表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆる~らぶ  作者: 一 一 
一章 部活動 ~高校一年生・一学期~
17/92

凛の七 勧誘を受けました


 凛ちゃん視点です。

 これから苦労しそうですね。


「入学式ん時の騒ぎは柏木が原因だったんだろ? なら責任とって、クラス委員長をやってもらうからな!」


 テストが終わった次に登校した日のことです。朝のホームルームが始まるや否や、担任の林先生がいきなり私をクラス委員長に任命されました。唐突すぎる気が致します。


 あれからクラスの雰囲気はぎくしゃくしたまま、テスト中も異様な緊張感を味わいながら受けることとなりました。試験官となった先生方も、とても居づらそうにしていらっしゃいました。


 そうしたクラスの雰囲気を、他の先生方からご指摘を受けたのかもしれません。林先生は開口一番で私に委員長を指名し、事態の解決を丸投げしてきました。


 私としましては、むしろ原因に仕立てあげられた被害者です、と声高に主張したかったです。が、林先生のあまりの剣幕に押され、私は気がつけば頷いてしまっていました。


 先生の苛立ちも理解できますが、生徒の私に当たらないで欲しいです。早くもこの学校でうまくやっていける自信がなくなりました。


 それに、お兄様が(おっしゃ)られた登下校の件は、実際に履行(りこう)されました。


 入学式の翌日、私が中学校時代と同様に、徒歩と公共交通機関を利用して通学しようとしました。すると玄関で使用人の方に呼び止められ、あれよあれよという間に送迎用の車に乗せられていました。


 それだけならばまだ我慢できたのですが、毎朝座席の隣でお兄様が私を構おうとしてこられます。満面の笑みで。


 流石に無視するわけにもいかず、相づちを打ったりするのですが、どのような返答をしても過剰な反応があるため、朝から余計な体力を使わされています。


 まだ高校生になって一週間も経過していないというのに、精神的にはかなりの疲労感を覚えていました。主にクラス問題とお兄様が原因で。


 ああ、相馬さんの癒しが欲しいです。クラスが離れてしまうことで、こうも接する機会がなくなるとは思ってもみませんでした。二人でお勉強やお話ししていたあの日が懐かしく思えます。


 と、現実逃避が多くなってきた私に、林先生が追い討ちをかけてきた形となります。


 仕方がありません。これほどバラバラになってしまったクラスはそうないでしょうけど、任されたからにはしっかりとまとめあげてみせます。


「副委員長は立川だ。見たところ騒いでなさそうな男子筆頭だし、放っておいたらなにもしないタイプだろ、お前? ってわけで、よろしく」


「えぇ~! 俺っすかぁ!?」


 続く言葉で指名されたのは、ホームルーム中ずっと机に顔を沈めていた、立川さんと仰る方です。


 彼は男女対立の日、数少ない暴動非参加組の方でした。常にやる気の無さそうな雰囲気を漂わせ、テスト中の休み時間は寝て過ごしていたマイペースな方ですね。


 林先生のご指名でとても嫌そうな表情をし、文句を言いそうでしたが、立川さんは大人しく先生に従いました。


 こうして強引にクラス委員長にさせられてから、私たちは施設案内ということで、校舎の中を見て回ることとなりました。


 ギスギスした空気が息の詰まる思いをさせるだけで、特に変わったこともなく特別教室などを見回り、最後に体育館に集められました。


 すでに他のクラスの方々が整列しており、冊子を読みながら近くの人たちと会話をしています。


 私たちも同じように座らされましたが、あまり会話はありません。楽しい気分になってくれませんから、もう諦めてます。


 私は正面の舞台近くにいる先生から、先にいらっしゃる同級生の方々が黙読している冊子を受け取り、クラスメイトの皆さんに配布しました。


「こちらが男子の皆さんの分だそうです。どうぞ」


「お、サンキュー」


「こちらは女子の皆さんの分ですね。一人一冊となるよう、回してあげていただけますか?」


「うん、了解。ありがとね、柏木さん」


 初日の謝罪が功を奏して、私への対応は男女の隔てなく、円滑に受け答えできているのは救いです。そういう意味でも、林先生は私をご指名なされたのでしょうね。


 配布が終わり、私も冊子を一冊受け取って開きました。


 部活動、ですか。中学生の時はコミュニケーション能力への危惧(きぐ)から参加は見送っていましたが、相馬さんのおかげで私は変われました。


 今ならば、どこかの部活動に所属するのもいいかもしれませんね。楽しそうですし。


「なお、皆さんご存知の方もおられるでしょうが、西高(うち)は帰宅部がありません。公立では珍しいかもしれませんが、部活必修です。中学校では帰宅部だった人も、今回の部活紹介を参考に興味の()いた部活動を見つけてくださいね」


 しばらくしてから始まった、上級生主導の部活動紹介が行われる前に、司会を勤めていらっしゃった先輩がそう仰られていました。


 なるほど、そうなのですね。これは好都合です。これを機会に、私も部活動というものに参加してみましょう。


 というわけで、先輩方の部活動紹介に耳を傾け、私でも参加できそうな候補を吟味することにしたした。




 そして、行事や私たち以外のクラス委員等も選別し終わり、放課後です。


 クラス委員は男女一人ずつという制約があったため、かなり難航するかと思われましたが、私と立川さんの進行、というか名簿を用いた指名で次々と決められました。


 皆さんには嫌そうな顔をされてしまいましたが、最終的には妥協してくださいました。決まらなければ帰れない、という林先生のお言葉(おどし)も効果的に働き、スムーズに委員は決定されました。


「う~ん、どうしましょう?」


 皆さんが思い思いに放課後を迎える中、私は未だ部活動を決めかねていました。


 先輩方のご紹介がとても魅力的で、とても候補をひとつに絞れなかったのです。


 幼い頃から習い事をしていたため、運動には抵抗がなく、女子で参加できそうな運動部はどれも楽しそうに思えました。


 かといって文化部に魅力がないわけでもなく、吹奏楽部や美術部など、芸術関連の部活動も大変興味があります。


 また、あえて私が触れたことのない分野へと足を運ぶのも、悪くないと思っております。映像研究会とか料理研究会とか、新しい挑戦という意味合いでも面白いかもしれません。


「ん~? 柏木さん、どったの?」


「あ、立川さん」


 そうして悩む私に声をかけてくださったのは、副委員長に就任された立川さんです。まだ眠たそうな瞳をしており、私が振り向いたそばから欠伸(あくび)をなさっておいででした。


「実は、どの部活動へ参加するか、決められないのです」


「ふわぁ~あ。ん~、それって、やりたいことがないから?」


「いえ、逆に楽しそうな部活動が多すぎて、一つに決められないんです」


「へぇ~、珍しいね~」


 何故でしょう? 立川さんの方から話しかけられたはずですのに、あまり聞いてもらえている気がしません。


「じゃあさぁ、とりあえずギリギリまで色んな部活回って見学すれば?」


「へ?」


「そうすれば、見つかるんじゃない? 自分が一番やりたい部活か、長くやってけそうな部活が。聞いてわかんなきゃ見て、それでもわかんなきゃ仮入部とかも手だし。やってみて楽しかったら、それに決めちゃえば?」


 と思った矢先、立川さんからとても参考になるアドバイスをいただくことに成功しました。話を聞いていないのではなく、立川さんは間が独特なのですね。反省します。


 確かに時間はかかりそうですが、冊子を眺めるだけでは決められない現状、とりあえず行動に移した方が良さそうです。


「なるほど。貴重なご意見、ありがとうございます。立川さんの助言を参考に、これから部活動を見学してきますね」


「ああ、そう。てか、いちいち言葉が大袈裟(おおげさ)だし。俺ら同い年(タメ)だろ? 敬語とか堅苦しくね?」


「すみません。私の口調は癖のようなものですので、これが普段通りの話し方なのですよ」


 主にお母様からの教育により、私は皆様が使われるような砕けた口調での会話はできません。幼い頃からしつけられましたので、修正が不可能なほど私には自然と敬語が身についてしまっています。


「ふ~ん、大変そうだな。じゃ、俺帰るわ。また明日な~」


「はい。助言に感謝します立川さん。さようなら」


 納得してくださったのか、立川さんは淡白な反応を残して教室を後にされました。立川さんもすぐには部活動をお決めになられないようです。私と同じですね。


「さて、ではどこから回りましょうか?」


「柏木さん、部活決まらないの? だったら私と一緒にバスケ部の見学に行かない?」


「え?」


「いやいや、柏木さんのイメージでいったら茶道部でしょ! 柏木さん、私と茶道部見に行きましょうよ!」


「えと、その……」


「え~、でも陸上とかも良さそうじゃない? 柏木さん足長いし、徒競走とか有利だよ!」


「バレーだってできるはずよ! 運動神経良さそうだし、経験なくてもすぐにうまくなれるって!」


「それならこっちも……!」


「こっちだって……!」


 そうして、いつの間か私の席の周りには、女子のクラスメイトの方々でいっぱいになってしまいました。


 皆さんはすでに心に決めた部活動があり、そちらを推薦なされているようでした。口々に私を誘ってくださり、一緒に部活をしようと言ってくださいます。


 お気持ちは嬉しいのですが、私の身は一人です。一日ですべては回れませんよ?


 とても好意的に接してくださる皆さんにどのように応えたらいいのか困惑しながら、私はとりあえず愛想笑いを浮かべていました。



 人気者は辛いですね~。クラス分裂の原因ですのに、好感度めちゃ高いです。頑張れ~(他人事)。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ