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ゆる~らぶ  作者: 一 一 
一章 部活動 ~高校一年生・一学期~
18/92

蓮の八 決断の時


 蓮くん視点です。

 若干タイトル詐欺があります。


「……はぁ」


 僕は盛大にため息をつき、今日も一日が過ぎて放課後を迎えた。クラスの皆はまだまだ体力に余裕がありそうで、荷物をまとめては部活へと向かっていった。


 四月も半ばを過ぎ、高校生としての授業も本格的に始まっている。やっぱり、中学の時の授業速度と比べても断然早く、僕のポンコツな頭では授業の内容を聞いてもすぐには理解できない。


 家に帰って復習がてら板書したノートを開いても、正直さっぱりわからない。早くも勉強面で落ちこぼれそうで、毎日ため息が出ても仕方のない状況だ。


 また、それだけでなく僕はまだ部活に所属していないのも問題だった。


 一人で部活を見学して回ったり、階堂と春の入部についていったついでに見学させてもらったりもしたが、どの部活もしっくりこず、入部までには至っていない。


 ただし、階堂と春にイチオシを受けた部活だが、まだ顔出しすらしていない。というか、文化部で見学していないのは推薦されたそこと、僕が最初から諦めた部活しかない。


 一通りの文化部を覗いて、そろそろ期限も迫ってきている。あとから聞いた話だと、期限内に入部届けを出さなかった生徒は、担任の独断で決められた部活に強制入部させられるらしい。


 もしランダム入部で運動部へ入れられると、勉強についていける自信が更になくなってしまう。帰宅部状態でもいっぱいいっぱいなのに、その上肉体疲労まで重なると家に帰ったらなにも手がつかなくなっちゃうからね。


 なので、さっさと文化部を自分で選んで入部すればいいのだが、踏ん切りがつかないのだ。


 このような言い方をすれば失礼かもしれないが、活動日が少なくて楽そうな部活もある。勉強面を考えたら、そういう基準で選んでもいいだろう。


 でも、そういう部活に限ってあまり入部したいと思えないものだ。活動内容的に、僕と合わないと思ってしまう。


 例えば、階堂の所属する映像研究会は週二回と少ないが、ただでさえついていけない階堂からの話を、大勢の人から聞かされるとなると、正直辛い。


 また、天文部とかは週三回部室に集まるだけで、文化祭の展示に向けて平和に時間を過ごす部活だったけど、天体なんて興味ないんだよね、僕。


 他にも色々とあるが、面白くなさそうかディープすぎて遠慮するかの二択となり、ずっと部活を避けてきてしまっていた。


「かといって、このままじゃダメだよねぇ……」


 特に運動部へ入れられるのだけは、何がなんでも避けなきゃならない。どんなスポーツであっても、僕にはどれも地獄を見る部活でしかないのだ。


「なんだよ博士。まだうじうじ悩んでんのか?」


「往生際が悪いぞ、相馬氏。拙者らの推すあそこでいいではないか」


 すると、僕のため息を聞き付けた二人が、呆れたような顔で近づいてきた。今日は二人とも部活はないようで、そのまま帰宅する予定だ、と朝に聞いていた。


「そうはいってもさ、僕には無理だよ。だって、やったことないし……」


「……はぁ、しゃあねぇ。いくぞ、春」


「承知した、階堂氏」


 ぶちぶちとしり込みしている僕に痺れを切らしたのか、階堂と春は僕の両側に立ち、脇を持ち上げて腕を拘束した。


 そしてそのまま、僕を引きずるように教室の外へ、ってちょっと待って待って!!


「い、いきなり何すんだよ! 離して! どこつれてくの!?」


「博士が優柔不断なのが悪いんだろ? 観念してお縄につきやがれ」


「え? なに!? 僕逮捕されるの?!」


「安心しろ、悪いようにはせん。相馬氏の荷物もここにある故、心配するな。あとは先輩方に揉まれてこい」


「ま、まさか、二人のいってた部活にいくの?!」


『そうだが?』


「む~り~だ~よ! 僕には向かないよ~!」


 足を引きずられながら拉致同然に連行され、僕はなすがまま廊下を移動させられた。周囲の人たちからの視線も痛かったが、それ以上に階堂たちが推す部活にいくことが躊躇われた。


「ほれ、到着したぞ」


「拙者らが貴重な時間を割いて連れ添っているのだ。さっさと行って、入部してくるのだぞ」


 いくらか抵抗を試みたけど、結局僕は二人に逆らえないまま、その部活が活動している場所の前に立たされていた。


「あ! え! い! う! え! お! あ! お!」


『あ! え! い! う! え! お! あ! お!』


 僕たちには気づいていないみたいだったが、先輩たちはお腹に手を当てて発声練習をしていた。表情はとても真剣で、額や背中はすでに汗が流れている。


「ほら、行ってこいよ博士」


「相馬氏の得意分野だろう? さあ」


「無理無理無理無理!!!」


 僕がつれてこられたのは、文化部であって文化部ではない、むしろ運動部に近い存在でもある部活。


『演劇部』だった。


「ん? あれ、君たち入部希望者? にしては、ずいぶんとゆっくりした入部だね?」


 演劇部の活動は、部室用に設けられた校舎の中にある、小さい体育館みたいな教室、部室? で行われている。僕がつれてこられたのは、その入り口だ。


 当然、練習中に入り口で騒いでいれば見つかっちゃうわけで、部長っぽい先輩が僕らに気づいて近づいてきた。


「あ~、いえいえ、入部はこいつだけっすよ。なかなか覚悟が決まらないみたいだったんで、俺らがつれてきたんすわ」


「うむ。拙者と階堂氏はすでに他の部活に所属している故、入部はできませぬ。彼、相馬氏の才能は演劇部に活かされると思われましたので、お連れ申した」


「ちょ、ちょっと二人とも!」


 いきなり僕を売り込む二人に、ぎょっとしながら振り向いた。


「へえ~、わざわざごめんね。でも、当の本人は乗り気じゃないみたいだけど?」


 僕らの反応を見て、部長らしき先輩は苦笑ぎみだ。


 演劇部の部長は女性で、ショートカットが似合うお姉さん、って感じの人。話し方がちょっと男っぽいのも、頼れる人というイメージをより強くしている気がする。


 そんな印象に違わず、先輩はよく人を見ている。入部希望者である僕が積極的でないのをすぐに見破った。面倒見がいい先輩なんだろうな、と思いつつ首を縦に振っておいた。


「うちの部は人数もそう多くないし、大会とかにもあまり出ないから、他のところと比べれば緩いとは思うけど、いやいやだったら遠慮してもらえるかな?

 あたしらは全員、演劇が好きでやってるからさ。やる気がある子とか、上手くなりたいとかいう子でないと、断るようにしてるんだ」


「ほ、ほら。先輩もそう言ってるし、他の部活を探そうよ、ね?」


 他ならぬ部長さんの援護を受けた僕は、これ幸いと未だ僕を拘束している二人を説得しようとした。


 折角二人は推薦してくれたけど、僕には演劇部の皆さんみたいな情熱はないんです、勘弁してください、と謝りたい気持ちでいっぱいになっている。


「あ~、じゃあこの動画、見てくれます? これで判断してください。そうすりゃ、少なくとも出来ないやつじゃないってわかると思うんで」


 そういうと、階堂はポケットからスマホを取り出し、イヤホンまでつけて部長さんに差し出した。


 話の流れからスマホに録画した動画を再生して渡したみたいだけど、僕階堂に()られるようなことしたっけ?


「ん? まあいいけど……」


 (いぶか)しげに部長さんはスマホを受け取り、画面に流れているだろう動画に視線を落とした。その間も、部長さんの後ろでは部員の皆さんが発声練習を頑張っている。


 すごいなぁ。皆、部長さんの言う通り本当に真剣にやってるんだ。


「……は?」


 感心と、少しの(うらや)ましさを込めた視線で演劇部の練習を見ていると、いきなり部長さんが変な声を上げた。


「え?」


 何かあったのかな? と思って部長さんの方を見ると、なぜか僕がガン見されている。目を皿のように見開いて、スマホと僕の顔を何度も何度も往復しだした。


「……ねぇ、これって、本当にこの子なの?」


「ええ。そうっすよ」


「間違いなく、相馬氏本人にありますれば」


 いつの間にか僕から離れ、部長さんの隣で一緒に動画を見ていた階堂と春は、同時に頷く。


 え? なに? その動画に僕のどんな姿が映ってるの?


「なるほどねぇ……」


 それから、多分動画の終わりまで見ていたらしい部長さんは、長い時間を置いて階堂へとスマホを返した。


 そして、いきなり僕の両肩に手が置かれた。


 へ?


「君、相馬くんだっけ? ちょっとお話ししようか?」


「は、はい……」


 部長さんの声は優しそうだったけど、有無を言わせぬ迫力があった。僕は逆らうことを考え付く前に返事をしてしまい、自ら退路を()ってしまう。


「んじゃ、俺ら帰るわ。頑張れよ、博士」


「拙者も失礼つかまつる。相馬氏、(はげ)むことだ」


 部長に捕まった僕を確認すると、階堂と春はすでに帰る体勢を整えており、颯爽と帰っていった。階堂の軽い言葉も、春の奇妙な武士言葉にも突っ込みを入れたかったが、目の前の部長さんがそれをさせてくれない。


「大丈夫、大丈夫。誰もとって食いやしないから。それに、部活が決まってないのは事実なんだよね? だったらまずは仮入部ってことで、ちょっと参加していこうよ。ね?」


「は、はいぃ……」


 いきなり肩に腕を回されてドキッとしたが、心情的には逃げないように捕縛されたようにしか思えない。もちろん、年上のお姉さんと密着状態という状況もドキドキするけど、それどころじゃないドキドキのせいで情けない声しかでない。


「おーい、みんな! ちょっと遅めの新入部員だよ!」


 発声練習中の先輩方に、部長さんは僕をそう紹介した。もしかしたら同級生の人もいたかもしれないけど、僕にそれを確認する余裕はない。


 仮入部じゃなかったんですか!? 逃がす気ないですよね!?


「あ、えと、よ、よろしく、お願いします……」


 本当に言葉にしたかったことはついぞ言えず、僕は部長さんの台詞を否定することができなかった。心なしか、掴まれた肩にかかる力が強まった気がしたんだ。


 こうして、僕はなしくずし的に演劇部へと入部することとなってしまった。


 部長さん以外の部員の皆さんもすごい歓迎ムードで、今さら止めますとも言えず、その場で入部届を書かされてしまった。


 すごい強引だったけど、僕は演劇部にて頑張る覚悟を決めた。


 だって、他の部活も続かなさそうだし、何より部長さんの目が怖かったから……。



 決断もなにも、強制参加には変わらないじゃねぇか! というお話でした。

 頑張れ、蓮くん!


 余談ですが、私は演劇部なんて名前しか知りません。どんな活動をするのか、少しは調べますけど、ほぼ想像でしか書けませんので、違和感があってもご容赦ください。

 頑張れ、作者!!


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