちに少し遅れる程度で終わらせると、キョウジ先輩に早速捕まった。そして、有無を言わさず部活の備品だというそれらを装備させられ、何故かキョウジ先輩とタイマン勝負をすることになったのだ。


 え? 意味がわからない?


 安心してください。僕もですよ!


「演技の練習じゃないんですかぁ!? なんですかこれぇ!?」


「立派な練習だぁ!! 俺は卒業した先輩から、殺陣(たて)だっつって何度も殴られたぞぉ!!」


 殺陣って実際に当てませんよね!?


 今キョウジ先輩の右ストレートがかすったんですけどぉ!!??


「オラァ! テメェも打ってこいやぁ!!」


「む、無茶ですってぇ!!」


 姿勢を低くし、容赦のない連打を僕に浴びせてくるキョウジ先輩。僕は必死に腕を体の前で固め、なすがまま殴られていた。


「あれ? レンマ君、何やってんの?」


 しばらくひぃひぃ言いながらキョウジ先輩の拳をもらい続けたところ、異変に気づいたミィコ部長がこちらに近づいてきた。


 やった! 逃げられる!


「み、ミィコぶちょ」


「レンマが演技の練習してぇっつうから、付き合ってんすよ。今は殺陣の練習っす」


「ああ、なるほどね。勉強熱心なのはいいことだよ~」


「え? ちょっ……」


「二人とも、無理はしすぎないようにね~」


 助けを求めようとしたところ、その前にキョウジ先輩がミィコ部長に説明してしまった。うんうん、と理解を示したかと思うと、僕の言葉を聞く前に労いの言葉を残して去ってしまった。


 でもまさか、ミィコ部長までもがこの一方的な殴り合いを見て『殺陣』と納得したのは衝撃だった。だってこれ、どう見てもいじめじゃない? 僕なら目をそらして逃げるレベルだよ。


「おや? ついにレンマ君も練習に堪えられるようになったか。最初から殺陣とは、気合い入ってるね~」


「ほら! そこだ! ジャブ打てジャブ!!」


「レンマ君~、キョウジ君の顎~、空いてるよ~?」


「逃げてちゃ当たんないよ、レンマ君!! 一歩踏み込んで顔面ストレートだよ!!」


 ちらと周囲を見てみると、ターヤ先輩は微笑ましいといった表情で僕らを見守り、トーラ先輩は面白がってシャドーボクシングをしながら僕に攻撃をあおってくる。


 ミト先輩も僕にアドバイスをくれたみたいだが、最初の言葉の区切りが終わると顎に隙はなくなっていた。キョウジ先輩唯一のブレーキだと信じていたトウコ先輩でさえも、止める様子はないどころか、トーラ先輩と同じく攻めを要求してくる。


 え? これ僕が間違ってるの? 本当にこのガチな殴り合いって殺陣の範疇(はんちゅう)なの?


「そらぁ!! 周りを見るなんて余裕だなぁ、えぇ!? こっちは一発ももらってねぇぞぉ!? 早くしねぇと、また下校までにぶっ倒れるぞぉ!!」


「ぶっ倒すの間違いですよ、それぇ!!!」


 体と一緒に常識までぶん殴られながら、僕はとにかくガードを固めた。みんなは休憩中なのか、外野はとにかく(はや)し立ててくるが、キョウジ先輩の動きもパンチも早すぎて対処なんてできないって!!


 その日、僕はひたすらキョウジ先輩のサンドバッグになった。僕が結局一発もパンチできなくて、先輩のパンチをひたすら防いだり避けてたりしてたら、結果的にそうなったのだ。


 でも、練習になったといえば、なったかもしれない。不良に襲われたときは、この経験が役に立つだろう。


 最後はちょっとだけ、キョウジ先輩の拳が見えたような気がしたし。……いや、気のせいか。


 それにしても、演技とはいえ、キョウジ先輩の迫力は真に迫っていた。本当に、キョウジ先輩から聞いていた知り合いの不良さんみたいな、恐ろしい人を相手にした気分だった。


 キョウジ先輩は悪役が多かった、って言ってたし、これもある意味演技の成果と言えるのかもしれない。


 そうやって、自分を納得させることしか、僕にはできなかった。


「おっし、レンマ。明日から度胸もつけるために、このスパーリングは必須な? よし、決定!」


「もう殺陣じゃなくてスパーリングって言ってるじゃないですか! 本当にこれ演技の練習なんですか!?」


『え? 演技だろ?』


 僕の心からの抗議は、心底から不思議そうな古株演劇部メンバー全員の返答で見事玉砕した。


 演劇部(うち)は一体、何を目指してるんだ?




 ちょっと口を滑らせて、えらいことになりました。蓮くん、ボクサールートに突入です。


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