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ゆる~らぶ  作者: 一 一 
序章 出会い ~中学三年生~
11/92

蓮の五 努力は実を結ぶ


注意、二話投稿です。


蓮くん視点です。


ちなみに、勘違い要素は薄いです。

 時が経つのは早いもので、今は二学期も終わろうかという季節。冬休みも、もうすぐそこだ。


 あれから僕はさらに勉強に励むようになった。勉強の速度は遅々としたものだったが、いつも読んでいた漫画が教科書に変わっただけでも、成績に大きな影響を与えた。


 とはいえ、部活をしていたクラスメイトもすでに引退し、みんな受験勉強に費やす時間が増えてきたこともあり、実は相対的に見れば僕の成績はあまり変わっていない。


 しかし、点数そのものを見れば徐々に上げていくことはできている。担任の先生にも「最近頑張ってるな」と褒められたりもした。


 少し前に終わった期末テストでは、なんと、五教科の点数が全部平均点を超えるという快挙を成し遂げた。


 一点か二点くらいの差だけど、確実に平均点を上回ったのだから、誰にも文句は言わせない。僕の成績はやっと中の中にまで成り上がったのだ!


 僕の成績が上がったことで、最初はカンニングを疑っていた酷い両親も、最近では僕の努力を買ってくれている。妹は相変わらず、反抗期まっしぐらだけど。


 進路相談を受けたときは、今までの偏差値よりも少し上を目指してもいいかもしれない、と先生から言われたので、親子共々前向きに検討して進路を決定した。


 何だか、僕の人生にちょっとずつ光が差し込めてきたような、そんな気がしてきている。


 それもこれも、


「柏木さんのおかげ、かなぁ……」


「? 私が、何か?」


「あ、ううん、何でもない」


 思わず呟いた僕の言葉に反応してくれたのは、言わずもがな、僕の幸運の女神(非公認)、柏木さんだ。


 現在、僕と柏木さんは学校の図書室で向かい合わせに座り、各々が目指す高校の受験対策用問題集を開いている。


 二学期の始業式以降も、柏木さんとの交流は続いていた。


 ただし、人目になるべくつかないような場所に限定されている。今も、図書室の中でも入り口から奥まった死角になる位置に、二人で陣取っている状態だ。


 人目を気にするのには当然理由がある。僕は知らなかったのだが、やはりクラスの大多数は、一学期だけとはいえ僕と柏木さんが一緒にいることが気に食わなかったようで、文句がたくさんあったらしい。


 そのことを、柏木さんが若干のお怒り混じりに話してくれた。余談だが、美人は怒っても美人だった。擬音語にすれば正に、プンプン、という感じで、とても微笑ましかった。幼い頃の拗ねた妹を思い起こさせて、懐かしい気持ちになった。


 はっきり言ってしまえば、クラスメイトたちとはもうすぐ卒業して疎遠になるかもしれない間柄ではある。残念ながら、柏木さんもそうだ。進路によっては縁も薄くなるだろう。


 とはいえ、卒業生の中には同じ学校に進学する子もいるわけで、これ以上周囲との溝を深めるのも良くないと思った僕。


 柏木さんとも相談して、余計なトラブルを避けるために、話をするときは人目を忍んでいこう、と決めた。


 そう言ったときの柏木さんは大いに拗ねてしまい、説得にかなりの時間を要したが、何とか納得してくれた。


 またまた余談だが、説得に一週間もかかったのは、柏木さんが頑固だからか、僕が説得ベタだからか、悩むところだ。


 そうそう、柏木さんはあれから交友関係が広がったみたいで、暇さえあれば誰かが近づいて話しているみたい。


 僕とおしゃべりする機会も前よりガクンと減り、週に二回くらいになった。みんなに隠れて会うんだから、それくらいが限界かなと思う。


 今日は、その貴重な二日のうちの一日なのだ。


「……あ、相馬さん、そこ違いますよ」


「え? ホント?」


「はい。ちなみに、私の見ていた限りでは、今までの解答のうち半分は間違ってますね」


「そ、そんな~」


 さぞや羨ましい展開になっているのだろうと、期待させたのなら申し訳ないけど、柏木さんとの時間は二学期中ずっとこんな感じだった。


 つまり、八割、九割は勉強会なのだ。


 僕たちは中学三年生であるからして、さらに言えば呑気にしていられる時期はとっくの昔に過ぎ去っている。この流れは割りと自然にそうなった。


 思春期の男女が二人きり、というシチュエーションを考えたら、あまりに色気が無い空気であることは自覚している。


 しかし、しかしだ。


 この状況は僕にとって、いろんな意味でとても貴重な時間だ。


 一つは、柏木さんとの交流ができるということ。最近は柏木さん人気がひどく、話すだけでも順番待ちが出来るほどだ。


 しかも、一人につき五分の制限時間つきだから、アイドルの握手会みたいな感覚である。このルールはファン(?)の人たちの暗黙の了解みたいなもので、自然と生まれた規則であるという。


 でも、僕は柏木さんにとって特別枠みたいな扱いで、他のみんなと比べても破格の待遇だ。ただ友達になれたらなぁ、と思っていただけで、どうして良くしてくれるのかは分からないけど。


「よろしければ、また先生役になりましょうか?」


「……お願いします」


 そして、僕が貴重だと感じるもう一つの理由は、毎回間違えた問題があると、柏木さんが分からないところを解説してくれる、ということだ。


 柏木さんは学校の成績が全教科すこぶるいい。その上、教え方もとても上手で、できの悪い僕でも理解できるように、物凄く分かりやすく要点を噛み砕いて説明してくれる。おかげで、問題の解き方がほぼ一発で頭の中に入ってくるのだ。


 気分は東大出の家庭教師の授業を、無料で受けているかのよう。僕の成績が上がったのは、ひとえに柏木さんの個人レッスンの賜物と言っても過言ではない。


「……というわけで、ここはこのように……」


「あ、そっか」


 ただ、柏木さんは対人距離がまだうまく掴めていないのか。僕に勉強を教えてくれるとき、正面の席からわざわざ隣に来て、横から体を密着させるように指差ししながら教えてくれる。


 柏木さんが先生役になる度に、女の子の身体の柔らかい感触や体温が直に伝わり、髪から流れてくるシャンプーのいい匂いが漂うなど、僕にとってはそれはもう刺激が強い行為だった。


 柏木さん本人は至って真剣な表情をしているものだから、とても指摘することなんてできず、今までずっとなすがままになっていた。


 最初はかなり気恥ずかしい思いで、説明なんて頭に入ってこなかったけど、今じゃそれが普通になってきている。


 人間の慣れってスゴいと思ったね。


 こんなところを人に見られたら、僕の命が危うい気もするけど、今さらなのでバレないように注意しようと思っている。


「そういえば、柏木さんはどこの高校を受験するの?」


 時々教えてもらいながら、黙々と勉強をしていた僕と柏木さん。


 凝った肩と目を休ませるために小休憩を取ったとき、僕はふと柏木さんの進路が気になり、何となしに聞いてみた。


「私ですか? 一応、私立の聖マリアンナ女学院の試験を受ける予定です。公立高校は、まだ受験するか決めかねていますね」


 聖マリアンナ女学院は、超有名なお嬢様学校だ。お金持ちのお嬢様方が通う、由緒正しき名門校だ。


 女子校に明るくない僕なので、それ以上の情報は知らないけど、偏差値が高くてお金持ちが集まる箱入り学校というイメージが世間一般の意見だろう。


「へぇ、聖マリアンナかぁ。何だか柏木さんだと納得だなぁ」


 何せ、下手なお嬢様よりもお嬢様な柏木さんだ。聖マリアンナ女学院の気風にピッタリだろう。


 あれ? でも、柏木さんは苦笑いだな?


「そうでしょうか……? では、相馬さんはどちらの高校を受験されるのですか?」


「僕? 僕は一応、公立の西高に行こうと思ってるよ。私立は西高の偏差値に近いところを受けて見るつもり」


 西高とは、県立桂西高校の略称で、地元では中堅くらいの学力で知られる高校だ。もうすぐ卒業の桂中学からの受験生が最も多い学校である。


 当初は僕の成績じゃ、偏差値も素行も悪いことで有名な桂東高校くらいしか合格しそうになかった。


 成績はともかく、大人しい性格であると自他ともに認めている僕にとって、東高は精神的に厳しい。


 だから、少しでも目がある位置にいるのなら、と思って先生や両親とも相談して、西高の受験を決めたのだ。


 正直、平均点の少し上くらいしか取れない今の成績では、ちょっと厳しいだろうと担任の先生からも言われている。


 でも、東高に行く度胸はなく、僕の成績でも安全に行けそうな私立高校は、家からかなり遠い位置にしかない。ちょっと無理をしてでも、目指す価値は充分にあると思っている。


「……そうですか。では、相馬さんとは卒業したらお別れになっちゃいますね……」


「そうだね。まあ、仕方ないよ。僕と柏木さんじゃ成績もだいぶ離れてるから、進学する高校は違うって分かりきってたしね」


 もしも、柏木さんが公立の高校に進学していたとしても、うちの地区で一番頭のいい桂北高校に行くだろうし、どのみち柏木さんとのお別れは近い。


 高校が離れてしまえば、友達とはいえ疎遠になっていく。柏木さんみたいな美人と仲良く話ができるのも、そんなに長くないんだなぁ。


「…………」


「……柏木さん? どうかした?」


 なんて、少しの寂しさを覚えていると、正面に座った柏木さんが、何やら浮かない顔つきでいるのに気づいた。


「あ、いいえ。何でもないです……」


 口では否定して笑っていたが、どうしても陰がある笑い方に見えて、何でもないようには見えない。


「何でもない、って顔じゃなさそうだけど?」


「……そ、そうですか?」


「うん。よければ相談に乗るよ? 話を聞くだけなら、僕にだってできるし」


 前にあるテレビで、悩みごとは誰かに話すだけでも楽になる、とあるタレントが言っていたのを思い出した。


 柏木さんの悩みなんて、僕に解決できるか分からないけど、悩みを一緒に抱えてあげることくらいはできる。


 そう思って、提案してみたんだけど。


「……実は私、聖マリアンナ女学院には、あまり行きたくないんです」


「…………へ?」


 あまりにも予想外な内容に、僕は少しの間呆けてしまった。


~~・~~・~~・~~・~~


 勉強を一時中断し、柏木さんの話を詳しく聞いてみたところ。


 柏木さんは聖マリアンナ女学院に、というよりも女子校に行きたくないと思っているようだった。


 何でも、小学校の頃に同級生から嫌がらせ(虐めと言うほど過激ではなかったらしい)を受けたことがあり、その学校が女子校だったとのこと。


 当時は両親には黙ったまま嫌がらせには耐え、何とか卒業をしたそうだが、父親が指定した進学先はまたも女子校。というか、元々通っていた学校が小中高一貫の女子校だったらしく、そのままエスカレーター式で進学しなさいと言われたそうな。


 流石に柏木さんもそれには反発したそうだ。このまま黙っていたら、嫌がらせをしてきた同級生と、更に六年間も同じ教室を囲むことになるのだから、当然だろう。


 当時熱心に女子校を推していた父親としては、柏木さんには男のいない環境が望ましかったのだろうけど、あまりにも拒絶反応を示したため、仕方なく共学の桂中学への進学を認めたらしい。


 そこで、今の話に戻すと、柏木さんの父親は桂中学を挟んだから、高校は今度こそ女子校に行かせたがってるとのこと。相当、思春期の男を柏木さんに近寄らせたくないらしい。


 しかし、柏木さんはいまだ女子校への苦手意識、というか恐怖感が拭えきれていないため、高校も共学の学校へ行きたいと、ずっと考えていたそうだ。


 ちなみに、母親の方は特にどこそこへ行け、といった口出しはせず、柏木さんの進路に関してはほとんど傍観の姿勢を貫いているそうだ。


 う~ん、何だかかなりプライベートな相談を受けたなぁ。僕なんかに話してよかった内容なのかな?


「ご両親には、柏木さんの気持ちは伝えたの?」


「……いいえ。一度中学校の進路の時にワガママを言ってしまった自覚はありますので、また父や母に迷惑をかけると思うと、心苦しくて……」


 柏木さんは不安そうに俯き、大きなため息を一つこぼした。


 話を聞いた限り、お父さんの方はともかく、お母さんの方は柏木さんがきちんと説明すれば納得してくれるのでは? と僕は思った。


 ただ見てるだけ、ということはお父さん側でも柏木さん側でもなく、現在は中立の立場だということ。


 柏木さんの事情は確かに私的なものとはいえ、不純さは微塵もない。むしろ、今後の学生生活に支障が出てもおかしくない悩みだろう。


 ならば、誰の味方でもないお母さんを自分の援護に回ってもらえるようにすれば、二対一で形勢は有利になる。説得もしやすくなると思うのだ。


「……と思うんだけど、柏木さんはどう思う?」


 とりあえず、僕が思ったことをそのまま話してみたところ、整った眉をハの字に動かして、控えめに微笑んだ。


「難しいと思います。私に異常なほど構いたがる父や兄とは違い、母は冷静に物事を判断する傾向にありますから、情に訴えかけようとしても、母の判断の良し悪しに影響を与えないと思います。

 それに、母は父とは違う理由だと思うのですけど、聖マリアンナ女学院の進学には肯定的ですので、母を味方にできるかどうか……」


 意見の一致はなくとも、どうやらお母さんはお父さん寄りの意見であるらしい。それじゃあ、説得は無理かな。


 ……というか、今新たな情報が出てきたぞ?


「えっ……? 柏木さん、お兄さんがいるの? しかも、お父さん擁護派?」


「はい。私の一つ上に兄がいます。兄弟は兄一人で、ちょっと、その、私のことになると、見境がなくなる困った人でして……」


 なるほど、相手は娘を猫可愛がりする親バカとシスコン。そして、もう一人の家族からは支援の望み薄、というわけか。


 ……難解だなぁ。打つ手なしかも?


「ごめん、やっぱり僕には解決策は思い浮かばなかったよ」


 しばらくウンウン唸りながら腕組みをして、ない知恵を絞ってみたけど、元々頭の回転の悪い僕じゃ、柏木さんを助けられそうにない。


 こういう時に、柏木さんへの日頃のお返しが出来たら良かったんだけど、低スペックな僕には無理があったみたい。


 ちょっとへこむ。


「そんな、謝らないでください。相馬さんにお話ししたことで、少し気持ちが楽になりましたから」


 落ち込む僕に、柏木さんは慌ててフォローしてくれるが、問題は何一つ解決していない。


「それに、やはり相馬さんの言う通り、一度家族に私の気持ちを話してみることにします」


 でも、柏木さんの表情には暗い雰囲気が薄れ、和らいでいた。


「相馬さんが親身になって話を聞いてくださり、また真剣に私のことを考えてくださっている姿を見て、私のやるべきことが分かった気がします」


 どういう意味だろう?


 僕の考え中な様子から、何か分かることなんてあるのだろうか?


「……何だかよく分からないけど、頑張ってね」


「はい。頑張ります」


 僕は無責任なエールを送り、柏木さんは時折見せる柔らかい笑顔で応えてくれた。


~~・~~・~~・~~・~~


 冬休みも終わり、あっという間に受験の日が来た。


 やれるだけのことはした。


 体調もバッチリ。


 あとは、僕の勉強に付き合ってくれた柏木さんとの勉強の成果を発揮するだけだ。


 試験の時間は瞬く間に過ぎていった。


 分からない問題も多かったし、埋めた空欄もすべて正答している訳でもないだろう。


 でも、手応えはあった。少なくとも、絶望的じゃない。


 そして、結果発表の日。


「……あった」


 合格者の受験番号の中に、僕のものである数字があった。


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